奪われる人生とはお別れします 婚約破棄の後は幸せな日々が待っていました

水空 葵

文字の大きさ
40 / 72
第2章

96. 複雑な気持ち

しおりを挟む
 私とクラウスがエイブラム邸で居候を始めてから二日目の朝。
 昨日と同じようにクラウスと二人で昼食をとっていると、グレン様が重たい空気を纏って姿を見せた。

 一昨日の夜に捕らえられたエリスとカグレシアン公爵家の従者の取り調べで、良くない事でも分かったのかしら?
 そんな予想をして構えていると、グレン様は私達と一つ離れた椅子に腰を下ろした。

「会話中に申し訳ない。取り調べで進展があったから、話しても良いだろうか?」

 グレン様は真剣な面持ちのまま、私達に声をかけてきた。
 予想していた通りの言葉だったから、私は直ぐに頷いてから口を開く。

「ええ、お願いしますわ」

「こちらからお願いしたいくらいです」

 私に続けてクラウスも口にすると、グレン様は手に抱えていた紙を私達の前へと出してくれた。

 どうやら取り調べの時に出てきた発言をまとめたものの原本みたいで、乱雑な字で書かれていて読みやすいとは言えない。
けれど、少し流し見れば大体の内容は読み取ることが出来た。

「取り調べ中に出てきた発言をまとめたものだ。
 見辛いから、纏めて説明させてもらう」

 それから語られたのは、こんな内容だった。

 護衛になっていた体格の良い男二人は、カグレシアン公爵家の執事からエリスを利用するように指示されていたらしい。
 カグレシアン公爵様はエリスが闇魔法を使えることを知っていたみたいで、何かの目的があると予想出来てしまう。

 一方のエリスはというと「従わなければ姉を殺す」と脅されていて、指示に従わないといけない状況になっていたことも分かった。

「あの公爵は悪魔としか思えなくなりましたわ……」

「全く同じ感想だよ。今の聖女になっているアイリスの方も、カグレシアン公爵の欲望のために利用されていると考えた方が納得できる」

 クラウスがそんな予想を口にすると、グレン様も同じ考えみたいで深々と頷いていた。
 私も同じことを考えているから、小さく頷いている。

「しかし、そうなるとアイリスの扱いが難しくなりそうだな。
 大切な人を失った人々の怒りは相当なものになるから、国として処刑しない訳にもいかないだろう」

「私は恨みもあるけれど、アイリス様が居なかったらクラウスと出会えていないから、感謝もしているのよね。
 だから、正直に言うと複雑な気持ちだわ」

 もしもアイリスが居なければ、アノールド王太子殿下が私の知る場所で浮気に及ぶことも無かった。
 あの婚約解消が無ければ、私はあの地獄のような日々から逃げ出すことなんて叶わなかったうえに、いつか浮気するような男と一生を共にすることになっていたはずなのよね。

 そうなっていたら、一生苦しむことになっていたと思う。
 アイリス様がしている闇魔法を振りまく行動は許せないけれど、あの束縛から解き放ってくれた事には感謝もしているから、自分がどうすれば良いのか分からなくなってしまう。

「正義なんて、その人の中にしか無いものだから、シエルはシエルの思う通りに動けば良いと思う。
 王太子妃なら国民を大切にする責務があるけど、冒険者は自分の身を護るのが責務だからね」

「そうね……。
 民達は許してくれないかもしれないけれど、アイリス様を助け出してみるわ」

 王太子殿下といちゃ……親しげな様子を私に見せつけては勝ち誇った笑みを浮かべていたことは許さないけれど、それは今の幸せな姿を見せつけて仕返しすれば済むお話。
 カグレシアン公爵様を追い詰めるためにも、アイリス様を味方に引き込むことは必要だと思うから、急がなくちゃいけないわね。
 アイリス様の評判が下がっている今は、カグレシアン公爵様が彼女を処分することだって有り得る。

 だから、すぐにでも行動を起こした方が良いと思った。

「よし、そうと決まれば早速行動しよう。
 グレン殿、急で申し訳ないですが、食事を終えたらアルベール王国に向かいます」

「構わない。港まで馬車を手配しよう」

「出来れば、帝都の外――南の出口までお願いしたいです」

「二人なら大丈夫だと思うが、まさか山越えをするつもりなのか?」

 クラウスの言葉に戸惑いを見せるグレン様。
 国境の山は魔物が居なくても危険な場所だから、正気を疑うのは当然だと思う。

 でも、船よりもワイバーンを利用した方が早いのだから、仕方ないわよね。

「ええ、そのつもりですわ。この前も同じことをしているので、大丈夫です」

「それなら安心だ。
 しかし、フレイムワイバーンが大量に現れた理由がまだ分かっていないから、その調査はこちらで進めていく」

 次から次へと降りかかってくる問題に頭を掻くグレン様。
 そんなに強く掻き毟っては毛根も傷付いてしまいそうだから、すごく心配になってしまった。
しおりを挟む
感想 67

あなたにおすすめの小説

結婚して3年経っても子供ができないという理由で離縁されたエマは、前世の記憶を思い出して幸せになる。周りが勝手に復讐してくれました。

山田 バルス
恋愛
 結婚三年目の春、エマは伯爵家の夫アンドレオから突然、側室を迎える話を告げられる。子をなせなかったことを理由に、彼女は僅かな補償のみで離縁された。妻として過ごした三年間は「無価値だった」と突きつけられ、エマは貴族社会から静かに切り捨てられる。  また実家の父母の墓参りに行くと、当主になっていた兄に離縁金を奪われてしまう。  大ピンチのエマには、秘密があった。なんと彼女は幼少期に前世の記憶を思い出していたのだ。  かつて観光地で石を磨き、アクセサリーを作り、人に喜ばれる仕事をしていた人生。何も持たない今だからこそ、もう一度「自分の手で生きる」ことを選び、あの人が住む商業国家スペイラ帝国へ向かう決意をする。  国境への道中、盗賊に襲われるが、護衛兵ロドリゲスの活躍で難を逃れる。彼の誠実な態度に、エマは「守られる価値のある存在」として扱われたことに胸を打たれた。  スペイラ帝国では身分に縛られず働ける。エマは前世の技術を活かし、石を磨いてアクセサリーを作る小さな露店を始める。石に意味を込めた腕輪やペンダントは人々の心を掴み、体験教室も開かれるようになる。伯爵夫人だった頃よりも、今の方がずっと「生きている」と実感していた。  ある朝、ロドリゲスが市場を訪れ、エマの作ったタイガーアイの腕輪を購入する。ところがその夜、彼は驚いた様子で戻り、腕輪が力を一・五倍に高める魔道具だと判明したと告げる。エマ自身は無意識だったが、彼女の作るアクセサリーには確かな力が宿っていた。  後日二人は食事に出かけ、エマは自分が貴族の妻として離縁された過去を打ち明ける。ロドリゲスは強く憤り、「最悪な貴族だ」と彼女と一緒になって怒ってくれた。その気持ちが、エマにとって何よりの救いだった。彼は次に防御力を高める腕輪を依頼し、冒険者ギルドで正式な鑑定を受けるよう勧める。  翌日、冒険者ギルドで鑑定を行った結果、エマの腕輪は高い防御効果を持つことが判明。さらに彼女自身を鑑定すると、なんと「付与特化型聖女」であることが明らかになる。聖女が付与した魔道具は現実の力として強く発現するのだ。  価値がないと切り捨てられた人生は、ここでは確かな力となった。スペイラ帝国で、聖女エマの新しい人生が、静かに、そして輝かしく始まる。

初夜に暴言を吐いた夫は後悔し続ける──10年後の償い【完結】

星森 永羽(ほしもりとわ)
恋愛
王命により、辺境伯ロキアのもとへ嫁いだのは、金髪翠眼の美しき公爵令嬢スフィア。 だが、初夜に彼が告げたのは、愛も権限も与えないという冷酷な宣言だった。噂に踊らされ、彼女を「穢れた花嫁」と罵ったロキア。 しかし、わずか一日でスフィアは姿を消し、教会から届いたのは婚姻無効と慰謝料請求の書状──。 王と公爵の怒りを買ったロキアは、爵位も領地も名誉も奪われ、ただの補佐官として生きることに。 そして十年後、運命のいたずらか、彼は被災地で再びスフィアと出会う。 地位も捨て、娘を抱えて生きる彼女の姿に、ロキアの胸に去来するのは、悔恨と赦しを乞う想い──。 ⚠️本作はAIの生成した文章を一部に使用しています。

結婚初夜、「何故彼女が死んでお前が生きているんだ」と夫に言われました

ましゅぺちーの
恋愛
侯爵令嬢のアリサは婚約者だった王太子テオドールと結婚した。 ちょうどその半年前、アリサの腹違いの妹のシアは不慮の事故で帰らぬ人となっていた。 王太子が婚約者の妹のシアを愛していたのは周知の事実だった。 そんな彼は、結婚初夜、アリサに冷たく言い放った。 「何故彼女が死んでお前が生きているんだ」と。

つまらない妃と呼ばれた日

柴田はつみ
恋愛
公爵令嬢リーシャは政略結婚で王妃に迎えられる。だが国王レオニスの隣には、幼馴染のセレスが“当然”のように立っていた。祝宴の夜、リーシャは国王が「つまらない妃だ」と語る声を聞いてしまい、心を閉ざす。 舞踏会で差し出された手を取らず、王弟アドリアンの助けで踊ったことで、噂は一気に燃え上がる――「王妃は王弟と」「国王の本命は幼馴染」と。 さらに宰相は儀礼と世論を操り、王妃を孤立させる策略を進める。監視の影、届かない贈り物、すり替えられた言葉、そして“白薔薇の香”が事件現場に残る冤罪の罠。 リーシャは微笑を鎧に「今日から、王の隣に立たない」と決めるが、距離を取るほど誤解は確定し、王宮は二人を引き裂いていく。 ――つまらない妃とは、いったい誰が作ったのか。真実が露わになった時、失われた“隣”は戻るのか。

「がっかりです」——その一言で終わる夫婦が、王宮にはある

柴田はつみ
恋愛
妃の席を踏みにじったのは令嬢——けれど妃の心を折ったのは、夫のたった一言だった 王太子妃リディアの唯一の安らぎは、王太子アーヴィンと交わす午後の茶会。だが新しく王宮に出入りする伯爵令嬢ミレーユは、妃の席に先に座り、殿下を私的に呼び、距離感のない振る舞いを重ねる。 リディアは王宮の礼節としてその場で正す——正しいはずだった。けれど夫は「リディア、そこまで言わなくても……」と、妃を止めた。 「わかりました。あなたには、がっかりです」 微笑んで去ったその日から、夫婦の茶会は終わる。沈黙の王宮で、言葉を失った王太子は、初めて“追う”ことを選ぶが——遅すぎた。

婚約破棄された翌日、兄が王太子を廃嫡させました

由香
ファンタジー
婚約破棄の場で「悪役令嬢」と断罪された伯爵令嬢エミリア。 彼女は何も言わずにその場を去った。 ――それが、王太子の終わりだった。 翌日、王国を揺るがす不正が次々と暴かれる。 裏で糸を引いていたのは、エミリアの兄。 王国最強の権力者であり、妹至上主義の男だった。 「妹を泣かせた代償は、すべて払ってもらう」 ざまぁは、静かに、そして確実に進んでいく。

夫と息子に邪険にされたので王太子妃の座を譲ります~死に戻ってから溺愛されても今更遅い

青の雀
恋愛
夫婦喧嘩の末に置き去りにされた妻は、旦那が若い愛人とイチャついている間に盗賊に襲われ、命を落とした。 神様の温情により、10日間だけこの世に戻った妻と護衛の騎士は、その10日間の間に心残りを処分する。それは、娘の行く末と……もし、来世があるならば、今度は政略といえども夫以外の人の妻になるということ。 もう二度と夫と出会いたくない彼女は、彼女を蔑ろにしてきた息子とも縁を切ることを決意する。 生まれかわった妻は、新しい人生を強く生きることを決意。 過去世と同じ轍を踏みたくない……

妹と旦那様に子供ができたので、離縁して隣国に嫁ぎます

冬月光輝
恋愛
私がベルモンド公爵家に嫁いで3年の間、夫婦に子供は出来ませんでした。 そんな中、夫のファルマンは裏切り行為を働きます。 しかも相手は妹のレナ。 最初は夫を叱っていた義両親でしたが、レナに子供が出来たと知ると私を責めだしました。 夫も婚約中から私からの愛は感じていないと口にしており、あの頃に婚約破棄していればと謝罪すらしません。 最後には、二人と子供の幸せを害する権利はないと言われて離縁させられてしまいます。 それからまもなくして、隣国の王子であるレオン殿下が我が家に現れました。 「約束どおり、私の妻になってもらうぞ」 確かにそんな約束をした覚えがあるような気がしますが、殿下はまだ5歳だったような……。 言われるがままに、隣国へ向かった私。 その頃になって、子供が出来ない理由は元旦那にあることが発覚して――。 ベルモンド公爵家ではひと悶着起こりそうらしいのですが、もう私には関係ありません。 ※ざまぁパートは第16話〜です

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。