奪われる人生とはお別れします 婚約破棄の後は幸せな日々が待っていました

水空 葵

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第2章

122. 敵対しても

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 宴会が賑わいを取り戻してから一時間ほど。
 少し離れたところにお兄様の姿を見つけた私は、直前までお話ししていた帝国の貴族の方のお話しを終え、挨拶を済ませてからクラウスに向き直った。

「お兄様と話してきても良いかしら?」

「もちろん。心配だから途中まで一緒に行くよ」

「ありがとう」

 お兄様の近くには婚約者様とリリアの姿があるけれど、両親は離れたところで他の貴族と談笑している様子。

 家の醜態が広まらないように気を付けていたから、居場所も残っていたみたい。
 私は婚約破棄された身だけれど、王家がアイリスに操られていた事は貴族なら知っていることだから、私は可哀そうな令嬢という評価に落ち着いているとお兄様からの手紙で知ったのよね。

 お兄様の隣に行くまでに何度か王国の貴族と目が合ったけれど、憐れむような視線は送られても蔑む視線は一つも無かった。

「お兄様、お久しぶりですわ」

「ああ、久しぶり。元気そうで何よりだよ。
 カグレシアンは無事に裁かれそうで安心したよ。本当にありがとう」

「お兄様もリリアもありがとうございますわ。お兄様達の協力が無ければ、今も野放しになっていたはずですもの」

「いやいや、シエルの力が無ければ今頃は揃って墓の中だ。……これを言い出すとキリが無いけどね」

 苦笑いを浮かべながら、そう口にするお兄様。
 口調は軽いけれど、これが決して冗談ではないと分かっているから、私は笑えなかった。

 それからお兄様はクラウスの方に身体を向けると、深々と頭をさげてから口を開いた。

「クラウス殿も、この度は本当にありがとうございました」

「こちらこそ、ありがとうございました。
 皆で協力して得た勝利ですから、王国の混乱が落ち着いた暁には盛大に祝いましょう」

「もちろんです。シエルとクラウス殿の屋敷も楽しみにしていますよ」

「期待に応えられるよう最善を尽くしましょう」

 お兄様の言葉を聞いたクラウスは、やる気に満ちた表情を浮かべながら頷いている。
 立派なお屋敷が想像出来てしまったけれど、今は考えないことにした。

 そんな時、誰かの視線を感じて振り返ると、アルベールの国王陛下と目が合ってしまった。
 
「クラウス、耳貸してもらえるかしら?」

「どうした?」

「アルベールの国王に目をつけられたみたいなの……。
 もしかしたら、復縁を求められるかもしれないわ」

 私の背丈に合わせて屈んでくれたクラウスの耳元でそう口にすると、彼は陛下から私を隠すように抱きしめてくれた。

「シエルもクラウス殿も急にどうした?
 ……なるほど、そういうことか。面倒だな」

 遅れてお兄様も気付いたみたいで、すぐに険しい表情を浮かべた。
 けれど陛下は気にも留めない様子で私の方へと真っ直ぐ近付いてきている。

 そうしてクラウスの真後ろまで来ると、こんな言葉が放たれた。

「シエル嬢に話がある。そこを退きたまえ」

「断る」

「私は国王だぞ?」

「それがどうかしましたか?」

 ここは帝国だから、例え国王だとしても扱いは貴族と同じ。だからクラウスには従う義務なんて無い。
 私は王国の生まれだから、クラウスみたいにキッパリと断ることは出来ないのよね。

 お兄様は表向きでは国王陛下に従うことで爵位を賜っている立場だから、私達の中で陛下に対抗できるのはクラウスだけ。
 でも、陛下はそれに気付いていないみたいで、あの手この手でクラウスを退かそうとしている。

「暴力は褒められる行為ではありませんよ」

「命令を聞かないお前が悪い。分かるかね?」

「洗脳されている間に馬鹿になったようですね。ああ、可哀そうに」

 国王がいくら押しても、突飛ばそうと勢いをつけて体当たりをしても、クラウスは少しも動かない。
 息を切らす国王に対して、煽る余裕もあるクラウス。

 流石に無理だと気付いたみたいで、陛下はクラウスではなくお兄様の方に視線を向けた。

「お前の妹をアノールドの婚約者にしなければ、爵位を剥奪する。今すぐに説得しなさい」

「お言葉ですが、アノールド殿下は元聖女に心酔しております。
 仮に結婚したとしても、跡継ぎを授かることは無いでしょう。ご理解頂けますか?」

 陛下の言葉を聞いて、私ではなく陛下を説得しようと口にするお兄様。
 爵位剥奪という最悪な事態は避けないといけないから、私はお兄様に目配せをして無理をしないようにと伝えてみた。

 仮にあのくず王子との復縁を決められてしまっても、それを覆す方法は思いついているから。

「跡継ぎのことはどうだって良い。ライトニッヒが居るからな!
 そんなことよりも、治癒魔法を扱えるシエル嬢が必要なのだ。王家の信頼を取り戻すためにも、真の聖女として民達を説得させなければ、王家は続かなくなってしまう」

「聖女そのものに対する不信感は拭えません。お考え直しください」

「真の聖女が現れれば民を納得させられる。命令に従わなければ、一家もろとも極刑に処す。
 シエル嬢を聖女として王家に寄こしなさい」

 アルベールの王家は、命令に従わせるためには極刑も辞さないのよね。
 逆らった侯爵家が全員極刑に処された過去があるから、これはただの脅しではない。

 クラウスとの結婚を早めようと考えていたけれど、その手も使えなくなってしまったから、私にはどうにも出来ないのよね。
 けれどお兄様とクラウスには考えがあるみたいで、視線で「任せて欲しい」と伝えてくれた。

「分かりました。しかし、今すぐには不可能でございます。
 シエルはサフレア王国の王子と婚約を結んでおります。婚約解消には時間がかかりますし、サフレア王国との関係悪化も避けられないでしょう。
 半年ほど頂ければ、シエルを王家に向かわせられますが……それでも宜しいですか?」

「長すぎる! せめて一か月だ!」

「承知しました。では、そのように」

「やっと理解できたか。一か月後までにシエル嬢が王宮に来なければ、お前の命は無いと思え」

 そう言い捨てて、私達から離れていく国王陛下。
 少しして、お兄様がこんなことを口にした。

「あの王家は必ず潰す。だから安心して欲しい」
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