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しおりを挟む夏生が松田を黙らせる事に悪戦苦闘しているのを見て羽田は取り敢えず仲裁に入ろうとした。だがその時、
「夏生!」
鋭く冷たい声が飛んだ。会場のざわめきの中でもハッキリ届くその声に夏生の心臓が跳ねる。
人波の中を歩いてくる颯斗は高校の頃よりも背が伸びて筋肉の厚みも違う。上等なスーツを着こなす体躯は圧倒的で、漂う怒気がオーラの様に人々を押しのける。まるで彼が通る為に自然と道が開けていくかのようだ。
「何してる」
高い位置から睨み見下ろされ、松田にぶら下がっていた夏生は慌てて体を離した。
「何でもない!ただ、この人が酔って変な事言ってたから・・・」
「いや、酔っておねだりしたのは・・・」
「わー!わー!わー!!」
夏生はまた慌てて松田止めようとしたが「いい加減にしろ!」と颯斗が低く唸る様な怒声を発した。
夏生は肩を縮こませたが、松田は笑って更に煽った。
「あの時の広瀬が俺にした甘え方と声が忘れられないんだよな」
颯斗の眉間に深い皺が刻まれた。
「夏生・・・お前・・・」
「違う!ないない!」
覚えてないけど!ヤってはいない!!
ここでは詳しく言えないが、手を激しく左右に振って否定した。颯斗の怒りを鎮めなくては。
「酔ってこの人の家で世話になっただけ!俺があんま覚えてないからテキトー言ってからかってんだよ!」
夏生が必死に弁明するも、颯斗は松田を睨み据えたまま拳を握りしめる。
「ちょ、ちょっと待て!落ち着けって!」
羽田が三人の中に飛び込んだ。
「ここ会場だぞ、やめろ。みんな見てる!」
確かに視線が集まり、空気が張り詰めている。
その中で颯斗は羽田を一瞥し「夏生、行くぞ」と短く言って手首を強く掴んで歩き出した。
「えっ、ちょっ・・・」
抵抗する間もない。
あったとしても颯斗の機嫌を更に損ねたくはない。ようやく会えたのだ。
夏生は引っ張って連れて行かれながら羽田の方を見た。
羽田は何度も頷いて「行け」と手振りをしてくれている。
後の事を頼んで良いのだろうか。やけに物分かりが良い。
そう言えば今日は羽田の様子もおかしかった。酒も飲んでないのに変な絡み方をしてきた。颯斗の登場でそんな事は吹っ飛んだが。
松田の事も気になるし仕事の事も考えていたらあっという間に最上階に着いた。
エレベーターホールでレストランかバーの利用客とすれ違った。
カップルの女の方が颯斗を見ると一瞬で釘付けになり、すれ違う間もずっと颯斗に視線を送っている。
話し声も急に甲高くなり耳障りで夏生は顔を顰めた。
女は手を引かれて後に続く夏生の顔を見てギョッとした。
見てんじゃねぇよ・・・
心に渦巻く黒い感情が表情に出ていたのかもしれない。
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