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34 眠気充満列車

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 映画を見終え、ファミレスで昼食を取り、祐一たちは帰りの列車に揺られていた。
 来るときとは違って、車内は空いていたので、全員座ることができた。
 ファミリー向けのアニメ映画は期待以上の出来で、みんな大満足だった。
 けれど、みんなお疲れのようで、子どもたちは熟睡しているし、綾香と夜霧も眠そうに頭を揺らしている。
 そんな中、祐一だけは、意識がはっきりとしていた。
 隣に座る綾香が眠気に負けるたびに、祐一の肩に寄りかかってくるからだ。

 ――カクンッ。
「……」

 ――カクンッ。
「……」
 
 ――ほんのりといい香りがするし、綾香の体温が伝わってくる……。
 
「……綾香。眠いなら寄りかかっていいぞ」
「……そう? ごめん、それじゃあ、お言葉に甘えて……」 

 今度は思い切り、肩に寄りかかってくる。綾香の体温もはっきりと伝わってくる。
 このくらいの接触は、よくあることなのに……自分の気持ちを自覚した今では、この程度でも、心拍数がどんどん上がっていく。
 祐一は窓の外を眺めながら、なるべく他のことを考えるようにして、車内での時間を過ごした。


 
 やがて、電車のアナウンスが、降車する駅の名前を告げる。

「そろそろ着くぞ」

 呼びかけながら綾香の肩を揺すると、綾香はゆっくり目を開け、体を起こした。

「……ありがと、おかげでよく眠れたよ」
 
 その声はまだぼんやりしていたけれど、目を擦って身だしなみを整えているから、大丈夫だろう。

 車内アナウンスで起きた夜霧が、隣の月夜と雅人を起こしにかかる。
 ……雅人は起きたが、月夜は起きない。
 
「オレがおぶってくよ」
「……すみません、お願いします……」

 列車が止まったところで月夜のところへ行き、おんぶする。
 月夜はまだ小学生。小さくて、軽い。
 電車を降りて、駅舎を出る。

 未だに分厚い雲が空を閉ざしているが、幸いなことに、雨はやんでいた。 
 これなら月夜をおぶったまま夜霧の家まで行けそうだ。
 
「……あの……ありがとうございました。ここからは、わたしが……」
 
 そう言いながら、背負っている月夜のほうに目を向ける夜霧。

「いや、このまま家まで送ってくから……」
「でも……」

 申し訳なさそうにしている夜霧に、綾香が声をかける。
 
「こういうのは男子に任せちゃっていいんだよ」
「そうそう。知らない仲じゃないんだしさ」

 祐一がそう続け、夜霧に笑いかける。
 つられて、夜霧の表情も緩んだ。

「……ありがとうございます」

 そう言って、夜霧が頭を下げる。

「それじゃ、行こっか。また雨が降ってくるかもしれないし」
「そうだな。降られる前に帰るか」

 こうして、みんなで夜霧の家へと歩き出した。
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