世界を越えて貴方に会いに行く。

Ruon

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#1


 地上世界と呼ばれる、特別な名前を持たない世界がある。
 地上世界とは基本人種と呼ばれる人間族を中心に陰を好む長寿のエルフ族、同じく長寿だが小柄なドワーフ族など多種多様な人種が広大な世界に住んでいる。
 その世界の遥か彼方、上空に天空の城が仰ぎ見る事が出来る。そこは天界と呼ばれる天使族が住まう世界がある。
 地上世界の遥か底、世界の裏側にあるのは知性無き魔物を束ねる魔人族が住まう魔界、そしてその先に死せる者全てが集い、生まれ変わる為の儀式を行う冥界が存在している。

 天界と魔界、その二つの世界から愛されて育まれたのが地上世界。
 その世界の片隅にある小さな港町にとある医者が住んでいる。女性を忌み嫌う男性がヘンテコな助手を連れて営む病院が、小さな港町の片隅に今日も存在していた。


「先生ぃ~、先生ぃ~」

 昼下がりの午後二時半。
 ペタペタと足音を立てて、甘ったるい香りを運べば汚い字で寝室と書かれたプレートがドアノブにかけられた部屋を開けて入る。
 本や資料が乱雑に床に置かれており、足の踏み場がないような部屋を見渡す事なく、本で埋もれたベッドに近寄ると近くの机に持っていたマグカップを置いて埋もれた上布団の裾を掴んで引っ剥がす。

「先生ぃ~!起きてくだせぇ~!」

 上布団を引き剥して姿を出したのは先生と呼ばれている黒髪の男性だった。
 遮光カーテンを全開に開けられた窓から差し込む光はとても眩しく、ガラガラと窓を開けられては強風が部屋に吹き込んで紙や埃が一気に吹き上がり、咳き込んでしまう。

「ゲホッ!なにノックせずに入ってきてんだ……!今日は休業日だって言ってただろ、少しは先生を寝かせろよ、リルリル」

 眠たい目を擦って起き上がった男はこの港町ナビアの片隅にあるナビア診療病院の院長ガルビス。
 そして彼を起こしに来たのは、彼が幼少期に実験と称して蛙の標本から生み出した合成獣リルティマ・アトラ・リルティマと呼ばれる蛙の少女だ。
 少女は毎日、ガルビスの為にコーヒーにふんだんに砂糖を入れ、その上ホイップクリームとチョコソースを入れた劇毒レベルの甘ったるいホットコーヒーを作って運び、叩き起こすのが仕事である。

「ゲコォ~。少しはって言っても先生、もう午後二時半ですよぉ~。先生はいつまで朝なんですかぁ~?」
「俺が起きるまで朝だ」
「即答でそれ言うのはズルいゲコォ~!」

 まだまだ寝足りないガルビスはもう一睡したいが出されたコーヒーが冷めましては駄目だと勿体無い精神が出てしまい、手に取るとガブガブとホイップクリームごと飲んでいく。
 ぷはっ、と飲み終えると口端についたクリームを舌で舐め取った後、枕元に置いていたティッシュを取って拭うといまだ傍らで立ち続けるリルティマを見てガルビスは問いかける。

「なんだ、なにか用件があるのか?あるのならさっさと言ってくれ、俺は寝たいんだ」

 どう聞いても不機嫌な声だ。リルティマは今朝来た来客の一件を伝えるべきか、視線を泳がせたが机の上に置かれた赤文字で督促と書かれた手紙を見て、はぁ……と大きなため息を吐いた。

「先生ぃ~。今朝、村長がお目見えになりまして「先々月から家賃が未払いだ、支払え!」って怒ってましたぁ~」
「はぁ?先々月はこの間、払ったはずだが?!」
「本当にぃ~?ここにと・く・そ・く・じょうってのが来てますゲコォ~?」
「ぐ……っ」

 リルティマが手に取ったのは先々月分の未払い支払い書だった。いまだ判が押されていない事から払っていないと証拠を提示すればバツの悪そうな顔をしてみせた後、ガルビスはぐうの音も出ずに黙り込んでしまう。
 そしてしばらく黙り込んだ後、リルティマを見てから一つため息を吐けば机の引き出しにしまっていた貯金から数十万分の札束を出せば可愛らしいポーチに入れてリルティマに持たせた。

「ほらよ、代わりに支払ってきてくれ。お前なら村長も嫌な顔せず受け取ってくれるだろうかよ」
「はいぃ~!行ってきますゲコォ~!」

 ペタペタと足音を立ててリルティマは大事そうにポーチを抱えて部屋を出ていった。
 それを見送ってからガルビスはもう一睡しようかと考える。
 だが貯金の入った袋がかなりスカスカになっている事を考えるとまた一つ、ため息が出た。

(今晩は長そうだな……)

 ガルビスが全くもって女性が受け付けれないという女性恐怖症のおかげで常に閑古鳥が鳴いている状態。人が来たかと思えば殆どは診療とは関係ない、人生相談に来た男性や膝を擦りむいたとかで駆け込んでくる少年ぐらいだ。
 薬代はガルビスがたまに出かけて拾ってきた野草を調合して作られている為、そこまでかからないがほぼゼロ円とは言い難い。
 家賃と光熱費、薬代を考えるとかなり大赤字。その上、ガルビスが大の甘党という事も相まって砂糖はわずか三日で消え買っておいたホイップクリームは一日で消えてしまう為、お金がかかって仕方がない。
 いくら病院を開いても閑古鳥が鳴いていて儲かる見込みもない。その事から数年前からガルビスは夕暮れ時になると港町を出て隣の町で身売りをするようになった。

 狙うは男。たとえ同性に興味のない男であったとしてもガルビスは脱がずとも全身に纏うフェロモンによって男をその気にさせ、引き抜く事が出来る。正しく魔性の男。
 医者でありながらそうして稼ぐ事にガルビスは後ろめたさこそあれど、その方法でしか食い扶持を稼ぐ方法がない。
 リルティマは少女の見た目をしているが知性が高くなるよう構成されて作られたわけではない、いわゆる観賞用合成獣だ。生活水準をあげる為に掃除なり料理なり教え込んだがそれ以上はできない。

「ま、主人として合成獣のために稼ぐだけだ」

 割り切ってしまえば早い。
 まだ夕方には早いが薬草を拾いつつ、隣町に向かおうとガルビスは立ち上がり窓を閉め遮光カーテンで光を掻き消すと部屋を出てシャワールームに向かう。
 サッとシャワーを浴びて綺麗にすれば服を着替える。白衣では流石に目立ちすぎる為、黒色のタートルネックに少しダメージの入った紺色のジーンズを履けば首から十字架のネックレスを垂らす。
 この十字架は昔からよく着けている。いったい誰がプレゼントしたのか記憶にはない、知らないうちに手のひらにあって身に着けていた。

 まだ冬の港は肌寒い。灰色のコートに袖を通して足りない薬品を確認してから家を出ると鍵をかけてリルティマに『出かけてくる。明日の朝まで帰らない』と置き手紙を書けば鍵と共に郵便受けに入れて出かける。
 日が傾き始めた港町を出ると街道を歩き、隣町へとのんびりと歩く。
 するとふと目についた野草を求めて街道を外れて林へと足を踏み入れる。

「……ほう、こんなところにカイヒョウソウが……冬になるとよく咲くな。この間来てた客が凍傷になったからって言っていたから治癒性の高い薬草を組み合わせれば良い薬になるな。あっちは……」

 一度薬草取りを始めたら止まらない。ズイズイと奥へ奥へと進んでいくとすっかり来た道を見失うほど森へ辿り着き、知らぬ間に奥へと来てしまった。
 決して森の奥には行ってはいけません。危ない魔物が出るからーー。
 なんて、当たり前の家庭では子供にそう教えて森には行かせないようにするのだがガルビスは大人でありながらうっかり森の奥に来てしまった。

「……はてさて、どうしたもんか……」

 隣の町に行かないと今月は厳しそうだ。なんとしてでも戻らなくてはならないが来た道が分からないのでは戻りようがない。
 うーん、と顎に手を添えて考えていると不意に空からひらひらと白い羽根が舞い落ちてきたのに気付く。

「……白い、羽根?流石にこんな森に白鳥は……」

 羽根にしてはやけに大きい。ガルビスの想像する白鳥とはどこか異なるような気がしてならないが実物を見た事があるわけではない、もしかしたらどこかに向かって白鳥が飛んで行ったのかもしれない。
 これも家に帰る当てにしては弱すぎる。もっとマシな物はないかと歩いていくと白い羽根がポツポツと飛んで行った方角を示すように落ちている事に気付く。
 それを追うように一枚一枚拾って奥に進めば湖のほとりに大きな何かが倒れているのが分かる。

「あれは……」

 真っ白な、何か……にしては、デカすぎる。白鳥にしてはあまりにもデカく体長5メートルはあるだろうか。そんなものが白鳥とは思えない、もっと違う何か……魔物にようにも見えるがガルビスは今一つピンと来なかった。
 体長5メートルほどの白い翼を有した魔物なんて聞いた事がない。そんなもの、存在するはずがない。
 だが、ガルビスもこう見えて医者でありながらかつては研究者を志していた事があった。
 知的探求心が強く疼き、気になったガルビスは怖い物知らずに近寄っていく。
 近くまで行くと少しくすんではいるが白いコートに身を包んでいるのが分かる。金糸の髪に大きな手や足。
 それが人である事が分かればガルビスは丁度頭部と思わしき場所に立てば頭を揺する。

「おい、死んでるのか?死んでるのなら解体してもいいのか?」

 生きているのか確認するにしても真っ向から死んでいる事を前提に話しかけるガルビス。
 人が聞けばギョッとしそうな話しだがそれをいとも簡単に口にしてしまえばガルビスは返事を待つ。
 するとわずかに手が動いたのに気付けば口らしき場所に耳を寄せる。

「……み……ず、を……」
「水?……あー、そこの湖のいいのなら汲んでやる」

 水、と聞いてポカンと口を開けた後、ガルビスは持ってきていた携帯用コップを取り出せばそれで水を汲んで口元に運ぶ。
 乾燥した唇に押し当てるとよっぽど喉が渇いていたのか一滴も溢さずに飲み干した。そして閉じていた目がパチリと開かれるとまるで異国人だと思わせるほどに透き通った青い瞳はまるで濁りなき澄んだ海を彷彿させる。
 陶器のように真っ白な肌、綺麗な瞳。こんなにも美麗な人がいるんだとガルビスは感動していたが実際にはムクリと起き上がってみるとおおよそ体長5メートルはあると思っていた通り、かなり恰幅がよく、顔立ちも目鼻立ちがくっきりとしている漢字の漢と書いてオトコと読ませるような逞しい男だった。

「……なんだお前」

 正直、ガルビスはこういう男は苦手だ。だからこそ、無礼な言葉が口をついて出てしまった。

「ーーーーん、んんッ……あ…あー……あっごほん、すみません。初対面、でしたよね……えっと、貴方は……」

 発声練習でもするかのように何度か咳払いをしてから男はこれまた容姿に似つかわしくない爽やかな声を出す。
 それがなんとも違和感を生み出しており、脳がダイレクトに破壊されそうだった。

「ガルビスだ。港町ナビアにあるナビア診療病院の院長ガルビス、知らないのか?」
「ガル、ビス……ぁ、あ……ああ、そうです……ここは創歴1782年、ですよね?」
「ん?ああ、そうだ、創歴1782年。それがどうした」
「……私の想像では、1762年に飛んで小さい頃の貴方に会う予定でした」
「はぁ?」

 ガルビスという名は知ってそうだが唐突にわけの分からない事を言い出した。
 確かに今は創歴1782年11月真冬だ。だがおよそ20年前といえばまだガルビスはまだ子供の頃だ。
 いったい何を言っているんだと訝しんでいたが彼は至ってヘラヘラと笑いながら片膝をついて懸命にこちらと目線を合わせようとしていた。
 一向に視線は合わないのだがそれでも彼なりの優しさが滲み出ているのを見て悪い人ではなさそうだと認識する一方、あまりの大きさに地上世界に巨人族なんていただろうかと考えてしまう。

「……まぁ、それはそれとして。お前、何者だ?こんなにデカかったら、歩いていたらすぐ気付きそうなんだが……」
「ええ、知らなくて当然です!私の名前はイズオアル、力を司る大天使です」

 天使、といえば上空の遥か彼方に存在する天空に住まう人間族によく似た姿をした人種 天使族を思い出させる。
 純白の大きな翼は空を駆けて人を救う為にあるとされる、人々を守る天空の守護者ーーそんな言い伝えを思い出すが果たして天使がこれ程に大きいものなのか。
 腕を組んで目を瞑り、熟考しているとイズオアルと名乗る天使はガルビスの顔を見て困った顔をした後、何を思ったのか腕や足を動かしたかと思えばパアアッと眩い光を放った。
 それに気付いたガルビスは少しずつ薄目を開けて光が放たれた方を視線を向ければ目を疑うような攻撃が広がっていた。

 やや顔を上にあげなくてはならないがおよそ体長5メートルほどだったイズオアルは衣服ともども、2メートルにまで縮んでいて大きな翼は体に合わせて飛行に支障がない程度に縮小し、天使である事を表すかのように頭部に眩い煌めきを放つ金の光輪がふわふわと浮いている。
 突然の変化にガルビスは理解が及ばなかったがある意味、これで彼が人ではない人種である事が決定づけられたことになる。

「……その姿は、イズオアルか?」

 そう問いかけると彼は光輪に負けず劣らず、光り輝いているような明るい笑顔を見せた。

「はい!イズオアルです!ガルビスにまた名前を呼んでもらえて嬉しいです!」
「……また?俺とお前は初対面なはずだが……」

 再び、過去にもどこかで会っているかのような話しぶりをするイズオアル。
 いくらガルビスが記憶を呼び起こしても全くその容姿と名前が一致する人物を思い出す事はない。それは当然、ガルビスは生まれてこの方、天使族の男と出会った事などないのだから。

「ああ、知らなくて当然です。私は今の貴方とは本来交わらないはずの未来で出会い……そして、此処にいます」
「交わらない……未来……?」
「そう、未来……貴方はこの先の未来で自らの意思で命を絶ちます。私はそれを阻止する為に未来から何度も貴方のもとへ守る為に訪れています」

 いったい何を言っているんだ。そう言わんばかりに全く理解できず、ガルビスは眉間にシワを寄せて険しい顔を見せていた。
 それにイズオアルは微笑み返すだけという慣れた様子を見せるだけ。本当に未来から時を渡って遡行しているのだろうか。
 この世界には魔法も超常現象も、魔人族も天使族も存在している。だからこそ、未来から渡ってきたと言われても納得できないわけではないが一番の気がかりは……。

(どうして、俺なんだ……?)

 どうして自分なのか、という小さな不安が心のうちに生じる。
 だが、そんな不安の種を考える暇もなく、イズオアルはガルビスの手を取って曇る顔をジィッと穴が開きそうなほど、食い入るように見つめてきた。

「また小難しい顔、されてますね。きっと貴方の事だ、どうして自分は……と引っ込み思案になっているんじゃないですか」
「ゔっ……なんで分かるんだお前は……」
「さっきも言った通り!私は遠い未来からやってきた力の大天使イズオアル!貴方を救う為に様々な事を学び、貴方の生態全てを把握せし大天使です!」
「大層ご立派な演説してるが、ただの変態じゃねぇか」

 誇らしげに微笑みながら語る彼はとても眩しくて、自分とは相容れる事のない人間だと思わされる。
 握られた手を離したくなるが一向に離そうとしない様子から諦めてガルビスはブンブンと上下に振られるがまま、イズオアルを見上げていた。

「フフフッ、変態とは誉れ高きお言葉ですよ……ハッ、そんな事よりも今日、この後は予定ありましたか?」
「ん、ああ……隣の町にちょっと……」
「むむ、それは身売りですか!?なりません!この私がなんとしてでも止めます!」

 ズイッと顔を寄せられ、顔面の圧力だけで止めてこようとするその姿にガルビスは視線を泳がせて嫌そうな顔をしてみせる。
 理由も知らずに他人が口を挟むべき事ではないだろう……と、一瞬考えたが不意にガルビスの事なら何でも知っているという言葉を思い出せば逆に問いかける。

「いやいや、止めるって言っても今月乗り越える事すら厳しい状況だ。止めるって言うんならこの危機的状況を打開するほどの策でもあるのか?」

 身売りをしなければ厳しいのは事実。それが打開されれば身売りなどしなくともしばらくは安定して暮らせるだろう。
 その打開策はあるのかと問うてみるとイズオアルは背中にある大きな両翼をバサッと広げてガルビスに背中を向けた。

「確か、羽根と羽根の間にお札を挟んでいたはずです!見てください!」

 耳を疑いたくなるような言葉が飛び出るとそんな馬鹿な話あるわけないだろう、とすぐに突っぱねたくなるが物は試し。
 親猿が子猿を毛繕いするように羽根と羽根の間を掻き分けて見てみると確かにお札が出てくる。
 それも旧札ばかりでかなり価値の高い物ばかりだ。

「お、おお……これは500年ほど前の国王即位の際に製造されたものでこちらは100年前に天魔和平条約の際に製造されたもので……状態も良い、これはザッと見積もっても数千万はするんじゃないのか……?」
「はい!過去から持ち込んだものばかりですのでどれも本物です、どうですか?」
「……まぁ、確かにこれなら打開策には……なるだろうな」

 一通り目を通したが旧硬貨もあったりとかなりの金額にはなりそうだった。
 これならば容易に現状をより良くする事はできそうだがこれらが本物、であるという確たる証拠はない。しかし、これらが本物であり価値がつけばイズオアルは時間遡行が出来る天使族であると裏付けてしまう。
 元研究者の意地だろうか。謎が解明していないというのに外側から証拠で固められてしまう事にそこはかとなく嫌だという気持ちを抱いてしまうが背に腹は代えられない。

「……分かった、お前に免じて当分は身売りに行かないでやろう。ただし……」
「た、ただし?」

 ふぅ、とガルビスは深く吐息を吐く。
 その姿はよくよく見ると口先を軽く尖らせ、若干拗ねた子供のようにも見えた……が大の大人のする顔ではない。
 熟考するように閉ざしていた目を開けると黒色から灰色へとグラデーションがかかる瞳が覗き、ジロリとイズオアルの澄んだ青い瞳を捉える。

「翼がやけに傷ついていて軽く触るだけでも羽根が抜ける。本当に未来から渡ってきた、というのならよほど手入れをしていないと見受けられるが……もし、お前がこの旧貨幣を俺に渡すって言うんなら手当てをする。どうだ?」

 体自体を見たわけではないがあの翼の状態を考慮しても体の方にも何らかの怪我を負っていてもおかしくはない。
 湖のほとりで倒れていた事からして何らかの理由があったのではないかと推測できる。例えば急いで時間遡行した為、ろくに治療が出来ずに死にかけていたとか。
 だが憶測であり。確かな事は言えない。イズオアルの反応はどうかと少し泳がしていた視線をイズオアルに向けると彼は子供のように嬉しそうに笑顔を浮かべてブンブンと上下に頭を振っていた。

「ええ、ええ!是非ともお願いいたします!歩く事ができるので病院へと向かった方がよろしいでしょうか?」
「……あ、ああっ、いや……夜道は危ない、今日は此処に宿を建設しようか」

 意外や意外、かなり元気そうに見えるが此処から港町へ戻るには多少なりとも時間を要する。
 万が一、魔物に襲われたら苦戦することは間違いないだろう。ならば魔物を近付けないように対処しつつ此処に宿を建設するのがいいだろう。
 その事を伝えればガルビスは常に携帯している小さなキューブ状の魔道具を取り出せば手頃な場所へ放り投げる。
 するとーー。

『対象ノ使用ヲ検知……。建築魔法プログラム"治療院"アクティベート、オープン』

 キューブ状の魔道具から機械音声が流れたかと思えば一瞬、眩く光り瞬く間に展開されていく。
 小さなキューブ状から生み出されたのは路地の裏にあるガルビスの診療病院とは比べ物にならないほど立派な建物だった。
 なんの変哲もない場所に突如として現れた建物は一目で分かるほど、病院の形をしている。建物の周りにガルビスが持っていた粉を広げてから扉に近付き開けるとイズオアルを手招く。
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