忌み子にされた令嬢と精霊の愛し子

水空 葵

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6. 気まぐれ

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「お疲れ様。足、本当に大丈夫?」
「ええ、見ての通り無傷ですわ」

 パーティーを無事に終え、私はアルバート様の私室に来ていた。
 ただお話をするだけのつもりだったのだけれど、どういうわけか私の足の手当てが始まろうとしていた。

 その傷薬は必要ないのだけれど……。

 ちなみに、彼の奇行を止める人はいなかった。
 本来なら間違いが起こらないよう侍女が側にいるはずなのに、今は間違いを望まれているみたいで、部屋の扉はしっかり閉められていて、侍女も部屋にはいない。

「体重もかかってしまったから、念のためこれを」
「痛みもありませんから、大丈夫です」
「良かった……」

 彼が安堵の表情を浮かべた直後のことだった。

「っ……」
「大丈夫ですか⁉」
「ああ……誰かに足を踏まれただけだ……。精霊の愛し子に手を出すと自分に跳ね返るという言い伝えは本当だったのだな……」

 病気が悪化したのかと身を乗り出して問いかけると、彼は足を抑えながらが知らなかったことを口にした。

「それって、どういうことですの?」
「大精霊に愛されている人は加護を受けているんだ。だから怪我も病気もしない。
 でも、その人に危害を加えると……例えば階段で突き落としたら、精霊の気分が悪くなった時に階段で突き飛ばされることになる。さっきの僕みたいに事故で足を踏んでしまっても跳ね返ってくるのが厄介なところなんだけどね」

 アルバート様の言葉である程度は理解できた。

 階段でレベッカに突き落とされた時に怪我をしなかった理由も、寒空の中で屋敷から締め出されても風邪をひかなかった理由も、腑に落ちた。
 でも、現実のものとは思えなかった。

 それに、こんなに良くしてくれている彼が痛め付けられているのは、納得できないのよね。

「そうなっていますのね……。でも、アルバート様に跳ね返るのは納得出来ませんわ」
「こればかりは精霊に説明することもできないから、仕方ないよ」

 アルバート様にも精霊の加護があれば……。
 ふと、そんなことを思ってしまった。



 その日の夜、夢を見た。珍しく記憶に残る夢だった。
 透き通った淡く光る羽を持つ手のひらくらいの大きさの女の子六人に囲まれて、色々なことをお話しする夢だった。

 そこで分かったのは、私が魔法を使えない理由だった。

「恥ずかしくて気配を出せなかったからって、精霊にもそんな感情があるのだと驚きましたわ」

 精霊には実体も自我も存在しないのは誰もが知っている常識だけれど、彼女達のように世界に六人しかいない大精霊は別だった。
 実体は無いけれど、自我はあるらしい。

「大精霊の伝説は本当だったと言うわけか。
 ちなみに、大精霊が姿を見せた理由ってあるのかな?」
「私がアルバート様に奪われそうだったから、と言っていましたわ」
「僕は精霊に嫉妬されてるのか。いつか殺されそうで怖いね」

 冗談っぽく口にするアルバート様。
 でも、私はそれが冗談で済まないことを知っているから、笑えなかった。

 夢の中で、こんなことを話していたから。


「彼を殺したら、私達だけを愛してくれる?」
「そうしたら、私は貴女達を許せなくなるわ。でも、彼のことを認めてくれたら貴女達のことも愛せるようになるわ」
「だから独り占めは良くないって言ったじゃん!」
「うん、もうしない」


 一歩間違えればアルバート様はこの世からいなくなっていたのよね……。
 加護は嬉しいけれど、無闇に人を消そうとするのは許せなかった。

 でも、そんな考えを持つ私に嫌われたくないみたいで、精霊達は大人しく言うことを聞いてくれている。
 だから、アルバート様の言葉にこう返すことにした。

「私が精霊に気に入られている間は大丈夫だと思いますわ。手を出さないように言いましたので」
「それなら安心だ。ありがとう」

 笑顔を浮かべて、私の手をとるアルバート様。
 突然のことに少し驚いたけれど、言葉を続ける。

「もう一つ、言っておくことがありますわ。
 どういうわけか、私が愛している人にも加護の効果があるみたいなのです。だから……アルバート様の病気、治るかもしれません」
「……っ。俺も、愛してる」

 今度は抱きしめられた。
 胸が温かくなるような不思議な感覚がして、私も彼の背中に手を回す。

 私もアルバート様も、笑顔を浮かべている。
 告白が嬉しかったから。


 窓から差し込む光は、私達のこれからを明るく照らしてくれている。そんな気がした。
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