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第一章〜異世界転移と雑貨屋開店〜

ギルドの役割

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白髪に老紳士が軽く会釈をして話を進める。

「初めまして。私はこのギルドの長をしているゲノと申します。」

「初めましてイチと申します。」

橘一。一と書いて「イチ」と読む。多少変わってはいるが、大して珍しくもない名前だ。

「この街の南に位置する森ダンジョンの入り口ある建物から来られたとのこと。内装からお分かりかと思いますが、以前店舗として使われていた物です。貴方はどう使われる予定でしょうか?」

「問題がなければ、同じく店舗として利用出来ればと。何か手続きが必要とか?」

「今あの建物に所有者はおりません。それにあんな場所に住もうと思う物好きもおりませんからね。しかし、勝手に商売をしても良いというわけではありません。」
「このギルドはこの街における職業毎の技術や労働時間、製品価格や賃金などの規定、仕事場における生産手段、品質検査、職人・徒弟の修業のための制度を管理しています。」
「過去のギルド長が残した記録によると、百年前同様にあの店で商売を始めた者により一時的に市場が混乱したとあります。適正な価格を知らない物が商売を始めると、様々なトラブルを呼び込む原因となります。店を自由に使用していただく条件として幾つかお願いがあります。」

(確かに、納得できる理由だ。この街に住む人達も生活があるし無駄なトラブルも避けたい。何より別に金儲けがしたい訳じゃない。この世界楽しみたいだけだ。)

「分かりました。よろしくお願いします。」

「それと商品を卸す場合はこのギルドへお願いします。話は受付の担当しておくのでそちらが対応いたします。」

無事ギルド長との話も終わり一階に降りる。
最後にポーションや薬草のアイテムの価格を低く設定してほしいと頭を下げられた。この世界の医療は薬師や教会が担っているが、この街の医療施設はかなり善良的な経営を行なっているらしく、いつも資金繰りに困っているらしい。もっと安定した医療を多くの人にという思いかららしい。

(あの人がいるからこの街はいい街なんだろうな。都会というわけでは無いが、街の住民は楽しそうに暮らしている様子が見える。)

一旦手持ちのポーションをギルドに卸しもう一度森に向かう。
今日はもう少しモンスター狩りをしてアイテムを集めよう。

また街に来るのが楽しみだ!今度は街を散策しよう!

(疲れた…)

ちょっと調子に乗ってモンスターを狩りすぎた。体力回復ポーション、MP回復ポーション両方合わせて50本くらいあるだろうか?いくらレベルアップの恩恵があっても、精神的な疲労は蓄積する。そろそろ店に帰ろう。


「グルァァッア!!」

近くで聞き慣れた唸り声が聞こえる。そして僅かに空気に混じる嗅いだことのある嫌な匂い。

(血!?誰か襲われている!?)

声が聞こえた方角に全速力で走る。そこには銀色の長い髪の毛をした女性が背中から血を流しうつ伏せに倒れている。
その近くに一体のグログロが血を流し倒れ、手負いの一体がふらつきながらも地面から立ち上がろうとしている。

すぐさま女性の方へ走り出す。と同時に手負いのモンスターも女性へ向かい突進していく。手負いと思えないほどのスピードと鬼の形相!

(させるかっ!)

バールを使い顔面を全力で叩き潰す!レベアップのせいか相手は数メール吹き飛び力尽きる。

「おい!大丈夫か!?」

「ううっ…」

(意識はある様だ、出血量もそこまで多く無い。しかしこれは!)

長い銀髪に覆われていた頭部が露わになる。

(ケモノ!獣人か!)

全身が柔らかな毛に覆われており、顔もやや細長い狩猟犬の様な見た目。身長は2メートル弱はあるだろうか?気品と野生の両方を感じる。
上体をゆっくり起こし、バールで叩き潰したモンスターからドロップしたポーションをゆっくりと口に含ませる。徐々に傷口が塞がり呼吸も落ち着いていく。顔色は良さそうだが目は覚さない。森ダンジョンの出口も近いので一旦連れていくか。

(この獣人が倒したモンスター…明らかに死んでいる筈なのに死体が消えていない。)

とりあえず店に獣人を運びベッドへ寝かせる。ベッドの横に椅子を置き腰掛け様子を見る。色々と気になることはあるが、銀色の美しく流れる髪にぼーっと見惚れていると、疲労が限界を迎えいつの間にか俺も意識を失っていた。
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