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35. 好きなもの
あれから一週間。
私達は無事に予定していた数の兵器を公国へと納め、しばらく自分たちのことに専念できるようになった。
コニー達はパン屋さんで必要な小麦を卸してくれる農家さんを見つけるために公都を離れていて、本部は普段よりも静かになっている。
工場も無事に完成して、残る工事はお店だけ。魔道具の売れ行きは今まで以上で、デストリア商会に卸している分も全て売り切れているらしい。
今のところ順調なのだけど、最近は魔物の動きが活発になっていて、いよいよスタンダードが起こりそうだと言われている。
出来る限りの備えをしているとはいえ、一度スタンピードが起きれば戦える人全員で対処にあたる。魔法が使える私も戦うことになるから、そういう意味でも不安は拭えない。
「……スタンピード、大丈夫かしら?」
「ドラゴンを倒すよりは大丈夫だと思う。何があってもセシルのことは絶対に守るから、安心してくれ」
「ありがとう。私もルイスに怪我させないように頑張るわ」
「心強いよ。何があっても必ず生きよう」
「ええ、絶対に生き残りましょう」
ルイスの言葉に私はしっかりと頷く。
最初の頃は何とも思っていなかったのに、今はルイスと一緒に行動することに慣れたからか、一人だと寂しくなるのよね。
私だけで生き残ることは考えたくなかった。
そんな時。部屋の扉がノックされ、手紙が届いたことを告げる声が聞こえてきた。
私は一度廊下に出て二通の封筒を受け取り、警備の人にお礼を言ってから机に戻る。
「……あの王子から返事が来たわ。それと、これはルイスのご両親からみたい」
「ありがとう。すぐ確認するよ」
ルイス宛てのものは彼に手渡し、ウィリアム王子からの手紙に視線を落とす。
そこにはルイスの無実の証明と行方不明の理由を明かしたことが書かれていて、私に国に戻るよう命令する内容もあった。
でも、私が聖女だった頃にされた仕打ちに対する謝罪は今回も書かれていない。
きっと王国に戻っても、あの過酷な日々に逆戻りだろう。
だから戻ろうとは欠片も思えなかった。
それに私は公国に居る身。ウィリアム王子の命令を聞き入れる必要は無い。
「セシル、何が書かれていた?」
「ルイスが行方不明になった理由、説明されたみたい。
それと、私に王国に戻るように命令が書かれていたわ」
「そうか。俺の両親は、俺が王国に戻らないと爵位剥奪すると脅されているらしい。
爵位を捨てて、公国に来るそうだ。それと、セシルのお兄さんと行動を共にするらしいが、セシルの家族は確か……」
予想もしていなかった言葉に、私はつい声を上げそうになった。
お兄様は私の数少ない味方であり続けてくれていたから、ずっと会いたいと思っていたのよね。
でも、罪人にされていた私から直接手紙を送れば、お兄様の立場が危うくなると考えて、一切連絡出来ていない。
無事かどうかも分からない状況だったけれど、元気だと分かって本当に安心した。
「お兄様だけは私の味方だから大丈夫。追放された身でお兄様に会えるとは思えなかったから、楽しみだわ」
「セシルの嬉しそうな顔を見たら安心したよ。最初は知り合いの貴族の家に行くらしい」
「知り合いの貴族……どの家かしら?」
「ここには書かれていないから、着いてから送られてくると思う」
「楽しみにしているわ。
それまでにスタンピードが起こらないと良いけど……」
「異変は公都の近くだけだから、巻き込まれる可能性は低いと思う」
「それでも、心配になるわ」
お兄様も魔法に長けているから、ある程度の魔物が相手でも容易に対処すると思う。
でも、スタンピードの恐ろしさを知らないから、不安な気持ちは変わらなかった。
それからしばらくして、私達は今日やることを終え、テラスでお茶をすることにした。
お茶を淹れるのもクッキーの準備も全て自分達でしないといけないけれど、準備をする時間も楽しいから気にならない。
魔道具のお陰で手間もかなり少なくなって、一昨日ユリウス様に同伴していた侍従に見せたら言葉を失っていたのよね。
その結果、私の手元からお茶を淹れる魔道具をデストリア公爵家に売る事が決まったくらいだ。
「今日もお疲れ様」
「ええ、お疲れ様。動いていないのに疲れるなんて、不思議な感じがするわ」
「むしろ少し動いた日の方が疲れない気がするよ。毎日少しは動いた方が良いかもしれないね」
「明日試してみるわ」
そう口にしながら、自分で焼いたクッキーを口に運ぶ。
今日も上手く焼けていたみたいで、程よい甘さが広がった。
「今日も美味しいよ。そろそろ失敗作を食べられると思ったんだけど……」
「失敗を期待されるなんて……複雑だわ」
「それくらい好きだってことだ」
「そんなにクッキーが好きなら、明日は沢山焼いてみるわ」
「いや、そういう意味じゃなくて、セシルのことが……」
「えっと……それって仲間として好きってこと?」
「女性として好きという意味だ」
真っ直ぐ私を見つめるルイスの目に、私はすぐに答えることは出来なかった。
いままでずっと彼は私をそういう目で見ていなかったし、好意があるとも思えなかったのよね……。
ルイスと私が恋仲になれば、きっとコニー達の居心地が悪くなると思う。だから彼の気持ちに応えていいのか分からなかった。
……でも、今は自分の気持ちに正直にならないと、一生後悔する気がした。
自分の気持ちなのによく分からないけれど、ルイスと一緒に過ごす日々は心地よい。
それに、彼のことを意識したら胸が熱くなって、目を合わせられなくなってしまう。
これが好きという気持ちなのね……。
「私もルイスのこと、好きよ」
「良かった。セシルが嫌じゃなければ、お付き合いしたい」
「……嫌だなんて思わないわ。これからもよろしく」
「ありがとう。こちらこそ、よろしく」
右手が差し出され、私も右手を重ねる。
今日は涼しいはずなのに、ルイスの手は温かかった。
私達は無事に予定していた数の兵器を公国へと納め、しばらく自分たちのことに専念できるようになった。
コニー達はパン屋さんで必要な小麦を卸してくれる農家さんを見つけるために公都を離れていて、本部は普段よりも静かになっている。
工場も無事に完成して、残る工事はお店だけ。魔道具の売れ行きは今まで以上で、デストリア商会に卸している分も全て売り切れているらしい。
今のところ順調なのだけど、最近は魔物の動きが活発になっていて、いよいよスタンダードが起こりそうだと言われている。
出来る限りの備えをしているとはいえ、一度スタンピードが起きれば戦える人全員で対処にあたる。魔法が使える私も戦うことになるから、そういう意味でも不安は拭えない。
「……スタンピード、大丈夫かしら?」
「ドラゴンを倒すよりは大丈夫だと思う。何があってもセシルのことは絶対に守るから、安心してくれ」
「ありがとう。私もルイスに怪我させないように頑張るわ」
「心強いよ。何があっても必ず生きよう」
「ええ、絶対に生き残りましょう」
ルイスの言葉に私はしっかりと頷く。
最初の頃は何とも思っていなかったのに、今はルイスと一緒に行動することに慣れたからか、一人だと寂しくなるのよね。
私だけで生き残ることは考えたくなかった。
そんな時。部屋の扉がノックされ、手紙が届いたことを告げる声が聞こえてきた。
私は一度廊下に出て二通の封筒を受け取り、警備の人にお礼を言ってから机に戻る。
「……あの王子から返事が来たわ。それと、これはルイスのご両親からみたい」
「ありがとう。すぐ確認するよ」
ルイス宛てのものは彼に手渡し、ウィリアム王子からの手紙に視線を落とす。
そこにはルイスの無実の証明と行方不明の理由を明かしたことが書かれていて、私に国に戻るよう命令する内容もあった。
でも、私が聖女だった頃にされた仕打ちに対する謝罪は今回も書かれていない。
きっと王国に戻っても、あの過酷な日々に逆戻りだろう。
だから戻ろうとは欠片も思えなかった。
それに私は公国に居る身。ウィリアム王子の命令を聞き入れる必要は無い。
「セシル、何が書かれていた?」
「ルイスが行方不明になった理由、説明されたみたい。
それと、私に王国に戻るように命令が書かれていたわ」
「そうか。俺の両親は、俺が王国に戻らないと爵位剥奪すると脅されているらしい。
爵位を捨てて、公国に来るそうだ。それと、セシルのお兄さんと行動を共にするらしいが、セシルの家族は確か……」
予想もしていなかった言葉に、私はつい声を上げそうになった。
お兄様は私の数少ない味方であり続けてくれていたから、ずっと会いたいと思っていたのよね。
でも、罪人にされていた私から直接手紙を送れば、お兄様の立場が危うくなると考えて、一切連絡出来ていない。
無事かどうかも分からない状況だったけれど、元気だと分かって本当に安心した。
「お兄様だけは私の味方だから大丈夫。追放された身でお兄様に会えるとは思えなかったから、楽しみだわ」
「セシルの嬉しそうな顔を見たら安心したよ。最初は知り合いの貴族の家に行くらしい」
「知り合いの貴族……どの家かしら?」
「ここには書かれていないから、着いてから送られてくると思う」
「楽しみにしているわ。
それまでにスタンピードが起こらないと良いけど……」
「異変は公都の近くだけだから、巻き込まれる可能性は低いと思う」
「それでも、心配になるわ」
お兄様も魔法に長けているから、ある程度の魔物が相手でも容易に対処すると思う。
でも、スタンピードの恐ろしさを知らないから、不安な気持ちは変わらなかった。
それからしばらくして、私達は今日やることを終え、テラスでお茶をすることにした。
お茶を淹れるのもクッキーの準備も全て自分達でしないといけないけれど、準備をする時間も楽しいから気にならない。
魔道具のお陰で手間もかなり少なくなって、一昨日ユリウス様に同伴していた侍従に見せたら言葉を失っていたのよね。
その結果、私の手元からお茶を淹れる魔道具をデストリア公爵家に売る事が決まったくらいだ。
「今日もお疲れ様」
「ええ、お疲れ様。動いていないのに疲れるなんて、不思議な感じがするわ」
「むしろ少し動いた日の方が疲れない気がするよ。毎日少しは動いた方が良いかもしれないね」
「明日試してみるわ」
そう口にしながら、自分で焼いたクッキーを口に運ぶ。
今日も上手く焼けていたみたいで、程よい甘さが広がった。
「今日も美味しいよ。そろそろ失敗作を食べられると思ったんだけど……」
「失敗を期待されるなんて……複雑だわ」
「それくらい好きだってことだ」
「そんなにクッキーが好きなら、明日は沢山焼いてみるわ」
「いや、そういう意味じゃなくて、セシルのことが……」
「えっと……それって仲間として好きってこと?」
「女性として好きという意味だ」
真っ直ぐ私を見つめるルイスの目に、私はすぐに答えることは出来なかった。
いままでずっと彼は私をそういう目で見ていなかったし、好意があるとも思えなかったのよね……。
ルイスと私が恋仲になれば、きっとコニー達の居心地が悪くなると思う。だから彼の気持ちに応えていいのか分からなかった。
……でも、今は自分の気持ちに正直にならないと、一生後悔する気がした。
自分の気持ちなのによく分からないけれど、ルイスと一緒に過ごす日々は心地よい。
それに、彼のことを意識したら胸が熱くなって、目を合わせられなくなってしまう。
これが好きという気持ちなのね……。
「私もルイスのこと、好きよ」
「良かった。セシルが嫌じゃなければ、お付き合いしたい」
「……嫌だなんて思わないわ。これからもよろしく」
「ありがとう。こちらこそ、よろしく」
右手が差し出され、私も右手を重ねる。
今日は涼しいはずなのに、ルイスの手は温かかった。
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