箱庭少女~山奥の屋敷で傷付いた少女たちと一緒に暮らすラブコメ~

深山ナオ

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第二章 その一歩は何をもたらす

遊さんの恩返し①

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 広々とした風呂というものは管理する立場からすれば清掃などが大変なのだけれど、利用する立場としてはこれ以上無いほど贅沢なものだ。

「ふう……こんなに広い風呂に毎日入れるなんて、かなり役得だよな」

 午後十時を過ぎた頃。

 僕は熱い湯船に肩までどっぷりと浸かり、長い息を吐いた。
 
 「今日はゆうさん尽くしの一日だったな……」
 
 ハンバーグ作りに一所懸命になる遊さん。

 お手製のハンバーグを美味しいと評されて大喜びする遊さん。

 アルバイトをしてみたいと、皆に前向きな意思表示をしてみせる遊さん。

 どの遊さんもすごく魅力的で。

 僕は彼女をより一層応援したくなった。

 あんなに明るい彼女が、どうしてこの屋敷で過ごすことになったのか、どんなに不幸な事態に巻き込まれてしまったのかはわからないけれど……。

 これからの彼女には、様々な事に挑戦して――

「誰よりも幸せになって欲しいよなあ……」

 そんな独り言を口にした瞬間のことである。

 ガラガラッと低めの音が耳に届いてきた。

 僕は反射的に音の出所に視線を向ける。

 浴場と脱衣所を隔てる引き戸のところ。

 そこに、空色のビキニを着た遊さんが立っていた。

「へ、ゆ、遊さん!?」

 僕の驚き声が、浴場に反響する。
 そんな僕の元に遊さんはぴちゃぴちゃ足音を立てながら濡れたタイルの上を歩み寄ってきて。

「来ちゃった! えへへ」

 元気に言いつつも、少し恥ずかしそうに頬をかく遊さん。

「や、来ちゃったって……え?」

 現状が飲み込めず、僕はただただ目を丸くする。
 本当になんで遊さんがここに……?
 思考していると、ある一つの可能性に思い当たり……。
 
「あ! もしかして僕、入浴時間間違えてました⁉」

 張り上げた僕の声が浴槽に響き渡る。

「わっ」

 僕の大声に、遊さんは短く声を上げ、目を丸くした。
 けれど、すぐに遊さんははにかんで、首を振ってみせた。

「違う違う。遊、お風呂はさっき済ませました~」
「そ、そうなの?」
「うん、星寧あかねと一緒に入ったのです」

 僕の確認に遊さんが頷きを返してくる。
 確かに、彼女の亜麻色髪あまいろはしっとりと潤い、頬も桜色に上気している。
 その様子から入浴はすでに済ませていることが伺える。
 でも……。

「じゃあ、この状況は一体……?」

 僕が首を傾げていると、遊さんがようやくちゃんと説明をし始めた。

「遊ね、お礼がしたいのですっ、シューくんに」
「お礼?」
「うん、お礼。遊ね、嬉しかったの。シューくんが遊に意見をたずねてくれて。遊の思ってることを知ろうとしてくれて……。シューくんは遊のこと、ちゃんと考えてくれてるんだ、応援してくれてるんだって伝わってきて、すごくポカポカな気持ちになったのっ」


 キラキラした瞳、はずんだ口調。
 そして、優しい表情。
 
 それらと共に素直な気持ちをぶつけられて、僕は顔が熱くなる。
 
「そっか」

 返せたのはそんな素っ気ない言葉だけ。
 けれど、遊さんは欠片も気を悪くすることなく頷いた。
 
「そうなのです。だから、何かお礼がしたいなーってさっき湯船で考えてたの。そしたら、ちょうどお風呂の時間だし、背中流すのがいいかなーって」
「なるほどね……」

 それだけ返して、僕は少し間をあけ、瞑目めいもくしながら考える。

 僕は彼女の提案を受け入れてもいいのだろうか?
 遊さんが水着を着ているとはいえ、風呂場で二人きりなんて……。

 本音を言えば非常に嬉しいが、僕の理性が大丈夫かどうか、大変心配である。

 はっきり言って、遊さんはめちゃくちゃ可愛い。

 少し幼さを残す表情で、無邪気な笑顔を振りまいてくるし、肩にかかる長さの亜麻色髪は入浴後のしっとり感から生まれた妖艶ようえんな魅力を放っている。

 水着だって空色のビキニ……つまり胸元と腰回りしか隠れていないわけで、白い肌が眩しすぎる。

 年相応以上に膨らんだ胸の谷間や、引き締まったお腹、ちょっとムッチリした柔らかそうな太もも等々……。年頃の男には刺激的過ぎるのだ。

 一線を越えるのは管理人としてまずい。

 まずい、のだが……。
 
 悩みながら、ちらりと遊さんの表情を窺う。

 感謝の気持ちが表れているのだろうが、遊さんの目は遊んで欲しいワンころみたいな目だ。

 ああ、そんな目をされたら断れないじゃないか……。

「……わかりました。では、遊さん。僕の背中を流していただけますか?」
「わーいっ! 遊、がんばってお背中流しまーすっ」

 元気に声を反響させる遊さんの瞳は、より一層輝きを増していた。
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