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枕してもらうから
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「今度枕してもらうから」
オレの名前は立花律。
職業、元・人気アイドル。現・崖っぷちアイドル。
「枕、枕営業。聞いたことくらいあるだろ? 早い話、仕事のために上の人と寝てほしい」
只今、マネージャーからとんでもないことを言われています。
十四歳の時にスカウトされ、ソロアイドルとしてデビュー。
デビュー後すぐに出演したバラエティ番組で話題になり、一躍お茶の間の人気者へ。
しかし、十八歳の時にマネージャーには内緒で事務所社長に連れられて行った接待先で、警察沙汰に巻き込まれる。
このことで事務所社長と接待先の人たちは逮捕され、事務所も倒産。
律は事件には一切関わっていなかったものの、その場に居たことが報道されると、世間からバッシングを受けた。
この出来事がきっかけで仕事も全てなくなり、人気もなくなった。
現在、二十三歳。
デビュー当時から担当してくれているマネージャー・田中俊一(三十三歳)と、二人で活動している。
以上、オレのプロフィール参照。て、ふざけてる場合じゃない!
「……田中さん。オレ、枕ヤダ」
今日はマネージャーの田中さんに『次の仕事について話があるから、家に来てくれ』と言われ、新しい仕事でも決まったのかとワクワクしていた気持ちは、一瞬で消えてしまった。
枕営業。
まだオレに人気があったとき、特番の収録で他事務所の子達と控室が一緒になったことがあった。
そのときに、その子達が枕営業の話をしていたっけ。
「(男でもそんなことがあるんだ)」なんて、当時のオレは他人事のように思っていたけど、まさか自分にもその話が来るとは……。
「律」
ソファーに座って項垂れていると、少し離れたところに座っていた田中さんに名前を呼ばれる。
その声がまるで小さい子どもがワガママを言うのを嗜める親みたいで、なんだか嫌だと思った。
「なんでなんで!? 枕なんかしなくても、オレ結構大丈夫じゃない!? 深夜番組だけどレギュラーだってあるし!」
「そのレギュラーも今月で終了。レギュラーはゼロになる」
「……じゃ、じゃあ新しい仕事を取ってくるとかさ」
「あまり言いたくはないけど、律は中卒で頭も悪い」
「うっ」
「本業の歌もダンスも人並み。昔に何十万と売れていたのは、そのとき律に人気があったからだ」
「ぐっ」
「演技は大根すぎて、人気があった時も呼ばれなくなったし」
「……うう」
「人気がなくなった今、律に出来るのはバラエティだけだ」
(もう返す言葉もない……)
「それもまだ、あの出来事のせいでゴールデンでは使いづらい存在だと思われている。正直今の律は、かなり厳しい状況だ」
そう。十八歳の時のあの出来事は、五年経った今でもオレの芸能活動の足枷になっていた。
ごくたまにゴールデン番組に出たりすることがあるけど(年数回ほど)、その番組にクレームが来ることもあるらしい。
「犯罪者を出すな!」とか、オレは何もしていないのに。
「……聞いてるか?」
「あ、はい」
おっと。イヤなことを思い出した。
今は大事な話をしているんだから、集中しなきゃ。そう思いながら顔を上げると、視線がぶつかる。
「律、芸能界にいたいか?」
真剣な顔をした田中さん。
芸能界。イヤなことや苦しいことばかりだけど、楽しいことや嬉しいこともたくさんあった。
ここで終わりたくない。
まだ芸能界で頑張りたい。
「……いたい。芸能界にいたい」
オレを見つけてくれた田中さんと一緒に居たい。
「……なら枕をするんだ。幸運なことに某局のプロデューサーが、律が枕をすれば来月から始まる深夜番組のアシスタントMCに推薦してくれると言っている。プロデューサーからの推薦なら、もう決まりみたいなもんだ。良かったな」
「……全然良くはないんですけど」
「これが最後だ。芸能界にいたかったら枕営業するんだ」
ジッとオレを見つめながら、田中さんが言う。
そんなに言わなくても分かってるよ。
もうオレの気持ちは、田中さんに芸能界にいたいかと聞かれた時に決まっている。
「……田中さん。オレ、枕する」
少しの沈黙のあと、田中さんが口を開いた。
「よし。じゃあ、枕の練習するか!」
「はいぃ?」
これが番組の収録だったら、オレは迷いなく椅子からズッコケていただろう。
それくらい田中さんの言葉は、意味不明だった。
オレの名前は立花律。
職業、元・人気アイドル。現・崖っぷちアイドル。
「枕、枕営業。聞いたことくらいあるだろ? 早い話、仕事のために上の人と寝てほしい」
只今、マネージャーからとんでもないことを言われています。
十四歳の時にスカウトされ、ソロアイドルとしてデビュー。
デビュー後すぐに出演したバラエティ番組で話題になり、一躍お茶の間の人気者へ。
しかし、十八歳の時にマネージャーには内緒で事務所社長に連れられて行った接待先で、警察沙汰に巻き込まれる。
このことで事務所社長と接待先の人たちは逮捕され、事務所も倒産。
律は事件には一切関わっていなかったものの、その場に居たことが報道されると、世間からバッシングを受けた。
この出来事がきっかけで仕事も全てなくなり、人気もなくなった。
現在、二十三歳。
デビュー当時から担当してくれているマネージャー・田中俊一(三十三歳)と、二人で活動している。
以上、オレのプロフィール参照。て、ふざけてる場合じゃない!
「……田中さん。オレ、枕ヤダ」
今日はマネージャーの田中さんに『次の仕事について話があるから、家に来てくれ』と言われ、新しい仕事でも決まったのかとワクワクしていた気持ちは、一瞬で消えてしまった。
枕営業。
まだオレに人気があったとき、特番の収録で他事務所の子達と控室が一緒になったことがあった。
そのときに、その子達が枕営業の話をしていたっけ。
「(男でもそんなことがあるんだ)」なんて、当時のオレは他人事のように思っていたけど、まさか自分にもその話が来るとは……。
「律」
ソファーに座って項垂れていると、少し離れたところに座っていた田中さんに名前を呼ばれる。
その声がまるで小さい子どもがワガママを言うのを嗜める親みたいで、なんだか嫌だと思った。
「なんでなんで!? 枕なんかしなくても、オレ結構大丈夫じゃない!? 深夜番組だけどレギュラーだってあるし!」
「そのレギュラーも今月で終了。レギュラーはゼロになる」
「……じゃ、じゃあ新しい仕事を取ってくるとかさ」
「あまり言いたくはないけど、律は中卒で頭も悪い」
「うっ」
「本業の歌もダンスも人並み。昔に何十万と売れていたのは、そのとき律に人気があったからだ」
「ぐっ」
「演技は大根すぎて、人気があった時も呼ばれなくなったし」
「……うう」
「人気がなくなった今、律に出来るのはバラエティだけだ」
(もう返す言葉もない……)
「それもまだ、あの出来事のせいでゴールデンでは使いづらい存在だと思われている。正直今の律は、かなり厳しい状況だ」
そう。十八歳の時のあの出来事は、五年経った今でもオレの芸能活動の足枷になっていた。
ごくたまにゴールデン番組に出たりすることがあるけど(年数回ほど)、その番組にクレームが来ることもあるらしい。
「犯罪者を出すな!」とか、オレは何もしていないのに。
「……聞いてるか?」
「あ、はい」
おっと。イヤなことを思い出した。
今は大事な話をしているんだから、集中しなきゃ。そう思いながら顔を上げると、視線がぶつかる。
「律、芸能界にいたいか?」
真剣な顔をした田中さん。
芸能界。イヤなことや苦しいことばかりだけど、楽しいことや嬉しいこともたくさんあった。
ここで終わりたくない。
まだ芸能界で頑張りたい。
「……いたい。芸能界にいたい」
オレを見つけてくれた田中さんと一緒に居たい。
「……なら枕をするんだ。幸運なことに某局のプロデューサーが、律が枕をすれば来月から始まる深夜番組のアシスタントMCに推薦してくれると言っている。プロデューサーからの推薦なら、もう決まりみたいなもんだ。良かったな」
「……全然良くはないんですけど」
「これが最後だ。芸能界にいたかったら枕営業するんだ」
ジッとオレを見つめながら、田中さんが言う。
そんなに言わなくても分かってるよ。
もうオレの気持ちは、田中さんに芸能界にいたいかと聞かれた時に決まっている。
「……田中さん。オレ、枕する」
少しの沈黙のあと、田中さんが口を開いた。
「よし。じゃあ、枕の練習するか!」
「はいぃ?」
これが番組の収録だったら、オレは迷いなく椅子からズッコケていただろう。
それくらい田中さんの言葉は、意味不明だった。
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