23 / 36
第三章 狼の涙が枯れた時
狼視点①
しおりを挟む強い強い狼だって、愛する兎を想い涙を流すことだってある。
涙が枯れる程泣いて泣いて、その涙が枯れた時……。
愛し合う狼と兎には何が待ってるんだろうか。
俺はそれが知りたい。
怖くて仕方ないけど、どうしても知りてぇんだ。
🐺🐺🐺
眩しい日差しに目を覚ます。
どれくらい寝たんだろうか。体は鉛のように重く、泣き腫らした目は上手く開けることさえできない。
「ダリィなぁ」
小さく呟いて頭を掻きむしる。
隣で穏やかな寝息をたてて眠る:航(わたる)を、もう一度強く抱き締めた。
手離したくなかったから。
首に痛々しく残る噛み跡……その傷には、まだうっすらと血が滲んでいた。それはΩが番と深い絆で結ばれた証拠。
「そんな傷、見たくねぇよぉ」
また涙がこぼれそうになるのを、必死に我慢した。唇を精一杯噛み締めて、もっともっと強く航を抱き締めた。
番なんかに、こいつを渡してたまるかよ。
運命なんか、俺がぶっ壊してやる。
精一杯虚勢を張ってみるものの、涙が次から次へと頬をつたった。
もう泣かないって決めたのに。
「寛太、寛太……泣かないで」
優しい優しい航の声。
目を覚ました航が、心配そうな顔で俺を見つめていた。
「泣かないで……俺は寛太が大好きだよ」
その言葉を聞いた瞬間、俺の心をかろうじて支えていた何かが、ポキッと音をたてて崩れ去っていくのを感じる。
「航……航……しんどいよぉ……めちゃくちゃ辛い……!!どうしたらいいんだよ……!! 航……」
涙はまるでどしゃ降りの雨のように流れ落ち、嗚咽すら我慢できない。
子供のようにしゃくり上げながら、航を抱き締めた。離したらどこかに行ってしまいそうで……。
離したらいけないと、本能が警笛を鳴らす。
「寛太……泣かないで?」
腕の中の航が、俺の背中を優しく擦ってくれる。
優しい優しい航。
なんでこんなことになっちまったんだよ…どうしてもこの疑問に戻ってしまって、先へ進めない。
いつまた航を襲うかもしれないヒートに怯え、それでも運命に抗いながら生きて行かなくてはならない不安。
馬鹿みたいにその不安が俺を押し潰そうとする。
その時、航が囁いた。
穏やかな、優しい甘い声で。
その言葉に俺は一瞬言葉を失ったけど、それも有りかな……とも思った。
「アホが、そんなこと考えてる暇があんなら……」
航の頬を、軽く平手で叩く。
「キスしようぜ……」
甘く囁いて、優しく柔らかく唇を奪う。
航は俺とキスをするのが大好きだったよな。
俺だって、お前とキスするのがめちゃくちゃ好きだ。
「俺のこと好き?」
つい真顔で問えば、少し困った顔をしたあと大好きな笑顔を見せてくれた。
「当たり前でしょ?」
「ちゃんと言ってよ!」
子供みたいに駄々を捏ねた。
不安だったから……ちゃんと航の口から、航の気持ちを言って欲しかった。
「ちゃんと言ってくれ……頼むから……」
力無く瞳を閉じれば、唇に柔らかくて温かいものが触れた。
「愛してるよ。俺は寛太だけを愛してる」
フワッと微笑んだ。
その笑顔に、ボロボロだった心が救われる。
「この思いだけは、何があっても変わらない」
この言葉を信じて、前に進める気がした。
いつの間にか涙も止まって、最後に残る感情はやっぱり航が好きだっていう思いで……。俺の心は満たされる。
もう、どうしようもないんだな、って思う。
本当は、今お前を抱きたいんだけど、番がいるΩは番以外と交尾をしたがらないから……止めておけと自分に言い聞かせる。
また、傷つくだけだから。
「なぁ航……俺の気が済むまで『愛してる』って言ってよ」
「え~! 照れくさいじゃん」
顔を真っ赤にして照れる姿が可愛くて、思わず笑ってしまった。
「お願いだから……」
甘えた声を出して、顔を覗き込めば溜め息をついた。どうやら観念したようだ。
「愛してる、愛してる、愛してる………」
馬鹿が付く程真面目なこの男は、顔を真っ赤にしながらも一生懸命俺の為に『愛してる』を繰り返してくれた。
俺はその呪文のような愛の告白を、胸に刻み目に焼き付けようと必死になる。
お前に本当に愛されているか不安になったときに、俺はきっとこの言葉を思い出すから。
「ね~、まだ?いい加減恥ずかしいんだけど…」
あっ、メチャクチャ可愛いじゃん。
つい顔が綻んでしまう。
「はぁ? 全然足んねぇんだけど?」
意地悪く微笑めばプンスカ怒り始める。
こんな当たり前の時間が、どんなに大切で奇跡の連続だったのかを思い知らされる。
「愛してる」
想いを伝え合って……深い深い、それでいて甘いキスをした。
何があっても離れないように……。
発情期なんか来ないように……。
そう、祈ることしかできなかった。
3
あなたにおすすめの小説
とろけてまざる
ゆなな
BL
綾川雪也(ユキ)はオメガであるが発情抑制剤が良く効くタイプであったため上手に隠して帝都大学附属病院に小児科医として勤務していた。そこでアメリカからやってきた天才外科医だという永瀬和真と出会う。永瀬の前では今まで完全に効いていた抑制剤が全く効かなくて、ユキは初めてアルファを求めるオメガの熱を感じて狂おしく身を焦がす…一方どんなオメガにも心動かされることがなかった永瀬を狂わせるのもユキだけで──
表紙素材http://touch.pixiv.net/member_illust.php?mode=medium&illust_id=55856941
トップアイドルα様は平凡βを運命にする【完】
新羽梅衣
BL
ありきたりなベータらしい人生を送ってきた平凡な大学生・春崎陽は深夜のコンビニでアルバイトをしている。 ある夜、コンビニに訪れた男と目が合った瞬間、まるで炭酸が弾けるような胸の高鳴りを感じてしまう。どこかで見たことのある彼はトップアイドル・sui(深山翠)だった。 翠と陽の距離は急接近するが、ふたりはアルファとベータ。翠が運命の番に憧れて相手を探すために芸能界に入ったと知った陽は、どう足掻いても番にはなれない関係に思い悩む。そんなとき、翠のマネージャーに声をかけられた陽はある決心をする。 運命の番を探すトップアイドルα×自分に自信がない平凡βの切ない恋のお話。
二人のアルファは変異Ωを逃さない!
コプラ@貧乏令嬢〜コミカライズ12/26
BL
★お気に入り1200⇧(new❤️)ありがとうございます♡とても励みになります!
表紙絵、イラストレーターかな様にお願いしました♡イメージぴったりでびっくりです♡
途中変異の男らしいツンデレΩと溺愛アルファたちの因縁めいた恋の物語。
修験道で有名な白路山の麓に住む岳は市内の高校へ通っているβの新高校3年生。優等生でクールな岳の悩みは高校に入ってから周囲と比べて成長が止まった様に感じる事だった。最近は身体までだるく感じて山伏の修行もままならない。
βの自分に執着する友人のアルファの叶斗にも、妙な対応をされる様になって気が重い。本人も知らない秘密を抱えたβの岳と、東京の中高一貫校から転校してきたもう一人の謎めいたアルファの高井も岳と距離を詰めてくる。叶斗も高井も、なぜΩでもない岳から目が離せないのか、自分でも不思議でならない。
そんな岳がΩへの変異を開始して…。岳を取り巻く周囲の騒動は収まるどころか増すばかりで、それでも岳はいつもの様に、冷めた態度でマイペースで生きていく!そんな岳にすっかり振り回されていく2人のアルファの困惑と溺愛♡
アルファのアイツが勃起不全だって言ったの誰だよ!?
モト
BL
中学の頃から一緒のアルファが勃起不全だと噂が流れた。おいおい。それって本当かよ。あんな完璧なアルファが勃起不全とかありえねぇって。
平凡モブのオメガが油断して美味しくいただかれる話。ラブコメ。
ムーンライトノベルズにも掲載しております。
生き急ぐオメガの献身
雨宮里玖
BL
美貌オメガのシノンは、辺境の副将軍ヘリオスのもとに嫁ぐことになった。
実はヘリオスは、昔、番になろうと約束したアルファだ。その約束を果たすべく求婚したのだが、ヘリオスはシノンのことなどまったく相手にしてくれない。
こうなることは最初からわかっていた。
それでもあなたのそばにいさせてほしい。どうせすぐにいなくなる。それまでの間、一緒にいられたら充分だ——。
健気オメガの切ない献身愛ストーリー!
オメガ大学生、溺愛アルファ社長に囲い込まれました
こたま
BL
あっ!脇道から出てきたハイヤーが僕の自転車の前輪にぶつかり、転倒してしまった。ハイヤーの後部座席に乗っていたのは若いアルファの社長である東条秀之だった。大学生の木村千尋は病院の特別室に入院し怪我の治療を受けた。退院の時期になったらなぜか自宅ではなく社長宅でお世話になることに。溺愛アルファ×可愛いオメガのハッピーエンドBLです。読んで頂きありがとうございます。今後随時追加更新するかもしれません。
氷の支配者と偽りのベータ。過労で倒れたら冷徹上司(銀狼)に拾われ、極上の溺愛生活が始まりました。
水凪しおん
BL
※この作品には、性的描写の表現が含まれています。18歳未満の方の閲覧はご遠慮ください。
オメガであることを隠し、メガバンクで身を粉にして働く、水瀬湊。
過労と理不尽な扱いで、心身ともに限界を迎えた夜、彼を救ったのは、冷徹で知られる超エリートα、橘蓮だった。
「君はもう、頑張らなくていい」
――それは、運命の番との出会い。
圧倒的な庇護と、独占欲に戸惑いながらも、湊の凍てついた心は、次第に溶かされていく。
理不尽な会社への華麗なる逆転劇と、極上に甘いオメガバース・オフィスラブ!
ドジで惨殺されそうな悪役の僕、平穏と領地を守ろうとしたら暴虐だったはずの領主様に迫られている気がする……僕がいらないなら詰め寄らないでくれ!
迷路を跳ぶ狐
BL
いつもドジで、今日もお仕えする領主様に怒鳴られていた僕。自分が、ゲームの世界に悪役として転生していることに気づいた。このままだと、この領地は惨事が起こる。けれど、選択肢を間違えば、領地は助かっても王国が潰れる。そんな未来が怖くて動き出した僕だけど、すでに領地も王城も策略だらけ。その上、冷酷だったはずの領主様は、やけに僕との距離が近くて……僕は平穏が欲しいだけなのに! 僕のこと、いらないんじゃなかったの!? 惨劇が怖いので先に城を守りましょう!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる