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彼らは足掻く

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 彼はそこに立っていた。

ここはスガーナ王国の地下牢。

 彼は僕と同じく、手を縄で縛られていた。

 彼は倒れ落ちた。

 彼は泣いていた。

 彼はこの世界に絶望していた。

 僕は彼を放っては置けなかった。

彼は、僕、仙崎弥生せんざきやよいに殺されたのだから。

でも僕は、彼をみたくはなかった。

思い出してしまう。

あの光景を、あの日の温度を、娘の絶望した顔を。

でも、僕は彼に謝らなければならない、この世界に送った罪、殺したことを。

彼は前を向いた。




影秋はこの世界の仕組みを知り、絶望していた。

影秋は国についてなど、考えたくはなかった。

 国にはその国の野望がある。

 その野望を叶えるためにヒトは醜く争う。

 争った末に残るのは荒廃した世界だけ。

影秋は戦争など見たくはなかった。

素晴らしい世界の風景が一瞬で屍が転がる、焼け野原に変わる。

 この世界は摩訶不思議なのに、ヒトの作る社会は醜く、歪んでいる。ヒトは、同じヒトを平気で奴隷にし、敗者に発言権は与えられない。

「この世界は俺のいた世界と、何一つ。変わりやしない。」影秋は声を漏らす。

「だったら、変えないか?戦争がなく、景色は変わらない。理想郷に。」男は影秋に反応した。




俺は、男の言葉をなんて夢物語なんだと、なんて馬鹿馬鹿しいと思った。

遂、反論してしまった。
「第一俺に、世界を変える力なんてない。もしも、世界を変えたところで、この世界のヒトは、納得しない。
ヒトは自分さえ良ければ、他のことなんてどうでもいい。全てが素晴らしい世界なんて、この世界のヒトは望んじゃいない。戦争で勝利し、敗者を見下し、自分は優雅な暮らしを送る。敗者は、勝者の功績を彩る飾りでしかない。」

「そうか、ならお前は、平気で差別されるヒトを見て見ぬ振りをするのか。そうゆう人間なんだな。お前は。」

男の言葉に俺は言い返せなかった。

俺はあ・い・つ・を見捨てた酷いヒト。

自分でもわかっていた。

だから、ここまで俺は腐った。

俺は何度もあいつを思い出して、後悔した。

「俺はヒトとして、本物のクズだ。」
        声が漏れた。



「なら、僕がお前を変えよう。」




   嬉しかった。

自分に手を差し伸べるヒトがいることに。

「僕に、罪を償わさせてくれ。」
    男は小さな声で言った。

 意味がわからなかった。
 男とは初めて出会ったはずだ。
 なのに、男は罪と言った。

「罪?」

「あっ、なんでもないよ。」
      男は隠した。


「お前の名前、教えてくれないか。」
       男は話を変えた。

「、、、カゲアキです。」
     少し照れ臭かった。

「カゲアキ、これからよろしく。僕はヤヨイ。」
 ヤヨイは彼にこの世界で生きる手段を与えた。

カゲアキにとって二番目の差し伸べられた手

カゲアキはヤヨイの手を取った。

この時、ヤヨイは何かに恐・怖・し・て・い・た・。

彼は聞いてきた。

「カゲアキ、どうやって地下牢に連れて来られた?」

「覚えていない。」

「そうか。」

「カゲアキ、まずはここから抜け出すことを考えよう。」

「わかった。」

「この牢内には僕らしかいない。この鉄格子さえ壊せれば、抜け出すことができるかもしれない。まぁ、壊せればの話だが。」

「おい、何故この牢内には、俺ら二人だけしかいない? 少し不思議に思わないか?」

言われてみればそうだった。
 他の牢にはヒトは入っておらず、最近までヒトが居た跡すらない。

 その時。

野太い声が聞こえた。
「おい!お前ら、今、抜け出そうとしてないか?
 この牢から抜け出す?ふざけたことを言わないでくれ。」

どこからともなく図体の大きな兵士が現れた。

 兵士を見たカゲアキの表情は恐怖の顔へと変わった。

カゲアキは思い出した。カゲアキを捕らえた兵。身分証明書を要求してきた、兵士が現れた。

「あいつだ。」
    カゲアキは怯えていた。兵士の力は強く、カゲアキの体は脆いため、かなり傷ついていた。

「やっぱりそうか。」
そこに立っていた兵士はヤヨイを此処へ送り込んだ兵士だった。

ヤヨイにとって兵士の登場は予想外の事であったが、ヤヨイは兵士に尋ねたいことがあった。
兵士達が自・分・達・で・創・り・出・し・た・縄・について。

兵士は喋った。
「なぁお前ら、亜種人類ヒトだろ?お前らの服は見たこともないような、服を着ているからな。そりゃそうだ。亜種人類が身分証明書なんて持ってるわけないもんなぁ。悪かった悪かった。
鉄格子を開けるから少し待ってくれよ。」

そう言うと兵士は鉄格子を開けた。


少し不思議に思ったヤヨイ。

この時カゲアキは何も考えいなかった。
だから、カゲアキは開いた扉を通ろうとした。

その時、カゲアキの心臓を兵士が短剣で貫いた。

「カゲアキ!!」
  ヤヨイは叫んだ。

カゲアキは倒れた。

カゲアキはもう一度、死んだ。

「やっぱり、亜種人類ヒトは弱いモンだなぁ。ナイフで刺しただけで倒れるなんて、お前らこんな弱さで世界を変える?笑わせることを言うものなんだな亜種人類は。だから、この世界では、お前らは差別されて、殺されんだよ。」
  兵士は舐めた口調で言った。

ヤヨイは理解した。何故この牢にヒトが居ないのか。
ヒトは兵士達に騙され、殺される。

ヤヨイは兵士への苛立ちと後悔があった。
(僕にもう罪は償えないのか?僕はカゲアキを殺したままにするのか?
嫌だ。嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ。
絶対に嫌だ。もう弱い自分は嫌だ。僕に強さがあれば、僕は変われる。)

その時だった。

ヤヨイの体に得体の知れない力が流れだした。
ヤヨイはその時、兵・士・を・殺・せ・る・剣・を・想・像・し・た・。
彼は、剣を創・り・出・し・て・い・た・。

その剣はカゲアキの方へと転がり落ち、彼の縄を切った。

さらに、不思議なことが起きた。

「ふ  ふざ んな、勝手に  俺をもう。殺すな!!」

カゲアキは起き上がった。

カゲアキはヤヨイが創り出した剣を手に取り、兵士を背後から刺し貫いた。

兵士は倒れ落ちた。

「な、なぜだ。何故お前は、立っている?」
   兵士は傷を必死になって抑えながら、カゲアキに尋ねた。

「俺は、この世界が嫌いだ。
 この城に来るまでの道で、嫌と言うほど奴隷、難民を見た。彼等は餓死しそうなのに此処の兵士達ときたら、殆どのヒトが健康体。いや、肥満じゃあないか。
ヒトは醜く争い、敗者、奴隷には希望はなく、残った将来は勝者の飾り物の人生。
俺は逃げたかった。飾り物。俺は嫌だから。
俺は、自分だけまた助かろうとした。
だから、死んじゃおうって思ったのに、
俺は死・ぬ・こ・と・が・で・き・な・い・。
俺は死ねない!死ぬことができない!」

「ふ、ふざけるな!そんなことがあり得るか。
お前は、創造主から祝福でも、もらったと言うのか!」

「祝福?ああ、確かに一般のヒトなら嬉しいと思うか。
こんな贈り物、俺にとったら邪魔でしかない。
俺は馬鹿でクズだから、生きているだけで恥を晒してしまう。こんな贈り物、できれば返品したいくらいだ。創造主?と言う奴に。」

「お前、創造主を馬鹿にするのか!いい加減にしろ、お前なんかすぐに...ぐはぁ!」
    兵士は刺された。

兵士は倒れ落ちた。

「黙れ、お前はもう喋るな。」
ヤヨイはもう一度、兵士を刺した。

兵士の命は絶えた。

 ヤヨイは兵士の死体の心臓を何度も何度も、刺していた。

ヤヨイの惨たらしい行為を目にしたカゲアキは、ヤヨイに少し恐怖を覚えた。

「こんなガラクタで貫かれて死ぬなんて。お前の鎧はただの飾りだったようだな。」

ヤヨイは兵士の首を切った。
切ってすぐに、兵士の体は灰となって消えた。
ヤヨイは確信した。
(この世界のヒトは亜種人類ヒトとは違う。
僕らとの構造が違う。)


「カゲアキ、ありがとう。」
  ヤヨイからお礼の言葉を述べらた。

カゲアキはお礼を受けた嬉しい気持ちと、ヤヨイへの恐怖心で言葉がでなかった。

彼は何かに確信した声で言った。
「やはり、そうだったか。」

「どうした?」

「彼らはやはり、モノを創造し、創り出していた。
創造する力、きっと神に貰ったものだろう。
それとも、彼らにとってみれば普通のことなのか?
まだ、そこはわからないが」
   ヤヨイは世界の理に踏み入れようとしていた。

「それより、こんなとこ抜けないか?」

「ああ、そうだな。そうしよう。」

彼らは牢から抜け出す準備をした。

 準備をしている時、ヤヨイの服から一枚の写真が落ちた。


その写真には、一軒家の前で笑った顔のヤヨイ。お腹の膨らんだ女性。そして、明るい顔の少女が写っていた。

カゲアキはどこか懐かしい気持ちになった。

ヤヨイはカゲアキが写真を見ていることに気づき、言葉を述べた。
「それ、返してくれないか。」
ヤヨイの声のトーンは、ものすごく冷淡だった。

この写真を見た時、カゲアキは少し考えた。
(ヤヨイは、俺と同・じ・世・界・の・ヒ・ト・なんじゃないか?)






「君は優しいなぁ。仙崎弥生の持ち物を奪わないなんて。そ れ と も、奪えなかったのかなぁ~?」

「優しい?馬鹿を言わないでくれ、私はお前に男を任せると、言っただろう? 奪うもの奪わないもお前の勝手だ。」

「ごめんごめん。君が選んだ品なのに、私に相手をしろ。なんて言うからびっくりしたよ。それほど、彼が嫌いなのかい?」

「ああ、嫌いだとも。
私は、彼女を奪った。


 仙崎弥生が大っ嫌いだ!!」
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