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第2章
77. side 魔法の力で
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シエルが山越えに向かう時から遡ること数日。
グレーティア伯爵領にある屋敷では、実質的な主となっているアレンが溜息交じりに声を漏らしていた。
「やはり字が歪んでしまう……」
彼は数日ほど前に腕を怪我してからというもの、聖女の力を借りて完治したはずの腕に力が入れられなくなっている。
その様子を、同じ屋敷で暮らしているリリアが心配そうに見ている。
「お兄様、その腕……まだ折れていますわよね?」
「痛みも腫れも全く無いから、治っているはずだ。これは後遺症に違いない」
「腫れてない……? どう見ても、真っ青に腫れていますわ」
アレンや使用人達の目では、リリアが指摘している腕に異変は起きていない。
けれど、リリアの目には痛々しく腫れている様子が目に入っていた。
「リリアは幻惑を見ているのか?」
「それはお兄様達の方だと思いますわ。その魔力の気配、何かの魔法ですわよね?」
「……聖女は偽りだったのか。リリア、この腕の手当ては出来るか?」
「自信はありませんわ。それでも良ければやってみます」
医者でさえも完治していると判断を下していたから、頼れる人物は居ない。
シエルの居る帝国に向かおうとしても、今は出入国を禁じる王令が出されていて難しい。
ある程度の魔物なら一人で相手に出来るアレンでも、国境の山脈だけは、命を自ら捨てに行くようなものだと分かっている。
そして、その危険な山越えをシエルにさせようとも考えていなかった。
「ありがとう。助かるよ」
「いつものお返しですわ」
そうして必要なものを用意したリリアは、早速手当てを始めた。
「痛かったら言って下さいね?」
「今は痛みを感じない。だから、出来るだけ優しく頼む」
「痛みを感じない……? それ、すごく危ないですわよね……」
痛みが無ければ、何かで指を切っていても気付けない。
物に挟んでしまっても、気付けないから手遅れになりやすい。
身体の不調にも気付くことは出来なくなる。
そのことに気付いてしまったリリアは、思わず手を止めてしまっていた。
「でも、お陰でいくら無理しても普通に動けるんだ。
父上から爵位を譲られるのも時間の問題になったよ」
「この手当てが済んだら、すぐに休んでください。今はお兄様の命が大事ですもの」
最近になって突然亡くなってしまう人が増えていることは、アレンもリリアも知っていること。
だから、二人とも危機感を募らせていた。
「休む前に、シエルに手紙を書く。
検閲をすり抜けるために、アレを使おう」
口にしながら、ある一角に視線を向けるアレン。
それを見たリリアも曖昧な表情を浮かべる。
「本当、欲しか無いお方たちですわよね……。でも、今は利用しましょう」
「リリアも欲ばかりだったけどな。シエルから毎日のようにアクセサリーを貰っていたではないか」
「それはもう反省しましたわ……」
国中から届いたシエル宛ての恋文は、検閲をすり抜けるためにはちょうど良かった。
あの量があれば検閲が疎かになることは間違いなく、その中に本命の手紙を忍ばせておけばシエルの元に届くという算段だ。
「万が一にもシエルが気付いてくれなかった時が怖いが、まあ大丈夫だろう」
「お姉様なら気付いてくれるはずですわ」
会話をしている間に手当は終わり、おぼつかない手で文字を書いていくアレン。
それから少しして、昼寝と称してソファーに横になると、ものの数秒で眠りに落ちていた。
「やっぱり無理していたのね……」
小さく呟きながら、アレンに毛布をかけたリリアは、直前までアレンが腰掛けていた椅子に座って残りの執務に手を伸ばした。
この後、翌朝になって目を覚ましたアレンが感心したのは、また別のお話。
一方の王都にあるグレーティア邸では、名前だけの状態になっている伯爵が狼狽えていた。
「何故だ。何故爵位をアレンに譲るように通達が来ている!?」
理由は全く仕事をしていないことが発覚したからなのだが、自覚が無い彼は頭を掻きむしる事しか出来ずにいた。
グレーティア伯爵領にある屋敷では、実質的な主となっているアレンが溜息交じりに声を漏らしていた。
「やはり字が歪んでしまう……」
彼は数日ほど前に腕を怪我してからというもの、聖女の力を借りて完治したはずの腕に力が入れられなくなっている。
その様子を、同じ屋敷で暮らしているリリアが心配そうに見ている。
「お兄様、その腕……まだ折れていますわよね?」
「痛みも腫れも全く無いから、治っているはずだ。これは後遺症に違いない」
「腫れてない……? どう見ても、真っ青に腫れていますわ」
アレンや使用人達の目では、リリアが指摘している腕に異変は起きていない。
けれど、リリアの目には痛々しく腫れている様子が目に入っていた。
「リリアは幻惑を見ているのか?」
「それはお兄様達の方だと思いますわ。その魔力の気配、何かの魔法ですわよね?」
「……聖女は偽りだったのか。リリア、この腕の手当ては出来るか?」
「自信はありませんわ。それでも良ければやってみます」
医者でさえも完治していると判断を下していたから、頼れる人物は居ない。
シエルの居る帝国に向かおうとしても、今は出入国を禁じる王令が出されていて難しい。
ある程度の魔物なら一人で相手に出来るアレンでも、国境の山脈だけは、命を自ら捨てに行くようなものだと分かっている。
そして、その危険な山越えをシエルにさせようとも考えていなかった。
「ありがとう。助かるよ」
「いつものお返しですわ」
そうして必要なものを用意したリリアは、早速手当てを始めた。
「痛かったら言って下さいね?」
「今は痛みを感じない。だから、出来るだけ優しく頼む」
「痛みを感じない……? それ、すごく危ないですわよね……」
痛みが無ければ、何かで指を切っていても気付けない。
物に挟んでしまっても、気付けないから手遅れになりやすい。
身体の不調にも気付くことは出来なくなる。
そのことに気付いてしまったリリアは、思わず手を止めてしまっていた。
「でも、お陰でいくら無理しても普通に動けるんだ。
父上から爵位を譲られるのも時間の問題になったよ」
「この手当てが済んだら、すぐに休んでください。今はお兄様の命が大事ですもの」
最近になって突然亡くなってしまう人が増えていることは、アレンもリリアも知っていること。
だから、二人とも危機感を募らせていた。
「休む前に、シエルに手紙を書く。
検閲をすり抜けるために、アレを使おう」
口にしながら、ある一角に視線を向けるアレン。
それを見たリリアも曖昧な表情を浮かべる。
「本当、欲しか無いお方たちですわよね……。でも、今は利用しましょう」
「リリアも欲ばかりだったけどな。シエルから毎日のようにアクセサリーを貰っていたではないか」
「それはもう反省しましたわ……」
国中から届いたシエル宛ての恋文は、検閲をすり抜けるためにはちょうど良かった。
あの量があれば検閲が疎かになることは間違いなく、その中に本命の手紙を忍ばせておけばシエルの元に届くという算段だ。
「万が一にもシエルが気付いてくれなかった時が怖いが、まあ大丈夫だろう」
「お姉様なら気付いてくれるはずですわ」
会話をしている間に手当は終わり、おぼつかない手で文字を書いていくアレン。
それから少しして、昼寝と称してソファーに横になると、ものの数秒で眠りに落ちていた。
「やっぱり無理していたのね……」
小さく呟きながら、アレンに毛布をかけたリリアは、直前までアレンが腰掛けていた椅子に座って残りの執務に手を伸ばした。
この後、翌朝になって目を覚ましたアレンが感心したのは、また別のお話。
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「何故だ。何故爵位をアレンに譲るように通達が来ている!?」
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