蒼の箱庭

葎月壱人

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第三章

朱の大会

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「あのカウンター、何かわかる?」
「姫椿の落札金額……?」

今までの話を総合して答えたつもりだったが、姫椿は首を横に振った。

「私の落札金額と、血液の量。落札金額に応じて決められた一定量の血液を搾り取るの。採血の仕方は色々あるみたいだけど……兎に角、これが“朱の大会”の正体」

胸の中で、ずっと憧れてたものが静かに崩れていく音がする。
言葉が浮かばない代わりに、心臓が耳の横で鳴っているみたいで煩かった。
ここはこんなに空気が薄かったっけと思う程、無意識に空気を求め次第に呼吸が速くなっているのに気がついて、過呼吸になる前に口元を手で覆う。
苦しいのと恐怖が一気に襲いかかり、涙となって溢れてきた。

「“朱の大会”はね、独特な嗜好の持ち主達の為に開かれた競売会なの」

白椿が学園長の座についてから開催される様になった“朱の大会”は、一定の年齢になったら取引のある国々へ生徒を売買するよりも遥かに盛況で手軽に大金が動く催しになった。
釣り上がる金額によって商品の行く末を見届ける事が出来るシステムは、非常に生々しく凄惨であり常に観客を魅了し続けている。
時に血を抜き過ぎた死体や生き血だけ買われていったりと、商品によって命の扱いが変わっていく所も人気の一つだった。

「わ、私を……馬鹿にしてた?」

震える声で問われた姫椿は、弾ける様に顔を上げて真白を見た。
今にも溢れ落ちそうな涙を目元に浮かべ、傷つき潤む翠の瞳が揺れている姿に胸が詰まる。
ごめん、ごめんねと何度謝っても足りない位に深く傷つけてしまった女の子が泣くまいと唇を噛んで強がっている。

「……知ってて黙ってたって事でしょう?私が“朱の大会”に出たいって言ってた時も、どんな大会か知ってた上で応援してたって事でしょう?」
「違う!!!」
「死ねばいいって、思ってた?」
「そんな事思ってない!!」

すぐに否定した姫椿を前に真白の脳裏に掠めた光景が、苦々しい気持ちを運んできていた。
あれは以前、誰かにはっきりと言われた言葉だ。
それ以上思い出す事を阻む頭痛に顔を歪ませると、信じてないと思ったのか姫椿が声を上げた。

「馬鹿になんてしてない!言えるわけないじゃない、真白が“朱の大会”を普通の大会だと信じて、ずっと目指して頑張ってきたのを毎日見てきたのは私だよ?本当の事を話したって、すぐにどうこう出来るものでもなかった。不安を煽りたくなかったし、何よりも……真白の夢を壊したくなかった!!」

大きな声を出した衝撃で喀血する姫椿の口の周りは血だらけで隠しようもないまま、咽せ返る血の香りに気づいた観客達の喜ぶ声が邪魔をして姫椿の声がよく聞こえない。
急に孤独感に苛まれた真白の頬をポタポタと涙がつたう。

「初めて出来た友達なの、真白、貴女が私の初めて。そんな友達の夢を応援するのは当たり前じゃない。だから、真白の夢を妨げるものは全部、私が……」

吐血した鮮血は床に飛び散り、観客を更に興奮させた。
異変に気づいた王李と綺羅も争っていたふりをやめた所に、静観していた白椿が姫椿と真白の前に立ちはだかった。

「ダメじゃない。勝手にペラペラ喋ったら。こっちには予定があるんだから余計な事しないでくれる?さっきからさぁ……私の綾瀬が全然思い通りにならないからお仕置きしてるんだけど、あっれぇー?何でぇ?何で、こっちが反応する訳ぇ?おっかしいなぁ!」

心底可笑しいという狂気じみた笑い声を上げながら、白椿が胸元から取り出した手のひらに収まるサイズの銀色の筒を親指で強く押し込む仕草を繰り返す。その度に姫椿が喀血する異様な光景に耐えきれず、無我夢中で真白は白椿に飛びかかったが腕を振り払われ、呆気なく床に転がった真白の背中を綺羅が支えた。

「っ、あっぶな」
「ごめん、ありがとう」

怒られる前に真白は手に握っている銀色の筒を見せた。
振り払われる直前に奪い取ったそれを見た綺羅が真白の俊敏さに感嘆の声を漏らす。

「お見事」

綺羅の褒め言葉に笑みを返しながら姫椿を見ると倒れそうになった姫椿を駆け寄ってきた王李が抱き止めた所だった。

「おい」

ヒュー、ヒューと弱い呼吸、血だらけの姫椿は今にも気を失ってしまいそうに見える。今、目を閉じたら二度と開かないんじゃないかと底知れない恐怖に抱きしめる手に力を込めると、姫椿が居心地悪そうに身体を捩り出した。

「おい、動くな!」
「触らないで、私、まだ怒ってるんだから」
「……心配すらさせてくれないのか?」

そこまで拒絶するのか?と力を緩めた途端、腕の中から姫椿が起き上がった。

「何も心配いらない。これは私が引き受けた物だから」
「は?」

困惑する王李に、近づいてきた綺羅が答えた。

「綾瀬の体内に埋め込まてれた爆弾を全て姫椿姐さんの身体に移植してあるんです。それが薬漬けにされてた貴方を救うレージとの交換条件だったそうです」

王李の頭に、薄ら笑いを浮かべる藪医者の顔が浮かんで消えた。
額に青筋を立てたまま、何故そんな事を知っているのかと言わんばかりに綺羅を睨む。

「あの酔狂な男が、人命第一な訳ないでしょう?レージから伝言です。“姫椿を助けたかったら白椿を生きたまま渡せ”と」
「はぁ?アレは殺すんだよ」
「殺したら姫椿姐さんは助からない!!」

ぐうの音も出ない王李の肩を叩いたのは姫椿だった。

「好きにしていい」

その呟きは容赦なく突き離す言い方で、此方を見ようともしない姫椿との間にある隔たりをまざまざと思い知らされた。
愕然としている王李の肩から手を離し、姫椿は白椿を見た。
自分と瓜二つの片割れは、昔の面影なんて何処にもなく自分よりも妖艶さと気品さが相まった普通の美女だった。
此方を侮蔑する眼差しすらも息を飲むほど綺麗で、こんな人と本当に血を分けた双子なのかと疑問にすらなる。

「真白ちゃんにボタン盗られちゃったけど、あらかた押した後だし?ふふっ、死んじゃえ」

どストレートな言葉に苦笑する。
痛みを通り越した身体の中がどうなっているのかを考えるのはやめた。
何か言いたくても口の中が血の味しかせず、息も血生臭くてあまり喋る気が起きない。
白椿に、どうしてこんなに嫌われているのだろうかと不思議に思う。
幼い頃は、ごく普通の姉妹だった。
私は、白椿が好きで自分の分のお菓子やおもちゃも渡していたし、白椿が悪さしたら代わりに怒られる事もあった。
白椿が世界の中心で、憧れで、絶対的な存在。
いつから狂い出したんだろう?思い出の苦しさに溜息をもらすと、此方に余裕があると勘違いした白椿が非常な剣幕で睨んできた。

「いい加減、私の綾瀬を返しなさいよ。私から綾瀬を奪って隠して、いつまでも私達の愛を邪魔して……一体何が目的なの?好きなの?」
「ハッ」

乾いた笑い声が溢れた。
好きというそんな気持ちが、ここまで人を狂わせるのなら“施錠”しておいて良かったと心底思う。

「……あんた達が失踪した二年間。二人は幸せになってると本気で思ってた。けど婚約した時に掛けた“使役”の術が発動して、二年ぶりに見た綾瀬は薬漬けにされて見るも無惨な状態だった。何で?どうして?考えてもわからない。もし私の掛けた“使役”が発端で二人の幸せを壊していたとしたら?そんなの許される筈ない。だから私、この身全てを差し出して綾瀬を、失踪する前の健康な状態に戻した。時間が掛かったけど“使役”も解いて、全部まっさらにした。今の彼は何からも縛られるものが無い、完全な自由を持ってる。だから、ちゃんと聞いてみたら?昔も今も彼の気持ちを真面目に聞いてみた事ないんじゃない?一方的じゃないって所、証明してよ」

長く語り過ぎたせいで、どっと疲れを感じるけれど姫椿は力を振り絞って、黙り込む白椿に詰め寄った。

「だっておかしいよ、彼、今も昔も変わらずに私を好きだって、ずっと言ってくる。ねぇ、どっちなのよ」
「はぁ?そんなのアンタに洗脳されてるからに決まってるじゃない」
「なるほど、そう返すか。つまり……本心を聞くのが怖いのね?だから昔の手法で薬漬けにして従わせてた、と。従順な子が好みだものね?」

わざと含みを持たせた物言いに、白椿の声のトーンが低くなる。

「白馬は関係ない」
「でも、ご自慢の薬もあまり効果がなかったみたい。そりゃそうよ。長い事、薬漬けにされてたから嫌でも耐性がついたんでしょ。でも、これ以上は手の施し様がないね?逆転を狙うならそれこそ……愛の力、なんて物が実在するなら話は別だけど」
「ふふっ、ふふふ!傲慢な子!!この場において、私に勝った気でいるなんて!!綾瀬が好きなのは、私!綾瀬に相応しいのは私なのよ!!」

白椿が得意気に指をパチンと鳴らすと、その仕草が合図だったのかステージだけではなく建物全体に白い霧が天井から降り始めた。
異様な光景にざわつく観客達の声が徐々に小さくなって、至る所でバタバタと人が倒れていく。

「……っ、!」

阿鼻叫喚。会場全体が未曾有の恐怖にパニックを起こす中、真白と綺羅の無事を確認しようとした姫椿は自分の身体の違和感に顔を歪ませ、耐えられずその場で盛大に吐血した。
床に飛び散る血液と全身を襲う寒気に、流石にヤバいんじゃないかと霞んできた瞳を細めて顔を上げると床に座り込んだままの王李と目があった。
好きにしたらいいと言った手前、二人を連れて逃げて欲しいと自分勝手な願いを口にするのは躊躇われるし、百年の恋も冷める様な吐血を披露する無様な姿を晒した手前、助けてなんて言えたものか。
姫椿は見限る様に目を逸らした。

「………何だよ、それ」

俺の知らない所で勝手な事をしておいて、守ってるつもりか?
誰が頼んだ?昔と変わらず、今も弱い存在だと思われているなら心外だ。
屈辱なのか悲しみか怒りなのか……それら全てが混ざり合った行き場を無くした気持ちを歯痒く思っている時に、真白の呼び声が王李を現実に引き戻す。

「王李!!王李ってば!!ねぇ、光ってる!!それ、何?ば、爆弾っ!?」
「は?何処……」
「腰の辺りのやつ」

何か持ってただろうかとポケットの中に手を入れて“黎明の鍵”を取り出した。
何の変哲もない鍵は光など放ってはいない。
不審に思いつつも真白に見えるように“黎明の鍵”を持ち上げ、一か八かで聞いてみた。

「真白。これと同じ様に光ってる所……ない?」

“黎明の鍵”を、膝をついた姫椿を見下しながら笑っている白椿の方に向けると真白もそっちを見た。

「あ……あるよ、谷間の辺り」

心臓が高鳴る。
利き手で大鎌を掴み、静かに立ち上がった。

「ありがとう」

姫椿が気にしているのは、俺の気持ちだ。
一方的すぎる白椿の言動を疑っているくせに、俺が姫椿に想いを告げても“施錠”が邪魔をして伝わらない。
だから、俺の気持ちを受け取ってもらうには“開錠”するしかない。
朱の大会が始まる前に姫椿から与えられた魔力を自分に馴染ませるのに時間を費やしたおかげで、呪われた力を制御できる武器まで出せる様になった。
いつもいつも自分の事は二の次で、その小さな背に何でも背負い込もうとする癖を知ってた筈なのに、結局まだ自分はお荷物程度にしか思われてなくて頼り甲斐もないんだろうと思うと腹が立つ。
だが生憎、惚れた女の後ろに隠れる気なんざ、さらさら無い。
昨夜は……ちょっと油断しただけだ。
もう操られる様なヘマはしない。絶対。誓って。
どんなに冷たくされようと“黎明の鍵”が手元にある、その事実だけあれば立っていられる単純過ぎる自分は嫌いじゃなかった。
先が読めなくて無意識に出し惜しみしてた力を今ここで出し切ってやる。

「翠」

王李が大鎌の柄の先端で床を叩くと緑色をした水の波紋が綺羅と真白を中心に広がり、淡く光を放つ輪を造った。
真白が恐る恐る触れてみると少しだけ暖かくて、上から降り注ぐ霧を弾く音がパチパチと聞こえる幻想的な空間に思わず声が漏れる。

「綺麗」

初めて魔法を目の当たりにして魅せられている真白の隣で、少しだけ毒に侵され滴った鼻血を拭いながら綺羅もそっと魔法陣に触れる。
静かに王李からの合図を待つと、更に2回、床を叩く音が響いた。
それに合わせて意識を集中させ姫椿を魔法陣の中へ転移させると、ドシャッと潰れた音と血の匂いを漂わせた姫椿が真白の隣に落ちるように現れた。

「っ、ざ、雑……」

起き上がる気力も残ってないのか、肘で上半身を支えている姫椿を真白は抱きしめた。

「姫っ!!」
「まし、ろ。さっきは、ありがとう。怪我ない?」
「してない!してないよ!ごめんね、もっと早く行動していれば良かった。私、何にも出来てない。役に立ててない」

不甲斐ない自分に涙が出て、微かに震えている真白の背中を姫椿は優しく抱き締めた。

「私を助けてくれたよ」
「でも!私にもあんな風に綺麗な魔法が使えたら……姫椿の事を治療できたのに!!」
「……真白、見えるの?」

姫椿に問われた意味を測りかね首を傾げていた真白だったが、傍にいた綺羅に交戦中の王李と白椿を指さされてからハッとする。
もしかして、さっき見えた光の話?
それとも今見えているやつだろうか?

「えっと……光が二つと、あと綺麗な色の糸が幾つか」

黙り込む姫椿と驚く綺羅に真白は不安になった。
もしかして変な事を言ってしまっただろうか?と俯いて床に輝く魔法陣に触れる。

「ま、真白。赤いのは何処にある?」
「赤は……あそこ」

姫椿から身体を離して顔を上げ、指差した先に居たのは白馬だった。
雪乃を連れて遅れてきた為に状況が読めず、扉の前で立ち尽くしている姿を確認しながら姫椿は再度確認する。
念を押す様に、ゆっくりと。

「赤は、白馬に繋がってるんだね?」
「うん」
「……わかった」

姫椿が何かを決意した様に頷いた後で、すぐ横にいた綺羅に目配せをした。
その瞳は本当にそれで良いのか?と問いながらも、綺羅の意思を尊重し理解を示そうとしている。
綺羅は自分と真白を繋ぐ赤い糸を隠したまま、笑って誤魔化した。
学園生活の中で都合の良い様に過去を捏造され、俺の事もあまり覚えていない今の真白が見たら……ひたすら混乱するだけのものだ。
だから真白より先に気づいて見えなくしたのは正解だと思っている。

「姫椿姐さん、俺、まだやれます」

また王李の魔力に感化されて、覚醒しつつある真白の素質を羨ましく思ったのも事実だ。
王李の大鎌が綺麗な半円を描いて空を切る様子を見ながら、自分の身体に光る赤い鎖に手を這わせ綺羅は指示を仰いだ。

「使ってください」

少し躊躇う姫椿に頭を下げると、観念した溜息と共に計画を教えてくれた。

「簡易的な魔法の使い方を真白に教えている間、白馬を捕まえてて」
「はい」
「無茶はしない事。自分でヤバいと思ったら速攻で私のところに帰っておいで」
「はい!」

お母さんみたいな言い方に、綺羅は照れ臭くなりながら王李が張った魔法陣の外へ向かって駆け出していった。
その綺羅の後ろ姿を目で追いながら、真白は置いてかれた気持ちをむず痒く感じていた。
姫椿と綺羅の会話に、とても口を挟める空気じゃなくて力になれない自分が凄くもどかしい。

「綺羅には絶対、無茶も無理もさせないから信じてほしい」

そんな気持ちを姫椿は汲んでいた。
魔力も底をつき、身体は予想以上に死にかけている中、今は綺羅にかけた“使役”を操る事で正直精一杯だけど、久しぶりに見た素質ある原石を放置したりしない。
此方の戦力になるならむしろ有難い位で、真白を利用しているみたいで申し訳ないと思う部分もあるが事態は思っていた以上に深刻だ。
白馬はこの後、絶対逃げる気でいる。
今ここで白椿というリーダーを失ったら“暗夜”を建て直せる手腕の持ち主は彼しかいない。
仮に逃したら、いつかまた“朱の大会”に代わる催しを密かに始める危険性すらある。
そんな奴を野放しには絶対にしない。

「真白!やるぞ!!」
「うん!!」

詳細は分からないけど、何故かやる気に満ちている姫椿につられた真白は力強く返事をした。

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