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20話side勇人
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何度飲んでも、あの物体Xの味にはなれないぜ。でもあれを飲まないと夕方までぶっ倒れて、学校どころじゃないんだよなぁ。
「おはよ~」
俺は教室にいたクラスメイトに挨拶をして自分の席に着く。
「おはようございますゆうと君。調子はどうですか?」
「おはよ。まぁぼちぼちだな」
「手、どうしたんですか?」
たかしは机の下に隠している両手を指さしながら質問する。コイツめざといな…。
「ん~ちょっと朝は関節の動きが悪くてな。こうやってほぐしてやらないとうまく動かないんだ」
「君。一体何歳ですか?」
確かに年寄りみたいな台詞だったな。でもこうやって少しでも関節をほぐしてやらないと、まともに鉛筆が握れなくて勉強どころじゃないんだよ。
「まぁまぁ気にすんなよ。別に怪我したわけじゃないから大丈夫だよ」
「ま、そういうことにしといてあげます」
たかしが自分の席に戻るのを見送ると、背後に俺の背中を指でつつく感触がする。振り返るとしずかが俺の顔をじっと見ている。
しずかは自分の口元を俺の耳元にそっと近づけ、周囲に聞こえないよう小声話しかける。そんなに近づかれるとドキドキしてしまうんだが。
「どうして本当のことを話さないの?」
ん?ほんとうのこと?
あ!俺は思い出す。栞は毎朝早い時間に登校し、教室で読書をしていることで有名だ。ならば俺が早朝にグランドをローラーがけしていることを知っていてもおかしくはない。
「ま、まぁ人に言いふらすことでもないからな…ははは」
「ふぅん…まぁそういうことにしとくね」
わざわざたかしの言い方を真似て、意地悪そうにつぶやくしずか。俺また嫌われるようなことしたっけ?理不尽だ…。
言われてみれば、確かに隠すことなんて全くないのだが、あまり知られたくないのも本当だ。だって野球部でもないただの一般小学生が、毎朝グランド怪しい大男とでローラーを引いてるなんて不気味がられて孤立するだろうが。そんな子供時代過ごすのはまっぴらごめんだ。
昼休み。俺は机の上に有名私立中学校の受験対策本、いわゆる『赤本』ってやつを広げる。昨日母親に頼み込んで買ってもらったやつだ。俺が買いたいものがあるって母親に頼み込んで、この本を見せた時は「あんた熱でもあんの?」と言いやがった。しかも母親から買ってもらった訳ではない、俺の小遣いを前借りして買ったやつだ。親なら子供の勉強代くらい出してくれても罰は当たらんと思うぞ。
俺だって勉強くらいするわ!
いや、すいません。小学生時代を振り返ると全然やってなかったです…。少なくとも小学生時代なんて、特別勉強しなくてもテストはまあまあ良い点数が取れていて、俺は勉強ができるやつだって勘違いしていた。
しかし、中学生になって、科目がガラッと変化し、点数が取れなくなって、俺は現実を見せつけられた。俺はただの凡人だ。点数なんて60点以上取れていれば良い。そんな考えになってしまった。その後も、それなりに勉強して、それなりの高校に入り、それなりの大学に入り、それなりの会社に就職した。
俺は凡人だ。でも俺はただの凡人じゃない!凡人であることを理解している凡人だ!
俺は目の前の赤本に全力で取り組む。
15分後
わかんねぇ!1問目すら解けねぇ!!一体どおなってんだよ中学受験!
こんなの受ける人間は、そもそも俺たちとは遺伝子レベルで別の人種ってことなのか!理不尽だ!
俺が頭を抱え、絶望していると誰かが右の肩を優しく叩く。
「なんだ、たかしかよ。今忙しいだけど」
「勉強順調ですか?」
俺は恨めしそうにたかしに目線を送る。
「そう見えるか?」
「もしかしてゆうと君はその中学を受験するんですか?随分ハードルを上げましたね。僕でも難しいですよそこ」
「え?しないよ?とりあえず難しいやつをくれって本屋の店員に頼んだからな!」
「からな!じゃないですよ!何やってんですか!」
たかしはまるで舞台俳優並みのオーバーなリアクションで頭を抱える。え?そんな悪いことなの?
「あのですね。受験問題は受ける中学ごとに全く別物と言っていいものです!各学校毎に傾向が異なっていて、きちんと対策しないと全くの無意味ですよ!」
がーん!俺の前借りした小遣いが、全くの無駄だと。魂が抜けたかのように脱力し、床に倒れ込む。
「ちょ!ちょっと!大丈夫ですか?はぁ、まったく…わかりましたよ。とりあえず話だけでも聞いてあげましょう。ちなみにどの学校を受験希望ですか?」
俺はその言葉を聞いた瞬間、床からバッタの如く飛び跳ね起き上がる。
「ほんとか!おお!こころのともよ!ありがとう!」
俺はたかしの両手を掴み、ブンブンと腕が千切れるほどの激しい握手をする…おい、ちょっと後悔したような顔をするな。
「受験したい学校だったな?わかんねーけど、俺はとにかく栞と同じ中学を受験したいんだ!」
俺の言葉にたかしは眉間に皺を寄せ不快そうな顔をする。
「…気が変わりました。やっぱりこの話は聞かなかったことにします」
「ちょ!ちょっとまて!これにはマリアナ海溝よりも深い深ーい事情があるんだよ!」
「君がしおりさんと同じ中学に行きたい動機なら前に聞きました。しかし、僕はそれを信じていません。もしそれが真実であると言うのであれば…その証拠を見せてください」
…え?証拠?
「おはよ~」
俺は教室にいたクラスメイトに挨拶をして自分の席に着く。
「おはようございますゆうと君。調子はどうですか?」
「おはよ。まぁぼちぼちだな」
「手、どうしたんですか?」
たかしは机の下に隠している両手を指さしながら質問する。コイツめざといな…。
「ん~ちょっと朝は関節の動きが悪くてな。こうやってほぐしてやらないとうまく動かないんだ」
「君。一体何歳ですか?」
確かに年寄りみたいな台詞だったな。でもこうやって少しでも関節をほぐしてやらないと、まともに鉛筆が握れなくて勉強どころじゃないんだよ。
「まぁまぁ気にすんなよ。別に怪我したわけじゃないから大丈夫だよ」
「ま、そういうことにしといてあげます」
たかしが自分の席に戻るのを見送ると、背後に俺の背中を指でつつく感触がする。振り返るとしずかが俺の顔をじっと見ている。
しずかは自分の口元を俺の耳元にそっと近づけ、周囲に聞こえないよう小声話しかける。そんなに近づかれるとドキドキしてしまうんだが。
「どうして本当のことを話さないの?」
ん?ほんとうのこと?
あ!俺は思い出す。栞は毎朝早い時間に登校し、教室で読書をしていることで有名だ。ならば俺が早朝にグランドをローラーがけしていることを知っていてもおかしくはない。
「ま、まぁ人に言いふらすことでもないからな…ははは」
「ふぅん…まぁそういうことにしとくね」
わざわざたかしの言い方を真似て、意地悪そうにつぶやくしずか。俺また嫌われるようなことしたっけ?理不尽だ…。
言われてみれば、確かに隠すことなんて全くないのだが、あまり知られたくないのも本当だ。だって野球部でもないただの一般小学生が、毎朝グランド怪しい大男とでローラーを引いてるなんて不気味がられて孤立するだろうが。そんな子供時代過ごすのはまっぴらごめんだ。
昼休み。俺は机の上に有名私立中学校の受験対策本、いわゆる『赤本』ってやつを広げる。昨日母親に頼み込んで買ってもらったやつだ。俺が買いたいものがあるって母親に頼み込んで、この本を見せた時は「あんた熱でもあんの?」と言いやがった。しかも母親から買ってもらった訳ではない、俺の小遣いを前借りして買ったやつだ。親なら子供の勉強代くらい出してくれても罰は当たらんと思うぞ。
俺だって勉強くらいするわ!
いや、すいません。小学生時代を振り返ると全然やってなかったです…。少なくとも小学生時代なんて、特別勉強しなくてもテストはまあまあ良い点数が取れていて、俺は勉強ができるやつだって勘違いしていた。
しかし、中学生になって、科目がガラッと変化し、点数が取れなくなって、俺は現実を見せつけられた。俺はただの凡人だ。点数なんて60点以上取れていれば良い。そんな考えになってしまった。その後も、それなりに勉強して、それなりの高校に入り、それなりの大学に入り、それなりの会社に就職した。
俺は凡人だ。でも俺はただの凡人じゃない!凡人であることを理解している凡人だ!
俺は目の前の赤本に全力で取り組む。
15分後
わかんねぇ!1問目すら解けねぇ!!一体どおなってんだよ中学受験!
こんなの受ける人間は、そもそも俺たちとは遺伝子レベルで別の人種ってことなのか!理不尽だ!
俺が頭を抱え、絶望していると誰かが右の肩を優しく叩く。
「なんだ、たかしかよ。今忙しいだけど」
「勉強順調ですか?」
俺は恨めしそうにたかしに目線を送る。
「そう見えるか?」
「もしかしてゆうと君はその中学を受験するんですか?随分ハードルを上げましたね。僕でも難しいですよそこ」
「え?しないよ?とりあえず難しいやつをくれって本屋の店員に頼んだからな!」
「からな!じゃないですよ!何やってんですか!」
たかしはまるで舞台俳優並みのオーバーなリアクションで頭を抱える。え?そんな悪いことなの?
「あのですね。受験問題は受ける中学ごとに全く別物と言っていいものです!各学校毎に傾向が異なっていて、きちんと対策しないと全くの無意味ですよ!」
がーん!俺の前借りした小遣いが、全くの無駄だと。魂が抜けたかのように脱力し、床に倒れ込む。
「ちょ!ちょっと!大丈夫ですか?はぁ、まったく…わかりましたよ。とりあえず話だけでも聞いてあげましょう。ちなみにどの学校を受験希望ですか?」
俺はその言葉を聞いた瞬間、床からバッタの如く飛び跳ね起き上がる。
「ほんとか!おお!こころのともよ!ありがとう!」
俺はたかしの両手を掴み、ブンブンと腕が千切れるほどの激しい握手をする…おい、ちょっと後悔したような顔をするな。
「受験したい学校だったな?わかんねーけど、俺はとにかく栞と同じ中学を受験したいんだ!」
俺の言葉にたかしは眉間に皺を寄せ不快そうな顔をする。
「…気が変わりました。やっぱりこの話は聞かなかったことにします」
「ちょ!ちょっとまて!これにはマリアナ海溝よりも深い深ーい事情があるんだよ!」
「君がしおりさんと同じ中学に行きたい動機なら前に聞きました。しかし、僕はそれを信じていません。もしそれが真実であると言うのであれば…その証拠を見せてください」
…え?証拠?
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