見捨てられた逆行令嬢は幸せを掴みたい

水空 葵

文字の大きさ
30 / 46

30. 恥ずかしいです

しおりを挟む
「サーシャ様、大丈夫ですか?」
「ええ。私のことは気にしないで。それよりも、リリア様を助けなきゃ」

 意識は失っているみたいだけど、僅かに肩が動いているから、生きてはいるみたい。
 でも、首の骨が折れてしまっているから、このままだと1分も保たないと思う。

 階段を降りていたら、絶対に間に合わないわ……。
 外で待機している騎士さん達は助からないと判断したみたいで、助けるのを諦めている様子だった。

「ちょっと行ってきますわ」
「行ったところで間に合いませんよ」
「ここから行くのよ」

 このことはあまり知られていないけれど、私は2階からなら無事に飛び降りることが出来る。
 火事の時に逃げられるようにと、何度も練習させられたから。

 多分、2階も3階も大して変わらないわよね……?
 高さが倍になっただけだから。

「ここからって……まさか」
「多分大丈夫だから、止めないで」

 そう言ってから、窓の外に身体を乗り出す私。
 
 下を見ると思ったより高くて、少し怖い。
 でも、ここで諦めるわけにはいかないから、そのまま飛び降りた。


 あっという間に迫ってくる地面。
 上手く着地の姿勢は取れたけれど、私の足から嫌な音がして痛みが走った。

 でも、足のことは無視して、急いでリリア様の身体を真っ直ぐにしてから癒しの力を使った。

「サーシャ様、正気ですか!?」
「正気よ。目の前で死なれたくなかったのよ」

 無事にリリア様の怪我を治せたから、今度は私の足を治してから立ち上がる。

 リリア様の意識はまだ戻っていないけれど、逆行させずに済んだから少しだけ安心することが出来た。

「お前ら、呆けてないでリリア様を拘束しろ!」

 窓からそんな声がかけられて、リリア様が腕と足を縛られていく。
 貴族の令嬢が罪を犯したときは、普通なら腕を縛られて終わりなのだけど、逃亡を図りそうな時はその限りでは無いらしい。

 ちなみに、この縄は魔法を封じる効果もあるみたいだから、魔法を使って逃げることは無理だと思う。
 頑張って縄から抜け出せたら、逃げられるかもしれないけれど……意識を失っている今の状態ではその心配も無さそうね。

 私が持っている癒しの力のように魔法に似ていて魔法ではない無い力を封じることは出来ないから、もしリリア様が他人を操る力を持っていたらどうなるか分からない。
 でも、あの頭の打ち方だと1時間くらいは意識が戻らないと思うから、大丈夫よね……。

 牢に入れられたら、誘惑したところで出ることは出来ないのだから。

「連行しろ」
「御意」

 連れていかれるリリア様。
 そんな時、ヴィオラが声をかけてきた。

「もう無理はしないでよね! 心配させないで欲しいわ」
「ごめんなさい。逆行させないことだけ考えていたわ」
「気持ちは分かるけれど、私達だってやり直せるのだから、焦らなくても大丈夫よ」
「そうね……」

 頷いてから周りを見ると、この騒ぎを聞きつけた人たちが集まっていて、ちょっとした騒ぎになっているのが分かった。
 どうやら私が飛び降りたところも見られていたみたいで、私の噂がされているのも聞こえてくる。

「自分を切りつけた人を飛び降りてまで助けたらしいぞ」
「どれだけの聖人なんだ……」
「性格悪いと聞いたが、あの噂は嘘だったようだな」
「その噂、切りつけた犯人が流したらしいぞ」

 そんな噂を流されていたのね……。
 聖人でも無いから、どちらも困ることなのだけど。

 どうやら、私が飛び降りてから癒しの力を使うところは多くの方々に見られていたみたいで、私を聖人扱いする流れが広がってしまっている。
 ただ自分の目的のために動いていただけなのに……。

「私はそんな聖人では無いのですけど……」
「この謙虚さ、聖人以外の何物でもないですよ!」

 ……否定しても、私の株が上がるだけだった。

「サーシャ、誘惑の力でも身に着けたのかしら?」
「そんなの無いわよ」

 笑いながら問いかけてくるヴィオラに冷めた視線を送る私。
 でも、私の評価が下がることは無くて。

 恥ずかしいような、全身がくすぐったくなるような、不思議な感覚がする。
 この状況から今すぐにでも逃げ出したいわ……。
しおりを挟む
感想 37

あなたにおすすめの小説

前世の旦那様、貴方とだけは結婚しません。

真咲
恋愛
全21話。他サイトでも掲載しています。 一度目の人生、愛した夫には他に想い人がいた。 侯爵令嬢リリア・エンダロインは幼い頃両親同士の取り決めで、幼馴染の公爵家の嫡男であるエスター・カンザスと婚約した。彼は学園時代のクラスメイトに恋をしていたけれど、リリアを優先し、リリアだけを大切にしてくれた。 二度目の人生。 リリアは、再びリリア・エンダロインとして生まれ変わっていた。 「次は、私がエスターを幸せにする」 自分が彼に幸せにしてもらったように。そのために、何がなんでも、エスターとだけは結婚しないと決めた。

婚約破棄寸前だった令嬢が殺されかけて眠り姫となり意識を取り戻したら世界が変わっていた話

ひよこ麺
恋愛
シルビア・ベアトリス侯爵令嬢は何もかも完璧なご令嬢だった。婚約者であるリベリオンとの関係を除いては。 リベリオンは公爵家の嫡男で完璧だけれどとても冷たい人だった。それでも彼の幼馴染みで病弱な男爵令嬢のリリアにはとても優しくしていた。 婚約者のシルビアには笑顔ひとつ向けてくれないのに。 どんなに尽くしても努力しても完璧な立ち振る舞いをしても振り返らないリベリオンに疲れてしまったシルビア。その日も舞踏会でエスコートだけしてリリアと居なくなってしまったリベリオンを見ているのが悲しくなりテラスでひとり夜風に当たっていたところ、いきなり何者かに後ろから押されて転落してしまう。 死は免れたが、テラスから転落した際に頭を強く打ったシルビアはそのまま意識を失い、昏睡状態となってしまう。それから3年の月日が流れ、目覚めたシルビアを取り巻く世界は変っていて…… ※正常な人があまりいない話です。

『仕方がない』が口癖の婚約者

本見りん
恋愛
───『だって仕方がないだろう。僕は真実の愛を知ってしまったのだから』 突然両親を亡くしたユリアナを、そう言って8年間婚約者だったルードヴィヒは無慈悲に切り捨てた。

[完結]不実な婚約者に「あんたなんか大っ嫌いだわ」と叫んだら隣国の公爵令息に溺愛されました

masato
恋愛
アリーチェ・エストリアはエスト王国の筆頭伯爵家の嫡女である。 エストリア家は、建国に携わった五家の一つで、エストの名を冠する名家である。 エストの名を冠する五家は、公爵家、侯爵家、伯爵家、子爵家、男爵家に別れ、それぞれの爵位の家々を束ねる筆頭とされていた。 それ故に、エストの名を冠する五家は、爵位の壁を越える特別な家門とされていた。 エストリア家には姉妹しかおらず、長女であるアリーチェは幼い頃から跡取りとして厳しく教育を受けて来た。 妹のキャサリンは母似の器量良しで可愛がられていたにも関わらず。 そんな折、侯爵家の次男デヴィッドからの婿養子への打診が来る。 父はアリーチェではなくデヴィッドに爵位を継がせると言い出した。 釈然としないながらもデヴィッドに歩み寄ろうとするアリーチェだったが、デヴィッドの態度は最悪。 その内、デヴィッドとキャサリンの恋の噂が立ち始め、何故かアリーチェは2人の仲を邪魔する悪役にされていた。 学園内で嫌がらせを受ける日々の中、隣国からの留学生リディアムと出会った事で、 アリーチェは家と国を捨てて、隣国で新しい人生を送ることを決める。

運命に勝てない当て馬令嬢の幕引き。

ぽんぽこ狸
恋愛
 気高き公爵家令嬢オリヴィアの護衛騎士であるテオは、ある日、主に天啓を受けたと打ち明けられた。  その内容は運命の女神の聖女として召喚されたマイという少女と、オリヴィアの婚約者であるカルステンをめぐって死闘を繰り広げ命を失うというものだったらしい。  だからこそ、オリヴィアはもう何も望まない。テオは立場を失うオリヴィアの事は忘れて、自らの道を歩むようにと言われてしまう。  しかし、そんなことは出来るはずもなく、テオも将来の王妃をめぐる運命の争いの中に巻き込まれていくのだった。  五万文字いかない程度のお話です。さくっと終わりますので読者様の暇つぶしになればと思います。

婚約者様への逆襲です。

有栖川灯里
恋愛
王太子との婚約を、一方的な断罪と共に破棄された令嬢・アンネリーゼ=フォン=アイゼナッハ。 理由は“聖女を妬んだ悪役”という、ありふれた台本。 だが彼女は涙ひとつ見せずに微笑み、ただ静かに言い残した。 ――「さようなら、婚約者様。二度と戻りませんわ」 すべてを捨て、王宮を去った“悪役令嬢”が辿り着いたのは、沈黙と再生の修道院。 そこで出会ったのは、聖女の奇跡に疑問を抱く神官、情報を操る傭兵、そしてかつて見逃された“真実”。 これは、少女が嘘を暴き、誇りを取り戻し、自らの手で未来を選び取る物語。 断罪は終わりではなく、始まりだった。 “信仰”に支配された王国を、静かに揺るがす――悪役令嬢の逆襲。

婚約者に愛する人が出来たので、身を引く事にしました

Blue
恋愛
 幼い頃から家族ぐるみで仲が良かったサーラとトンマーゾ。彼が学園に通うようになってしばらくして、彼から告白されて婚約者になった。サーラも彼を好きだと自覚してからは、穏やかに付き合いを続けていたのだが、そんな幸せは壊れてしまう事になる。

私が嫌いなら婚約破棄したらどうなんですか?

きららののん
恋愛
優しきおっとりでマイペースな令嬢は、太陽のように熱い王太子の側にいることを幸せに思っていた。 しかし、悪役令嬢に刃のような言葉を浴びせられ、自信の無くした令嬢は……

処理中です...