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13 番外 3 幸せの音 @小波
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耕平と付き合い出して三年が経っていた。流石に何もなかった、とは言わないが私たちは凸凹道を楽しみながら共に歩んできた。
同性カップルという事で人の目を窮屈に思う事もあるが、二年程前からふたりで暮らすこの場所に帰ればすべてが大した事じゃないって思えた。これは前みたいに無理矢理思い込んだ結果ではなくて、自然とそう思えるのだから耕平の存在がどれだけ大きいか。
それを耕平に言うと、「それは俺も同じだよ。小波を好きになって良かった」って優しく抱きしめてくれるから、私もありのままの自分の事を好きでいられる。
*****
今日はこれからお客さんが来る予定で、私は朝早くから忙しく動き回っていた。
掃除をしたり料理をしたり、勿論耕平も手伝ってくれているがその表情は不愉快そうに歪んでいる。別に耕平は家の事をするのが嫌ではないし、今回は手伝いと表現したが普段から率先してやってくれているのだ。
一緒に暮らすようになって分かったのは、耕平は思っていた以上にマメな性格で、自己犠牲の塊のような人だった。だからやり過ぎないように私が調整しないといけないくらい色々な事をやりたがっだ。
それなら今日の様子はどうして? と思われるかもしれないが、問題は今日これから迎える『お客さん』にあった。
そのお客さんというのが、可愛い弟の麗くんとその恋人になったばかりの佐多なのだ。
私と佐多との事は耕平も知っていて、私に意地悪をしていた事もそれが好意によるものだった事も、今は和解して悪友となった事も知っている。
それでも私への仕打ちやべたべたと私に触れていた事は受け入れ難い事らしく、麗くんとの事を知った時は今すぐにでも殴りに行きかねない勢いだった。
私も気持ちは分からないでもなかったけど、ふたりが愛し合っているのなら反対するのは可哀そうだと思った。
そう言う私も、最初に麗くんとの事を佐多に相談された時は少しだけ佐多を疑った。また例の悪癖が? と。だがそれは杞憂で、本当に麗くんの事を大切に想っているのだと分かり、麗くんも佐多を好きなら応援しようと決めたのだ。
私が変わったように佐多も変わったのだ。愛が人を変える、という事なのだろう。
そこは耕平も分かっているはずで。
だからこれは多分相手が誰であったとしても同じで、兄として弟をとられる気がして寂しいのだと思う。
「私がいても寂しいですか?」と問えば「それはまた別の……」と言い淀んでいるから、麗くんに恋人ができても耕平がお兄さんな事に変わりはないし、私たちだけは味方でいたいのだと伝えると、「そうだな……」ってため息交じりでも言ってくれた。我ながらずるい言い方をしたとは思うが、そうでもしないと耕平の方も収まりがつかないのだろうと思った。
耕平はいつだって私や麗くんの幸せを願っているのだから、本当は応援してあげたいに決まっているのだ。
だからもしも佐多が麗くんを泣かせる事があったなら耕平は勿論、私も黙ってはおかない。
「私も麗くんの事を本当の弟だと思っています。だから兄としてふたりの幸せを見守りましょう? ただ――もしもの時は私だって黙っていません」
と怖いくらい綺麗に笑うと、耕平は今度こそ納得したように大きく頷いてくれた。
「小波が怒ったら本当に怖いからな。そう思うと佐多に少しだけ同情するよ」
「それは――佐多が麗くんを泣かせなければいいだけの話です」
と言うと耕平はおかしそうに「そりゃそうだ」と言って笑った。
少しだけ身を切った感はあるが耕平が笑ってくれたからいい事にして、手を止めていた料理に戻った。
背中に感じる穏やかな眼差しに、幸せを感じる。きっと今、耕平は私と同じ気持ちでいるのだと思う。
耕平と出会えて、こうやってふたりでいられる事が幸せだ。けんかして笑いあって愛し合って――、ずっと幸せは続いていく。
麗くんと佐多もきっと同じ――。
この家を購入する際、ひとつだけ拘ったものがあった。
それは来客を知らせるチャイムだ。
『リンゴン』という教会の鐘の音に似た、幸せの音にしたいと思ったのだ。
私たちは帰宅時必ずチャイムを鳴らす。それがひとりであってもふたりであっても変わらない。
その音は帰宅を知らせるというよりは『幸せだよ』って意味だから。
そして今日は――『リンゴン』と幸せな来客を知らせる音がして、ふたりでそれを笑顔で迎えるのだ。
-終わり-
同性カップルという事で人の目を窮屈に思う事もあるが、二年程前からふたりで暮らすこの場所に帰ればすべてが大した事じゃないって思えた。これは前みたいに無理矢理思い込んだ結果ではなくて、自然とそう思えるのだから耕平の存在がどれだけ大きいか。
それを耕平に言うと、「それは俺も同じだよ。小波を好きになって良かった」って優しく抱きしめてくれるから、私もありのままの自分の事を好きでいられる。
*****
今日はこれからお客さんが来る予定で、私は朝早くから忙しく動き回っていた。
掃除をしたり料理をしたり、勿論耕平も手伝ってくれているがその表情は不愉快そうに歪んでいる。別に耕平は家の事をするのが嫌ではないし、今回は手伝いと表現したが普段から率先してやってくれているのだ。
一緒に暮らすようになって分かったのは、耕平は思っていた以上にマメな性格で、自己犠牲の塊のような人だった。だからやり過ぎないように私が調整しないといけないくらい色々な事をやりたがっだ。
それなら今日の様子はどうして? と思われるかもしれないが、問題は今日これから迎える『お客さん』にあった。
そのお客さんというのが、可愛い弟の麗くんとその恋人になったばかりの佐多なのだ。
私と佐多との事は耕平も知っていて、私に意地悪をしていた事もそれが好意によるものだった事も、今は和解して悪友となった事も知っている。
それでも私への仕打ちやべたべたと私に触れていた事は受け入れ難い事らしく、麗くんとの事を知った時は今すぐにでも殴りに行きかねない勢いだった。
私も気持ちは分からないでもなかったけど、ふたりが愛し合っているのなら反対するのは可哀そうだと思った。
そう言う私も、最初に麗くんとの事を佐多に相談された時は少しだけ佐多を疑った。また例の悪癖が? と。だがそれは杞憂で、本当に麗くんの事を大切に想っているのだと分かり、麗くんも佐多を好きなら応援しようと決めたのだ。
私が変わったように佐多も変わったのだ。愛が人を変える、という事なのだろう。
そこは耕平も分かっているはずで。
だからこれは多分相手が誰であったとしても同じで、兄として弟をとられる気がして寂しいのだと思う。
「私がいても寂しいですか?」と問えば「それはまた別の……」と言い淀んでいるから、麗くんに恋人ができても耕平がお兄さんな事に変わりはないし、私たちだけは味方でいたいのだと伝えると、「そうだな……」ってため息交じりでも言ってくれた。我ながらずるい言い方をしたとは思うが、そうでもしないと耕平の方も収まりがつかないのだろうと思った。
耕平はいつだって私や麗くんの幸せを願っているのだから、本当は応援してあげたいに決まっているのだ。
だからもしも佐多が麗くんを泣かせる事があったなら耕平は勿論、私も黙ってはおかない。
「私も麗くんの事を本当の弟だと思っています。だから兄としてふたりの幸せを見守りましょう? ただ――もしもの時は私だって黙っていません」
と怖いくらい綺麗に笑うと、耕平は今度こそ納得したように大きく頷いてくれた。
「小波が怒ったら本当に怖いからな。そう思うと佐多に少しだけ同情するよ」
「それは――佐多が麗くんを泣かせなければいいだけの話です」
と言うと耕平はおかしそうに「そりゃそうだ」と言って笑った。
少しだけ身を切った感はあるが耕平が笑ってくれたからいい事にして、手を止めていた料理に戻った。
背中に感じる穏やかな眼差しに、幸せを感じる。きっと今、耕平は私と同じ気持ちでいるのだと思う。
耕平と出会えて、こうやってふたりでいられる事が幸せだ。けんかして笑いあって愛し合って――、ずっと幸せは続いていく。
麗くんと佐多もきっと同じ――。
この家を購入する際、ひとつだけ拘ったものがあった。
それは来客を知らせるチャイムだ。
『リンゴン』という教会の鐘の音に似た、幸せの音にしたいと思ったのだ。
私たちは帰宅時必ずチャイムを鳴らす。それがひとりであってもふたりであっても変わらない。
その音は帰宅を知らせるというよりは『幸せだよ』って意味だから。
そして今日は――『リンゴン』と幸せな来客を知らせる音がして、ふたりでそれを笑顔で迎えるのだ。
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