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しおりを挟む綺堂の婚約者。
名前は分からない。
聞いた気もするが覚えていない。全く興味が無かったから。
ただ、彼女と目が合った時の無表情は印象に残っている。
「ああ、いるな」
綺堂が即答した時、夏生は自分が何を聞いたのか一瞬分からなくなった。
「メシ食った?」「ああ、食った」的なやり取り。
「婚約者って結婚する相手だよな」
「当たり前だろ」
「するんだよな・・・結婚?」
「ああ」
「いつ?」
「さぁな、色んなタイミングが合った時かな」
面倒そうに答える綺堂に夏生は更に聞いた。
子供の頃に親が決めた婚約者とは長い付き合いだが、行事やパーティで一緒に出席する程度の関わりしかないという。
結婚相手が決まっているだけで、自分が誰と付き合おうが誰と恋愛をしようが婚約者には関係がないのだと。
「・・・・・・」
理解が難しい。
綺堂が住んでいる世界では婚約者というのはそういうものなのか。
「結婚と遊びや恋愛は別もので、結婚するまでは自由って事?」
「そうだな、何なら結婚しても恋愛は別かもな」
言い切った綺堂だが、夏生が顔をしかめたのを見て、流れが不穏になってきたと感じたのか「もういいだろ」と夏生の服をたくし上げて脱がそうとした。
「やめろって!」
夏生はドン!と両手で綺堂の胸を押して離れた。
「は?」
綺堂の目に、怒りの火が灯る。
「俺・・・お前に婚約者がいる事すっかり忘れてた」
「それが何だよ」
「結婚相手がいるやつと付き合えないだろ、普通は!」
「意味分かんねぇ」
「そっちがな!」
「婚約者の事は忘れろ。夏生には関係ない話だ」
「はぁ?ふざけんな!!だったら全部の関係をなしにしてくれよ!」
「無理だろ。うちとお前の兄や会社との関係も無くなるぞ」
話が散らかってきた。「関係ない」と言われるのも傷つく。
「・・・ちょっと待て、考えたい」
「余計なこと考えるなよ」
「うるさい!!」
頭が混乱している。
婚約者がいようがいまいが綺堂は好き放題やってきた。
夏生が綺堂と寝るようになったのは犯罪まがいの策略で強引に関係に持って行かれたからだ。好きで寝てたわけじゃない。
だが今はどうだ。
さっきまで感じていた胸苦しさや甘い気持ちは自分が綺堂に対して新たな感情を抱いているからなのでは。
だから初めて自分から触れたしキスもした。
やろうとしていた事は同じだ。ただ体を繋げる行為。だが夏生にとっては全く別のものを始めようとしていた。
綺堂が見せる夏生へのこだわりだって元になる感情があるはずだ。それを確かめたいと思ったのに。
「何なんだよ・・・」
意識し始めると意思とは裏腹に急激に自覚をし始める。だが夏生は必死にブレーキをかけた。
やっぱこれ以上続けるのはまずいだろ⋯でも会社⋯
一人で苦悩する夏生に綺堂は我慢が切れた。
「話は終わりだ。来い」
腕を掴まれて着衣のまま浴室にひっぱって行かれたが全力で抵抗した。
「やだって⋯!クソっ!」
背後から腕を回され持ち上げられた。
力で敵わない事は分かっているが今は好きにされたくない。
脚を振り回してそこらじゅう蹴ったら縦型の何かでかい機械がぶっ倒れた。
ダブルボウルの広い洗面台の上の物はガチャガチャと床に落ち瓶が割れた。
そしてランドリーテーブルの角に脚を強かにぶつけて痛みに悶えた。
「うっ・・・ぐぁぁ!」
その間に寝室に運ばれキングサイズのベットに放り投げられた。
まだ脚が痛んで動けずにいると綺堂が続きの部屋から何かを持ち出してきた。綺堂のことだ、拘束具か何かだろう。
「痛てぇ・・・」
「馬鹿なマネするからだろ。どうする?縛られてヤられたいか?それともいつも通りメスになるか?」
「だからそれやめろっつったろ!!」
わざと煽る綺堂に夏生は憤る。
絞られた灯りの中で綺堂が冷酷に見下ろしている。
美しい悪魔か死神かに思えた。
綺堂はもう何も言う気がないらしい。ただ待っている。
夏生が「勝手にしろ」と投げやりに言うと、綺堂は夏生を抱き上げてまた浴室に連れて行った。
ランドリールームは酷い荒れようだった。だが綺堂は頓着せず夏生を裸にした。
まだ愛華との事を疑っているのか、体を確認されてうんざりしたが黙ってほっといた。
綺堂の手で後に浣腸を入れられ、羞恥の時間が過ぎると二人でガラス張りのバスルームの中にあるシャワーブースに入った。
綺堂の手で穴の中を洗浄された後、シャワーを浴びながら黙って身を任せていると綺堂に聞かれた。
「俺に婚約者がいるのがそんなに気に食わないのか?」
全部気に食わない。婚約者のことも、綺堂が常に自分本位なのも、いつも力で負けるのも。
「黙るなよ⋯夏生」
綺堂は夏生の顔を両手で包んで持ち上げた。
シャワーの飛沫に目を細める夏生を見つめながら流されて乱れる毛束を何度も丁寧に整えている。
だって⋯終わりが見えてる⋯
始めるわけにいかない。本気になったら地獄だ。
カラダはくれてやる、でも心はやらない。絶対に
夏生は、輪郭を見せ始めた感情に名前をつけないと決めた。
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