アメリカ北部のJCが、イケメン探ししてたら南北戦争に巻き込まれた!

蜂蜜の里

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真実を暴くカミラ

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 パルチザンたちの視線が一斉にマグワイアに向けられた。
 薄汚れた軍服をまとったマグワイアは、少しも動じた様子を見せずに薄く笑った。

「塩素ガスを我々に使用したのは君たちの父親、ウェブスター将軍だ! 美しかったリッチモンドの街を死の街へと変えたのも、善良な市民を殺したのも奴だ」

 アニーは息を呑み、隣に立つカミラを見上げた。だが、カミラは動じることなく、さらに一歩踏み込んだ。

「リッチモンドを死の街にしたのはあなた自身でしょう? あなたは戦況をひっくり返すために味方に塩素ガスを撒いた。それが真実です」

 その言葉に焚き火の周囲が再びざわめいた。マグワイアは一瞬、表情を歪めたが、すぐにまた冷静な顔を取り戻した。

「くだらない。証拠でもあるのか?」
 と彼は低く問いかけた。

 カミラはわずかに顎を上げ、毅然と答えた。
「証拠はなくとも、あの勇敢なリー将軍があなたを問い詰め、その結果あなたは南軍をも逃亡した、その事実が全てです。あなたは最初から秩序や理想のためではなく、ただ自分の目的のためにこの戦争を利用している」

 マグワイアは一瞬息を呑むように見えたが、すぐに平然とした表情を取り戻した。その態度に、アニーは言いようのない不安を感じた。マグワイアの背後で焚き火が揺らめき、その影が壁に不気味な形を作り出している。

トンプソン中尉が低い声で割り込んだ。

「准将、それが本当なら、わしたちの信じてきたものは何なのだ?」

マグワイアの表情が鋭さを増した。

「愚かなレディの戯言に耳を傾けるな、中尉。俺の力を信じろ、必ずあるべき姿の未来へ導く!」

 アニーは焚き火の影で拳を握りしめていた。カミラの言葉が確かに何かを揺さぶり始めていることだけは感じていた。

 カミラの目が再びマグワイアを捉えた。

「あなたのように理想を捨てた者が、未来を作れるとは思えません」

 その一言が、静まり返った空気の中で重く響いた。

 トンプソン中尉が重々しく口を開いた。
「本当に俺たちを、南部を裏切ったのか?」
「裏切ってなどいない」
 マグワイアは冷静さを装いながらも血走った目で、言い切った。
「悪魔の証明だ、俺に証明する手立てはない。ただ一つ言えることは、南部同盟に身を捧げた仲間を信じてくれということのみだ」

 トンプソン中尉の目は変わらず冷静で、彼の言葉に耳を傾ける。しかし、その表情には明らかな失望が浮かんでいた。
「嘘だ。あんたの今までの行動と状況証拠が全てを示している」
 彼はマグワイアに近づき、彼を見据えた。
「あんたの卑劣な行動を見過ごすわけにはいかない。責任を取ってもらう必要がある」

 その言葉にマグワイアは一瞬、顔をゆがめた。
「証拠もないのに、何の権利があって」
 なおも言い続けようとしたがトンプソンの沈黙が彼の言葉を遮った。

「……テキサスへ向かいなさい。あっちは重要な拠点だ。あんたの知識や頭脳があれば北軍への反撃の足がかりを作ることも可能でしょう」

 それは実質的な追放だった。

 マグワイアは、それでも冷静さを保って言った。
「言う通りにしよう。だが、俺には人質が必要だ」

 そう言って、カミラの腕を強く引っ張った。

「カミラ嬢を連れて行く。そうすればウェブスターも動かざるを得ないだろう。北軍の中枢に混乱をもたらすには、これ以上の策はない。俺には彼女を使って敵を出し抜き、戦局をひっくり返す力がある! 妹は親元に返してやろう。南部の誇りをヤンキー共に見せつけてやろうではないか」






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 アニーは突然告げられた言葉に頭が混乱していた。テキサスに飛ばされることになったマグワイアに、カミラを人質として連れて行くと聞かされて、さらにマグワイアは
「妹は親元に返してやろう」
 と口にしたのだ。
 アニーの心は激しく揺れ動いた。何がどうなっているのか分からず、ただカミラが連れ去られてしまうかもしれないという恐ろしい現実だけが頭に響いていた。

 自分の中に湧き上がる不安と怒り、そして恐怖に押しつぶされそうになった。彼女の頭の中では、姉と引き裂かれるかもしれないという思いが渦巻き、冷静さを失っていた。

 何も口にしようとしないカミラを責めようと、彼女の方に目を向けたアニーは驚愕した。
 カミラは完全に固まり、絶望の色を浮かべた目で虚ろに一点を見つめている。

 普段強く頼もしいカミラがこんなにも無力な姿を見せるなんて。

 焚き火の明かりが揺れる中、パルチザンたちはマグワイアを囲み、怒りと困惑の入り混じった視線を投げかけていた。トンプソン中尉は疲れ切った顔をしており、その目には怒り以上に深い葛藤がにじんでいた。

「カミラ嬢を連れて行かせるなんて、正気の沙汰じゃない!」
 若い兵士の一人が声を荒らげた。
「彼女はもはや我々の捕虜じゃない。ただ巻き込まれただけだ。連れて行く理由がどこにある?」

「そうだ!」
別の兵士が続けた。
「マグワイアがこんなことをしたんだ。味方を塩素ガスで殺すような男に、彼女を託すなんて論外だ!」

「だが、現実を見ろ」
 老兵が静かに口を開いた。
「我々は疲れ果てている。これ以上持ちこたえるのは難しい。カミラ嬢が交渉の材料になるなら、使うしかないんじゃないのか?」

「使う?」
若い兵士が声を張り上げた。
「そんなことが許されるのか?我々はヤンキーじゃない。誇りある南部の民だ!」
「誇りで戦争に勝てるならな!」
 老兵の厳しい言葉が場を一瞬沈黙させた。

「ようやくわかったか。お前たちの正義感がいかに高尚でも、戦場では何の役にも立たない。敵を利用してこそ、生き残れるのだ!」
 マグワイアの勝ち誇った顔を見た時、アニーは絶望のあまり声を張り上げる。

「卑怯者! あんたたちもよ、南部の男たちが誇りまで捨てるというの!? 」
 その叫び声が響く中、トンプソン中尉が静かに立ち上がった。彼の表情には、苦渋の決断が刻まれていた。

「もうやめろ」
 中尉の言葉は静かだったが、場の空気を完全に支配した。
「俺だってカミラ嬢を連れて行かせたくない。だが我々は今どん底だ。生き延びるにはどうしてもマグワイアの力が必要なんだ」

「ですが、中尉!」
若い兵士が反論しようとする。

「黙れ!」
 トンプソン中尉の一喝がその声を封じた。
「今の状況で他にどうしろって言うんだ?」

 彼はカミラに向き直り、静かに続けた。
「お嬢さん、あんたを守る力が俺には足りない。だが、マグワイアがあんたを害するつもりなら、必ずそれを阻止する手を打つ。この判断を憎むなら憎んでくれて構わない。どうか、生き延びてくれ」

 マグワイアの後ろには、今なお彼に付き従う部下たちの姿が立ち並んでいた。

 彼の言葉を聞いたカミラは深い絶望と苦悩に苛まれながらも、ゆっくりと覚悟を決めた様子で言った。
「いいでしょう、アニーは今すぐに解放して。そうしたら言うことを聞きます」
 アニーはカミラの言葉を呆然と聞いた。カミラだけがずっと心の支えで、離れるなんて考えられなかった。
「嫌だ、私も行く! 置いていくなんて、許さない!」
「私は大丈夫よ」
 そう言うカミラの声はアニーの胸に強く響き、アニーはその真剣さに言葉を失った。

「あなたは、帰って幸せになってほしいの」

 とカミラは静かに告げて、アニーを抱きしめ耳元でささやいた。

「エナペーイに、いつか必ず助けに来てと伝えて」

 カミラは自分を捧げるようにして、妹の未来を守ろうとしているのだ。

「カミラ! やだ、いやだ、行かないで!」
 カミラは振り向くことなく、マグワイアの方へと歩みを続ける。アニーは泣き叫び、遠くに見えるマグワイアたちとカミラを必死に見つめた。

 どうしてこんなことになったのか。カミラを助けられなかった自分を責めながら、彼女はただ固くその場に立ち尽くしていた。涙は止まらず、すべての無力感が心を押し潰していくようだった。

 その時、地面を震わせるように響く馬の蹄の音が耳に届いた。アニーは目を瞬き、顔を上げると、視界に飛び込んできたのは、戦場の厳しさを感じさせるケイドとエナペーイの姿だった。

 ケイドの顔には、一片の迷いもなく鋭い決意が宿っていた。その背後に並ぶ兵士たちは、まるで一体となった猛獣のように、彼に従いながらその場に現れた。エナペーイは静かな眼差しでありながら、そこにあるのは不屈の強さと、仲間を守るために尽力する覚悟だった。

 馬の脚が地面を蹴り上げ、砂塵が舞い上がる中、ケイドが前に進み、アニーの目の前に立った。その姿は、まるで物語の中から出てきた英雄のようだった。
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