捨てられたヒト、拾われた瞬間

桜井良樹

文字の大きさ
1 / 3

死から得た希望

しおりを挟む
  夏の夕刻、彼は死亡した。享年19であった。
 彼の肌は白く、身体は痩せ気味であり、髪はボサボサ、目の下には大きな隈があった。健康的な人間とは言えない身体をしていた。

 彼は報われない人生だった。彼の父母は、彼がこの世に生を受けてすぐ離婚し、彼を母が引き取った。 

 彼の親友は中学三年の時に死亡した。
 
 彼の親友は中性的な見た目であった。とても虚弱体質であり、クラス内ではヒトの輪に入れるようなヒトではなく、クラスメイトによって、心も身体も荒んでいき、彼の親友は還らぬヒトとなった。

 彼は親友の心と身体が荒んでいるのを知りながら、クラスメイトを止める勇気がなかった。
 
 彼も親友と同じく、ヒトの輪に入ることができないヒトであり、ずっと独りの中学校生活を送ってきた。
 そんな彼に、話しかけてくれた親友は、彼にとって希望の光であり、彼の人生を変えた瞬間だった。
 
 親友との学校生活は、今までの孤独な学校生活とは違い、家族ともあまり会話しない彼にとっては、唯一の話し相手だった。
 
 でも、彼は親友を見殺しにした。

 彼は怖かった。彼自身がクラスメイトの玩具にされるのが、彼の人生が狂ってしまうのが、助けを求めることすらできないような傷を負うのが。

 彼はその結果、親友を助けるような行動を起こさずに、彼の親友は死亡した。
 
 未来は、親友を救わなかった彼に責任が降りかかる結果となった。
 親友を救わなかった彼を母は叱りつけ、母は彼に失望した。彼の親友の親は叱り付けはしなかったが、彼に失望したような、眼差しで見ていた。

 この頃から、彼は何も考えられなくなった。

 もうヒトと、関わる気すら彼は無くしてしまった。
 
 彼自身の判断が彼自身を苦しめ 彼の将来の足枷となった。

 彼は高校にこそ進学はしたが、昔に逆戻りしたような孤独な学校生活を卒業まで送った。

 高校を卒業してから、彼は就職をせず、永遠と部屋で自堕落な生活を謳歌していた。

 彼の人生は自分が主役なのではなく、彼はヒトを目立たせる脇役であると、そう考えているくらい、彼は荒んでいた。

 

 高校を卒業して半年後の夏、彼、黒石影秋《くろいしかげあき》は母、黒石琴美《くろいしことみ》から一階へ呼び出されていた。
 
 影秋がリビングのテーブルに腰掛けると、琴美は口を開いた。
「影秋くん、話があるの、、、」と言葉を放った。
いつもの母の言葉とは違い、いつにも増して重厚感があった。 

 琴美はそう言うと、机の上に札束を置いた。ざっと百万円くらいはあるだろう。

 今度は少し冷めた口調で言葉を放った。
「このお金を持って出て行って。もう、戻ってこないで。もうお母さん、これ以上は貴方を養えない」

「わかった」と咄嗟に言葉が出てた。
 
 影秋もいつかは言われると少し勘づいていた言葉。
このような自堕落な生活は影秋も悪いと少し思っていた。 
 
自堕落に落ちた影秋との縁を切った母。

彼は母との今まで感謝とこの決断への感謝を込めて、「ありがとう」と言葉を小さい声で放ち、家を後にした。

琴美の目は少し潤んでいた。
 
 家を去った後、全てを失った影秋の目から数多の滴がこぼれ落ちた。
 
 なにも考えず家を出てきた影秋はとりあえず近所の駅を目指した。
 影秋が住んでいる場所は、周りには何もない田舎。
 地元で影秋は生きていける気が微塵もしなかった。
 
 近くの駅を目指して歩いていると、小綺麗な新聞紙が落ちていた。見る限り、昨日の朝刊か夕刊だろうと思った。

 興味本位で覗いてみると、その表紙には「○○県□□市の公民館で放火事件発生 死者12名 行方不明者3名」の文字が見えた。
 
 影秋は、あの日以来何事にも、興味を示さないないのだが、何故か影秋は、この記事に惹かれてしまった。
 
 間違ったヒトが起こした忌々しい事件なのだが、影秋は不思議に思えた。(何故公民館なのか、何故死者が12名も出たのか、そして、何故行方不明者がいるのか、ニュースにある写真を見る限り、公民館は全焼していない。倒壊している場所も見当たらない。そして、この公民館、本当に、燃えたのか?)
このように思えるほど、公民館は燃焼跡が少ない。
 
 影秋は少し不思議思ったが、その新聞紙を駅のゴミ箱に捨て、ホームを目指した。
 
 地元の小さな駅から、地方の中心となる駅へ向かっている途中も、その間もあの新聞紙の内容は離れなかった。
 
 影秋は地方の中心駅から、都心へ向かう特急に乗ると、すぐに眠ってしまった。
 影秋はこの半年間、部屋からほぼ動いていなかったため、少し動いただけでも、かなりの労力を使ってしまった。
 
 午後四時頃、影秋は都心に着いた。影秋は都会に来たことがないため、影秋は人の多さに圧倒されてい
た。
 影秋に都会は早かった。人の流れるような動きについて行けず、影秋は午後六時頃、疲れ果てて、都市の閑散とした近郊住宅街を歩いていた。
 
 影秋は信号機もない交差点に通りかかった。
その交差点を歩こうとるすと、「バァァァン!!」と何かに身体があたり、轟音が響き、彼の意識は途絶えた。
 
 
 

 彼は眼を見開いた。目に映った景色は一面中彼岸花が咲き、空の色は先が見えない程、漆黒に塗られた空が広がっていた。
 
「お前の命は尽きた、黒石影秋。
 もう一度、黒石影秋として、命が欲しいか?」と女性の声が聞こえた。
 
 影秋は声のする方向を見た。そこには、漆黒のスーツで身を包んだ、流れるような黒髪の女性が立っていた。
 
 影秋は、見知らぬ場所、見知らぬ女性に「自分は死んだ」と突きつけられて、影秋は混乱と不安を覚えていた。
 ヒトに絶望していた彼にとって、とても良い機会だった。

 影秋はなにも考えず口を開いた。
「俺はもう、全てを失った自分を捨てたい、だから、俺に新たな生をくれないか?」
 彼の本心を告げた。
 
  もう、何もかも忘れたくて忘れたくて仕方がなかった。

しかし、彼のその発言は彼女の逆鱗に触れた。
「ふざけるな!!
自分で創った人生を、失敗などという言葉で簡単に片付けるな!!
その原因を作ったのは紛うとこなき自分であろう!!お前のような自分から目を背けるヒトが、新たな生が与えられると思うな!!」と彼女は怒鳴った。

 少し落ち着いた後、彼女は
「お前には罰が必要だな、お前にはまだ知るものがある。それを知ってから、そのような大口を叩け。」
 と話した後、何処へ消えてしまった。

 彼女が去った後、影秋は急に目が眩み、その場に倒れ込んだ。
 

 影秋は目を覚ました。

 その瞳の中に、映り込んだ世界に目を疑った。

 そこは野原であった。
 草木が生い茂っていて、青空が広がっていた。
 
 だだ、その空は、ガラスのような壁で、覆われていた。
 
 そして、壁の先にあるのは空中に浮かぶ島、
 島の真下には、純白の壁で建てられた巨大な城があった。
 
 この光景を見た影秋は、少し興味を唆られてしまった。
 
 ヒトに絶望した影秋の興味を唆るものは今まで一つもなかった。
 
 初めて見た、現実離れした光景。



 この世界に彼は少し、希望を抱いた。





 暗闇の中、二人の男女は話し合っていた。

 「そうか 君が、ヒトに怒りを示すなんて、成長したものだねぇ。」
 
「造り物のお前が、言えたセリフではないだろう?」

「おっと、それはそれは悪かった。でも、こんな不良品を造ったのは、君なんじゃないのかなぁ?」
 
 「不良品? お前はやはり、失礼なやつだな。」
 
  「あはは、やっぱり、君は成長しないなぁ。
  あれは、少しの同情、いや、同族嫌悪から来た言葉なんだろう?」

「彼を送る為には、あのような言葉を放つしかなかったのだ。」
 
「ああ、彼は今まで見てきたヒトの中でも最高クラスの品だ。
 必ず彼は素晴らしい作品を見せてくれるだろうさ。」
 と言うと、男は暗闇の中に消えていった。

「そうか。」
  女は何かを決めたような声を漏らすと、暗闇の中へ消えていった。
 
(さあ 見せてみろ。黒石影秋!!お前の生き方を、お前の絶望を、お前の死に方を、この腐り切った。
  この私の世界で!!)
   
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

主人公の恋敵として夫に処刑される王妃として転生した私は夫になる男との結婚を阻止します

白雪の雫
ファンタジー
突然ですが質問です。 あなたは【真実の愛】を信じますか? そう聞かれたら私は『いいえ!』『No!』と答える。 だって・・・そうでしょ? ジュリアーノ王太子の(名目上の)父親である若かりし頃の陛下曰く「私と彼女は真実の愛で結ばれている」という何が何だか訳の分からない理屈で、婚約者だった大臣の姫ではなく平民の女を妃にしたのよ!? それだけではない。 何と平民から王妃になった女は庭師と不倫して不義の子を儲け、その不義の子ことジュリアーノは陛下が側室にも成れない身分の低い女が産んだ息子のユーリアを後宮に入れて妃のように扱っているのよーーーっ!!! 私とジュリアーノの結婚は王太子の後見になって欲しいと陛下から土下座をされてまで請われたもの。 それなのに・・・ジュリアーノは私を後宮の片隅に追いやりユーリアと毎晩「アッー!」をしている。 しかも! ジュリアーノはユーリアと「アッー!」をするにしてもベルフィーネという存在が邪魔という理由だけで、正式な王太子妃である私を車裂きの刑にしやがるのよ!!! マジかーーーっ!!! 前世は腐女子であるが会社では働く女性向けの商品開発に携わっていた私は【夢色の恋人達】というBLゲームの、悪役と位置づけられている王太子妃のベルフィーネに転生していたのよーーーっ!!! 思い付きで書いたので、ガバガバ設定+矛盾がある+ご都合主義。 世界観、建築物や衣装等は古代ギリシャ・ローマ神話、古代バビロニアをベースにしたファンタジー、ベルフィーネの一人称は『私』と書いて『わたくし』です。

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる

竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。 評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。 身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。

処刑前夜に逃亡した悪役令嬢、五年後に氷の公爵様に捕まる〜冷徹旦那様が溺愛パパに豹変しましたが私の抱いている赤ちゃん実は人生2周目です〜

放浪人
恋愛
「処刑されるなんて真っ平ごめんです!」 無実の罪で投獄された悪役令嬢レティシア(中身は元社畜のアラサー日本人)は、処刑前夜、お腹の子供と共に脱獄し、辺境の田舎村へ逃亡した。 それから五年。薬師として穏やかに暮らしていた彼女のもとに、かつて自分を冷遇し、処刑を命じた夫――「氷の公爵」アレクセイが現れる。 殺される!と震えるレティシアだったが、再会した彼は地面に頭を擦り付け、まさかの溺愛キャラに豹変していて!? 「愛しているレティシア! 二度と離さない!」 「(顔が怖いです公爵様……!)」 不器用すぎて顔が怖い旦那様の暴走する溺愛。 そして、二人の息子であるシオン(1歳)は、実は前世で魔王を倒した「英雄」の生まれ変わりだった! 「パパとママは僕が守る(物理)」 最強の赤ちゃんが裏で暗躍し、聖女(自称)の陰謀も、帝国の侵略も、古代兵器も、ガラガラ一振りで粉砕していく。

1歳児天使の異世界生活!

春爛漫
ファンタジー
 夫に先立たれ、女手一つで子供を育て上げた皇 幸子。病気にかかり死んでしまうが、天使が迎えに来てくれて天界へ行くも、最高神の創造神様が一方的にまくしたてて、サチ・スメラギとして異世界アラタカラに創造神の使徒(天使)として送られてしまう。1歳の子供の身体になり、それなりに人に溶け込もうと頑張るお話。 ※心は大人のなんちゃって幼児なので、あたたかい目で見守っていてください。

元公爵令嬢は年下騎士たちに「用済みのおばさん」と捨てられる 〜今更戻ってこいと泣きつかれても献身的な美少年に溺愛されているのでもう遅いです〜

日々埋没。
ファンタジー
​「新しい従者を雇うことにした。おばさんはもう用済みだ。今すぐ消えてくれ」  ​かつて婚約破棄され、実家を追放された元公爵令嬢のレアーヌ。  その身分を隠し、年下の冒険者たちの身の回りを世話する『メイド』として献身的に尽くしてきた彼女に突きつけられたのは、あまりに非情な追放宣告だった。  ​レアーヌがこれまで教育し、支えてきた若い男たちは、新しく現れた他人の物を欲しがり子悪魔メイドに骨抜きにされ、彼女を「加齢臭のする汚いおばさん」と蔑み、笑いながら追い出したのだ。 ​ 地位も、居場所も、信じていた絆も……すべてを失い、絶望する彼女の前に現れたのは、一人の美少年だった。 ​「僕とパーティーを組んでくれませんか? 貴方が必要なんです」  ​新米ながら将来の可能性を感じさせる彼は、レアーヌを「おばさん」ではなく「一人の女性」として、甘く狂おしく溺愛し始める。  一方でレアーヌという『真の支柱』を失った元パーティーは、自分たちがどれほど愚かな選択をしたかを知る由もなかった。  ​やがて彼らが地獄の淵で「戻ってきてくれ」と泣きついてきても、もう遅い。  レアーヌの隣には、彼女を離さないと誓った執着愛の化身が微笑んでいるのだから。

幼馴染みの婚約者が「学生時代は愛する恋人と過ごさせてくれ」と言ってきたので、秒で婚約解消を宣言した令嬢の前世が、社畜のおっさんだった件。

灯乃
ファンタジー
子爵家の総領娘である令嬢の前に、巨乳美少女と腕を組んだ婚約者がやってきた。 曰く、「学生時代くらいは、心から愛する恋人と自由に過ごしたい。それくらい、黙って許容しろ」と。 婚約者を甘やかし過ぎていたことに気付いた彼女は、その場で婚約解消を宣言する。 前半はたぶん普通の令嬢もの、後半はおっさんコメディーです。

つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました

蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈ 絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。 絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!! 聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ! ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!! +++++ ・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)

処理中です...