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10 曲がりくねった道もあなたとなら
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私は佐多と別れるとすぐに駅の近くのベンチに座り、ある人が来るのを待っていた。
「小波っ!」
名前を呼ばれスマホを見ていた顔を上げると、そこには私の急な呼び出しにも関わらず急いで走ってきてくれたのだろう、肩で息をする私が今一番会いたい人がいた。
駆け寄ってきて、心配そうに私の顔を覗き込む。
「――何かあったのか? 大丈夫か?」
大袈裟なくらい心配して私の頭の先から足のつま先まで何事もないかと確認していく――耕平。
耕平とは立木家でのあの告白と謝罪から初めて会う。
耕平を待つ間あれからどうしても読む事ができなかったメッセージを開いていた。変わらず私を気遣う耕平の温もりが感じられる温かなメッセージばかりで胸が熱くなった。
今も私が呼んだらすぐに駆けつけてくれて、これが私に対する愛情からくるものじゃないとしてもいいと思えた。
たとえ報われなくても私の気持ちを伝えて、知っていて貰えたらそれでよい。
私は私である為に耕平に気持ちを伝える。
微笑む私を怪訝そうな顔で見る耕平を真っすぐに見つめる。
「耕平が好き」
あまりにもさらりと告げたものだから、耕平はすぐには何を言われたのか分からなかったのかきょとんとしていて、そして段々顔が真っ赤に染まっていった。金魚のように口をパクパクとさせて、口元を片手で覆うと天を仰いだ。
それからどのくらい経っただろうか、耕平は軽く咳払いをして平静を装おうとしているようだが口元が緩んでいてしまらない。が、そんなところも可愛いと思ってしまう。
こんなにいい男を捕まえて可愛いもないものだが、可愛いと思ってしまうのだからしょうがない。
「――ほ……本当に?」
絞り出すように問われ、笑顔で答える。
「本当に」
「俺――は最初から失敗ばかりしてたから……。麗の兄だし、小波は俺たちの事を許してはくれたけどだからって好きになって貰えるとは思っていなかった。それに小波には既に相手がいるようだったし、一番傍にいる事はできないと思ってた。それでも小波には幸せになって欲しくて、どんな立場であっても小波を守って幸せになる手伝いをしたいと思っていたんだ。嫌な事辛い事は全部俺が引き受けるつもりだった。それで小波が幸せになれるならって。こんな事麗にバレたら怒って泣かれそうだけど、それでも止められない。俺は自分の事より小波が大事なんだ」
本当に耕平は私の心をよくも悪くも刺激する。
耕平には少しの期待と諦めと、大きな勇気を貰った。耕平を好きになって私は考えない事を止めたのだ。見ない事を止めたのだ。
『大丈夫、目を開けて? 私が私のまま見る世界も案外いいものだよ』
背中を丸め両手で目隠しをしたあの頃の自分を私は抱きしめる。
「――私は耕平が好きです。他に相手なんかいないし、どんなに痛くても過去の傷もひっくるめて私です。そのままの私で耕平と一緒にどんな道も歩いて行きたい。だから耕平が私を大事に想ってくれる事は嬉しいけれど、自分の事も大事にして欲しい――」
感情が、耕平への気持ちが溢れて涙がぽろりと零れた。耕平は目を細め、私の涙をそっと拭ってくれた。私はそれだけでいいのだ。悲しい時辛い時、そっと涙を拭ってくれる優しさが嬉しい。寄り添ってくれる温もりが愛しい。
耕平が私の事を大事に想ってくれるのと同じで、私も耕平の事を大事に想っている。私は私の事を理解して受け入れてくれる人を望んでいたけれど、痛みのすべてを引き受けて守ってくれる人を求めてはいない。私が私のままであるように耕平も耕平のまま自分の事も大事にして欲しい。
耕平は少しだけ逡巡する様子を見せたが、私の言葉をきちんと理解してくれて、
「――分かった。自分の事も大事にする。小波、愛してる。もう絶対に離さないから覚悟して? 一緒に幸せになろう」
と優しく微笑んで、抱きしめてくれた。
耕平の腕の中で私は嬉しくて更に涙を零し、何度も頷いた。
*****
私の歩んできた道は、決してゆるやかでも平坦でもなかった。だけど平坦な道だったと思い込む事で心の平穏を保っていた。
今私の目の前に広がる道は――よく分からない。迷路のように道に迷うかもしれないし、凸凹として簡単には進めないものかもしれないし上り続けなくてはいけない傾斜のきつい坂かもしれない。
それでも私は逃げたいとは思わないし、平坦であれとも思わない。
耕平と一緒ならきっとどんな道も楽しいと思えるからだ。
耕平とふたり、ただ守ってもらうのではなく、手を取り合って一緒に歩いて行く。他の誰でもない耕平となら、どんな道だってきっとずっとずっと歩いていけるのだ。
私は耕平と出会って、本当に歩きたい『道』を見つけたのかもしれない。
-終わり-
※番外編 1・2・3があります。
「小波っ!」
名前を呼ばれスマホを見ていた顔を上げると、そこには私の急な呼び出しにも関わらず急いで走ってきてくれたのだろう、肩で息をする私が今一番会いたい人がいた。
駆け寄ってきて、心配そうに私の顔を覗き込む。
「――何かあったのか? 大丈夫か?」
大袈裟なくらい心配して私の頭の先から足のつま先まで何事もないかと確認していく――耕平。
耕平とは立木家でのあの告白と謝罪から初めて会う。
耕平を待つ間あれからどうしても読む事ができなかったメッセージを開いていた。変わらず私を気遣う耕平の温もりが感じられる温かなメッセージばかりで胸が熱くなった。
今も私が呼んだらすぐに駆けつけてくれて、これが私に対する愛情からくるものじゃないとしてもいいと思えた。
たとえ報われなくても私の気持ちを伝えて、知っていて貰えたらそれでよい。
私は私である為に耕平に気持ちを伝える。
微笑む私を怪訝そうな顔で見る耕平を真っすぐに見つめる。
「耕平が好き」
あまりにもさらりと告げたものだから、耕平はすぐには何を言われたのか分からなかったのかきょとんとしていて、そして段々顔が真っ赤に染まっていった。金魚のように口をパクパクとさせて、口元を片手で覆うと天を仰いだ。
それからどのくらい経っただろうか、耕平は軽く咳払いをして平静を装おうとしているようだが口元が緩んでいてしまらない。が、そんなところも可愛いと思ってしまう。
こんなにいい男を捕まえて可愛いもないものだが、可愛いと思ってしまうのだからしょうがない。
「――ほ……本当に?」
絞り出すように問われ、笑顔で答える。
「本当に」
「俺――は最初から失敗ばかりしてたから……。麗の兄だし、小波は俺たちの事を許してはくれたけどだからって好きになって貰えるとは思っていなかった。それに小波には既に相手がいるようだったし、一番傍にいる事はできないと思ってた。それでも小波には幸せになって欲しくて、どんな立場であっても小波を守って幸せになる手伝いをしたいと思っていたんだ。嫌な事辛い事は全部俺が引き受けるつもりだった。それで小波が幸せになれるならって。こんな事麗にバレたら怒って泣かれそうだけど、それでも止められない。俺は自分の事より小波が大事なんだ」
本当に耕平は私の心をよくも悪くも刺激する。
耕平には少しの期待と諦めと、大きな勇気を貰った。耕平を好きになって私は考えない事を止めたのだ。見ない事を止めたのだ。
『大丈夫、目を開けて? 私が私のまま見る世界も案外いいものだよ』
背中を丸め両手で目隠しをしたあの頃の自分を私は抱きしめる。
「――私は耕平が好きです。他に相手なんかいないし、どんなに痛くても過去の傷もひっくるめて私です。そのままの私で耕平と一緒にどんな道も歩いて行きたい。だから耕平が私を大事に想ってくれる事は嬉しいけれど、自分の事も大事にして欲しい――」
感情が、耕平への気持ちが溢れて涙がぽろりと零れた。耕平は目を細め、私の涙をそっと拭ってくれた。私はそれだけでいいのだ。悲しい時辛い時、そっと涙を拭ってくれる優しさが嬉しい。寄り添ってくれる温もりが愛しい。
耕平が私の事を大事に想ってくれるのと同じで、私も耕平の事を大事に想っている。私は私の事を理解して受け入れてくれる人を望んでいたけれど、痛みのすべてを引き受けて守ってくれる人を求めてはいない。私が私のままであるように耕平も耕平のまま自分の事も大事にして欲しい。
耕平は少しだけ逡巡する様子を見せたが、私の言葉をきちんと理解してくれて、
「――分かった。自分の事も大事にする。小波、愛してる。もう絶対に離さないから覚悟して? 一緒に幸せになろう」
と優しく微笑んで、抱きしめてくれた。
耕平の腕の中で私は嬉しくて更に涙を零し、何度も頷いた。
*****
私の歩んできた道は、決してゆるやかでも平坦でもなかった。だけど平坦な道だったと思い込む事で心の平穏を保っていた。
今私の目の前に広がる道は――よく分からない。迷路のように道に迷うかもしれないし、凸凹として簡単には進めないものかもしれないし上り続けなくてはいけない傾斜のきつい坂かもしれない。
それでも私は逃げたいとは思わないし、平坦であれとも思わない。
耕平と一緒ならきっとどんな道も楽しいと思えるからだ。
耕平とふたり、ただ守ってもらうのではなく、手を取り合って一緒に歩いて行く。他の誰でもない耕平となら、どんな道だってきっとずっとずっと歩いていけるのだ。
私は耕平と出会って、本当に歩きたい『道』を見つけたのかもしれない。
-終わり-
※番外編 1・2・3があります。
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