婚約破棄するのでしたら、私が頂いても構いませんよね?

水空 葵

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別視点

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「私のことがお嫌いになられたことは分かりました。しかし、これは王家の命で結んだ婚約です。このような形で破棄するなど、許されることではありません」
「何を言っているのかしら?
 帰還者のトーマスには私と結婚する権利があるのだから、政治的な意味でも私と貴方の婚約は破棄される運命なのよ?
 それに、貴方はすっごく汗臭いのよ?」
「ですが、陛下の命を得ずに破棄するなど、許されることではありません!」

 この場には、王女殿下以外に非常識な人は居ないみたい。
 誰かを蔑むような噂話も聞こえてこないから、王女殿下だけが浮いてしまっている。

 そんな時、席を外していた国王が戻ってきて、輪の中に入り込んだ。

「何の騒ぎだ」
「お父様っ! やっと来てくださったのですね!
 私、トーマスと結婚するために、ジェイクとの婚約を破棄しようとしていましたの!」

 トーマス様は全く乗り気ではないですよ?
 陛下、その脳内お花畑のお花は全て摘んだ方が良いと思いますわ。

 なんて思っても、口には出せないわ。
 でも、そう思ってしまうくらいには王女殿下に腹が立っているらしい。

「この騒ぎはそういうことか。
 ジェイク君、娘が失礼なことをしてしまって申し訳ない。君が望むことなら、出来る限りのことをしよう」
「ありがとうございます。では、クラリス殿下との婚約を正式に破棄したく思います。
 彼女の気持ちはもう私には向いていませんから、無意味な婚約を続けたくはありません」
「本当に良いのかな? 余に言える事ではないが、もう後戻りは出来なくなる」
「ええ、構いません」
「分かった。
 では、国王として命ずる。クラリスとジェイク・ゴリアテレスとの婚約は正式に破棄する。これは王家の都合によるもので、ジェイク殿に非は無い」
「寛大なご処置、ありがとうございます」

 国王陛下も、周りの貴族達も揃って常識的なのに、どうしてこんな非常識が生まれたのかしら?
 トーマス様が倒し損ねた魔物かしら?

 頭は動いていても、こんな状況では一歩も動けない。
 私以外の方々も同じみたいで、様子を窺っているだけだった。

 けれども、ジェイク様に飛び掛かる人影が目に入った。
 あれは、先月握手したときに、そのまま私の手を砕いてくれたメリッサさんね。

 ゴリラ令嬢だなんて二つ名が付けられているけれど、普段はゴリラのように温厚で優しいのよね。
 ちょっと力が有り余っているだけで、怪我をさせられた時は本当に申し訳なさそうに怪我を治してくれた。

 申し訳ないと思うなら手加減の勉強をした方がいいのに、と少し思ったけれど。

「ジェイク様、私と婚約していただけませんか?」
「メリッサ様!? なぜ俺……私のような者との婚約を望むのですか?
 私は今婚約破棄されたばかりの冴えない男ですよ?
 それと、今は冷や汗で臭いと思うので、近付かない方が宜しいかと……」
「ジェイク様は臭くないです!」
「ですが、クラリス殿下が私のことを汗臭いと……」
「きっとクラリス様のお鼻の中か、クラリス様自身が汗臭いのですわ!」

 真顔でそんなことを口にするメリッサさん。
 王族に対してその物言いは……。

 私も他の方々も同じことを考えたみたいで、顔色が青に変わってしまった。
 でも、国王陛下は表情一つ変えずに、王女殿下のことを睨みつけたままだ。

「なっ!? 無礼よ、無礼! お前なんて死刑にしてやるわ!
 大体、そんな男と婚約しようだなんて、頭がおかしいとしか思えないわ! だから馬鹿なゴリラ令嬢と言われるのよ!」
「ごめんなさい、地位とか婚約破棄とか、ゴリラ令嬢の私には難しいお話ですの。
 ジェイク様はもう自由の身ですから、私が狙っても問題は無いと思うのですけど……」

 不思議に思っているかのように首をかしげながら口にするメリッサさんに向かって、王女殿下が手を上げて、次の瞬間には頬を張る乾いた音が響いた。
 でも、メリッサさんは何も無かったかのように平然としている。

 悔しいけれど、メリッサさんなら1週間もしないで最果てのダンジョンを攻略出来たと思うのよね。
 今更だけれど、メリッサさんにお願いしてダンジョンを攻略してもらう手もあったわ。

 そうすれば、1ヶ月も寂しい思いをしなかったのに……。

「私が間違っているなら、正解を分かりやすく説明して頂けませんか?」
「なんなのよ……!」

 不満そうにする王女殿下の言葉を完全に無視して、ジェイク様に向き合ったメリッサさん。
 ゴリラのように強いのは、身体だけじゃなくてメンタルもなのね!

「私にとっては、ジェイク様がとっても魅力的ですの。是非! 私との婚約を受け入れて頂きたいです!」
「……分かりました。私で宜しければ、受け入れます」
「ありがとうございますっ! 大好きです!」

 ちょっと軽すぎない……?
 そう思ってしまったのは内緒です。


========



 宣伝です。


『過労聖女は自由になりたい ~こんな王国は捨てて、英雄様と隣国で幸せになります~』
の連載を始めました。
ざまぁあり、ハッピーエンドのお話です。

こちらも読んでいただけると嬉しいです。
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