勇者?いいえ、聖・魔剣使いです。〈 聖・魔剣使いの英雄談〉

カザミドリ

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第6章エルフの森

12.ガラドボルグ

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暗闇の中に立っていた、リミアによって送られた聖魔剣の意識の中は暗闇、ただその言葉につきる。

「よくぞ来た」

暗闇の中に一人の男が佇んでいた、エルフではないな、年寄りではないが若くもない、ロマンスグレーと言えばわかりやすいか?

「誰だ?お前が聖魔剣の意識ってやつか?」

「…………」

「黙りか」

「…………」

こちらの声が聞こえていないか、そもそも答える気がないのか、男は黙ったままこちらを見ている。

「……起源を見よ」

「起源?いったい何を……」

ザーザー

テレビのすなあらしの様なものが目の前に流れ、景色が変わる。

キーコー、キーコー。

変わった景色は見覚えのある公園だった。

「確か、ここは……」

『きゃぁぁー!』

『みーちゃん!』

悲鳴のした方を見ると小さな女の子が拐われそうになっているのを、男の子が助けていた。

「これは………」

知っている、家の近くの公園、幼い頃拐われそうになった澪を俺が助ける場面。

『そうだよ、これが私と明くんの原点だよ』

「澪?」

ザーザー。

またすなあらしが流れる。

次に切り替わったのは何処かの部屋の一室、ここも覚えている。

『た、助けて!』

『おい、静かに……』

『鈴!』

組み伏せられる女の子と覆い被さる男、男の腹を蹴り上げる少年、少年に抱きしめられ涙を流す少女。

知っている、鈴がストーカーに襲われ、それを助けた時だ。

『そうよ、これがあたしと明の原点よ』

「鈴……」

ザーザー。

次にすなあらしが晴れた時、日が沈み始めた河原に居た。

『僕は君みたいになれない!』

『………別になる必要はないだろ』

『………』

『お前に出来ない事は俺がやる、俺が出来ない事はお前がやってくれ、もしも俺が間違ったらお前が止めてくれ、それが友達ってもんだろ?』

『僕は、君の友達で居られるのかい?』

『当然だろ、これからも頼むぜ、親友!』

知っている、司が何故か俺みたいになりたいと悩んでいた時、学校帰り近くの河原で交わした言葉だ。

『そう、これが僕と明の原点』

「司……」

ザーザー。

またすなあらしが流れ景色が切り替わる、今度は何処かの道場。

『……俺は間違っていたのか?』

『………ああ、だから止めに来た』

『………』

『お前が間違ったら何度だって止めに来てやる、友達だからな』

知っている、武道の高みを目指すばかりに、敦が力の使い方を間違った時だ。

『そうだ、これが俺と明の原点だ』

「敦……」

ザーザーザーザー。

少し長めのすなあらしが晴れる、どうやら最初に戻ったようだ、佇んでいる男と石の聖魔剣が暗闇にあった。

「……起源は見えたか?」

「起源か……」

ふむ、確かに澪達と今の関係を築いたきっかけではあったと思うが。

「……聖魔剣は一人では振るえぬ、信頼する者と共に振ることで大いなる力を授けん」

「一人では振れない?大いなる力?」

「………」

やはりこちらの言葉には答えない。

「使い手よ、剣を取るがいい、そして剣の名を呼び覚ませ」

ふむ、気になることはあるが答えないなら仕方ない、それにしても、こいつどっかで見たことあるんだよなぁ、あと無性に殴りたくなるのは気のせいじゃないんだよなぁ。


気になる事を全て頭の隅に追いやり、剣に手を掛ける。

「これは!」

手を掛けると頭の中に自然と聖魔剣の名前が浮かんでくる、一度手を離してみると名前は消えた、面白いので何度か試して見るが手を触れる度に同じ名前が浮かんできた。

「…………」

そろそろ聖魔剣の意識(?)からの圧力がスゴいので真面目に剣に手を掛ける。

「これが聖魔剣の名前か」

呼吸を整え名前を呼ぶ。

「目覚めろ!ガラドボルグ!!」

パキン!

ガラスの割れるような音が響き、剣が柄を残して砕け散る、失敗かと思ったが直ぐに白と黒の粒子が刀身に集まりだし、形作っていく。
刀身が作られる力の奔流が生まれ、光に包まれた。


一方その頃、明の帰りを待つ澪達も聖魔剣が作り出す力の流れの中、凄まじい暴風にさらされていた。

「鈴!絶対離しちゃダメだよ!」

「分かってるわよ!明の帰る場所は、あたし達が絶対守るんだから!」

「そうだよ、皆で必ず」

「ああ、必ず出迎えてやらねばな」

力の暴風の中、固く握り合い明の帰りを待っていた。

カッ!と聖魔剣が眩く光、一際大きな力が放出される。

「ッ……あ、明くん!?」

光に目を奪われた一瞬でいつの間にか澪の隣に居た明が居なくなり慌てて探す、直ぐに見つかり、いつの間にか聖魔剣を手にしていた。

「これが聖魔剣か………」

明が手にしていたのは、刀身の半分が白夜の様に白く、もう半分が暗夜の様に黒い剣、その中には輝く星の様に光が散りばめられていた。

「明くん!」

「ん?ああ、澪ただいま」

「うん、お帰りなさい!」

「明、それが聖魔剣かい?」

「なんかきれいね?」

「うむ、だが凄まじい力を感じるな」

「そうですね、何て言ったらいいか、存在感がすごいですね」

ようやく手に入れた聖魔剣は力に溢れ、その凄さを物語っていた。

「さて、これでデスの所に行けるな」

「その前に日野を何とかしなきゃでしょ?」

「あー、そうだった」

今尚、エルフとアンデッドの戦いの音が聞こえる。

「……仕方ない、行くか」


前線に移動すると。

「うおぁぁぁ!」

「ふふふ、コロス、コロス、コロスゥ」

あれ、族長とその娘だぜ?信じられないだろ?他のエルフも触発されて似たり寄ったり。

「あの中には入れないと思う」

「お任せください、聖魔剣使い様」

「今更だが、工藤 明だ、様付けはやめてくれ」

「畏まりました、工藤さん」

会釈をすると、リュエさんは一歩前に出る。

「刮目!!」

大きくは無いが、とても通る声でリュエさんが呼び掛ける、同時にエルフとアンデッドの間に結界が張られたようだ。

「うがぁぁ……って、リュエ?」

「お母様?」

バーサーカー状態も解けたようだ。

「これより、聖魔剣使いの真の使い手、工藤 明を切り札とした反撃に打って出ます!陣形を整えなさい!」

『ハッ!』

先ほどまでが嘘のように、熟練の軍隊のような動きを取るエルフ達。

こうして、反撃の狼煙が上がる。


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