ある日、彼女が知らない男と一緒に死んでいた

はし

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 引っ越した先は、前に住んでいた場所から電車で二時間、駅からバスに乗って一時間。ようやく着いたのは、周りを山に囲まれた麓の村。
 人口は二百人くらいで、コンビニも一つしかない。THE・田舎みたいな所だった。
 ちょうど若者の受け入れ? みたいなのに力を入れているらしく、すぐに住む場所と働く所を紹介してもらえると聞いて、ここにした。

 紹介してもらった住む場所は、なんと一軒家だった! しかも庭付き! ……まあ、この村にはアパートやマンションなんて一つも建っていないんだけど。
 ずっと空き家だったみたいで、ちょっとボロいけど、若者受け入れのアレコレで二年間は家賃が無料(タダ)だそうだ。
 実際の家賃も一月で八千円と聞いて「(田舎って、すごいな……)」と思った。
 
 引っ越して来て数日後、またまた紹介してもらった村唯一の郵便局で働き始めた。
 職場にはおじさんとおばさんしか居なく、馴染めるか不安になった。けれどちょうど僕が入社した次の日に、同い年の子が入社してくると聞いて、ホッとしたのを覚えている。

 翌日、入社してきたのは女の子だった。
 鳴神あきらちゃん。
 彼女も、僕と同時期に引っ越してきたそうだ。
 僕たちはすぐに仲良くなった。


 村に越してきて一年ほど経った頃、彼女が出来た。――僕の二人目の彼女。
 郵便局から歩いて二十分ほど行ったところにある、パン屋の店長・キホさん。僕より二つ年上の女性だ。

『君が、最近引っ越してきた子? 初めまして、店長のキホです』

『ちゃんと食べてる? これ。売れ残りだけど、良かったら持ってって』

 亡くなった彼女を忘れた訳じゃない。
 前に住んで居たところでは出来なくなっていた、彼女の死を悲しむことも、この村に来てから出来るようになった。
 同時に、いつまでも引きずっていてはダメだとも思った。
 前を向いて生きて行かなきゃ。
 キホさんは、僕にそれを教えてくれた。

『……そう。前の彼女さんが……』

『君はもうじゅうぶん悲しんだ。彼女さんのためにも、前を向いて生きて行かなきゃ。いつまでも悲しんでたら、彼女さんも安心して天国に行けないよ』

 付き合い始めて三ヶ月。
 僕の家で一緒に暮らし始めた。
 キホさんとの日々は楽しかった。

『ちょっと! ゴミ! も~、仕事行く時についでに出してって、言ったじゃない』

『はい、お弁当。良かったら食べて』

『お父さんとお母さんが、またおいでって』

『ふふ、大好き』

 このときも僕はこの人と結婚するんだろうなと、なんとなく思っていた。



 付き合い始めて八ヶ月。
 仕事から帰ると、キホさんと知らない男が一緒に死んでいた。

 
 
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