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事の起こりは本日、出勤後すぐの会社での事。
いつの間にか声もかからなくなっていた職場の集まりに、今回は何故かしつこく誘われた。
酒の席というのは何かとトラブルが起こりやすいし、特に用事もなかったけれど面倒事の予感しかしなくて、『平坦』の為に当たり障りのない理由をつけて断ろうとした。
だが佐多はそれを許さなかった。佐多というのは私の同期で、私を飲み会に誘った男だ。今回幹事をしていると言う。
本人は隠しているつもりなのだろうが、いつものように愉し気に細められた目は丸わかりで、何かがある事は容易に想像できた。
今日の集まりは今年入った新入社員の歓迎会なのだそうだ。歓迎会なんて知らない間にとっくの昔に終わったものと思っていた。半年以上経ってから歓迎会と言うには少々遅い気もする。まぁそれは今はそう大した問題ではない。それよりも佐多が幹事をしているという事の方が気になった。
佐多という男はいい性格をしている。入社して仕事にも慣れ始めた頃、本性を現した佐多に私や他にも数名がちょっとした嫌がらせを受けた。それは本当に小さな事で、大事な書類にお茶を零されそうになったり、足をわざと出して転ばされそうになったり、ここで重要なのはすべて『未遂』で終わるという事だ。そしてすぐ申し訳なさそうに謝るのだから誰も故意だとは思っていない。
みんな反応は同じ。驚いて焦って佐多の謝罪に笑顔で応える。私だけがただひとり何事もなかったかのように振舞った。勿論無視したりはしていない。難なく回避し、「大丈夫」と平坦に言っただけだ。
私は平凡な人生を望んでいるので、心を平坦に保つ必要があった。だからこのくらいの事で焦ったりなどしない。冷静に対処して、終わる。
佐多にしてみたらうまく躱され、相手にもされず下に見られたと思ったのだろう。それからターゲットは私に集中し、飽きる事なく嫌がらせのような意地悪のような事がずっと続いている。周囲からは佐多は明るくいい人で、少しおっちょこちょいという愛すべきキャラだと認識されているようだが、私は佐多の事を誰かに言うつもりもないし、どうでもいい。
だがそれがもし一番弱い立場である新人に向ったなら話は別だ。見過ごそうとは思わない。
私は平凡な人生を送る事を望んではいるけれど、誰かが傷つけられるのを黙って見ていられる程腐ってはいないのだ。
新人の名前は立木 麗といって、男性ではあるが小柄でとにかく可愛い容姿をしている。いつもほわほわと笑っていて、歩き疲れた旅人を癒してくれる道端に咲く花のように、密かに私を癒してくれていた。
自ら問題へ首を突っ込もうとしているのは分かっていたが、心が平坦であれば道も人生も平坦であるのだともう一度自身に言い聞かせ、私はただ「分かった」と参加の意を示した。
私は佐多という男の事を『なかった事』だと考えるあまり佐多の矛先が常に自分に向いていて、他に移りようもないなんて事思いもしなかった。
そもそも私に拘る理由も、私の事を気にくわないからだと思っていた。
いつの間にか声もかからなくなっていた職場の集まりに、今回は何故かしつこく誘われた。
酒の席というのは何かとトラブルが起こりやすいし、特に用事もなかったけれど面倒事の予感しかしなくて、『平坦』の為に当たり障りのない理由をつけて断ろうとした。
だが佐多はそれを許さなかった。佐多というのは私の同期で、私を飲み会に誘った男だ。今回幹事をしていると言う。
本人は隠しているつもりなのだろうが、いつものように愉し気に細められた目は丸わかりで、何かがある事は容易に想像できた。
今日の集まりは今年入った新入社員の歓迎会なのだそうだ。歓迎会なんて知らない間にとっくの昔に終わったものと思っていた。半年以上経ってから歓迎会と言うには少々遅い気もする。まぁそれは今はそう大した問題ではない。それよりも佐多が幹事をしているという事の方が気になった。
佐多という男はいい性格をしている。入社して仕事にも慣れ始めた頃、本性を現した佐多に私や他にも数名がちょっとした嫌がらせを受けた。それは本当に小さな事で、大事な書類にお茶を零されそうになったり、足をわざと出して転ばされそうになったり、ここで重要なのはすべて『未遂』で終わるという事だ。そしてすぐ申し訳なさそうに謝るのだから誰も故意だとは思っていない。
みんな反応は同じ。驚いて焦って佐多の謝罪に笑顔で応える。私だけがただひとり何事もなかったかのように振舞った。勿論無視したりはしていない。難なく回避し、「大丈夫」と平坦に言っただけだ。
私は平凡な人生を望んでいるので、心を平坦に保つ必要があった。だからこのくらいの事で焦ったりなどしない。冷静に対処して、終わる。
佐多にしてみたらうまく躱され、相手にもされず下に見られたと思ったのだろう。それからターゲットは私に集中し、飽きる事なく嫌がらせのような意地悪のような事がずっと続いている。周囲からは佐多は明るくいい人で、少しおっちょこちょいという愛すべきキャラだと認識されているようだが、私は佐多の事を誰かに言うつもりもないし、どうでもいい。
だがそれがもし一番弱い立場である新人に向ったなら話は別だ。見過ごそうとは思わない。
私は平凡な人生を送る事を望んではいるけれど、誰かが傷つけられるのを黙って見ていられる程腐ってはいないのだ。
新人の名前は立木 麗といって、男性ではあるが小柄でとにかく可愛い容姿をしている。いつもほわほわと笑っていて、歩き疲れた旅人を癒してくれる道端に咲く花のように、密かに私を癒してくれていた。
自ら問題へ首を突っ込もうとしているのは分かっていたが、心が平坦であれば道も人生も平坦であるのだともう一度自身に言い聞かせ、私はただ「分かった」と参加の意を示した。
私は佐多という男の事を『なかった事』だと考えるあまり佐多の矛先が常に自分に向いていて、他に移りようもないなんて事思いもしなかった。
そもそも私に拘る理由も、私の事を気にくわないからだと思っていた。
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