英雄じゃなくて声優です!

榛名

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第84話 めいきんぐです

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「えいっ!たあっ!」
「マユミ、そこはこう・・・で次はこう」
「うぅ・・・」

大帝都劇場はいつものようにマユミとミーアの練習の為に貸切られていた。
ここで次の公演に向けた練習が毎日行われている・・・人々はそう思っていた。
・・・だがその実態は少々違った。

「ハァハァ・・・やっぱりアクションは難しいよ・・・すぐ息が切れちゃう」
「でもちゃんと動けないと辺境伯に・・・」
「そうだね、本当に出来る人は歩き方だけでわかるっていうし・・・」
「だからもう一度、最初からやろ?」
「そ、その前に休ませて・・・」

今マユミ達がやっているのは演技ではなくアクション・・・殺陣と呼ばれるものの練習だ。
ただ『英雄の力』だけで圧倒したのではいずれボロが出てしまうだろう。
辺境伯を始めとする歴戦の騎士達を欺くにはこの練習は欠かせないのだ。

「それじゃあ魔術の練習する?」
「う・・・それはもっと無理・・・」

魔術を使った演出の為に、ミーアは魔術を習得していた。
元々妖精族の血を引く彼女には才能があったらしく、驚くべき速度で魔術を身に着けていた。
だがマユミには魔術の才能が全くないようで・・・

「しょうがない、がんばるかー」
「うん、がんばろー」

・・・なんとか気力を振り絞って殺陣の練習を再開する。
あらかじめやる動きは決まっているので、格闘技というよりはダンスに近い。
吹っ飛んだりは魔族側でやってくれるので、思ったよりは体力を使わなかった。
それでも元々ひ弱なマユミにはきついものがある。
マユミは毎日ボロボロになって帰ってくるのだった。

・・・・・・

・・・


城の地下室。
かつてミズキが罠に引っ掛かって落ちてきたこの場所に今・・・多くの魔族達が隠れ潜んでいた。

「来週はアンタの番だからね、しっかりやんなさいよ!」
「はいミズキ様!」

ここで人知れず魔族達による練習が行われているなど、誰が想像できただろうか・・・

威圧感のある怖い顔をする練習。
決められた動き通りに動く練習。
攻撃を受けて吹き飛ぶ練習。
演出用の魔術の練習。
ミズキの書いた台本を読んで台詞の練習。
『改心』した後、人間達に粗相がないように礼儀作法の練習。
用途不明の組体操のようなものをさせられている魔族達もいた。

「これも全部アンタ達の為だからね、本番ではひとつのミスも許されないのよ!」
「はいミズキ様!ありがとうございます!」

彼らは何の疑問も抱かず、文句ひとつ言わず、ミズキに言われた通りの事をこなしていく。
曇り一つない純粋な彼らの眼差しに、ミズキはむず痒いものを感じていた。

「ん・・・ふ、不満があるなら言って良いんだからね」
「不満などあろうはずがありません!ミズキ様は偉大な魔王です!」
「もう、そういうのはいいから・・・そろそろ食事にするわよ、並びなさい」

ミズキのその声に魔族達が綺麗に整列する。
ミズキは趣味と称して毎日城の厨房で大量の食材を消費していた。
ほうれんそうがふんだんに入ったその料理は人々から嫌がられ、誰も食べようとしない。
だが、サバイバル生活を続けてきた彼ら魔族には充分過ぎるごちそうだった。

「我らの為に御自ら食事まで・・・なんと感謝すれば良いか・・・」
「いいからさっさと食べなさい」
「ですがミズキ様より先に食べるわけには・・・」
「私はお城でもっと良いの食べてるって言ってるでしょ!」
「ああ、そうでした・・・申し訳ありません」

なかなか魔族達が食べ始めないと思ったら、妙な事を気にしていたようだ。
ミズキは城で豪華な食事をしていると彼らに毎日言っているのだが、忘れてしまうのだろうか・・・

(もう・・・しょうがない連中ね・・・)

「じゃあ私も少しだけ食べるわよ、ほら、いただきます」
「「いただきます」」

ミズキが食べ始めるのを見てから、魔族達はお行儀よく食べ始める。
ミズキの予想通り、野生のほうれんそうが強烈な苦みを発した。

「うげ・・・苦い・・・よくこんなの毎日食べられるわね」
「ミズキ様が我らの為に一生懸命作ってくださった食事ですから」

魔族達を代表してミズキの隣に座ったバルエルが答える。
他の者より身体が大きいからか、彼が食べる食事の量は多かった。

「私が魔王だからって皆そこまで気を使うことないのよ?」
「いえ、皆、本当に心からミズキ様に感謝しているのです。
 ミズキ様がどれだけ我らの事を考えてくれているか・・・この料理からも伝わってきます」

よく見るとミズキの手は慣れない料理で傷だらけだった。
元々コンビニ弁当やカップラーメンばかりの食生活だったミズキだ。
食材を包丁で切り分ける事すらなかなかおぼつかなかった。
しかし彼らの為に毎日作り続けるうちにミズキは少しずつ料理の腕を上げていった。
今日の料理など、ほうれんそうの苦みを少しでも抑えるためにスパイスを効かせてある。
毎日食べている彼らにミズキの努力がわからないはずがないのだ。

「こんなの料理以下のゴミだって、人間社会に出ればすぐにわかるわよ・・・」
「残念な事に私は魔王役なので・・・その料理とやらは当分お預けですね」
「ならもっと残念そうな顔しなさいよ」
「私は魔王役ですので・・・魔王とはそんな顔を見せぬものです」
「ったく・・・バルエル、アンタに損な役割を押し付けた事、恨んでいいのよ?」
「いえ、堂々と魔王を名乗るなど、そうそう出来る事ではありませんので・・・」

魔王の代役は彼の誇りだった、この役目は誰にも渡すつもりはない。
誇らしげなその表情に、ミズキもどこか誇らしく感じるのだった。

「ん、アンタの番は派手な話になるから覚悟なさい・・・ベッタベタだけどね」
「はい、楽しみにお待ちしております」

食事を終えるとミズキは地下室を後にする。
彼女のやりたい話には、魔術を使った演出が不可欠だ。

コンコン・・・

震える手でその部屋の扉をノックする。

「誰かしら?」
「わ、私です、エレスナーデさん」
「どうぞ、お入りになって」

エレスナーデはベッドの上にいた。
動けるまで回復したとはいえ、今だにその怪我は治っておらず、自室で療養中なのだ。
彼女のその怪我はミズキにとって己の罪の象徴でもある。
ミズキはそんな彼女を直視する事に耐えられず、つい目を背けてしまう。

「どうしたの?何か用があってここに来たのでしょう?」
「あ、はい・・・その・・・ごめんなさい」

ミズキのその態度をどう思ったのか・・・エレスナーデがため息を吐く。

「ミズキさん、だったわね・・・あなたはそれを言いに来たの?」
「いえ・・・ちが・・・」

・・・その声を聞いているだけで胸が苦しくて、息が詰まりそうだった。
もちろんミズキがここに来た本来の目的は別にある・・・違う、と言いかけたミズキだが・・・

(いや・・・違わない・・・か・・・)

ミズキは彼女にまだちゃんと謝れていないのだ。
このまま謝れる事も出来ないまま、苦手意識を持って彼女と接するのはよくない。
彼女は勇気をふり絞って、その言葉を口にする。

「エレスナーデさん、ごめんなs・・・」
「その話はもういいわ、全部あの時に聞いていたもの」
「う・・・」

出鼻をくじかれた。
彼女の謝罪の言葉は、最後まで言わせてもらえなかった。

「今あなたが感じている痛み・・・それがあなたへの罰です。
 私はあなたの謝罪を受けるつもりはありません、それで許すつもりもありません」
「・・・」

ミズキも謝って許してもらえるなどとは思ってはいない。
一歩間違えれば彼女は死んでいたかもしれないのだ。
そのことを思えば、一生背負うに値する罪と言えるかも知れない。
・・・重く沈み込むミズキに、エレスナーデは言葉を続けた。

「ですが、私はその事を理由にあなたを拒絶するつもりはありません。
 罰は罰として受け続けてもらいますが、それとは別に私は・・・」
「ええと・・・言ってる事がよくわからな・・・」
「あなたとお友達になりたい」
「へ・・・」

ミズキの目が点になる。
そんな彼女を見つめながら、エレスナーデは笑顔がこぼれそうになるのを堪えていた。

(あの時のマユミもこんな気持ちだったのかしら・・・)

誰も信じることが出来ずにトゲトゲしていた自分の前に現れたマユミ。
お友達になりたい・・・そう言って彼女を真っ直ぐ見つめてきた少女。
あれから自分はどれだけ彼女に救われてきただろうか・・・

「目を逸らさない、この私が罪深いあなたをお友達にしてあげると言っているのよ?」
「は、はい・・・よろしくお願いします」
「それがお友達に対する態度ですか!」
「よ、よろしく・・・エレスナーデさん・・・」
「ナーデよ、私のお友達はみんな私をそう呼ぶわ」
「な、ナーデ・・・」
「はい、よくできました」

だから今度は自分がこの少女を救おう・・・エレスナーデはそう決意したのだった。
ぎこちなくもナーデと呼んだミズキに、抑えていた笑顔が花開く・・・

(な、なんなのよこの女は・・・わけがわからないわ)

マユミなら『ナーデは素直じゃないから』の一言で片付けたかも知れない。
だが今のミズキにそこまでの理解はない、ただ混乱するばかりだ。

「それで、ここに来た目的を聞かせてもらえるかしら?」
「え・・・ええと・・・魔術の事で相談したいことがあって・・・」
「・・・良く聞こえないわ」
「あ、はい」

ミズキは彼女が聞き取りやすいように近づき・・・ベッドの淵に手をかけてしゃがみこむ。
・・・不意にその頭にエレスナーデの手が触れた。

「え・・・」
「ふふっ・・・頭の撫で心地はマユミと変わらないわね」
「ちょ、子供扱いしないでよ!」
「え・・・どう見ても子供じゃない」
「いや、この見た目は・・・だから撫でないでよ!」

そう言いながらもミズキは、頭を撫で続けるエレスナーデを振りほどくことはなかった。

(き、傷が開いたら大変だから・・・我慢よ我慢・・・)

抵抗しない事を良いことにマユミと同じミズキの黒髪の撫で心地を堪能するエレスナーデだった。

「もう・・・そのままでいいから相談には乗ってよね」
「はいはい、魔術を使った演出の話よね」
「・・・しっかり聞こえてたんじゃない」

(本当に、この人は何がしたいのよ・・・)

ミズキの彼女への苦手意識は、しばらく消えそうになかった。
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