アメリカ北部のJCが、イケメン探ししてたら南北戦争に巻き込まれた!

蜂蜜の里

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ブルーリッジ山脈で捕らわれて

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 アニーは冷たい山の空気を吸い込み、深く息を吐いた。すでに馬から降りて数時間は経っている。山脈の頂が薄暗い雲に覆われる中、肩を寄せ合って進む彼女とカミラは、パルチザンの粗野な声と足音に囲まれていた。足元の岩肌はごつごつとして滑りやすく、ロープで縛られた手首が痛んだが、カミラが時々振り返りながら微笑むたびに気持ちが落ち着いた。

 やがてパルチザンたちは森の奥深くにある小屋のような場所へと二人を連れ込んだ。そこでアニーの視線に飛び込んできたのは、ぼろぼろになった姿の男。薄汚れ、髭も剃らず、服はところどころ破けた状態の男で、アニーは思わず息を呑んだ。

「マグワイア……!」
 薄汚れた軍服に身を包みながらも、以前と同じような無表情だった。人間性が全く読めない、薄気味の悪さ。

 アニーの言葉に反応するようにカミラも視線を上げる。マグワイアの視線はアニーを素通りし、カミラに向けられた。かつて軍で地位を持っていた彼とは思えない、怨恨に満ちた目だった。

 マグワイアは口元を歪め、わずかに笑った。その瞬間、アニーの目に不思議とこの男が人間らしく映った。

「やっとお会いできましたね。お待ちしてましたよ、カミラ嬢!」
 アニーは自分の背筋が緊張でこわばるのを感じた。カミラは一歩も引かず、その目をまっすぐ見返していた。

「あなた、南軍をも追われたのね。軍事裁判にでもかけられることになったのかしら」
 カミラが静かに呟いた。
「……さあ、どうでしょうか。ですが私とリー将軍がうまくいっていなかったのは事実です。あの戦争犯罪者ウェブスターと馴れ合うなど、愚か極まる!」
 思わず一歩進み出たアニーを、カミラが無言で制した。

 やがて、パルチザンのリーダー格と思われる男が前に出た。
 トンプソン中尉と呼ばれたその男はボサボサの不潔な感じのする、アニーよりも明るい色合いの赤毛頭の男だった。彼は噛みタバコを大切そうに取り出し一度口に含むと、それをぺっと地面に投げ捨て、重々しく口を開いた。

「マグワイア准将。あんた、このお嬢さんたちをどうなさるおつもりですか?」

 マグワイアは冷たく言った。
「決まっている、北軍に対する人質だ。カミラ嬢……黒髪《ブルネット》の方だが、彼女は俺たちが預かろう」

 アニーの心臓が跳ね上がる。カミラを深く恨んでいるのは明らかだった。アニーは恐怖で凍りつきそうになりながらも、カミラの腕を掴んだ。

「それには反対です」
 トンプソン中尉が厳かに言った。
「マグワイア准将、あんたの部隊が赤髪のお嬢さんを預かってください。カミラ嬢ですか、彼女は俺たちが預かります」

 アニーはその提案にぎょっとし、カミラの肩に目をやった。カミラの表情にはわずかな驚きが見えたものの、すぐに無表情に戻った。彼女はただ静かにトンプソン中尉の意図を測ろうとしているようだった。

 マグワイアが目を細めて中尉を睨む。
「どういうつもりだ?」
「つもりも何もありません」
 中尉は淡々と言葉を続けた。
「わしが重視するのは仲間内の秩序、それだけです」

 アニーは言葉を失ったが、心の奥底でその言葉が真実であることを感じ取っていた。マグワイアは再び冷たい目でアニーを見つめたが、何も言わなかった。

 トンプソン中尉はマグワイアがアニーにほとんど興味を示していないことを見抜いているのかもしれないとアニーは思った。それはアニー自身が感じていたことで、彼女に対するマグワイアの視線には憎しみや敵意は微塵もなく、むしろどうでもいいというような冷淡さが漂っていた。

「いいだろう」
 マグワイアは渋々ながらもアニーを引き受けるそぶりを見せた。その様子を見届けたトンプソン中尉は静かに頷き、カミラの方へ歩み寄る。

 カミラは中尉を見つめた。その目には感謝と不信の入り混じった感情があった。だが、中尉の穏やかな態度は少しも揺るがなかった。
「安心しなさい」
 トンプソン中尉がカミラにそっと告げた声は、意外なほど優しさを含んでいた。
「わしらはあんたを傷つけるつもりはない。赤髪のお嬢さんにも、きちんと見張りをつける」

 アニーはその場の緊張感に耐えながら、カミラがトンプソン中尉をどう評価しているのかを読み取ろうとした。カミラはただ短く頷いただけだったが、その目にはわずかに安堵が浮かんでいるようにも見えた。

 その後アニーはマグワイアたちに引っ張られ、新たな山小屋に連れられた。縄で縛られた手首が痛むが、感覚的な痛み以上に彼女の心を占めていたのは、周囲の状況に対する不安だった。目の前で焚き火を囲むパルチザンたちは、疲労と荒んだ表情を隠そうともしない。心がすでに戦いの中で摩耗し、燃え尽きかけているのだろう。

 その中でひときわ目を引くのが、トンプソン中尉だった。彼は周囲を歩いて回りながら、声を荒げることなく命令を下し、何よりも彼の言葉には自然と人を引きつける力があった。アニーは焚き火の向こうから彼を観察し、この男がどれほど過酷な状況の中で秩序を保とうと努力しているかを感じ取っていた。

 正規軍からも見捨てられた彼らには補給はなく、食料も武器もすべて自分たちで確保しなければならない。鹿を狩るか、近隣の農家から盗むか、どちらも命がけの行動だ。アニーは焚き火で煮込まれている不気味なスープの匂いを嗅ぎながら、食べ物に対する嫌悪感を無理やり飲み込んだ。

 彼らの衣服もひどい状態だった。破れた服を何度も縫い直し、靴底が薄くなった靴を補強して履き続ける。雨に濡れた日には乾かす暇もなくそのまま歩き続けるため、靴擦れができ、泥が皮膚に染み込んでいた。

 しかし物資の不足以上に、この環境を苛酷なものにしているのは、人間同士の軋轢だった。極限状態での共同生活は、すぐに人の本性をあらわにする。パルチザンたちは皆、戦争に翻弄される中でそれぞれの理由でこの集団に身を寄せていたが、互いの価値観や目的は必ずしも一致しない。

 アニーは食料の分配や作戦の方針をめぐる口論も目の当たりにした。些細な衝突が暴力に発展することもある。
 彼らは略奪や奇襲を行う中、まともな倫理観を維持することなどほぼ不可能な様子だった。

 トンプソン中尉の存在が、この荒れ果てた集団の中に微かでも秩序の名残を留めていた。彼は食料や物資の分配を公平にし、無用な暴力を避けるように指導していた。そのため、仲間たちの間で自然と人望を集めていたのだ。

 トンプソン中尉が秩序を守ろうとするのは、単なる責務ではないとアニーは感じた。彼は人間性がどれほど脆いものであるかを知っているからこそ、それを守ろうとしているのだ。
 だがそれも限界に近づいていることを、アニーは感じ取っていた。異質な存在マグワイアがこの集団に加わったことで、トンプソン中尉の努力が崩れつつあるのが明白だった。

 マグワイアは、どこか浮世離れした「カリスマ性」とも呼ぶべき迫力を持つ男だった。人々の恐れや欲望に巧みに訴えかける力だ。言葉巧みに人の心を操ってトンプソン中尉が築き上げてきた秩序を意図的に、あるいは無意識のうちに崩しているのがわかった。アニーが気づいたのは、いくつかの場面での些細な変化だ。たとえば、マグワイアの提案が暗黙のうちに受け入れられることや、彼の笑みが一部の隊員たちの警戒を解き、彼らの中に不穏な空気を生み出していることだった。

 トンプソン中尉はそれを見過ごしているわけではない。彼の瞳には疲労と葛藤がありありと見て取れた。夜遅くに焚き火の光の中で、彼が他の隊員と低い声で議論しているのをアニーは聞いた。
「マグワイアは危険だ。だが、奴を排除すれば分裂を招く」

 マグワイアの存在が、彼の中にあったはずの確固たる信念を揺るがせているのだと、アニーは感じ取っていた。

「マグワイアが来てから、空気が変わった」
 パルチザンの一人が仲間内でそう呟いているのもアニーは耳にした。

 アニーは冷たい夜風に身を縮め、火のそばに座っていた。焚き火の燃えさしが時折パチパチと音を立てる以外、あたりは不気味な静けさに包まれている。空腹と疲労に蝕まれた身体は、彼女の本来の気質を鈍らせていた。ここでの生活は、文明の光から完全に切り離されたものだった。

 パルチザンたちはただ敵兵を恐れるだけではなかった。自然そのものが敵だった。ブルーリッジ山脈の厳しい環境は、体力と気力を消耗させる。急峻な岩場を登り、時に冷たい雨に打たれながら眠らなければならない。
 夜になると、暗闇の中に潜む狼やクマの気配を感じながら、わずかな眠りに身を投じる。焚き火の明かりが守ってくれるのはわずかな範囲であり、その外側には何が潜んでいるかわからない恐怖が常につきまとった。

 アニーは焚き火の向こうで、カミラの姿を探した。トンプソン中尉の提案で別々に扱われることになったため、彼女の様子を見ることはできない。けれどカミラがどんな状況であれ冷静さを失わないことを知っていたアニーにとって、唯一の希望は彼女だった。

 翌日、昼間の陽がわずかに差し込む中、全員が集まる機会が訪れた。マグワイアが焚き火の中心に立ち、彼の顔には自信と薄ら寒い笑みが浮かんでいた。トンプソン中尉をはじめとするパルチザンの面々がそれを見守る。アニーはカミラの横顔を見つめた。彼女の表情には緊張が見えるが、その瞳の奥には何かを決意した光があった。

「トンプソン中尉、あなたに伺いたいことがあります」

 焚き火を囲むパルチザンたちが一斉に動きを止めた。その場の空気が凍りつくのを、アニーも感じた。カミラは立ち上がり、彼らの中心に一歩を踏み出していた。その堂々とした姿にアニーは驚きと不安を覚えた。

「私たちがここに囚われたのは、私たちの父、ウェブスター将軍が塩素ガスを使用したと言われているからですか?」

 カミラの問いに、パルチザンたちがざわめいた。焚き火の煙が風に流れる中、トンプソン中尉は眉をひそめた。彼は視線を焚き火に落とし、一瞬の沈黙の後で答えた。

「その通りだ。しかし、あんた方に危害を加えるつもりはない。わしらが求めているのは、内戦の結果をひっくり返す手段だ。ウェブスター将軍は民間人の命をも省みなかった。その代償として、気の毒だがあんたたちに力を貸してもらいたい」

 アニーは中尉の言葉に動揺した。彼の声には冷静さがある一方で、どこか諦めにも似た苦味が漂っていた。だがカミラは一歩も引かず、その場の空気を引き裂くような声で告げた。

「塩素ガスを開発したのは父ではありません。この、マグワイアです」
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