異世界行ったら従者が最強すぎて無双できない。

カザミドリ

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魔王軍幹部は変態らしい

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 さて、俺が勇者に成った事で前の勇者が捕らえられる事になった。

「あ、じゃあ俺達はこの辺で……」

 わざわざ見たいものでもないし、立ち去ろうとしたんだが。

「勇者様、ただいま不届き者を捕まえに行かせてますので、少々御待ちください!」

 いえ、だから、見たくないんだって、確実にめんどくさい事になるし。

「いや、私は……」

 急ぎますのでと言おうとしたのだが、その前に入り口が騒がしくなった。

「離せ!俺を誰だと思っているんだ!」

 あー、来ちゃったよ。

「静かにしなさい」

 怒鳴る元勇者に対し静かに冷たく言い放つ聖女。

「ミリアリア!これはどういう事だ!」

「そうだぞミリアリア、いくら我慢の限界だからといって、これはやりすぎだ」

 勇者の仲間の騎士の人が言う事も無理ない、だって全聖騎士に捕まえに行かせたんだからな。

「ふふふ、リノ貴女にも直ぐにわかりますよ」

 場に合わない穏やかな笑みを見せる聖女様。正直めっちゃ怖い。

「勇者様ぁ?その手はぁどうしたんですか?」

「け、怪我をしたんだよ」

 包帯の巻いた手を隠す勇者、それをゆっくりじわじわ攻めるミリアリア。それを引きながら見る俺。

「まぁそれは大変です!直ぐに私が治しましょう!」

「い、いや、聖女の魔法を使うような傷じゃない」

「そんな事言わず、傷を見せてくださいな?」

「い、いいって言ってるだろ!」

「………何か見せられない理由でもあるのですか?」

 ワントーン下がった声で言うミリアリアに、ビックと震える勇者。

「なぁ、その傷が何なんだ?それと、そこの人達はこの状況に関係あるのか?」

 痺れを切らしたリノがミリアリアに訪ねる。

「ええ、そうね」

「はぁ、わかった勇者様失礼するぞ」

「お、おい!やめろ触るな!」

 進まなそうなのを察したのか、リノが勇者の包帯を無理矢理取りにかかる、聖騎士も協力してやっと取れた包帯の下は。

「な、何だ!?どういう事だ!?」
 
「勇者の紋章が……無い……」

 誰が呟いたのかは分からないが、酷くハッキリと聞こえたその言葉は、その場の全員に伝わるには十分な音量だった。

「勇者様?紋章はどうされました?」

「ち、違う、これは、とにかく違うんだ!」

 動揺を隠せない元勇者が言い訳を始める。

「そ、そうだ!だ、誰かの陰謀、俺は嵌められたんだ!き、きっと魔王軍に!」

 だが誰も聞いてはいなかった。

「い、いや違う、そうだ!この間の雑貨屋かもしれない!あ、もっと前の宿屋かも!」

「………もう結構です、ここまで見苦しいと思いませんでした」

 再度ミリアリアの冷たい声に身を震わせる元勇者。

「ミリアリア説明してくれ、これは一大事だぞ?」

「簡単な話よ、彼は勇者ではないの」

「待ってわたし達は確かに彼の勇者の紋章を見たわ、あれは何だったの?」

 魔法使いの少女は酷く混乱したように訪ねる。

「そうね、確かにあの時は有ったわ、正確には三日ほど前まではあったんでしょうね」

「そ、そんな……」

「じゃあ、もう勇者は居ないのか……」

 勇者が居なくなったと言うのは余程の事のようで、リノや魔法使いだけでなく、聖騎士やシスターにまで絶望感が漂う。しかし、ミリアリアはその言葉を待ってました言わんばかりに不適に笑う。

「ふふふ、絶望するのはまだ早いわ、神はまだ私達を見捨ててはいなかったのよ」

 笑いながらこちらに近づくミリアリアの姿は聖女よりも悪女に見える。

「皆聞きなさい!この方こそ真の勇者!我らを真に御救いくださる方よ!」

 俺の右手を掴み高々と掲げる、うん、この方は悪女ですね。

「お、おぉ!あれは正しく勇者の紋章!」

「ああ、神よ……」

「ほ、本当に……新しい勇者が……」

「祈りってバカにできないのね……」

 歓喜に震えるリノ達を見て誇らしそうに笑うミリアリア。

「ふふふ、そうよ!彼こそ真の勇者よ!称えなさい!そして王国、いえ、世界に知らせるのよ!真の勇者が魔王を倒すため、我らを救うために降臨なされたと!」

『おおぉぉ!!』

 うん、どんどん話が大きく止まらず進んでいく。しかし、この展開従者達はどう思っているのだろうか?首を回し確認すると、四人とも満足そうに頷いていた、あ、いいのね。

「ふ、ふざけるな!」

 しかし、その熱に水を差す者が居た、元勇者である。

「あら、まだいらしたんですね?」

 すごく良い笑顔をしながらミリアリアが頬に手を当てながら言う。

「お前が俺から勇者の紋章を奪ったんだな!返せ!それは俺の物だ!」

 案の定言いがかりを付けてくる、勇者の紋章って奪える物なの?めんどくさかったので神様からの手紙を見せる。

「ほら、これ読め」

「こ、これは、で、でたらめだ!お前が適当に書いただけだろ!」

 まぁ、そう言うよね、あー本当にめんどくさい。

「信じる信じないは個人の自由だけど、心当たりはない?」

「あ、有るわけないだろ!?」

「本当に?後ろの人達を見ても?」

 俺が指差す方向、元勇者の後ろには怒りの形相の聖騎士達と騒ぎを聞き付けて来た街の住民達が居た。

「おい、ふざけるなよ!うちの娘はお前に犯されて家から出られなくなったんだぞ!」

「私の旦那は邪魔だからって理由であんたに切り捨てられたのよ!」

「ワシの店はお前が壊したせいでしばらく営業出来なかったんだぞ!」

 聞けば出てくる出てくる、勇者への苦情と罵詈雑言の数々。

「う、うるさい!ゆ、勇者なんだから自由に振る舞うのは当然の権利だ!こいつだって同じように振る舞うさ!」

 俺を指差しながら言う元勇者。そこで俺に振るなよ。

「いやね、周りが好き放題を許したのが一因でも有ると俺は思うよ?」

 俺の言葉に肩を落とす街の住民。そして逆に勢いを取り戻す元勇者。

「ほらみろ!やっぱり俺は間違って……」

「だけど、お前のはやりすぎだ、とてもじゃないが勇者だからと許せるものじゃない」

「なに!?」

 元勇者の目を見据えて続ける。

「お前は事ある毎に勇者だからと言っていたが、勇者だからこそ人を苦しめる行いは恥ずべき事じゃないのか?」

「………」

「お前の中の勇者がどう云うものかはこの際問わない、だが少なくとも今この場に居る人にとってはお前は勇者じゃあない」

「………」

「それを踏まえて、俺の知っているというか俺の中の勇者像は自分のできる範囲で人々を助ける者だと思う」

 ここで話は俺の目指す勇者に変わる。

「あ、あの!」

 声を上げて前に出てきたのは小さな女の子だった。

「ゆ、勇者様は、みんなを助けてくれないの?」

 今にも泣き出しそうな女の子の前に行き、膝を着いて頭を撫でながら続ける。

「………みんなを助けたいとは思うよ、でもねそれは難しいんだ、俺の手の届く距離はとても短い、君を撫でるにも近付かなきゃいけないほどにね」

「……うん」

「それに俺は、勇者は何でも出きる訳じゃない、剣は作れないし、魔法は得意じゃない、傷を癒す事もできないし、ドラゴンを倒すのも一人じゃあできない、だから、みんなの力が必要なんだ」

「……みんなの力?」

「そう、手を取り合い、協力し合って、初めて勇者は強くなるんだ、そうすればきっと魔王も倒せる、俺はそう思うよ」

 少女と同時に元勇者や街の住民、クロノ達にも伝えるように言う。

「そんな勇者じゃあダメかな?」

「いいえ、大変素晴らしいと思います」

「そうだよな、勇者様は一人しか居ないんだ、なら私達は私達で出きることをしないと」

「ええ、みんなで手を取り合ってね」

 ミリアリアをはじめ多くの人に賛同され、その輪は広がって行った。

「くそ、ちくしょう……」

 元勇者の呟きは街の人々の歓喜に消されてしまったが、その声には怒りは無かったと思う。むしろ辛うじて聞き取れたのは後悔の声だった。

 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
 騒ぎが収まる頃、元勇者は聖騎士に連れていかれた。

「あいつはどうなるんだ?」

「王都に連れていかれ、処分を受けるかと」

 さすがに処刑は無いだろうけど、気の毒だな。そう思った俺は手紙を二枚書き、ミリアリアに渡す。

「王都に連れていく時、悪いんだけどこの手紙をそれぞれ王様とギルドマスターに渡してくれ」

「畏まりました、そのように手配をします」

 これで精一杯の情けはかけた、後は彼次第だろう。

「さてと、思わぬ時間を喰ったな」

「勇者様はこれからどちらへ?」

「あー、その勇者様って辞めてもらえる?タクトでいいよ、俺達はこれから東の街イリマに行くんだ」

「畏まりました、御供します」

「………ちょっと何言ってるかわからないです」

 今、着いてくるって言った?

「私達は勇者様の御供です」

「うん、その勇者ならさっき捕まったよ?それに御供ならもう居ます」

 クロノ達を指差しながら言う。正直彼らより強い御供は居ないと思う。

「私は強いぞ?王国軍で一・二を争う位だ」

「ドラゴンを殴り飛ばせますか?」

「………無理だ」

 騎士が一歩引く。

「私は魔法が得意よ?」

「大量のアンデットを燃やし尽くすほど?」

「………できなくない……かも」

 魔法使いが目を反らす。

「わ、私は回復魔法が得意です!」

「瀕死の重症や致死の呪いを解くほど?」

「………ごめんなさい」

 聖女が素直に謝る。

「うーん、ちょっと無理かな?」

 成長途中の勇者パーティーって、正直あまり頼りにはならないんだな。

「タクト様、彼女達には情報を集めて貰うのはどうでしょう?」

「情報を?」

「はい、聞けばまだ魔王が何処に居るのかもわからないとか、ならば我々には行けないところに行って貰い情報の収集を任せてみてはどうかと」

 でもそれって要するに使いっ走りじゃないか?彼女達はどうなんだろうか?

「やります!ぜひやらせてください!」

 あ、いいのね。

「わかった、じゃあお願いします何か分かったらギルドに報告を……」

 方針が決まった矢先に事件は起きた。

「た、大変です!た、大量の魔物と魔王軍が!」

 魔王軍が攻めてきた。

 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
 タクト達が魔王軍進行の報告を受けている頃、街の外では魔王軍幹部の一人ミエムが溜め息を吐いていた。

「ハァ、何でわたくしがこんな事……」

 魔王による大陸進行準備が整いつつある今、危険度は少ないものの万全を期する為に勇者の排除がミエムに命じられた。

「正直あの勇者がそんな力を持っているとも、これから得るとも思えないわ」

 憂鬱な溜め息を吐きつつ、魔物を連れて街に行く。

「誰かわたくしを傷つけてくれないかしら……」

 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
 魔王軍が攻めてきた、その報は街に混乱をもたらす。

「どうゆう事だ!何故魔王軍がこの街に!?」

「理由は不明です、しかし率いているのは魔王軍幹部の一人と言う情報が入っています!」

「直ぐに避難を!」

「間に合いません!直ぐそこまで来ています!」

 教会内に設けられた対策本部では、聖騎士達の怒号が飛び交っていた。

「魔王軍幹部?」

 タクトの口にした疑問に聖女ミリアリアは答える。

「魔王軍において上位の実力者です、その一人が来たと言う事はかなりの危険です、街の放棄も余儀無いかと」

 そこまでの実力者が理由もなく出てくるとは思えないと話すミリアリア。

「ひょっとして勇者を?」

「いえ、勇者はそこまでの脅威にはならないと言うのが魔王の評価です、とてもではありませんが……」

 そこで言葉を切り青い顔をするミリアリア。

「ま、まさか、この街に魔王に内通する者が?」

 ミリアリアの発言に教会内は騒然となるが。うーん、そこまでの事なのか?まぁ、何はともあれどうするかは決めなくてはならない。

「ちょっと従者と話してきます」

 ミリアリアに断りを入れてクロノ達と話し合いをする。

「で、どうすればいいと思う?」

 話し合いと言っておきながら全て投げる。

「ふむ、魔王軍幹部というのがどれ程かは見ておく必要が有ると思いますな」

「それにうまくいけば魔王の居場所を聞き出せます!」

「ん、捕まえる」

「私も同意見です」

 従者は全員戦う事に異議はないらしい。原因が何にしろ対応しなくちゃいけないんだから当然か。

「よし、じゃあ迎え撃とう」

 俺達は魔王軍を迎え撃つため街の入り口に移動する。ミリアリア達には危険だから逃げてくださいやら、ここは我々が食い止めますやら、色々言われたが制止を振り切り外に出た。

「さてと、魔王軍は……」

 外には土煙を立てて近づく魔物の大群が居た。その先頭、虎形の魔物に座り爪を磨ぐ女。

「あれが魔王軍の幹部?」

「あ、あれはもしや……」

 ミリアリアの呟きが聞こえて質問しようとしたが、それより早く女が動き出した。

「えー、コホン、わたくしは魔王軍幹部が一人ミエム、勇者の首を頂きに来ましたわ」

 優雅に礼をするミエム、その姿には美しさも感じる。

「くっ、やはり勇者様が狙い……」

 まだ分からないがご指名の様なので前に出る。

「………俺が勇者だが?」

「………あなたが?何の冗談ですか?」

 うっ、やっぱり魔王軍はまだ知らなかったか、これは失敗したか?

「冗談を言っていないで、早くあのボンクラを連れて来なさい、そうすれば命くらいは助けて上げますわ」

 堪らなそうに爪を磨ぐミエム、こちらにはさほど興味は無さそう。

「………勇者に今さら何の用だ?」

「………大陸支配の邪魔だからよ?当然でしょう?」

「ボンクラでも?」

「くどいわね!そうよ!ボンクラでも邪魔だと言ったら邪魔なの!例え弱くてもね!」

「なるほど、じゃあ勇者が別の奴になっても、目的は変わらないと?」

「いったい何を……」

 そこで手の甲にある勇者の紋章を見せる。

「俺が新しい勇者だ」

 紋章を見たミエムが笑い出す。

「ふふ、ふふふ、いい、いいわぁ、退屈だと思っていた任務が面白くなってきたわぁ!」

 ミエムが前に進み、胸に手を当てる。

「掛かってきなさい勇者!あなたの実力、わたくしが見て上げますわ!」

「なら、遠慮なく!」

 踏み込むと同時に剣を抜き大きく振りかぶる。避けられると思った剣筋は予想に反しミエムの腕を切り裂き、赤い筋を描く。

「っ!?」

 斬られた腕を見てミエムが驚き、次の瞬間。

「あ、ああぁぁん!」

 艶かしい声を上げて身体を両手で抱き締めて恍惚の表情で座り込む。

「い、いぃ、痛いわ……」

 寒気がして咄嗟に飛び退いたが、その判断は間違っていないと思う。

「久しぶりの痛み快感……」

 今変なルビがついてなかった?表現がしにくい表情のまま蹲るミエムを見て引きながら思う。

「変態だ」
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