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愛着

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 そのころルシフェルは「オーバーヒートくらいで洗脳が解けるとは…… やはり洗脳する時間が足りなかったか」と呟いた。

 そして「まずい!」とルシフェルが言った次の瞬間、ヘリオス達の回りに稲妻が降り注いだ。

 アレスが「敵の攻撃か?」と言うが、稲妻は黒龍も仲間の宇宙船も関係無く襲った。次々に沈んで行く黒龍と宇宙船を見てティアは「何が起こってるの?」と言った。

 稲妻は鳳凰にも容赦なく襲いかかってきた。ヘリオス達は「駄目だ、避けきれない!」と思目を閉じた。だが衝撃も何も起きない。

 ヘリオス達がゆっくりと目を開けると、目の前に赤い龍の様な物が立ちはだかっていた。 形は青龍に似ているが、色は紅く鳳凰よりもかなり大きい物だった。

 アレスは「俺達を助けてくれたのか?」と言った。ヘリオスが「貴方はいったい……」と言うと、紅龍から「私が誰かなんて事はどうでも良い、ヘリオスお前とは過去に何度か顔を合わせているが……」

 「お前達人類は、この宇宙を戦場にし汚した事で、神ゼウスの怒りをかってしまった。ここが片付けば、次は火星と地球にも、この稲妻が降り注ぐだろう、お前達は何処か他の惑星にでも逃げるが良い。」と言った。

 ティアは「マレス……」と呟いた。ヘリオスは「助けてもらったのはありがたいけど、俺は子供達を助けに行く」と言った。セレネも「私も火星に戻ります」と言った。

 紅龍は「お前達が言ったところで助けられない、いくら鳳凰や青龍でも、あの稲妻を何度も受ければ無事では済まない、それ以前に間に合うかどうか…… セレネ、お前は子供達の居る場所さえ知らないだろう」と言った。

 ヘリオスは「それでも俺は助けに行く、子供達が死ぬと解っているのに見捨てるなんて」と言った。

 セレネも「少しでも助かる可能性が有るなら、私も行く」と言った。

 ティアも「あたしも行く、マレスに生きて帰るって約束したし、どうせ死ぬならマレスの側で死にたい」と言った。

 アレスは「決まりだな、俺1人生き残ったところで仕方ない、それにお前等には俺が必要だろ、俺がいなけりゃ鳳凰を維持出来ないからな」とドヤ顔で言った。

 紅龍は「人類とはバカな生き物だな、自分達だけでも逃げれば良いのに……」

「死ぬと解っていて…… 仕方ない、手を貸してやろう」と言うと紅龍が分かれて2匹になった。

 1匹の紅龍が青龍を掴むと、もう1匹が鳳凰を掴んだ。すると青龍を掴んだ方は「火星へ行くぞ」もう1匹は「地球へ行くぞ」と言った。 

 セレネが「子供達の居場所が」と言うと、紅龍は「それも俺に任せろ」と言った。 

 紅龍は一瞬にして、地球と火星に降り立った。その時、ティアの頭に激痛が走った。ティアは「あたしが死ねば鳳凰も維持出来ない…… お願いあと少し待って」と頭が痛いのを隠した。

 紅龍は、孤児院の前に鳳凰を降ろすと「俺がしてやれるのは、ここ迄だ」と言った。 ヘリオスは「ありがとう、でも何故手を貸してくれたんだ?」と聞いた。

 紅龍は「これまで俺を楽しませてくれた御礼だ、あとはお前達の幸運を祈る」と言うと一瞬にして姿を消した。

 それから少しして、地球と火星に稲妻が降り注いだ。

 地球と火星を後にした紅龍は1つになり『自分の意にそぐわないものは、全て悪か』と呟くと、次に向かった先は意外にもゼウスの元だった。 

 ルシファーがゼウスの前に立つと、ゼウスは稲妻を落とす手を止めた。

 ゼウスが「ルシファーか、何しに来た」と言った。ルシファーは、ゼウスの前にひざまつくと「地球も火星も殆どの人類は死んだ、これ位で勘弁してやって頂きたい」と言った。

 ゼウスが「お前が私に頼み事とは…… 今度は何を企んでいる?」と言った。ルシファーが「何も企んでなど……」と言うと、ゼウスは「今回の件、お前が裏で糸を引いていた事は解っている、何が目的だ!」と言った。

 ルシファーは「私はただ、自分のおもちゃが全部壊されてしまうのが嫌なだけで……」と言った。ゼウスは「それだけで、お前が怪我をしてまで庇うとは到底思えん」と言った。

 ルシファーは「あれは…… 気付いたら勝手に身体が動いてたもので……」とばつが悪そうに言った。ゼウスは「お前が情に流されるとは……」と一瞬驚いた表情を見せ、次の瞬間「そうか、お前が情にな……」と言って高々と笑った。

 それでも真剣な表情を崩さないルシファーを見てゼウスが「長きに渡り人類の側で過ごして来たお前は、愛着が湧いたのだな」

 「ルシファーよ、それが愛だ! お前に愛を抱かせるとは、人類とは面白い!」と言った。

 ルシファーが「では助けて頂けるのですか?」と言い掛けたところで、ゼウスが「かと言って今回の件、全てを許す訳にはいかない。

 ルシファー、お前への罰は天界に戻ることを命ずる、天界で何をさせるかは後で考えるとして……」と言うとゼウスはルシファーの前から姿を消した。
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