奪われる人生とはお別れします 婚約破棄の後は幸せな日々が待っていました

水空 葵

文字の大きさ
19 / 72
第2章

75. 旅に出ます

しおりを挟む
 アルベール王国から届いた大量の手紙を見て、クラウスと顔を見合わせる私。
 私の居場所は帝国の一部の貴族達と、お兄様しか知らないはず。

 それなのに、この量が届くのは不思議だった。

「誰かに追われている気配は無かったが……」

「これ、一度お兄様の元に届いたものみたいだわ」

 手紙の山の中から、お兄様が差出人のものを探し出して、すぐに封を切る。
 中身を見てみると……王国の大変な状況が書かれていた。

「俺も見て良いかな?」

「ええ。むしろ見て欲しいくらいだわ」

 手紙に書かれていたことを簡単にまとめると、王命が一切出されなくなって政治が混乱していること。それから、私を聖女の座から突き落として、聖女になっていたはずのアイリスの治癒魔法の効果が解け始めているというものだった。

 治癒魔法の効果は何があっても解けることは無いのだけど、アイリス様に治療された人達が次々と命を落としているらしい。

 お兄様もこの手紙を送ってくる二日前に、階段で転んで腕を折ってしまったところをアイリス様に治してもらったそうなのだけど、字が歪んでいるから……そもそも治っていないように思えてしまう。

「お兄さんの字、下手ではなかったと記憶しているんだが……」

「ええ。普段はもっと綺麗でお手本のような字よ。
 上手く書けなくて、諦めてしまったみたいだわ」

「確かにそう書いてあった。
 まさかとは思うが、聖女というのは闇魔法で誤魔化しているだけの紛い物かもしれないな」

 こればかりは実際に見てみないと断言は出来ないと付け加えるクラウス。

 アイリス様に治療をお願いしないといけないほどの怪我をしたというのも心配だけれど、認識を改変するような魔法をかけられているというのも心配だわ……。

「闇魔法で怪我を誤魔化すことって出来るのかしら?
 周りの人が気付くと思うのだけど……」

「魔力さえあれば、関わる人全ての認識を変えることは出来るはずだ。
 光か闇の使い手でないと治すことどころか対策も出来ないが、適性があれば簡単に治せる」

「それなら安心……は出来ないわね」

 アイリス様の後ろにはカグレシアン公爵家がいるから、下手に動いて敵対すると私はともかくお兄様達が危ないのよね。
 それに光の使い手は少なくて、闇の使い手なんて海の中から指輪を見つけるようなもの。

「俺の居た国では、どの貴族も一人は闇の使い手を抱えているんだ。
 アルベール王国は誰も居ないから、かなり大変だと思う」

「分かったわ。
 私一人では難しいと思うから、グレン様にも協力を仰ごうかしら?」

「その方が良さそうだね。すぐに手紙を書く」

 私もクラウスも同じ考えに至ったから、早速行動に移すことになった。
 エイブラム侯爵家当主のグレン様は、失脚したスカーレット公爵の席についていて、ここブルームーン帝国での地位はかなり高い。

 年の変わり目で爵位も侯爵から公爵になるそうだから、これ以上ない心強い味方なのよね。



 少しして、手紙を書き終えたクラウスが立ち上がる。

 今までも感じていたことだけれど、彼は仕事がとにかく早いのよね……。
 競ってはいないけれど、この才能は羨ましい。

「よし、直接届けてくるよ」

「ありがとう。気を付けてね」

「ああ。二分で帰ってくる」

 クラウスを見送ってから、依頼の準備の続きをする私。
 けれども、彼は本当に二分で戻ってきたから、何も進まなかった。

「ただいま」

「おかえり」

「全面的に協力してくれると言ってもらえた。
 まずはグレーティア家に隠密を紛れ込ませるそうだ」

 この二分で決まったということは、グレン様も動いていたに違いない。
 スカーレット公爵とカグレシアン公爵家は繋がりがあったのだから、グレン様が察知していても不思議では無かった。

「私達は予定通り、山越えで大丈夫かしら?」

「ああ。港が封鎖される可能性もあるからね。シエルのお兄さんに確実に会うためには、山を越えた方が安全だと思う」

 想定外もあったけれど、受けた依頼は基本的に取り消し出来ないから、予定通りに準備を進めることになった。



 準備をしながら、魔物や人を操るための幻惑魔法の本を見て、その魔法の対策も頭に入れていく。

 お兄様が大怪我をしているのは確実だから、今すぐにでも向かいたいのよね……。
 けれど、準備をしないと私達まで闇魔法の術中に嵌ってしまうから、徹底的に頭に叩き込まないといけない。

「覚えた?」

「ええ、完璧よ」

「もう覚えたのか……。
 流石としか言えないよ」

 ……そんなに難しく無かったから、準備が終わる時には全て覚えられたけれど。
 クラウスは驚いて口が半開きになっている。


 珍しく間抜けなお顔になっているけれど、不思議と可愛く見えた。
 普段見れない一面を知れて、少しだけ気持ちが和らぐ私。

 それが顔に出ていたのか、クラウスは慌てた様子で口を閉じていた。

「……間抜けな顔で申し訳ない」

「もっと見せてくれても良いのよ?」

「それは恥ずかしいから嫌だな」

「楽しみにとっておくわ」

「今度はシエルに間抜けな顔をさせるよ。
 楽しみに待っていて欲しい」

「酷い顔になるから、やめた方が良いわよ?」

「シエルなら全て可愛いから問題無い」

 冗談を言い合いながら……最後の一言は全く冗談に聞こえなかったけれど……。

「クラウスも全部格好良いわよ?」

 中身が一杯に詰まったマジックバッグを背負って旅路についた。
しおりを挟む
感想 67

あなたにおすすめの小説

結婚して3年経っても子供ができないという理由で離縁されたエマは、前世の記憶を思い出して幸せになる。周りが勝手に復讐してくれました。

山田 バルス
恋愛
 結婚三年目の春、エマは伯爵家の夫アンドレオから突然、側室を迎える話を告げられる。子をなせなかったことを理由に、彼女は僅かな補償のみで離縁された。妻として過ごした三年間は「無価値だった」と突きつけられ、エマは貴族社会から静かに切り捨てられる。  また実家の父母の墓参りに行くと、当主になっていた兄に離縁金を奪われてしまう。  大ピンチのエマには、秘密があった。なんと彼女は幼少期に前世の記憶を思い出していたのだ。  かつて観光地で石を磨き、アクセサリーを作り、人に喜ばれる仕事をしていた人生。何も持たない今だからこそ、もう一度「自分の手で生きる」ことを選び、あの人が住む商業国家スペイラ帝国へ向かう決意をする。  国境への道中、盗賊に襲われるが、護衛兵ロドリゲスの活躍で難を逃れる。彼の誠実な態度に、エマは「守られる価値のある存在」として扱われたことに胸を打たれた。  スペイラ帝国では身分に縛られず働ける。エマは前世の技術を活かし、石を磨いてアクセサリーを作る小さな露店を始める。石に意味を込めた腕輪やペンダントは人々の心を掴み、体験教室も開かれるようになる。伯爵夫人だった頃よりも、今の方がずっと「生きている」と実感していた。  ある朝、ロドリゲスが市場を訪れ、エマの作ったタイガーアイの腕輪を購入する。ところがその夜、彼は驚いた様子で戻り、腕輪が力を一・五倍に高める魔道具だと判明したと告げる。エマ自身は無意識だったが、彼女の作るアクセサリーには確かな力が宿っていた。  後日二人は食事に出かけ、エマは自分が貴族の妻として離縁された過去を打ち明ける。ロドリゲスは強く憤り、「最悪な貴族だ」と彼女と一緒になって怒ってくれた。その気持ちが、エマにとって何よりの救いだった。彼は次に防御力を高める腕輪を依頼し、冒険者ギルドで正式な鑑定を受けるよう勧める。  翌日、冒険者ギルドで鑑定を行った結果、エマの腕輪は高い防御効果を持つことが判明。さらに彼女自身を鑑定すると、なんと「付与特化型聖女」であることが明らかになる。聖女が付与した魔道具は現実の力として強く発現するのだ。  価値がないと切り捨てられた人生は、ここでは確かな力となった。スペイラ帝国で、聖女エマの新しい人生が、静かに、そして輝かしく始まる。

初夜に暴言を吐いた夫は後悔し続ける──10年後の償い【完結】

星森 永羽(ほしもりとわ)
恋愛
王命により、辺境伯ロキアのもとへ嫁いだのは、金髪翠眼の美しき公爵令嬢スフィア。 だが、初夜に彼が告げたのは、愛も権限も与えないという冷酷な宣言だった。噂に踊らされ、彼女を「穢れた花嫁」と罵ったロキア。 しかし、わずか一日でスフィアは姿を消し、教会から届いたのは婚姻無効と慰謝料請求の書状──。 王と公爵の怒りを買ったロキアは、爵位も領地も名誉も奪われ、ただの補佐官として生きることに。 そして十年後、運命のいたずらか、彼は被災地で再びスフィアと出会う。 地位も捨て、娘を抱えて生きる彼女の姿に、ロキアの胸に去来するのは、悔恨と赦しを乞う想い──。 ⚠️本作はAIの生成した文章を一部に使用しています。

つまらない妃と呼ばれた日

柴田はつみ
恋愛
公爵令嬢リーシャは政略結婚で王妃に迎えられる。だが国王レオニスの隣には、幼馴染のセレスが“当然”のように立っていた。祝宴の夜、リーシャは国王が「つまらない妃だ」と語る声を聞いてしまい、心を閉ざす。 舞踏会で差し出された手を取らず、王弟アドリアンの助けで踊ったことで、噂は一気に燃え上がる――「王妃は王弟と」「国王の本命は幼馴染」と。 さらに宰相は儀礼と世論を操り、王妃を孤立させる策略を進める。監視の影、届かない贈り物、すり替えられた言葉、そして“白薔薇の香”が事件現場に残る冤罪の罠。 リーシャは微笑を鎧に「今日から、王の隣に立たない」と決めるが、距離を取るほど誤解は確定し、王宮は二人を引き裂いていく。 ――つまらない妃とは、いったい誰が作ったのか。真実が露わになった時、失われた“隣”は戻るのか。

結婚初夜、「何故彼女が死んでお前が生きているんだ」と夫に言われました

ましゅぺちーの
恋愛
侯爵令嬢のアリサは婚約者だった王太子テオドールと結婚した。 ちょうどその半年前、アリサの腹違いの妹のシアは不慮の事故で帰らぬ人となっていた。 王太子が婚約者の妹のシアを愛していたのは周知の事実だった。 そんな彼は、結婚初夜、アリサに冷たく言い放った。 「何故彼女が死んでお前が生きているんだ」と。

婚約破棄された翌日、兄が王太子を廃嫡させました

由香
ファンタジー
婚約破棄の場で「悪役令嬢」と断罪された伯爵令嬢エミリア。 彼女は何も言わずにその場を去った。 ――それが、王太子の終わりだった。 翌日、王国を揺るがす不正が次々と暴かれる。 裏で糸を引いていたのは、エミリアの兄。 王国最強の権力者であり、妹至上主義の男だった。 「妹を泣かせた代償は、すべて払ってもらう」 ざまぁは、静かに、そして確実に進んでいく。

夫と息子に邪険にされたので王太子妃の座を譲ります~死に戻ってから溺愛されても今更遅い

青の雀
恋愛
夫婦喧嘩の末に置き去りにされた妻は、旦那が若い愛人とイチャついている間に盗賊に襲われ、命を落とした。 神様の温情により、10日間だけこの世に戻った妻と護衛の騎士は、その10日間の間に心残りを処分する。それは、娘の行く末と……もし、来世があるならば、今度は政略といえども夫以外の人の妻になるということ。 もう二度と夫と出会いたくない彼女は、彼女を蔑ろにしてきた息子とも縁を切ることを決意する。 生まれかわった妻は、新しい人生を強く生きることを決意。 過去世と同じ轍を踏みたくない……

「がっかりです」——その一言で終わる夫婦が、王宮にはある

柴田はつみ
恋愛
妃の席を踏みにじったのは令嬢——けれど妃の心を折ったのは、夫のたった一言だった 王太子妃リディアの唯一の安らぎは、王太子アーヴィンと交わす午後の茶会。だが新しく王宮に出入りする伯爵令嬢ミレーユは、妃の席に先に座り、殿下を私的に呼び、距離感のない振る舞いを重ねる。 リディアは王宮の礼節としてその場で正す——正しいはずだった。けれど夫は「リディア、そこまで言わなくても……」と、妃を止めた。 「わかりました。あなたには、がっかりです」 微笑んで去ったその日から、夫婦の茶会は終わる。沈黙の王宮で、言葉を失った王太子は、初めて“追う”ことを選ぶが——遅すぎた。

妹と旦那様に子供ができたので、離縁して隣国に嫁ぎます

冬月光輝
恋愛
私がベルモンド公爵家に嫁いで3年の間、夫婦に子供は出来ませんでした。 そんな中、夫のファルマンは裏切り行為を働きます。 しかも相手は妹のレナ。 最初は夫を叱っていた義両親でしたが、レナに子供が出来たと知ると私を責めだしました。 夫も婚約中から私からの愛は感じていないと口にしており、あの頃に婚約破棄していればと謝罪すらしません。 最後には、二人と子供の幸せを害する権利はないと言われて離縁させられてしまいます。 それからまもなくして、隣国の王子であるレオン殿下が我が家に現れました。 「約束どおり、私の妻になってもらうぞ」 確かにそんな約束をした覚えがあるような気がしますが、殿下はまだ5歳だったような……。 言われるがままに、隣国へ向かった私。 その頃になって、子供が出来ない理由は元旦那にあることが発覚して――。 ベルモンド公爵家ではひと悶着起こりそうらしいのですが、もう私には関係ありません。 ※ざまぁパートは第16話〜です

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。