学園の王の愛はいらない

starry sky

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「待ってて」

綺堂の従兄弟、じょうは人差し指を唇に当てて夏生に合図し、ドアの方へ行った。
 夏生は立ちつくす。
頭が真っ白になりそうなのを必死に働かせて整理しようとする。
この男の話が本当ならとんでもない事だ。
 ついさっき、婚約者に対面してやましさや後ろめたさを感じたばかりだ。
強烈な抵抗感があった。
綺堂の世界では普通の事だとしても、婚約者がいる相手とセフレを続けるなんてやっぱり精神的にキツイ。
 世間一般では婚約者がいる人間は結婚するまでは自由恋愛なのか、それとも婚約者の為に清らかに生活しなくてはいけないのか。
今考えても仕方がない事や、ズレた事まで考えてしまう。無意識に逃げ道や言いわけを探しているのかもしれない。
 卒業までという期限がついて気分が楽にはなってはいたが、自分の中で目をつぶっていた事がやっぱり見過ごせなくなってきた。

やっぱ愛人とか浮気とか⋯しょうに合わねぇ

    勝手な事をする綺堂にも腹が立つ。
考えてみたら夏生が綺堂に「長くても卒業まで」と言った時、あっさり承諾したのは最初から反故にする気だったのではないか。
あの時はあっさり過ぎて本音では落胆していた。なのにいい加減な事を言われていたのかと思うと怒りが湧いてくる。
    考えがまとまらない。
これから何をどうしたら良いのか。
まずこの男が本当に颯斗の従兄弟なのかも確認したい。

「あ⋯」

神谷が言っていた「動き出した」って言うのはこの事だったのか。
急に思い出して腑に落ちた。

「だから逃がしてやるとかって⋯」
 
 夏生が一人で懊悩おうのういる間にドアの方でのやり取りが騒々しくなった。
店員が来たのだと思っていたが違ったのだろうか。
廊下には複数人いる気配だ。
じょうは軽い調子で応対しているが手と靴の先でドアを押さえて相手が開こうとするのを阻止している。
 
「いま良いところだからやめてよ」

 丈が言った。

・・・どこが?何が?

「何が良いとこなんだよ!?開けろって、このジャケットの持ち主がこの部屋にいるのは分かってんだよ!!」

勢いよくドアが開いたと思ったら神谷が入ってきた。すぐ後から夏生のジャケットを持った店員も入ってきた。
神谷は夏生を見つけて焦った顔で「マジかよ・・・」とつぶやいた。
見たことのない厳しい表情で夏生に近付いてきて夏生のシャツの襟元を掴んで広げた。

「なっちゃん、何でこんなにシャツ開いてんの?ネクタイどうした?髪も乱れて」

口調も鋭い。

「それは夏生くんが・・・」

「あんたは黙ってろ!」

代わりに答えようとした丈に神谷が怒鳴った。すごい剣幕だ。
いつもはヘラヘラしてるのにこういう顔もするのかと神谷の一面にちょっと驚いた。

「・・・あ、水かぶったんだ」

夏生が起きた事を説明すると、とりあえず納得した神谷は夏生のシャツのボタンをとめてネクタイを結んだ。
夏生が自分でやると言ってもムスッとした顔で手を出してくるので好きにさせた。
いつもワイシャツとスラックス姿の神谷だが、今日はジャケットも着ているしネクタイもきっちり巻いている。
ゴツい指で巻いたセミウィンザーは思いのほか美しい。
 神谷は「全く」とか「めんどくさい事になった」と呟いている。
 夏生がじっとしてされるがままにしていると神谷の怒気も落ち着いてきた。
最後に髪を丁寧に整えている様子を見ていた丈が冷やかすように言った。

「・・・トリミングしてるみたいだな」

「うるせぇな、アンタ出てくるとややこしいんだよ。何でここに居んだ?どうせ今日のパーティの事聞きつけて探りに来たんだろうが?」

「正解!颯斗が入れ込んでる子、気になるじゃん。それも男の子って意外すぎて度肝抜かれたよ。俺オトコいけるかなぁ~って考えたけど、夏生くんが相手ならゾクゾクしてく・・・」

「「ふざけんな!!」」

夏生と神谷、同時に叫んだ。
綺堂が丈の事を「碌でもない奴」と言っていたのが分かった気がする。
性的な事に関しては綺堂も神谷も大概、碌でもないとは思うが。
 とにかく丈は今日、夏生や綺堂の事がが目的でここにきたという事が分かった。

「俺にぶつかった女は何?わざとぶつからせたの?」

「いや、あれば思わぬ誤算。あの子呼び出して情報聞き出してたら迫られちゃって、お断りしたら飛び出してったの。さすがに淫行はまずいからね。ぶつかった相手が夏生くんなんてラッキー」
 
 つくづく軽い奴だ。神谷の上を行ってるし、神谷も呆れている。

「もういい。おい丈、頼むからあまり引っ掻き回すなよ」

背丈は同じくらいだが体格が違う。神谷は威圧するように丈に近付いて忠告したが、丈は意に介さず笑って言った。

「そろそろ颯斗が来るんじゃない?神谷も大変だよね。これからもっと・・・かな?」

「俺帰る」

夏生は綺堂が来てはまずいと焦った。
丈の所で足止めされてしまったが、綺堂から離れたくて彷徨っていたのだ。神谷がここにいるという事は綺堂もすぐに来るだろう。

「おい、なっちゃん・・・」

店員に出口を聞いた夏生は、止める神谷を振り返らずに足早に部屋を出た。



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