奪われる人生とはお別れします 婚約破棄の後は幸せな日々が待っていました

水空 葵

文字の大きさ
18 / 72
第2章

74. 嫌な予感がします

しおりを挟む
「クラウス、少し相談したいことがあるのだけど、良いかしら?」

 ここはブルームーン帝国の首都にある冒険者ギルドの支部。
 いつものように依頼を漁っている最中に、私シエル・グレーティアはそんなことを口にした。

「もちろん。ここだと話しにくいようなら場所を移すよ?」

 一緒に冒険者としているクラウスが私を気遣うような仕草を見せたけれど、私は首を軽く振ってから言葉を続ける。

「この依頼のついでに、領地の様子を確認しておきたいの。
 両親に見つかったら厄介事になるのは分かっているけど、それでも領民達が心配で……」

 数ヶ月ほど前までは、私は生まれ育ったアルベール王国で王太子殿下の婚約者として、王家に尽くしていた。
 それなのに、王太子殿下は平民の中から見つかったという聖女アイリス様に浮気をしていて、あろう事か殿下の方から婚約解消を言い渡された。

 この婚約解消は私も望んでいた事だから、揉める事も無かったけれど、別のことで問題が起きてしまったのよね。


 私が育ったグレーティア伯爵家は、爵位にしては質素な生活を送っていた。
 王太子殿下と婚約すると、王家から支援を受けられるようになって、私の家族も使用人達も裕福な暮らしが出来るようになっていった。

 けれど、両親と妹の贅沢のせいで、私とお兄様で領地経営を改善しても生活は良くならなかった。
 しまいには婚約解消を機に家を追い出されてしまったのよね。

 その直前までは色々なものを奪われていたけれど、何も奪わせないと心に決めたことは、今でもはっきりと思い出せる。

「ご両親に見つからないか心配なら、男装していれば分からないと思う」

「そうよね……周りが見えてない人達だもの、大丈夫に違いないわ」

 これもお兄様に爵位が移るまでの辛抱。
 けれど良くない気配が王国を包んでいるという噂もあるから、心配で仕方がない。

「あとの問題は、その依頼が過酷なことくらいか」

「確かに過酷かもしれないけれど、私は大丈夫」

 私が手に取っている依頼は、アルベール王国とブルームーン帝国の国境辺りで増えているワイバーンの討伐という、ありふれたものだ。

 この魔物の討伐は何度もこなしているから慣れているけれど、国境にある山脈は危険な魔物が多い上に、村のような泊まれる場所は無いから必然的に野営することになってしまう。
 もちろんお風呂なんて入れないし、夜は交代で見張ることになるから、ゆっくり休むことも難しい。

 でも、これ以上に過酷な一週間を過ごしたことがあるから、きっと大丈夫。

「風呂に入れないし、魔物の動き次第では徹夜で移動することもある」

「覚悟は出来ているわ。それに、妃教育を受けている頃に一週間だけ徹夜したこともあるから、大丈夫よ」

「一週間は、だけ、とは言わない……。よく耐えられたね。
 頭がぼんやりしたり、身体が重くなったりしたはずだけど」

「それくらいになると、逆に頭が冴えてきてしまったのよね。ミスする事も無かったわ」

「そうか。あと一歩で死ぬところだから、二度としないで欲しい」

 私を気遣うような視線を向けながら、そんなことを口にするクラウス。
 直後にはアルベール王国の方に鋭い視線を送っていたから、私の過去の扱いに思うところがあるらしい。

 もう過ぎたことだから気にしなくても良いけれど、心配してもらえるのはすごく嬉しい。
 けれど、今回の依頼を受けるために余計な心配をかけてしまうから、申し訳なさも感じてしまう。

「無理だと思ったら休ませてもらうわね。
 私、二時間くらい眠れたらスッキリ出来るから」

「……そうか。
 辛くなるのは俺の方になりそうだな」

 遠い目をするクラウスだったけれど、無事に納得してもらえたみたいで、国境でのワイバーン討伐に向かう事が決まった。
 ちなみに、依頼の報告はどこの支部でも問題無いから、今回は山越えをする計画だ。

「クラウスは山越えの経験があるの?」

「Sランク四人で組んだ時に五日で終えたことがある。
 今回は二人だから参考にならないが、最短だと同じくらいだろう。長ければ二十日は覚悟した方が良い」

「分かったわ」

 無事に依頼を受けたら、これから向かう旅で必要なものを揃えに商店街へと向かう。
 携行食はお世辞にも美味しいとは言えないから、基本的には食材は現地調達になるのよね。

 その方が荷物も減らせて行動しやすくなるし、温かくて美味しいお肉を食べられるから、大抵の冒険者は依頼の途中で狩りをしている。
 狩りが上手く出来ない時もあるから、ある程度の食糧は持ち込まないといけない。

 だから、一通りの買い物を終えてから、荷造りのために家に戻る私達。
 ちょうど同じ頃、大量の私宛ての手紙がアルベール王国から届けられて、嫌な予感を覚えてしまった。
しおりを挟む
感想 67

あなたにおすすめの小説

結婚して3年経っても子供ができないという理由で離縁されたエマは、前世の記憶を思い出して幸せになる。周りが勝手に復讐してくれました。

山田 バルス
恋愛
 結婚三年目の春、エマは伯爵家の夫アンドレオから突然、側室を迎える話を告げられる。子をなせなかったことを理由に、彼女は僅かな補償のみで離縁された。妻として過ごした三年間は「無価値だった」と突きつけられ、エマは貴族社会から静かに切り捨てられる。  また実家の父母の墓参りに行くと、当主になっていた兄に離縁金を奪われてしまう。  大ピンチのエマには、秘密があった。なんと彼女は幼少期に前世の記憶を思い出していたのだ。  かつて観光地で石を磨き、アクセサリーを作り、人に喜ばれる仕事をしていた人生。何も持たない今だからこそ、もう一度「自分の手で生きる」ことを選び、あの人が住む商業国家スペイラ帝国へ向かう決意をする。  国境への道中、盗賊に襲われるが、護衛兵ロドリゲスの活躍で難を逃れる。彼の誠実な態度に、エマは「守られる価値のある存在」として扱われたことに胸を打たれた。  スペイラ帝国では身分に縛られず働ける。エマは前世の技術を活かし、石を磨いてアクセサリーを作る小さな露店を始める。石に意味を込めた腕輪やペンダントは人々の心を掴み、体験教室も開かれるようになる。伯爵夫人だった頃よりも、今の方がずっと「生きている」と実感していた。  ある朝、ロドリゲスが市場を訪れ、エマの作ったタイガーアイの腕輪を購入する。ところがその夜、彼は驚いた様子で戻り、腕輪が力を一・五倍に高める魔道具だと判明したと告げる。エマ自身は無意識だったが、彼女の作るアクセサリーには確かな力が宿っていた。  後日二人は食事に出かけ、エマは自分が貴族の妻として離縁された過去を打ち明ける。ロドリゲスは強く憤り、「最悪な貴族だ」と彼女と一緒になって怒ってくれた。その気持ちが、エマにとって何よりの救いだった。彼は次に防御力を高める腕輪を依頼し、冒険者ギルドで正式な鑑定を受けるよう勧める。  翌日、冒険者ギルドで鑑定を行った結果、エマの腕輪は高い防御効果を持つことが判明。さらに彼女自身を鑑定すると、なんと「付与特化型聖女」であることが明らかになる。聖女が付与した魔道具は現実の力として強く発現するのだ。  価値がないと切り捨てられた人生は、ここでは確かな力となった。スペイラ帝国で、聖女エマの新しい人生が、静かに、そして輝かしく始まる。

初夜に暴言を吐いた夫は後悔し続ける──10年後の償い【完結】

星森 永羽(ほしもりとわ)
恋愛
王命により、辺境伯ロキアのもとへ嫁いだのは、金髪翠眼の美しき公爵令嬢スフィア。 だが、初夜に彼が告げたのは、愛も権限も与えないという冷酷な宣言だった。噂に踊らされ、彼女を「穢れた花嫁」と罵ったロキア。 しかし、わずか一日でスフィアは姿を消し、教会から届いたのは婚姻無効と慰謝料請求の書状──。 王と公爵の怒りを買ったロキアは、爵位も領地も名誉も奪われ、ただの補佐官として生きることに。 そして十年後、運命のいたずらか、彼は被災地で再びスフィアと出会う。 地位も捨て、娘を抱えて生きる彼女の姿に、ロキアの胸に去来するのは、悔恨と赦しを乞う想い──。 ⚠️本作はAIの生成した文章を一部に使用しています。

つまらない妃と呼ばれた日

柴田はつみ
恋愛
公爵令嬢リーシャは政略結婚で王妃に迎えられる。だが国王レオニスの隣には、幼馴染のセレスが“当然”のように立っていた。祝宴の夜、リーシャは国王が「つまらない妃だ」と語る声を聞いてしまい、心を閉ざす。 舞踏会で差し出された手を取らず、王弟アドリアンの助けで踊ったことで、噂は一気に燃え上がる――「王妃は王弟と」「国王の本命は幼馴染」と。 さらに宰相は儀礼と世論を操り、王妃を孤立させる策略を進める。監視の影、届かない贈り物、すり替えられた言葉、そして“白薔薇の香”が事件現場に残る冤罪の罠。 リーシャは微笑を鎧に「今日から、王の隣に立たない」と決めるが、距離を取るほど誤解は確定し、王宮は二人を引き裂いていく。 ――つまらない妃とは、いったい誰が作ったのか。真実が露わになった時、失われた“隣”は戻るのか。

結婚初夜、「何故彼女が死んでお前が生きているんだ」と夫に言われました

ましゅぺちーの
恋愛
侯爵令嬢のアリサは婚約者だった王太子テオドールと結婚した。 ちょうどその半年前、アリサの腹違いの妹のシアは不慮の事故で帰らぬ人となっていた。 王太子が婚約者の妹のシアを愛していたのは周知の事実だった。 そんな彼は、結婚初夜、アリサに冷たく言い放った。 「何故彼女が死んでお前が生きているんだ」と。

婚約破棄された翌日、兄が王太子を廃嫡させました

由香
ファンタジー
婚約破棄の場で「悪役令嬢」と断罪された伯爵令嬢エミリア。 彼女は何も言わずにその場を去った。 ――それが、王太子の終わりだった。 翌日、王国を揺るがす不正が次々と暴かれる。 裏で糸を引いていたのは、エミリアの兄。 王国最強の権力者であり、妹至上主義の男だった。 「妹を泣かせた代償は、すべて払ってもらう」 ざまぁは、静かに、そして確実に進んでいく。

夫と息子に邪険にされたので王太子妃の座を譲ります~死に戻ってから溺愛されても今更遅い

青の雀
恋愛
夫婦喧嘩の末に置き去りにされた妻は、旦那が若い愛人とイチャついている間に盗賊に襲われ、命を落とした。 神様の温情により、10日間だけこの世に戻った妻と護衛の騎士は、その10日間の間に心残りを処分する。それは、娘の行く末と……もし、来世があるならば、今度は政略といえども夫以外の人の妻になるということ。 もう二度と夫と出会いたくない彼女は、彼女を蔑ろにしてきた息子とも縁を切ることを決意する。 生まれかわった妻は、新しい人生を強く生きることを決意。 過去世と同じ轍を踏みたくない……

「がっかりです」——その一言で終わる夫婦が、王宮にはある

柴田はつみ
恋愛
妃の席を踏みにじったのは令嬢——けれど妃の心を折ったのは、夫のたった一言だった 王太子妃リディアの唯一の安らぎは、王太子アーヴィンと交わす午後の茶会。だが新しく王宮に出入りする伯爵令嬢ミレーユは、妃の席に先に座り、殿下を私的に呼び、距離感のない振る舞いを重ねる。 リディアは王宮の礼節としてその場で正す——正しいはずだった。けれど夫は「リディア、そこまで言わなくても……」と、妃を止めた。 「わかりました。あなたには、がっかりです」 微笑んで去ったその日から、夫婦の茶会は終わる。沈黙の王宮で、言葉を失った王太子は、初めて“追う”ことを選ぶが——遅すぎた。

妹と旦那様に子供ができたので、離縁して隣国に嫁ぎます

冬月光輝
恋愛
私がベルモンド公爵家に嫁いで3年の間、夫婦に子供は出来ませんでした。 そんな中、夫のファルマンは裏切り行為を働きます。 しかも相手は妹のレナ。 最初は夫を叱っていた義両親でしたが、レナに子供が出来たと知ると私を責めだしました。 夫も婚約中から私からの愛は感じていないと口にしており、あの頃に婚約破棄していればと謝罪すらしません。 最後には、二人と子供の幸せを害する権利はないと言われて離縁させられてしまいます。 それからまもなくして、隣国の王子であるレオン殿下が我が家に現れました。 「約束どおり、私の妻になってもらうぞ」 確かにそんな約束をした覚えがあるような気がしますが、殿下はまだ5歳だったような……。 言われるがままに、隣国へ向かった私。 その頃になって、子供が出来ない理由は元旦那にあることが発覚して――。 ベルモンド公爵家ではひと悶着起こりそうらしいのですが、もう私には関係ありません。 ※ざまぁパートは第16話〜です

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。