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27. 楽しみだから
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アイシューヴ公爵家の養子になってから三日。
皆が良くしてくれたお陰で無事にこの家に馴染めた私は、一昨日から始めている護身術の練習に励んでいる。
先生役はレティ――ヴァイオレット様。一昨日に「家族なのだから敬語は止めましょう」と言われてから愛称で呼び合うようになっていて、あっという間に距離も縮まったと思う。
誕生日が離れていたら姉と妹の関係になっていたのかもしれないけれど、私とレティは誕生日が同じだから、お互いに愛称で呼んだ方が色々と楽なのよね。
双子だと最初に産まれた方が姉になるらしいけれど、私達の場合はどちらが先かなんて分からないから、お義父様達とも相談してこの形になった。
「……やっぱりエリーは覚えるのが早いのね。
もうここまで出来るようになるなんて、羨ましいわ」
「ありがとう。レティの教え方が上手なお陰だわ」
「そ、そうかしら?」
今は護身術の練習を終えて休んでいるところ。
護身術は突飛ばされた時の受け身から、誘拐されそうな時の縄抜けに、相手を投げ飛ばして逃げる方法まで色々学ぶことがあって大変だった。
ようやく背が高い執事さんを投げ飛ばせるようになったけれど、まだまだ練習が必要だと思う。
「そろそろ再開しましょう!」
「ええ、お願いしますわ」
「呼ばれて参りましたが、ご用件は?」
「聞いていなかったのね。エリーの練習相手をお願いしたいの。
貴方が一番体格良いと思うから、お願い出来ないかしら?」
「畏まりました」
最初は執事さんが抵抗しない状態で、足をかけてから背中に乗せて投げてみる。
でも、重たく思うように投げることは出来なかった。
「抵抗してみましたが、体勢を崩されるとは思いませんでした。
エリシアお嬢様の将来が恐ろしいですな」
執事さんは余裕の表情で受け身を取って、床に倒れることなく一回転してから立ち上がっている。
さっきの執事さんも同じだったけれど、ここの使用人さんはレベルが高くて驚いてばかりだ。
「もう一回お願いしますわ」
「エリシアお嬢様からのお願いでしたら、何度でも投げられましょう」
……そうして執事さんの協力を受けて練習すること一時間。ようやく綺麗に投げられるようになった。
でも、執事さんの受け身も磨きがかかっているみたいで、空中で二回転してから着地されてしまう。
この体格で素早い動き。絶対に敵に回したくないわ。
「すごいですね……」
「これくらい、エリシアお嬢様なら余裕だと思います。
ただ、失敗すると大怪我をしてしまいますので、厚いクッションを用意して練習されますように」
「護身術がもっと上手に出来るようになったら練習してみますわ」
「楽しみにしております。
そろそろ慣れてきたようなので、私が暴漢役を演じてみましょうか?」
「ええ、お願いしますわ」
……それからしばらく、私は実践的な練習をこなした。
お陰でダンスの練習の時の比にならないくらい疲れてしまったけれど、執事さんもレティも誉めてくれたから、疲れが少しだけ和らいだ気がした。
◇
「ついさっき、王家からパーティーの招待状が届いた。
主催はライアス殿下だから、おそらく婚約者探しだろう」
すっかり陽が落ちて辺りが暗くなった頃、夕食の時間でお義父様がそんなことを口にした。
家族全員の視線が私に集まっているけれど、私の社交界経験が殆ど無い事を危惧しているのかしら?
「昨日ライアスと話をましたが、エリー以外の令嬢と婚約するのは御免だと言っていました。おそらくは建前でしょう」
「やはりそうか」
「それ以外にあり得ませんわ」
お義兄様の言葉に、お義父様とレティの言葉が重なる。
流石は公爵家一家……色々とお見通しらしい。
「問題はバードナ家も招待されている事だが、エリーは大丈夫か?」
「パーティーの場で手を出してくるとは思えませんから、大丈夫ですわ」
もしも何かあっても、護身術を練習しているのだから、取り返しのつかないことにはならないと思う。
それに、あの二人にこれ以上人生を壊されるのは嫌だから、何か言われても立ち向かいたい。
ここで負けたら、またボロボロな人生に逆戻りになってしまうもの。
……そう思っていたら、執事さんが息を切らしながらダイニングに入ってきた。
「旦那様! エリシアお嬢様! 大変です!
王家から縁談が来ました!」
「……そうか。こちらの想定通りだな。
相手はライアス殿下か?」
「左様でございます」
そんな言葉と共に差し出されたのは、王家の紋章入りの封筒で、お義父様が丁寧に封を開ける。
中身は陛下の字で書かれているから、きっと政略的な意味のある縁談という事になるのだと思う。
けれど、最近はライアス様と顔を合わせられていないから、どうすれば良いのか分からないのよね。
彼の事は嫌いではない……というよりも好きなのだと思うけれど、自分の気持ちが良く分からない。
「返答はエリシア次第だが、どうしたい?」
「自分の気持ちが良く分かりませんの……。
ライアス殿下のことは人として好きですけれど、殿方としてどうなのかは分からなくて」
「人として好きなら、それは殿方としても好きになれると思うわ。
私の婚約者様も、最初は良い人としか思っていなかったけれど、今はすっかり仲良くなったの」
どう答えて良いのか分からなくて悩んでいると、レティがそんなアドバイスをしてくれる。
でも、しばらく会っていない間にライアス様が変わっているかもしれないから、一度会ってから決めたい。
「返事を出す前に、ライアス殿下とお話がしたいですわ。
お互いの気持ちを確かめたいですもの」
「ああ、言い忘れていたが、ライアス殿下は明日のお昼過ぎにいらっしゃるそうだ。
そこで思う存分話をすると良い」
「分かりましたわ」
急に物事が進みすぎて、頭が追い付かないわ……!
でも、久々にライアス様とお話が出来るのが楽しみで、頬が緩んでしまいそうだった。
皆が良くしてくれたお陰で無事にこの家に馴染めた私は、一昨日から始めている護身術の練習に励んでいる。
先生役はレティ――ヴァイオレット様。一昨日に「家族なのだから敬語は止めましょう」と言われてから愛称で呼び合うようになっていて、あっという間に距離も縮まったと思う。
誕生日が離れていたら姉と妹の関係になっていたのかもしれないけれど、私とレティは誕生日が同じだから、お互いに愛称で呼んだ方が色々と楽なのよね。
双子だと最初に産まれた方が姉になるらしいけれど、私達の場合はどちらが先かなんて分からないから、お義父様達とも相談してこの形になった。
「……やっぱりエリーは覚えるのが早いのね。
もうここまで出来るようになるなんて、羨ましいわ」
「ありがとう。レティの教え方が上手なお陰だわ」
「そ、そうかしら?」
今は護身術の練習を終えて休んでいるところ。
護身術は突飛ばされた時の受け身から、誘拐されそうな時の縄抜けに、相手を投げ飛ばして逃げる方法まで色々学ぶことがあって大変だった。
ようやく背が高い執事さんを投げ飛ばせるようになったけれど、まだまだ練習が必要だと思う。
「そろそろ再開しましょう!」
「ええ、お願いしますわ」
「呼ばれて参りましたが、ご用件は?」
「聞いていなかったのね。エリーの練習相手をお願いしたいの。
貴方が一番体格良いと思うから、お願い出来ないかしら?」
「畏まりました」
最初は執事さんが抵抗しない状態で、足をかけてから背中に乗せて投げてみる。
でも、重たく思うように投げることは出来なかった。
「抵抗してみましたが、体勢を崩されるとは思いませんでした。
エリシアお嬢様の将来が恐ろしいですな」
執事さんは余裕の表情で受け身を取って、床に倒れることなく一回転してから立ち上がっている。
さっきの執事さんも同じだったけれど、ここの使用人さんはレベルが高くて驚いてばかりだ。
「もう一回お願いしますわ」
「エリシアお嬢様からのお願いでしたら、何度でも投げられましょう」
……そうして執事さんの協力を受けて練習すること一時間。ようやく綺麗に投げられるようになった。
でも、執事さんの受け身も磨きがかかっているみたいで、空中で二回転してから着地されてしまう。
この体格で素早い動き。絶対に敵に回したくないわ。
「すごいですね……」
「これくらい、エリシアお嬢様なら余裕だと思います。
ただ、失敗すると大怪我をしてしまいますので、厚いクッションを用意して練習されますように」
「護身術がもっと上手に出来るようになったら練習してみますわ」
「楽しみにしております。
そろそろ慣れてきたようなので、私が暴漢役を演じてみましょうか?」
「ええ、お願いしますわ」
……それからしばらく、私は実践的な練習をこなした。
お陰でダンスの練習の時の比にならないくらい疲れてしまったけれど、執事さんもレティも誉めてくれたから、疲れが少しだけ和らいだ気がした。
◇
「ついさっき、王家からパーティーの招待状が届いた。
主催はライアス殿下だから、おそらく婚約者探しだろう」
すっかり陽が落ちて辺りが暗くなった頃、夕食の時間でお義父様がそんなことを口にした。
家族全員の視線が私に集まっているけれど、私の社交界経験が殆ど無い事を危惧しているのかしら?
「昨日ライアスと話をましたが、エリー以外の令嬢と婚約するのは御免だと言っていました。おそらくは建前でしょう」
「やはりそうか」
「それ以外にあり得ませんわ」
お義兄様の言葉に、お義父様とレティの言葉が重なる。
流石は公爵家一家……色々とお見通しらしい。
「問題はバードナ家も招待されている事だが、エリーは大丈夫か?」
「パーティーの場で手を出してくるとは思えませんから、大丈夫ですわ」
もしも何かあっても、護身術を練習しているのだから、取り返しのつかないことにはならないと思う。
それに、あの二人にこれ以上人生を壊されるのは嫌だから、何か言われても立ち向かいたい。
ここで負けたら、またボロボロな人生に逆戻りになってしまうもの。
……そう思っていたら、執事さんが息を切らしながらダイニングに入ってきた。
「旦那様! エリシアお嬢様! 大変です!
王家から縁談が来ました!」
「……そうか。こちらの想定通りだな。
相手はライアス殿下か?」
「左様でございます」
そんな言葉と共に差し出されたのは、王家の紋章入りの封筒で、お義父様が丁寧に封を開ける。
中身は陛下の字で書かれているから、きっと政略的な意味のある縁談という事になるのだと思う。
けれど、最近はライアス様と顔を合わせられていないから、どうすれば良いのか分からないのよね。
彼の事は嫌いではない……というよりも好きなのだと思うけれど、自分の気持ちが良く分からない。
「返答はエリシア次第だが、どうしたい?」
「自分の気持ちが良く分かりませんの……。
ライアス殿下のことは人として好きですけれど、殿方としてどうなのかは分からなくて」
「人として好きなら、それは殿方としても好きになれると思うわ。
私の婚約者様も、最初は良い人としか思っていなかったけれど、今はすっかり仲良くなったの」
どう答えて良いのか分からなくて悩んでいると、レティがそんなアドバイスをしてくれる。
でも、しばらく会っていない間にライアス様が変わっているかもしれないから、一度会ってから決めたい。
「返事を出す前に、ライアス殿下とお話がしたいですわ。
お互いの気持ちを確かめたいですもの」
「ああ、言い忘れていたが、ライアス殿下は明日のお昼過ぎにいらっしゃるそうだ。
そこで思う存分話をすると良い」
「分かりましたわ」
急に物事が進みすぎて、頭が追い付かないわ……!
でも、久々にライアス様とお話が出来るのが楽しみで、頬が緩んでしまいそうだった。
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