英雄じゃなくて声優です!

榛名

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第64話 魔王降臨です

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『異世界ではロリ婚は合法です』という作品があった。
原作はweb小説サイトで人気を集め、漫画化、そしてアニメ化。
マルチメディア展開で売り出されていたのだが、突然の不幸に見舞われた。
メインヒロイン役の声優、山田真弓が収録当日に自宅で遺体となって発見されたのだ。

死因は心不全と発表されたが、様々な憶測が飛び交い、ネットでは関係各所が炎上していた。
声優を差し替えて放送されたアニメが駄作としか呼べない内容だったのもこれに拍車をかけた。

もちろんそれは原作者にも飛び火した。
どうしようもない駄作で主演声優を死に追いやった。
収録前に亡くなったおかげでアレが遺作にならなくてよかった。
もはや呪いの類、次回作では誰が死ぬ事になるのか?

それら誹謗中傷は止むことがなく原作者を苛み続け・・・
やがて、その原作者、水樹ダイアナ(本名、水木花子)は自殺した。



果てしない闇の中・・・

(ここは死後の世界?地獄?)

少なくとも天国には見えなかった。
声優を死に追いやった罪で自分は地獄に落ちるのだろうか・・・そんな馬鹿な。
あれらは根も葉もない事実無根の噂話だ・・・そのはずだ。

彼女の中で憎しみの炎が燃え上がる。
なぜ自分が叩かれなければならないのか。
自分の書いた物語で皆喜んでくれたはずじゃなかったのか。
「アニメ化おめでとうございます」そう言っていた相手がなぜ同じ口で叩くのか。
そもそもなぜあの声優が死ななければならないのか。
理不尽だ、世界はひどく理不尽だ。

憎かった、世界そのものが憎かった。

(忘れるものか・・・例え生まれ変わっても私は・・・この世界を・・・)

・・・その願い、聞き届けた・・・

全身の感覚が暗闇に飲み込まれる中・・・彼女は声を聞いたような気がした。

そして・・・


目の前に開けた光景に彼女は驚愕した。

数十人・・・いや百人近くいるだろうか。
彼女の前に大勢の人間が綺麗に並び跪いていた。

否、彼らは決して人間ではない・・・それぞれ人間にはあり得ない特徴を備えていた。
彼らの先頭で、その背に蝙蝠の翼を生やした男が口を開いた。

「この時が来るのをお待ちしておりました、我らの王よ・・・」
「え・・・何これ・・・」

目に映るは大自然と言うにはいささかおかしな・・・歪んだ木々、妙な形の山々・・・
明らかに現実と違う光景が広がっている・・・

異世界召喚・・・自分が書いた物語が脳裏をよぎった。

「新たな王よ、願わくば偉大なる御名をお聞かせください」

目の前の男は名前を言えと言っているようだ。
彼女は震える声で名前を名乗る。

「私はダイアナ・・・水樹ダイアナ」

その声を聞いた異形の人々・・・魔族達が歓声を上げた。

「第七!第七の魔王様!」
「魔王ミズキ様!」
「第七の魔王ミズキ様万歳!」

ダイアナを聞き間違えたのだろうか、彼らは口々に第七の魔王と言っていた・・・

「え・・・第七?魔王?」
「はい、貴女様こそ500年前に討たれし第六の魔王の後継者、我ら魔族を導く魔王陛下にございます」

(ま、魔王ものだこれ・・・)


大陸北東・・・『魔の地』と呼ばれる汚染されたこの土地に追いやられた存在、魔族。
彼ら魔族は一人一人は優れた能力を持つものの協調性がなく、数に勝る人類に太刀打ちが出来なかった。
しかし、数百年に一度、そんな彼らを統率する存在が現れる事がある。

魔族の神が住まうという異界から現れし存在、魔王。
彼らの王たるその者は魔族達を惹きつける何かを持っているという。
ここに集まった魔族達は、まさにミズキからそれを感じていた。

ただの人間の少女にしか見えぬ彼女にどうしようもなく惹かれる・・・彼女に逆らう事など出来ない。

「さぁ魔王ミズキ様、我らにご命令ください」

全員が主人の指示を待つ忠犬のような目でミズキを見つめてくる。
ミズキは魔王として自分がなすべき事を考え始めた。

(魔王ものの定番としては、勇者に討たれる展開の回避・・・となると・・・)

ミズキは目の前の翼の男を観察した。
がっしりとした体格、蝙蝠の翼、いかにも悪役めいた風貌・・・

(よし、君に決めた)

・・・哀れな生贄に多少の同情をしつつ彼女は宣告する。

「じゃあ今からアンタに魔王をやってもらおうかな」
「はい?」
「見た目もそれっぽいし・・・名前は?」
「バ、バルエルと申します」
「バルエル、悪くないわね・・・皆、今からこのバルエルを魔王として扱うように」

魔族達に動揺が走る・・・彼女の命令に逆らう気はないが、他の者を魔王として崇める気にはなれない。
これにはタナボタ状態のバルエルも同意見だったようで辞退を申し出ようとする。

「しかし、ミズキ様を差し置いて私などが魔王を名乗るなど・・・」
「あくまでも影武者よ影武者、わかる?
 私が堂々と魔王でございって表に出てたら、どこかで暗殺されかねないでしょうが」
「な・・・なるほど・・・」
「私は見ての通り・・・ってそういえば見た目どうなってるんだろう・・・鏡かなんかない?」

彼女のその声に、すかさず鏡が数枚差し出される。

「ん、ありがとう・・・どれどれ」

ミズキはその一枚を手に取り、自らの姿を確認した・・・そこには見慣れぬ少女の姿が映っていた。
まだ幼さが残るがなかなかに美しい・・・彼女の作品『ロリ婚』に登場してもおかしくない美少女だ。
彼女は自分をこの姿で転生させた存在に親近感を覚えた。

(いいセンスだわ、魔族の神ってのに感謝しなきゃ)

ちなみに鏡を受け取ってもらえた魔族はものすごく嬉しそうにしていた。
そんな彼を周りの魔族達が嫉妬の目で見ている。

「ではこれから、私はただの人間って事で通すから、くれぐれも正体をバラしたりしないように!」
「「はい魔王様!」」

魔族達が声を合わせて応える・・・魔王様と。

(こいつら・・・馬鹿なの?)

「私の正体は隠すって言ってるでしょ!私のこと魔王様って呼ぶの禁止!」
「「はい魔王様!」」

ミズキは頭を抱える・・・魔族達は彼女の予想以上に馬鹿っぽかった。

「うぅ・・・せめて名前で呼びなさい」
「「はいミズキ様!」」

なんとかなった。

「とにかく今後はこのバルエルを通して命令する事になると思うから、皆しっかり従うように!」
「「はいミズキ様!」」

「よしっと・・・じゃあバルエル、魔王城へ行くわよ、案内なさい」
「ミズキ様・・・魔王城とは?」
「えっ・・・ホラ、魔王が住む居城というかそういうの・・・まさか・・・」
「申し訳ありません、そういった物は500年前の戦いで全て失われたと伝わっております」
「ああ・・・先代の、第六の魔王ってのは倒されて今は何も残っていない、と・・・」
「はい、その通りでございます」
「じゃあアンタ達の家に案内なさい、出来るだけ魔王の仮住まいに相応しいやつで・・・」
「我ら全員、一つの洞窟で暮らしているのですが・・・」
「ああ、地下迷宮的なやつね、そこに案内なさい」


・・・その洞窟を前にミズキは絶句した。

ただの自然洞窟、それもあまり大きくもない・・・地下迷宮などとは程遠かった。
その内部には木で組まれた寝台のようなもの、植物の葉を編んで作られた籠などの道具達。
・・・彼ら魔族達は過酷なサバイバル生活の真っただ中にあったのだ。

「な・・・なんでこんな・・・」
「500年前の敗北の後、我ら魔族は人間達に追われ、この土地で細々と暮らしているのです」
「人間達との和解とか共存は?」
「奴らは魔族を見ると己の名声の為に狩ります・・・共存など出来るはずもありません」
「まぁそうよね・・・」

(ああ、この世界も理不尽なんだ・・・)

深い絶望と憎しみが彼女の中で湧き上がる。
そしてそれら負の感情が彼女の内側で『力』へと変換されていく・・・
『力』の使い方はすぐにわかった、それは手足を動かすかのように、ごく自然に。
彼女は八つ当たりでもするかのように、その『力』を攻撃力に変えて真っすぐ放った。

・・・・・・

(これが・・・魔王の力・・・)

彼女の放ったエネルギーは目の前の洞窟を貫通し、大きな風穴を空けていた。
ヒュウヒュウと風が吹き込んで来て、彼女の漆黒の髪がなびく。

「これがミズキ様の・・・なんと凄まじいお力か・・・」

彼女の傍らでは魔王の力を見せつけられたバルエルが歓喜に打ち震えていた。
圧倒的なその力は、彼ら魔族達の苦難の時代を終わらせてくれるに違いない。

(この『力』で私は・・・この世界に・・・)

だが安易にその『力』に慢心するわけにはいかない。
彼女が今欲するのは情報だ、この先彼女がどう動くかを決めるには、より多くの情報が必要だった。

「バルエル、とりあえずアンタの知っている事を全部話してもらうわよ」

ミズキはギラついた目で彼を見つめ、微笑んだ。


かくして、この世界に第七の魔王が降臨したのである・・・その名をミズキと言った。
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