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34. 手紙の内容
「……何かあったか?」
私が固まっていると、ルイスが心配そうに声をかけてきた。
「この手紙、嫌な予感しかしないわ」
「あの王子か。まだ生きていたんだな」
ウィリアム王子からの手紙を見せると、ルイスは空を見上げながらつぶやく。
頭を抱えたいけれど、デストリア公爵家と大公陛下からの手紙の確認が先だから、書類仕事をするための部屋に向かう。
この部屋はコニー達から会長室と呼ばれていて、特に決めたわけではないのに正式名称も会長室になりそうなのよね。
もっとも、エトワール商会の機密が集まる部屋だから立ち入りを制限しているだけで、私専用の部屋ではない。
テーブルはこの部屋の鍵を持っている人全員分用意してあって、何か決め事をするときに話し合いをする場所も作ってある。
お陰で貴族の執務室の倍の広さになっているけれど、ソファ以外の贅沢品は置いていないのよね。
「王子からの手紙、見てもいいか?」
「ええ」
中身は見ていないけれど、きっと碌でもないことが書かれている。
だから、私は先に他の二通を確認することにした。
デストリア公爵家からの手紙には、魔道具をデストリア商会でも売りたいという内容だった。私達はお店を出す費用を減らせて、デストリア商会はお客さんを増やせるということらしい。
これなら公都以外にも早く魔道具を広められるから、悪くない提案だと思う。
そもそも魔道具の値段はほとんどが利益だから、量を出せるなら利益が減っても痛手にはならないのよね。
だから、私はその代わりに別の事業の協力を得られないか打診することにした。
魔道具に必要な魔石を私達で流通させられないか、試したいのよね。
今は冒険者が非常時の魔力源として魔石を集めている。けれど小さいものは魔法の腕に長けていないと使えないらしく、殆どは捨てられているらしい。
それを買い取って、使いやすい大きさの魔石に変えてから売れば、利益を期待出来ると思う。
「ルイス、新しい事業を思いついたわ」
「急だね。何かあった?」
「小さい魔石を買い取って、大きい魔石を作るの。魔道具の核を作る魔道具を少し変えたら、大きな魔石を作れるわ」
「そういえば、セシルは魔石も作れていたな。それを魔道具で再現するのか。
魔道具が広まっている今なら、飛ぶようにうれそうだね」
「ええ。でも、利益を乗せすぎると批判されると思うから、魔道具の使い勝手を上げることを目的にしようと思うわ」
利益の二重取りは儲けにはなるけれど、儲けすぎても反感を買うと思う。だから魔石の事業は魔道具を使いやすくすることを目的にして、誰でも簡単に魔石を手に入れられるようにしたい。
元々捨てられている小さな魔石なら安く買い取れるはずだから、きっと一食よりも手軽に出来る。
「その方が良いと思う。ギルドが魔石の利用価値に気付く前に、買い取りの体制を整えたいね」
「だからデストリア商会に協力を打診するわ」
「そうしよう」
「コニー達も大丈夫?」
「ええ、いい案だと思うわ」
この後、私はデストリア商会から提案を受けたこともお話して、これの同意を取ってから返事を書いていった。
大公陛下からの手紙は兵器を作るのを急いで欲しいという内容だったから、最善を尽くすという趣旨の返事を出すことに決める。
「こっちは終わったから、その手紙も見ていいかしら?」
「もちろん。内容はかなり酷いから、覚悟した方が良いよ」
そう言われて目をそらしたくなったけれど、私は覚悟を決めて読んでいく。
最初は今の王国の状況について書かれていた。
私が追放された後、エレノア王女殿下は新聖女として私以上の成果を出すと豪語していたらしい。
結果は私の一割にも満たない人数を治療するのが精いっぱいで、治癒魔法の効果もそれほど高くなかったそうだ。
その結果、今の聖女様の名声はほとんど聞こえなくなり、地位と名誉を求めていた彼女は表に出なくなったらしい。
当然のように王家の信頼も揺るいでいるそうだけど、ウィリアム王子はそれを気にしていないらしかった。
衝撃なのはここからで、私の妹コリンナと婚約するために、私の国外追放を取り消したと書かれていた。
罪人の家族と王族の婚姻は認められないから、私が無罪だったと主張して無理やり認めさせたらしい。
「もしかしたら、最初からこれが目的だったのかもしれないわ……」
批判を集めずに私との婚約を破棄し、後から「あれは冤罪だった」と主張して浮気相手と婚約する。こんなことを堂々と出来るなんて、正気とは思えないわ。
「もっと酷い事が書いてあるよ」
私の呟きに、ルイスがそう口にする。
気になって視線を先へ進めると、最悪の内容が目に入った。
「コリンナのために国に戻って、聖女として地位を確立して欲しい……冗談かしら?
謝罪も無いなんて、やっぱり何も出来ない人なのね」
「頭の中にお花畑でも作っているんだろうな。セシル、お願いがあるんだけど、いいかな?」
「ええ」
こうしてルイスのお願いを聞いた私は、ウィリアム王子にこんな内容の返事を書いた。
『ルイス・ヴェールの無罪を証明し、国外追放を取り消すこと。
上記の者は失踪ではなく、冤罪により国外追放をしていたことを全ての貴族に知らせること。
この二つを行って頂けるのなら、戻る事を考えます』
あくまでも考えるだけ。戻るとは言っていないけれど、ルイスが着せられている罪は晴らしたかった。
国民に公表したら国としての体制が揺らいで彼の両親の立場も危うくなるけれど、貴族だけなら王家が批判されるだけで済む。
「これで良いかしら?」
「ありがとう。これで両親に無事を伝えられるよ」
私が書いた文を見て、ルイスは安堵の笑みを浮かべた。
私が固まっていると、ルイスが心配そうに声をかけてきた。
「この手紙、嫌な予感しかしないわ」
「あの王子か。まだ生きていたんだな」
ウィリアム王子からの手紙を見せると、ルイスは空を見上げながらつぶやく。
頭を抱えたいけれど、デストリア公爵家と大公陛下からの手紙の確認が先だから、書類仕事をするための部屋に向かう。
この部屋はコニー達から会長室と呼ばれていて、特に決めたわけではないのに正式名称も会長室になりそうなのよね。
もっとも、エトワール商会の機密が集まる部屋だから立ち入りを制限しているだけで、私専用の部屋ではない。
テーブルはこの部屋の鍵を持っている人全員分用意してあって、何か決め事をするときに話し合いをする場所も作ってある。
お陰で貴族の執務室の倍の広さになっているけれど、ソファ以外の贅沢品は置いていないのよね。
「王子からの手紙、見てもいいか?」
「ええ」
中身は見ていないけれど、きっと碌でもないことが書かれている。
だから、私は先に他の二通を確認することにした。
デストリア公爵家からの手紙には、魔道具をデストリア商会でも売りたいという内容だった。私達はお店を出す費用を減らせて、デストリア商会はお客さんを増やせるということらしい。
これなら公都以外にも早く魔道具を広められるから、悪くない提案だと思う。
そもそも魔道具の値段はほとんどが利益だから、量を出せるなら利益が減っても痛手にはならないのよね。
だから、私はその代わりに別の事業の協力を得られないか打診することにした。
魔道具に必要な魔石を私達で流通させられないか、試したいのよね。
今は冒険者が非常時の魔力源として魔石を集めている。けれど小さいものは魔法の腕に長けていないと使えないらしく、殆どは捨てられているらしい。
それを買い取って、使いやすい大きさの魔石に変えてから売れば、利益を期待出来ると思う。
「ルイス、新しい事業を思いついたわ」
「急だね。何かあった?」
「小さい魔石を買い取って、大きい魔石を作るの。魔道具の核を作る魔道具を少し変えたら、大きな魔石を作れるわ」
「そういえば、セシルは魔石も作れていたな。それを魔道具で再現するのか。
魔道具が広まっている今なら、飛ぶようにうれそうだね」
「ええ。でも、利益を乗せすぎると批判されると思うから、魔道具の使い勝手を上げることを目的にしようと思うわ」
利益の二重取りは儲けにはなるけれど、儲けすぎても反感を買うと思う。だから魔石の事業は魔道具を使いやすくすることを目的にして、誰でも簡単に魔石を手に入れられるようにしたい。
元々捨てられている小さな魔石なら安く買い取れるはずだから、きっと一食よりも手軽に出来る。
「その方が良いと思う。ギルドが魔石の利用価値に気付く前に、買い取りの体制を整えたいね」
「だからデストリア商会に協力を打診するわ」
「そうしよう」
「コニー達も大丈夫?」
「ええ、いい案だと思うわ」
この後、私はデストリア商会から提案を受けたこともお話して、これの同意を取ってから返事を書いていった。
大公陛下からの手紙は兵器を作るのを急いで欲しいという内容だったから、最善を尽くすという趣旨の返事を出すことに決める。
「こっちは終わったから、その手紙も見ていいかしら?」
「もちろん。内容はかなり酷いから、覚悟した方が良いよ」
そう言われて目をそらしたくなったけれど、私は覚悟を決めて読んでいく。
最初は今の王国の状況について書かれていた。
私が追放された後、エレノア王女殿下は新聖女として私以上の成果を出すと豪語していたらしい。
結果は私の一割にも満たない人数を治療するのが精いっぱいで、治癒魔法の効果もそれほど高くなかったそうだ。
その結果、今の聖女様の名声はほとんど聞こえなくなり、地位と名誉を求めていた彼女は表に出なくなったらしい。
当然のように王家の信頼も揺るいでいるそうだけど、ウィリアム王子はそれを気にしていないらしかった。
衝撃なのはここからで、私の妹コリンナと婚約するために、私の国外追放を取り消したと書かれていた。
罪人の家族と王族の婚姻は認められないから、私が無罪だったと主張して無理やり認めさせたらしい。
「もしかしたら、最初からこれが目的だったのかもしれないわ……」
批判を集めずに私との婚約を破棄し、後から「あれは冤罪だった」と主張して浮気相手と婚約する。こんなことを堂々と出来るなんて、正気とは思えないわ。
「もっと酷い事が書いてあるよ」
私の呟きに、ルイスがそう口にする。
気になって視線を先へ進めると、最悪の内容が目に入った。
「コリンナのために国に戻って、聖女として地位を確立して欲しい……冗談かしら?
謝罪も無いなんて、やっぱり何も出来ない人なのね」
「頭の中にお花畑でも作っているんだろうな。セシル、お願いがあるんだけど、いいかな?」
「ええ」
こうしてルイスのお願いを聞いた私は、ウィリアム王子にこんな内容の返事を書いた。
『ルイス・ヴェールの無罪を証明し、国外追放を取り消すこと。
上記の者は失踪ではなく、冤罪により国外追放をしていたことを全ての貴族に知らせること。
この二つを行って頂けるのなら、戻る事を考えます』
あくまでも考えるだけ。戻るとは言っていないけれど、ルイスが着せられている罪は晴らしたかった。
国民に公表したら国としての体制が揺らいで彼の両親の立場も危うくなるけれど、貴族だけなら王家が批判されるだけで済む。
「これで良いかしら?」
「ありがとう。これで両親に無事を伝えられるよ」
私が書いた文を見て、ルイスは安堵の笑みを浮かべた。
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