リナ・セレネーレの物語

桜井あこ

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一年生

嵐の前に

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「美味しかったわね」
「ヴェズラさんに聞いてよかった~」

あの後は探索をしたりお土産を買ったりして忙しかった。
途中で買い食いをして写真を撮ってなど、普段はできないことをたくさんしていけたと思う。
明日は英雄の窟へ行くので、早めに帰って疲れを癒そうと思い、今はもう宿に戻っている。
ここは温泉も有名らしく、旅人が疲れをほぐすのにはもってこいらしい。
我らがオシャレ番長はそこへワクワクした様子で行き、リリーは外で庭師さんとしゃべっていて、イケメン共は優雅に本を読んでいた。
各々の時間を心地よく過ごしていると、嵐は突然やってきた。

「たっのも~!」

扉がばしーんと音を立てる。
え、大丈夫? 部屋ぶっ壊れてない?
思わぬ事態に逆に冷静になる。
そこにいるのは外ハネの銀髪、やんちゃに笑う口元。服が泥だらけ、というほどではないが薄汚れている。

「ーーゲイル? 何してるの」 

リリーが呆れたようにつぶやく。
王子もフィンさんも似たような表情をしているから、きっと同じことを思っているはずだ。

「いや? もう部屋戻ってるかもしれねぇなって」
「だからって乱暴にドアを開けない」
「へーい」
「リリーもしかしてお母さんだったりする?」
「じゃあリナがお父さんね」
「え」
「私は娘になろっかなー」
「え」
「私はゲイルの幼馴染がいい!」
「え」
「大丈夫リナさっきからえしか言ってないよ」
「誰のせいよ!」
「リナのせい?」
「リリーのせいよ」

あぁもう話が脱線してる。
結局ゲイル何しにきたの? と無理矢理話を戻した。

「俺このまま話進まないのかと思った」

なんかごめん。
で? 庭師さんと別れベットに腰を落ち着けたリリーが話を促した。

「実はよ、先生たちが話してたの聞いちゃったんだよ」
「なになに? 怖い話?」
私はワクワクして身を乗り出した。
「ん~。ある意味怖いって感じだな、あれは」

あ、あんまり怖くなさそうな話題だな。

「今日の夜に嵐が来るかもしれねえんだってよ。今夜肝試しするだろ? だからやめた方がいいのかどうとか」
「あ~そういうことね」

私はこの前の放課後を思い出す。


「えーっと、今日は宿泊学習での夜にする親睦会の内容を決めたいと思います」

実行委員の子が黒板に字を書く。
前に集計をしていたもので上位三組を、さらに絞ってひとつに決めるらしい。
黒板には、

『1・肝試し
 2・ドライフラワー作り
 3・営火       』

の三つが書かれていた。
肝試しは男子の票が多そうだ。
そして至極真面目で違反も何もできない論議を交わしーー・・・・・・。
営火をし、順番に肝試しに行く。というものになった。
そこまでは良かったのだが肝試しを誰と、何人と行くのか手で揉め、順番は何番にするか揉め、ドライフラワー派からの批判で揉め。
とにかく入り乱れた時間だったのだ。


「何時からだっけ」
「ちょっと待って~・・・・・・十九時から」
「で、嵐はいつ来るって?」
「いや、まだ確証はないらしい」
「なるほど」 

山の天気なんて気まぐれだもんな。

「それ、詳しく調べようか?」

ん? この声の主はーー・・・・・・。

「フィンさん?」
赤い目を細く光らせていて、その手には水晶玉が握られていた。
それは一体なんだろう。見たことがない。
私の考えを察したのか「これはね、」と説明をしてくれた。

これは人魚の涙という種類の水晶で、その水晶に知りたいことを聞けば、水晶が光り輝き教えてくれるらしい。この水晶の特性は水の中に入ると空気の泡が持ち主を包んでくれるという。
けれど、邪な気持ちで質問をしたら水晶が濁り二度と使えなくなるのだ。

興味深い。そもそも水晶に種類があるということに驚きだ。 

「それじゃ早速やろうか」

フィンさんの目が心なしかキラキラしてる・・・・・。


「Γοργόνα δάκρυα, πες μου τι θέλω」人魚の涙よ、我が求めるものを教えたまえ
  

フィンさんが呪文を紡ぐと共に水晶が輝く。
目に痛い輝き方じゃなくて、逆に目が癒されている感覚だ。
ひとしきり光った後に赤とオレンジが混ざった色が見える。
これは営火っぽい。
笑い声も聞こえる。
すると一気に景色が暗くなった。
小さな白い光が浮かび上がる。
肝試しに行くときに持って行く灯りだ。
ゴオオオと暗闇に吸い込まれるような音がして、思わず肩が震える。
金属を引っ掻くような金切り声みたいなものも聞こえる。

「すごく本格的ね」
「一応あんたも実行委員だったんでしょ? やっぱり魔法でこういうふうにしてるの?」
「いや、俺こんなん知らねぇぞ」
「「ーー・・・・・・え?」」 

全員の声が重なった。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
あけましておめでとうございます。桜井あこです(遅せぇよ)
なんか倦怠期で書くペースが異様に遅くなっておりました。
営火ってキャンプファイヤーのことらしいですよ。
私は自然学習が感染症で行けなくて、夜みんなで学校に集まってキャンプファイヤーをした思い出があります。
肝試しは怖いの無理なので一回も行ったことないです。
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