奪われる人生とはお別れします 婚約破棄の後は幸せな日々が待っていました

水空 葵

文字の大きさ
41 / 72
第2章

97. 見慣れない景色

しおりを挟む
 侯爵家の馬車で帝都の外へと向かう事一時間ほど。
 乗り合い馬車と違って途中でとまらないお陰で、いつもよりも早く帝都を出ることが出来た。

 この辺りはフレイムワイバーンの影響を受けなかったようで、青々とした草原が風に揺られている様子が目に入る。
 そして、少し離れているところをワイバーンが飛んでいることも分かった。

「見つけたわ」

「どこだ?」

「あの辺りに飛んでいるわ」

 初めてクラウスよりも先にワイバーンを見つけられたことに戸惑いながら、指を向けて位置を教える私。
 まだ遠くに居るけれど、幻惑の魔法が届かない距離ではない。

 だから、すぐに魔法を使ってワイバーンを私達の方に移動するように操った。

「俺も見つけたよ。もう魔法をかけたんだね」

「ええ。駄目だったかしら?」

「いや、驚いただけだ。
問題は無い。御者や警備にも伝えてあるからね」

 アルベール王国に居たら、魔物を闇魔法で操れることなんて口が裂けても言えない。
 ここは闇魔法も有意義に用いている帝国だから、事前に知らせておけば帝都の近くに魔物を移動させることも出来る。

 エイブラム家の後ろ盾がなければ悪意を疑われるけれど、信頼を得ている今なら大丈夫。

「やっぱりワイバーンは速いわね」

「そうだな。この距離を一分とかからないからな」

 ワイバーンに軽く触れて身体強化の魔法をかけていると、私達を乗せてくれた馬車の方から囁き合う声が聞こえてくる。

「こうして見ると迫力すごいな……」

「ああ。しかし、シエル様に頭を下げている様子を見ると、可愛いとも思える」

「やめとけ、魔物は魔物だ。情が移ったら倒せなくなるぞ」

「分かってる。冗談だ」

 空を飛んでいる魔物を間近で見ることは無いから、護衛さん達も興味津々という様子。
 でも、道草を食う余裕は無いから、身体強化の魔法をかけ終えるとすぐにワイバーンの背中に乗った。

 今回もワイバーンを操る私が前に座って、すぐ後ろにクラウスが座る。
 そんな時、ワイバーンが首を下げて何かをし始めた。

「道草を食う暇は無いんだけどな……」

「ワイバーンって草も食べるのね……」

 新しい発見に驚いてしまう私。
 けれど、すぐに気持ちを入れ替えて、護衛さん達に手を振る。

「送って下さってありがとうございました!
 行ってきますわ!」

「行ってきます!」

「お気をつけて行ってらっしゃいませ!」

 私に続けてクラウスも軽く頭を下げてから、ワイバーンに道草を食うのを止めるように操ってから、空へと羽ばたかせた。

 こうして、私達は一気に空へと舞い上がり、アルベール王国を目指して雲へと飛び込んでいった。



 それから数時間。
 少し離れたところに王都が見えたから、私は雑談を遮ってからこう口にした。

「そろそろ王都だから低いところに移動するわね」

「分かった。もうそんなに進んだのか……」

 思っていたよりも時間が過ぎていなかったみたいで、クラウスは少し戸惑っている様子だ。
 私もお話に夢中になっていたから、王都が見えた時は驚いたのよね。

「そうみたい。
 話の続きだけれど……」

 ここからは何度かしている流れだから、お話をしながらでも動ける。
 木々を縫うように飛んでいると右へ左へと激しく揺れるから、捕まっていないと振り落とされそうになってしまうけれど、すっかり慣れてしまったからお菓子くらいなら食べることも出来る。

 お茶は零れてしまうから無理だけれど……。

「この辺りで良さそうね」

「ああ、そうだな」

 森を抜ける手前でワイバーンを止めて、背中から降りる私達。
 ここから先は闇魔法に侵されている危険な場所だから、気持ちを引き締めてから足を踏み出す。

「ここに墓地なんてあったか?」

「無かったわ。また大勢の人が亡くなってしまったのね……」

 魔物に墓地を荒らされることは無いけれど、アルベール王国には死者も街で守るという考えがあるから、城壁の外に埋葬することはあり得ない。
 でも、城壁の中の土地が足りなくなるくらい、大勢の人が亡くなってしまったみたいだ。

 悲しくて涙が溢れそうになってしまうけれど、これからアイリス様を助け出さないといけないから、気にしないようにする。

「この墓は罪人らしいな。
 反逆者と書かれているよ」

「……反乱が起きていたのね」

「弾圧か反乱か分からないが……これほどの人が命を落とすとは、王家は腐っているのだろうか」

「元々腐っていたと思うわ」

 将来の王妃になる人を無碍に扱うような人達だったから、平民は奴隷と考えていても不思議ではない。
 きっとこの弾圧は、闇魔法による洗脳が無くても起こっていたと思うのよね……。
しおりを挟む
感想 67

あなたにおすすめの小説

〈完結〉【書籍化&コミカライズ・取り下げ予定】毒を飲めと言われたので飲みました。

ごろごろみかん。
恋愛
王妃シャリゼは、稀代の毒婦、と呼ばれている。 国中から批判された嫌われ者の王妃が、やっと処刑された。 悪は倒れ、国には平和が戻る……はずだった。

妹と旦那様に子供ができたので、離縁して隣国に嫁ぎます

冬月光輝
恋愛
私がベルモンド公爵家に嫁いで3年の間、夫婦に子供は出来ませんでした。 そんな中、夫のファルマンは裏切り行為を働きます。 しかも相手は妹のレナ。 最初は夫を叱っていた義両親でしたが、レナに子供が出来たと知ると私を責めだしました。 夫も婚約中から私からの愛は感じていないと口にしており、あの頃に婚約破棄していればと謝罪すらしません。 最後には、二人と子供の幸せを害する権利はないと言われて離縁させられてしまいます。 それからまもなくして、隣国の王子であるレオン殿下が我が家に現れました。 「約束どおり、私の妻になってもらうぞ」 確かにそんな約束をした覚えがあるような気がしますが、殿下はまだ5歳だったような……。 言われるがままに、隣国へ向かった私。 その頃になって、子供が出来ない理由は元旦那にあることが発覚して――。 ベルモンド公爵家ではひと悶着起こりそうらしいのですが、もう私には関係ありません。 ※ざまぁパートは第16話〜です

お嬢様はお亡くなりになりました。

豆狸
恋愛
「お嬢様は……十日前にお亡くなりになりました」 「な……なにを言っている?」

だから聖女はいなくなった

澤谷弥(さわたに わたる)
ファンタジー
「聖女ラティアーナよ。君との婚約を破棄することをここに宣言する」 レオンクル王国の王太子であるキンバリーが婚約破棄を告げた相手は聖女ラティアーナである。 彼女はその婚約破棄を黙って受け入れた。さらに彼女は、新たにキンバリーと婚約したアイニスに聖女の証である首飾りを手渡すと姿を消した。 だが、ラティアーナがいなくなってから彼女のありがたみに気づいたキンバリーだが、すでにその姿はどこにもない。 キンバリーの弟であるサディアスが、兄のためにもラティアーナを探し始める。だが、彼女を探していくうちに、なぜ彼女がキンバリーとの婚約破棄を受け入れ、聖女という地位を退いたのかの理由を知る――。 ※7万字程度の中編です。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

存在感のない聖女が姿を消した後 [完]

風龍佳乃
恋愛
聖女であるディアターナは 永く仕えた国を捨てた。 何故って? それは新たに現れた聖女が ヒロインだったから。 ディアターナは いつの日からか新聖女と比べられ 人々の心が離れていった事を悟った。 もう私の役目は終わったわ… 神託を受けたディアターナは 手紙を残して消えた。 残された国は天災に見舞われ てしまった。 しかし聖女は戻る事はなかった。 ディアターナは西帝国にて 初代聖女のコリーアンナに出会い 運命を切り開いて 自分自身の幸せをみつけるのだった。

もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?

冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。 オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。 だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。 その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・ 「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」 「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」

婚約破棄された翌日、兄が王太子を廃嫡させました

由香
ファンタジー
婚約破棄の場で「悪役令嬢」と断罪された伯爵令嬢エミリア。 彼女は何も言わずにその場を去った。 ――それが、王太子の終わりだった。 翌日、王国を揺るがす不正が次々と暴かれる。 裏で糸を引いていたのは、エミリアの兄。 王国最強の権力者であり、妹至上主義の男だった。 「妹を泣かせた代償は、すべて払ってもらう」 ざまぁは、静かに、そして確実に進んでいく。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。