異世界から日本に帰ってきたら魔法学院に入学 パーティーメンバーが順調に強くなっていくのは嬉しいんだが、妹の暴走だけがどうにも止まらない!

枕崎 削節

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第9話 Aクラスとのトラブル

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 後から来たAクラスの生徒の姿を見て聡史のクラスメートは腰が引けている様子。面と向かって苦情を申し立てる態度を見せようとはしない。

 入学してまだ2か月少々ではAクラスの生徒とEクラスの生徒では埋めがたい能力差があるのは事実。これが1年2年と経過すれば訓練によって徐々に差が埋まってくるのだが、現時点ではAクラスの生徒一人でこの場にいる聡史を除いたEクラスの生徒全員を相手にしても十分お釣りがくるほど。

 頼朝を含めたEクラスの生徒たちは仕方なしに場所空けようとスタンドに向かって歩き出す。だがそんな彼らを尻目に聡史一人は平然とフィールドの中央で準備体操を続けている。

 もちろん、そんな聡史の態度はAクラスの生徒の癇に障るのは当然の流れ。


「おい、そこのゴミ野郎! さっさと場所を開けろ」

 ひとりが強い口調で警告するが、聡史は何も聞こえないといわんばかりの態度で体を捻ったり軽くジャンプを繰り返すだけ。


「聞こえないのか。早くそこを空けろ!」

 さらに強い口調で警告を発する生徒だが、聡史は一向に態度を変える様子を見せない。そんな中で別のひとりが気付く。


「あいつは見掛けない顔だな」

「そういえばそうだ。もしかして、今日から編入してきたヤツじゃないのか?」

「途中編入が認められていない魔法学院に学期半ばで入ってきたんだから、きっと相当なコネがあるんだろう」

「コネ入学で、しかも特待生か。真面目にやっているこっちが頭にくるぞ」

「こうななったら、実力で叩き出してやるか?」

「それがいいだろう。どうせコネで入ったヤツなんか俺たちに掛かればひと捻りだろう」

「違いないぞ」

「ハハハ、あとから泣きっ面をかくなよ」

 これだけの言いたい放題にされても聡史は気にも留めない様子。あまりに平然とした聡史の態度に心配になってきた頼朝が溜まりかねてAクラスの生徒たちに聞こえないように声を掛ける。


「聡史、今日は止めておこう」

「なんでだ? これから自主練をするんだろう。うるさいノラ犬が吠えているみたいだが、こんな連中に構っていたらせっかくの訓練時間が無駄になるぞ」

 自分の忠告にまったく聞く耳を持たない聡史に頼朝は額に手を当ててアチャーというゼスチャーをしている。聡史の発言は真っ正面からAクラスの生徒を挑発… いや、もう一歩踏み込んでケンカを売っている。


「こいつは正気か? 俺たちに喧嘩を売っているぞ」

「いいから、適当に痛めつけてやれ」

 こうして10人以上のAクラスの生徒が聡史を取り囲む。実は聡史もこの学院に在籍する生徒のレベルを知りたかった。せっかくだからAクラスの生徒を相手にする機会を有効利用するつもりらしい。

 自分を取り囲む12人を前にして聡史の目がスッと細められる。その手には訓練用の木刀が握られている。


「武器は好きなものを使っていいぞ。ただーし! 相応の覚悟で挑めよ。命まで奪うつもりはないが、怪我させない保証はないからな」

「この人数を相手にして大口を叩く余裕がいつまで保つと思っているんだ?」

「袋叩きで足腰が立たなくしてやる。編入初日に自主退学になるかもな」

 Aクラスの生徒は木剣や木槍を手にしたり、中には棒術で使用する木の棒を持っている。こちらの生徒はおそらく魔法を用いた戦闘を得意にしているのであろう。学院内で金属製の武器を用いるのは公式戦以外は禁止なので、訓練時には全員木製の武器を使用している。


「取り囲んでいるだけでは、いつまで経っても始まらないぞ。俺のほうから打ち掛かってもいいのか?」

 不敵な笑みを浮かべながら聡史がさらに挑発を投げ付けるとAクラスの生徒たちの我慢は限界を越えたよう。剣や槍を振り上げてバラバラに襲い掛かってくる。


「遅い」

 だが聡史には、そのような素人同然の相手など物の数ではない。そもそも踏み越えてきた修羅場と実戦経験が違いすぎる。桜には及ばないまでも彼らの目に留まらない素早さで剣や槍を持つ手を強かに打っていく。


 バキッ

「痛えぇぇぇぇ!」

 バキッ

「うぎゃぁぁぁぁ!」

 バキッ

「痛たあぁぁぁ!」

 バキッ

「あべし」

 冒険者として訓練を開始して2か月のAクラスの生徒たちに対して、聡史は本物のプロの冒険者として3年の月日を過ごしてきた。もちろん人間をその手に掛けた経験も数知れない。それだけでも大きな差だが、さらにステータス上のレベル差もある。要するにAクラスといえども敵にもならない相手であって、歯牙にもかけないというのはこんな状態に違いない。ゴブリンどころかスライムよりも手応えのないと断言して大した問題はなさそう。

 一方のAクラスの生徒たちは12名の味方とたったひとりの敵が入り乱れてほとんどが聡史の正確な位置を見失っている。

 プロの戦闘集団ならば絶対に採用しない1対多人数という不味い戦いの陣形ともいえる。仮に警察官や兵士がひとりの犯人やテロリストを拘束するとしたら、実際に拘束を担当するのは多くても四人。他の人員は周辺の警戒とテロリストの退路を断つ位置に配置されるのが定石。まだ5月の段階では彼らがこんな専門的な戦術を身に着けるには時期尚早であったのかもしれない。

 しかも、敏捷な動きで位置を次々に変えていく聡史の動きに誰も追いつけてはいない。そのまま全員が木剣で籠手を打たれて蹲る。たかが木剣と侮るなかれ。片手を木刀で打たれただけでも並の人間は抵抗できなくなる。下手をすると骨にヒビが入っているかもしれない。


「だらしないな。この程度でAクラスを名乗れるのか。魔法学院というのは想像していたよりもずいぶん甘っチョロい場所なんだな」

 大した運動にもなっていないといわんばかりに木剣をブンブン振り回す風切り音がフィールドに響き、聡史の信じがたい強さを目の当たりにしたクラスメートが息を飲む姿だけがそこにはあるのだった。



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