43 / 87
もう少しだけ待っていて
2 (2)
しおりを挟む
俺にとっての彼方は唯一無二の存在だ。
物心つく前からずっと傍にいてくれた人。
いつもにこにこと笑っていて、優しく抱っこしてくれた人。
俺は首も座らない頃からそんな彼方の事を目で追っていたそうだ。
世界で一番愛しい人。
両親や兄ちゃんの事も勿論愛しているが、それとは違う。
多分父さんと母さんがお互いを想う気持ちと、兄ちゃんと律さんがお互いを想う気持ちと同じ。俺は彼方の事を最初からずっと同じ気持ちで想っていた。
14年間傍にいて、彼方が泣いたり怒ったりしたところを殆ど見た事がなかった。いつもいつも彼方は幸せそうに笑っていた。この笑顔を守りたいって幼心によく思ったものだ。何度か失敗して泣かせてしまったけど……。
それでも俺たちは『運命』だから大丈夫だって心の奥底では思っていたんだ。どんな事があっても彼方は俺の元を去る事はないって――。
俺は本当に彼方の事が大好きだ。
この気持ちに嘘はないし、疑問に思った事もない。
彼方への『想い』は俺を構成するひとつ――いや、彼方を思わない俺は俺ではないと言い切れる程、彼方は俺の全てだった。
たった14年しか生きていないのに何を――と言われるかもしれない。
他の人から見たらきっととてもおかしな事なんだ。
でも、そうなんだからそうだとしか言えない。
だけど――と、気持ちがぐるぐると出口を求めて彷徨い始める。
家に帰り自分の部屋に入ってもずっとこんな調子だ。
今の俺には何の『保証』も『安心』もなかった。
俺は彼方との繋がりを失ってしまうかもしれない。
いや、元々繋がりなんてなかったんだ――。
あの事が俺の心に重くのしかかる。
会いたくて会いたくて堪らない。
愛しくて愛しくて堪らない。
この想いが間違いだなんて事絶対にないのに――。
俺はベッドの上で胎児のように背中を丸め、彼方が家に来てくれるのを待った。
他の情報で頭を占めたくなくて、全てから自分を守るようにゆっくりと目を閉じた。ただ彼方だけに浸っていたかった。
*****
「コンコン」と控え目にドアがノックされた。
彼方だ。
俺は急いでドアを開け愛しい存在を自分の部屋に招き入れ、すぐさま抱きしめた。
いつにも増して性急な俺に彼方は驚き、目をパチクリさせている。
だけど逃げたりはしない。そんな些細な事が嬉しくて堪らない。
肌に感じる愛しい人の温もりが、寒さに震える心を温めていく。
「どうしたの?何かあった?今日は甘えたさんだね?」
少しおかしそうにくすくすと笑いながら言う彼方の声にびくりと肩が震える。
「こんな俺は、嫌い?」
お願い。否定しないで?
お願い。俺を受け入れて?
お願い。お願い。
――――どんな俺でも、拒まないで?
「馬鹿だなぁそんな顔して。どんな翔も大好きだよ。だからそんな顔しないで?」
彼方は微笑みながらそっと俺の頬を親指の腹で撫でた。
そして、「泣かないで」と囁いて目元にその柔らかな唇を寄せた。
俺は泣いていたのか。
言われて初めて自分が涙を流していた事に気がついた。
苦しく切ない気持ちがぽろぽろと零れていく。
あの事を彼方に言ってしまおうか――。
むしろ言わなくてはいけない事だ。
だけどやっぱり言うのが怖い。
――――彼方を失うのが怖いんだ。
いつかは言わなくてはと思うけど、今はまだ……もう少しだけ。
俺を捨てないでという気持ちを込めて彼方をもう一度だけ強く抱きしめた。
ふわりと香る彼方の優しい香りを胸いっぱいに吸い込む。
――これ以上はダメだ。彼方がおかしく思う。
「さっき……彼方を待ってる時、怖い夢を見たんだ。だからこんな……恥ずかしいな――へへ」
そう言って笑って見せた。
本当に全部が『悪い夢』だったらよかったのに。
どんなに今がつらくても『夢』であったなら、いつかは必ず醒める時がくるのだから――。
物心つく前からずっと傍にいてくれた人。
いつもにこにこと笑っていて、優しく抱っこしてくれた人。
俺は首も座らない頃からそんな彼方の事を目で追っていたそうだ。
世界で一番愛しい人。
両親や兄ちゃんの事も勿論愛しているが、それとは違う。
多分父さんと母さんがお互いを想う気持ちと、兄ちゃんと律さんがお互いを想う気持ちと同じ。俺は彼方の事を最初からずっと同じ気持ちで想っていた。
14年間傍にいて、彼方が泣いたり怒ったりしたところを殆ど見た事がなかった。いつもいつも彼方は幸せそうに笑っていた。この笑顔を守りたいって幼心によく思ったものだ。何度か失敗して泣かせてしまったけど……。
それでも俺たちは『運命』だから大丈夫だって心の奥底では思っていたんだ。どんな事があっても彼方は俺の元を去る事はないって――。
俺は本当に彼方の事が大好きだ。
この気持ちに嘘はないし、疑問に思った事もない。
彼方への『想い』は俺を構成するひとつ――いや、彼方を思わない俺は俺ではないと言い切れる程、彼方は俺の全てだった。
たった14年しか生きていないのに何を――と言われるかもしれない。
他の人から見たらきっととてもおかしな事なんだ。
でも、そうなんだからそうだとしか言えない。
だけど――と、気持ちがぐるぐると出口を求めて彷徨い始める。
家に帰り自分の部屋に入ってもずっとこんな調子だ。
今の俺には何の『保証』も『安心』もなかった。
俺は彼方との繋がりを失ってしまうかもしれない。
いや、元々繋がりなんてなかったんだ――。
あの事が俺の心に重くのしかかる。
会いたくて会いたくて堪らない。
愛しくて愛しくて堪らない。
この想いが間違いだなんて事絶対にないのに――。
俺はベッドの上で胎児のように背中を丸め、彼方が家に来てくれるのを待った。
他の情報で頭を占めたくなくて、全てから自分を守るようにゆっくりと目を閉じた。ただ彼方だけに浸っていたかった。
*****
「コンコン」と控え目にドアがノックされた。
彼方だ。
俺は急いでドアを開け愛しい存在を自分の部屋に招き入れ、すぐさま抱きしめた。
いつにも増して性急な俺に彼方は驚き、目をパチクリさせている。
だけど逃げたりはしない。そんな些細な事が嬉しくて堪らない。
肌に感じる愛しい人の温もりが、寒さに震える心を温めていく。
「どうしたの?何かあった?今日は甘えたさんだね?」
少しおかしそうにくすくすと笑いながら言う彼方の声にびくりと肩が震える。
「こんな俺は、嫌い?」
お願い。否定しないで?
お願い。俺を受け入れて?
お願い。お願い。
――――どんな俺でも、拒まないで?
「馬鹿だなぁそんな顔して。どんな翔も大好きだよ。だからそんな顔しないで?」
彼方は微笑みながらそっと俺の頬を親指の腹で撫でた。
そして、「泣かないで」と囁いて目元にその柔らかな唇を寄せた。
俺は泣いていたのか。
言われて初めて自分が涙を流していた事に気がついた。
苦しく切ない気持ちがぽろぽろと零れていく。
あの事を彼方に言ってしまおうか――。
むしろ言わなくてはいけない事だ。
だけどやっぱり言うのが怖い。
――――彼方を失うのが怖いんだ。
いつかは言わなくてはと思うけど、今はまだ……もう少しだけ。
俺を捨てないでという気持ちを込めて彼方をもう一度だけ強く抱きしめた。
ふわりと香る彼方の優しい香りを胸いっぱいに吸い込む。
――これ以上はダメだ。彼方がおかしく思う。
「さっき……彼方を待ってる時、怖い夢を見たんだ。だからこんな……恥ずかしいな――へへ」
そう言って笑って見せた。
本当に全部が『悪い夢』だったらよかったのに。
どんなに今がつらくても『夢』であったなら、いつかは必ず醒める時がくるのだから――。
0
あなたにおすすめの小説
【完結】愛されたかった僕の人生
Kanade
BL
✯オメガバース
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。
今日も《夫》は帰らない。
《夫》には僕以外の『番』がいる。
ねぇ、どうしてなの?
一目惚れだって言ったじゃない。
愛してるって言ってくれたじゃないか。
ねぇ、僕はもう要らないの…?
独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。
「自由に生きていい」と言われたので冒険者になりましたが、なぜか旦那様が激怒して連れ戻しに来ました。
キノア9g
BL
「君に義務は求めない」=ニート生活推奨!? ポジティブ転生者と、言葉足らずで愛が重い氷の伯爵様の、全力すれ違い新婚ラブコメディ!
あらすじ
「君に求める義務はない。屋敷で自由に過ごしていい」
貧乏男爵家の次男・ルシアン(前世は男子高校生)は、政略結婚した若き天才当主・オルドリンからそう告げられた。
冷徹で無表情な旦那様の言葉を、「俺に興味がないんだな! ラッキー、衣食住保証付きのニート生活だ!」とポジティブに解釈したルシアン。
彼はこっそり屋敷を抜け出し、偽名を使って憧れの冒険者ライフを満喫し始める。
「旦那様は俺に無関心」
そう信じて、半年間ものんきに遊び回っていたルシアンだったが、ある日クエスト中に怪我をしてしまう。
バレたら怒られるかな……とビクビクしていた彼の元に現れたのは、顔面蒼白で息を切らした旦那様で――!?
「君が怪我をしたと聞いて、気が狂いそうだった……!」
怒鳴られるかと思いきや、折れるほど強く抱きしめられて困惑。
えっ、放置してたんじゃなかったの? なんでそんなに必死なの?
実は旦那様は冷徹なのではなく、ルシアンが好きすぎて「嫌われないように」と身を引いていただけの、超・奥手な心配性スパダリだった!
「君を守れるなら、森ごと消し飛ばすが?」
「過保護すぎて冒険になりません!!」
Fランク冒険者ののんきな妻(夫)×国宝級魔法使いの激重旦那様。
すれ違っていた二人が、甘々な「週末冒険者夫婦」になるまでの、勘違いと溺愛のハッピーエンドBL。
やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。
毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。
そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。
彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。
「これでやっと安心して退場できる」
これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。
目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。
「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」
その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。
「あなた……Ωになっていますよ」
「へ?」
そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て――
オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。
希少なΩだと隠して生きてきた薬師は、視察に来た冷徹なα騎士団長に一瞬で見抜かれ「お前は俺の番だ」と帝都に連れ去られてしまう
水凪しおん
BL
「君は、今日から俺のものだ」
辺境の村で薬師として静かに暮らす青年カイリ。彼には誰にも言えない秘密があった。それは希少なΩ(オメガ)でありながら、その性を偽りβ(ベータ)として生きていること。
ある日、村を訪れたのは『帝国の氷盾』と畏れられる冷徹な騎士団総長、リアム。彼は最上級のα(アルファ)であり、カイリが必死に隠してきたΩの資質をいとも簡単に見抜いてしまう。
「お前のその特異な力を、帝国のために使え」
強引に帝都へ連れ去られ、リアムの屋敷で“偽りの主従関係”を結ぶことになったカイリ。冷たい命令とは裏腹に、リアムが時折見せる不器用な優しさと孤独を秘めた瞳に、カイリの心は次第に揺らいでいく。
しかし、カイリの持つ特別なフェロモンは帝国の覇権を揺るがす甘美な毒。やがて二人は、宮廷を渦巻く巨大な陰謀に巻き込まれていく――。
運命の番(つがい)に抗う不遇のΩと、愛を知らない最強α騎士。
偽りの関係から始まる、甘く切ない身分差ファンタジー・ラブ!
異世界にやってきたら氷の宰相様が毎日お手製の弁当を持たせてくれる
七瀬京
BL
異世界に召喚された大学生ルイは、この世界を救う「巫覡」として、力を失った宝珠を癒やす役目を与えられる。
だが、異界の食べ物を受けつけない身体に苦しみ、倒れてしまう。
そんな彼を救ったのは、“氷の宰相”と呼ばれる美貌の男・ルースア。
唯一ルイが食べられるのは、彼の手で作られた料理だけ――。
優しさに触れるたび、ルイの胸に芽生える感情は“感謝”か、それとも“恋”か。
穏やかな日々の中で、ふたりの距離は静かに溶け合っていく。
――心と身体を癒やす、年の差主従ファンタジーBL。
鎖に繋がれた騎士は、敵国で皇帝の愛に囚われる
結衣可
BL
戦場で捕らえられた若き騎士エリアスは、牢に繋がれながらも誇りを折らず、帝国の皇帝オルフェンの瞳を惹きつける。
冷酷と畏怖で人を遠ざけてきた皇帝は、彼を望み、夜ごと逢瀬を重ねていく。
憎しみと抗いのはずが、いつしか芽生える心の揺らぎ。
誇り高き騎士が囚われたのは、冷徹な皇帝の愛。
鎖に繋がれた誇りと、独占欲に満ちた溺愛の行方は――。
(無自覚)妖精に転生した僕は、騎士の溺愛に気づかない。
キノア9g
BL
※主人公が傷つけられるシーンがありますので、苦手な方はご注意ください。
気がつくと、僕は見知らぬ不思議な森にいた。
木や草花どれもやけに大きく見えるし、自分の体も妙に華奢だった。
色々疑問に思いながらも、1人は寂しくて人間に会うために森をさまよい歩く。
ようやく出会えた初めての人間に思わず話しかけたものの、言葉は通じず、なぜか捕らえられてしまい、無残な目に遭うことに。
捨てられ、意識が薄れる中、僕を助けてくれたのは、優しい騎士だった。
彼の献身的な看病に心が癒される僕だけれど、彼がどんな思いで僕を守っているのかは、まだ気づかないまま。
少しずつ深まっていくこの絆が、僕にどんな運命をもたらすのか──?
騎士×妖精
アプリで都合のいい男になろうとした結果、彼氏がバグりました
あと
BL
「目指せ!都合のいい男!」
穏やか完璧モテ男(理性で執着を押さえつけてる)×親しみやすい人たらし可愛い系イケメン
攻めの両親からの別れろと圧力をかけられた受け。関係は秘密なので、友達に相談もできない。悩んでいる中、どうしても別れたくないため、愛人として、「都合のいい男」になることを決意。人生相談アプリを手に入れ、努力することにする。しかし、攻めに約束を破ったと言われ……?
攻め:深海霧矢
受け:清水奏
前にアンケート取ったら、すれ違い・勘違いものが1位だったのでそれ系です。
ハピエンです。
ひよったら消します。
誤字脱字はサイレント修正します。
また、内容もサイレント修正する時もあります。
定期的にタグも整理します。
批判・中傷コメントはお控えください。
見つけ次第削除いたします。
自己判断で消しますので、悪しからず。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる