箱庭少女~山奥の屋敷で傷付いた少女たちと一緒に暮らすラブコメ~

深山ナオ

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第二章 その一歩は何をもたらす

説得

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 先の件が一段落し、僕は部屋に戻った。
 そして、束枝つかえさんに電話をかける。
 ゆうさんのアルバイトについて、報告するためだ。
 こういう普段と変わった出来事があったときは、報告するのが管理人の仕事の一部になっている。

 コールを鳴らすとすぐに通話が繋がる。
 僕は手短に報告を済ませた。

「この件は旦那様に確認致します。私の独断では判断致しかねますので。三十分後にかけ直しますので、少々お待ちください」

 というのが束枝さんの返事だった。
 そして一度電話を切り、部屋の掃除などの雑事をしながら、着信を待つ。
 
 きっかり三十分後。

 携帯電話に着信が入る。

 ただし、相手は束枝さんではなく――

「初めまして、五十嵐くん。私は錦ノ宮重蔵にしきのみやじゅうぞう、今君たちが住んでいる屋敷の所有者で、君の雇い主でもある」

 重厚な響きの声に、僕は姿勢を正す。
 頭の中に恰幅の良いヤクザのボスのようなイメージが浮かび上がった。

「は、初めまして! 五十嵐修哉です」

 挨拶を返したが、上擦った声が出てしまった。小心者だな、僕……。

「うむ。して、早速本題に入らせてもらうが――音霧おとぎりくんがアルバイトを始めたい、という事だったな」
「はい」

 僕の返事の後、深いため息がスマホ越しに届いてくる。
 直後、スピーカーから重々しい言葉が発せられる。

「その屋敷を彼女たちに与えた側の意見としては、反対、と言わざるを得ない」
「……アルバイトをするのは許可できないということですか」
「そうだ」
「その理由をお聞かせ頂けますでしょうか?」
「屋敷を設立した主目的が、彼女たちの保護であるからだ」

 間髪入れずに、錦ノ宮さんは力強く言い切る。

「保護、ですか」
「そう、保護だ。彼女たちは過去に、常人が一生で体験することが無いような悲劇に見舞われてしまった。何も悪いことはしていないというのに……。そんな彼女たちは、もう二度と傷付かずに生きてもいいじゃないか。私はそう願っている」

 低い声に見え隠れする悲痛さ。
 きっと、錦ノ宮さんは優しい人間なのだろう。
 その優しさを根源とした思いは本物だ。
 続く彼の言葉にはその思いが乗せられていた。

「故に、少しでもリスクがあるような事を彼女たちにさせるわけにはいかないのだ。過保護だと言われようともな」 

 娘思いの父親。
 あるいは孫思いの祖父。

 彼は自分の大切な人を危険から守るという義務感に突き動かされ、人里離れた山奥に屋敷を作った。

 そしてその屋敷で、傷ついた子たちを守っている。
 その行動には感服する。
 実現ためにした苦労は想像を絶するだろうし、僕だって、こういう場所も必要だと思っている。
 
 けれど。

「……。あなたはこの屋敷を、鳥籠にするつもりなのですか……。彼女たちを一生ここに閉じ込めて、外に出させない。そういうやり方をすれば、彼女たちはみな一様に幸せになれると、そうお考えですか」
「ある程度の幸せは保障できる。衣食住の満たされた安らかな暮らしを。少なくとも、もう二度と不幸な目にはあわない」
「……確かに、彼女たちが望んでいる間はそれでいいと思います。しかし、そこから飛び立とうとしている子がいるのに、それを無視して鍵を……扉を開けてあげないというのは、なんとも酷い仕打ちじゃないですか! もしその子が扉を打ち破ろうと藻掻もがけば、それこそ傷を負うことになってしまう! 諦めることだって傷になる! それとも、こんな自傷みたいな傷を負うことはは、あなたにとっては不幸の内に入らないのですか?」
「ぐっ……」

 錦ノ宮さんが息を呑むのが、電話越しに聞こえた。
 後に言葉が続かないのを確信して、僕はもう一言、言いたいことを口にした。

「僕はこの屋敷を鳥籠じゃなく、止まり木にしたい。傷ついた彼女たちが羽を休めて、元気になったらもう一度飛び立っていけるような、そんな場所であって欲しい」

 言い終えた後。
 
「……そうか」

 静かな響きが返ってきた。

 そして。

「わかった。音霧くんのアルバイトを認めよう。ただし、その条件として、アルバイト先はこちらで決めさせてもらう。それと、音霧くんの送迎は君に担当してもらう。いいな?」
「はいっ! ありがとうございます! それと……生意気言ってすみませんでした!」
「いいさ。現場に入っている君にしかわからないこともあるだろう。これからも率直な意見を頼むよ」
かしこまりました」
「うむ。では、アルバイト先が決まり次第、束枝の方から連絡させるからな」

 その言葉を最後に、通話が切れる。

「よっし……!」

 遊さんがアルバイトを始められる。前に進める。
 彼女の背中を押せたことをちょっぴり誇らしく思いながら、僕は部屋で小躍りするのだった。
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