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前半戦

足りない実力

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「もう、なんでだよ」俺はベンチに座って呟いた。ベンチに座って持ってきていたリュックから取り出したのは「サッカー日記」というノートだった。

俺は落ち込んだ時にこの日記を見るようにしているのだが、今日はノートを見ても効果がほとんど無かった

ノートのページをめくればめくるほど思い出して辛くなった

そのうち、たどり着いてしまった。ノートに雑に挟まれていたから俺の太ももあたりに落ちた、その紙。名前の欄には「堂又健」と書かれていて、その下には選考結果があった

結果は不合格────何度か見直したけど変わらなかった

俺は一応、このチームでエースだ。でも、あの有名なクラブのユースチームの入団試験には何度も落ちている。

「俺はまったく実力が足りない...」

足で砂をジリジリと音を鳴らして踏み潰した

何がエースだ、俺は学校じゃ落ちこぼれと馬鹿にされてる、そんなやつがエース?きっとみんなは迷惑しているだろう...

この前から入った新しい監督だって見るからに素人だし。まあ別にあの監督が嫌いなわけじゃないあの監督は素人ながら頑張ってくれてるのをこうやって練習を見てると、思う。

単純に俺に腹立ってるだけだ...でもこれじゃ俺はあの監督に八つ当たりしてるみたいだな

はあ

ため息をこぼす、またノートを見て落ち込む、練習になんて参加する気になれなかった

はあ。

「なあ、堂又!」

「あっ」

俺の前に立っていたのは監督だった

「みんな、先パス練しててくれ、頼む」

珍しく生徒をまくって俺に話しかけてきた

「堂又、なんか悩みあんのか?なんでもいいから教えてくれないかな」

「何でだよ。別にないし。」

また当たっちゃった──────

「なら、それが一番いい、堂又さ俺よくわかんないけどよ、お前はそのままでいいと思う。別に練習だって参加したい時にすればいいさ、俺は強要する気はないからな」

「あの、監督...」
「なんだ?」
「ちょっとだけいいですか?」
「ちょっとだけって、いくらでもいいよ」


「俺、プロサッカー選手になりたいんです。だからそのために入りたかったクラブがあったんですけど、ここ三年チャレンジして全部落ちたんです」

「そうか」

「俺...このチームのエースなのに。すっげえ情けないなって...同じ学校の奴らはみんな合格して、俺だけ...俺も入りたい....!」

さっきまで踏み潰してた砂を今度は、濡らした

「俺は、実力がぜんっぜん!足りないんです。どうしたらいいのかなって、自信がなくなってきて...」

「堂又」

「はい」

「俺は、いや、気付いてると思うがな、素人だ、サッカーは全くと言っていいほど知らない。それに、指導だってしたことなんてないんだよ。だから、俺にはお前に言えることはこれだけだ、たったこれだけ。」

「さっきも言ったけどな、お前はそれでいい!そうだ、いいんだよ!お前は、このチームのエースさ!」

「なんで、?」

「あーやっぱりむずいなぁ。そんなにいい言葉は思いつかない...!でも、これだけはわかるさ、お前はみんなに頼りにされてるエースだ、間違いない。それは合否なんて関係なく、このチームのエースはお前しかいないんだよ。エースが持っているものは実力だけじゃない、それだけじゃエースなんて名乗れないんだよ!」

「エースに必要なのは、信頼。素人だがな、これはなんとなく、わかるんだよ。だから、お前が何回落ちようと、1発で受かって大活躍しようと、逆に、みんながお前を信じられなきゃそれはエースじゃない。だから...!足りないなんて言うな!きっとあいつらにとってのお前は目指すべきベストなんだからさ!」

「ベスト...」

「お前の中のベストだけを見るなよ?チームの中のベストもたまには聞いてみるといい。」

「先生!ありがとうございます!」

俺はそう言いながら、ベンチから立ち上がった

「おお、いいぞ!行くか?」

「先生!僕にサッカー教えてください!お願いします!」

「はは、俺は素人だけどな。」

***
(今日、言うんだ。今日こそ。次こそは左ウイングに入りたい!)
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