学園の王の愛はいらない

starry sky

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「冬哉さん、先程はどうも」

   本物の貴族のように気品に溢れた若々しい笑顔で挨拶をし、 立ち上がった冬哉と握手をして軽く言葉を交わす。
そして夏生の隣にゆったりと腰掛ける。
一連の動作があまりにも堂に入っていていよいよ同学年なのが疑わしくなる。

「⋯なんだ?パーティでもあったのか、その格好」

 夏生がアイスコーヒー片手に話しかけると、それを綺堂が奪ってストローも使わずと飲み干した。

「双葉のグループ会社のレセプションパーティ。急に呼ばれていい迷惑だったが冬哉さんに会えたから逆に良かった」

「紹介して頂いた社長と話が出来ましたよ。今度一席設けさせて貰えることになったんです。本当にありがたい」

 二人はしばらく夏生の分からない話をしていた。
でも会社にとっては良い話のようだから夏生は大人しく座ってぼんやりしていた。
   綺堂は同じ高校生だというのに何やら難しいビジネス用語なんかも使ってペラペラと喋っている。

やっぱりコイツ年上じゃね?年齢偽ってんだろ

などと考えていると冬哉が立ち上がった。

「え、帰んの?」

「ああ、会社に戻る。やる事が山積みだ、夏生はまだ居ろ。また連絡する」

  冬哉は綺堂ににこやかに辞去の挨拶をすると足早に帰って行った。

「まじで忙しいんだな⋯」

「なんだ、兄貴ともっと居たかったのか?」

「違うわ!」

 否定して綺堂を見ると、不機嫌に眉間に皺を寄せている。

「お何だよその顔。お前直ぐにイラつくのやめな」

「イラついてない」

「イラついてない」

夏生が綺堂の顔真似をして言うと綺堂がムキになって言い返し、夏生は何度もオウム返しでからかった。
綺堂が仕返しに夏生の背後から腰の辺りの筋肉をギュッと掴んだ。

「うぎゃっ⋯!」

驚いたのとくすぐったいのとで悶える夏生。綺堂は面白がってしつこく繰り返した。
マナーは良くないが、見目麗しい若い二人が戯れていても誰の目にも邪魔にならない。むしろ周りを楽しませている。
   
「いい加減にしろ!」
 
綺堂の脇腹に肘打ちをくれてやっと終わらせた。

「いてぇ」

「おめーが悪い。それより聞きたいことあんだけど」

夏生が真剣な顔で言うと綺堂は目を逸らした。それを見て夏生は声を低くして言った。

「おい⋯やっぱ後ろめたいんだろ?自覚あるんだな?」

「何の事だ」

「お前自分の都合のいい様に話ねじ曲げて俺のことモノにした」

内容が内容なだけに小声になる。綺堂に詰め寄る距離は近くなり、傍目には密着しているようだ。
 周囲の視線はますます二人に集中する。

「ねじ曲げるとかモノにするとか人聞き悪いな」

綺堂は不敵な笑みを浮かべて夏生の腰に腕を回そうとした。すかさず夏生に手を払われる。

「でもそういう事だろ?オレ騙された。やり方も犯罪紛いだったし」

「結果的にいい方向に向かってるのは知ってるよな?あのやり方じゃないと夏生は思いきれ無かっただろ?心配するな、夏生のデータは絶対漏らさない。俺が大事に保管してる」

「うっ⋯っ⋯あれ消せよっ」

「ダメだ、夏生が相手してくれない時のとっておきのオカズだからな。昨日だって2回でストップかけられて⋯」

「シーっ、シーっ!」

夏生は綺堂に飛びついて口を塞ごうとする。綺堂は喜んで腕を広げて抱きとめた。

「このクソ御曹司がっ⋯」

「お、目がマジだっ」

笑いながら夏生の手から逃れる綺堂は楽しげで、艶のあるバリトンが心地よく響いた。

「うるせぇ離せっ、もう俺帰るからどけよっ」

綺堂の腕から素早く抜け出した夏生は早足でティールームを出た。
飲み物の代金は兄が払ったはずだ。
客が多く行き交うロビーを突っ切ってエントランスホールで綺堂に捕まった。

「夏生待て!⋯お前速いな」

呆れ口調だか表情には焦りがある。

「メシ行こう。何でもご馳走する」

「やだ!お前が行くとこなんか肩こるに決まってる」

もう夏生はヘソを曲げてる。
データの事は気がかりなのだ。大事に保管してると言っても、気軽にオカズにされてるようじゃいつ誰に見られるか分からない。
綺堂は茶化して楽しいかも知れないが夏生は少しも面白くない。
   エントランスホールの端で怒れる夏生と宥める綺堂。

「ここの最上階のレストラン、死ぬほど美味いフルーツケーキあるぞ」

「ざけんな、女子か!」

「じゃあ夏生の好きなマック行こう」

「んなの自分で行くわ。お前と一緒だと不味くなるっつの」

「なぁ、機嫌直せよ」

「データ消したらな」

「それは、無理」

「なんで!」

「アレは本気で最高傑作」

「・・・話になんねぇ」

再び夏生がエントランスに向かうとドンっと人にぶつかった。

「⋯っすみませんっ」

背の高い男だ。見上げて謝ったら

「おい嘘だろ⋯まさか颯斗が手玉に取られるのをこの目で見る日が来るとは」

 シルバーの派手なスーツに身を包んだ、派手な男だ。
 長めの金髪を無造作にまとめたスタイルが華やかな顔立ちに合っている。
 いかにも遊び人という感じだが、きっと育ちはいいのだろう。
下品さは微塵も感じられない。時計やアクセサリーも高級品だ。年は20代後半だろうか。

「だれ?颯斗の知り合い?」

「ろくでもない奴だ。見なくて良い」

 綺堂はそう言って夏生を背後に隠した。すると男は

「これまたスゴイ美人ちゃんだな!」

 夏生の顔をよく見ようと近づいたが綺堂がその巨躯で阻止した。

「見るな」

「なになに!?本当に面白いんだけど!ええ~」

 男は心底驚いているようだ。

「俺オトコっす!」

 夏生はヒョコッと顔を出して主張した。

「いやもちろん分かるよ。どう見ても男だよね、うんうん⋯男ねぇ~まじで意外だわ。そう来るかぁ」

男は一人でブツブツ呟いている。

「どけ、もう行く」

「えっ、紹介してよ」

「するわけ無いだろ」

「え~、美人ちゃんとお友達になりたいなー」

「絶対だめだ」

 男と綺堂が言い合っているのを見ていると不意に手を握られた。
 綺堂が右手で夏生の左手を握った。そして指を絡めてすぐに歩き出した。

「えっ、話の途中だろ?」

「良いんだ」

 夏生が男の方を振り返ると手を振っているのが見えた。
 結局綺堂は男の名前も、どういう関係かも教えてくれなかったし、なし崩しにタクシーに乗せられて肩の凝るレストランへと連れていかれた。
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