1 / 3
第1話
しおりを挟むその日は満月に満たない8月のある日のことだった。クーラーを消したまま寝てしまっていたため背中にや首にびっしり汗をかいていた僕はベットから起き上がりエアコンのリモコンを探す。リモコンを最後に置いた場所なんて覚えてない。置くときにわざわざ覚えようともしない。手探りで辺りを探してみたけど見つからない。蒸し暑い部屋に耐え切れなくなった僕は部屋の窓を開け涼むようにした。こんな真夏の真夜中に窓を開けても涼しくなんかない。案の定とみるばかり元から期待していなかった生温くて湿っぽい外の空気を吸って小さくため息をついた。真夏はエアコンをつけてばかりだから久しぶりに窓を開けて自然の空気というものを吸ったな、そう思いながらたまに通る車とか人とかを目で追ったりはぼーっとしていた。僕の家は都会でもなければ田舎でもない。自転車で15分くらいすれば駅に着くし歩いて5分くらいでコンビニにも着く。近くに中学校もあるしスーパーもある。夜は賑やかではない、これが僕にとっては大好きな時間。こうやって窓を開けて二階の部屋からたそがれる時間がこんなにも気持ちよかったことに今気がついた。誰にも干渉されず誰にも見られてない無常の時間。誰にも見られていないと思っている人を見ている時間。たまに吹く風が心を揺さぶる時間。この静かで暗くて誰も僕のことを考えていないような時間が心地よくてたまらないな。僕は人がたくさんいて賑やかな場所が好きじゃない。人の気持ちは考える方で気遣いもできる、でも考えすぎていつも悩んじゃうからいつも少人数のグループの方が良いと思っている。一人が一番だけど。この時間はそんな僕と似ているような気がするんだよな。人は同じ気持ち、同じ考えを持った人と一緒にいたがると思う。似た者同士ってやつ。そいつといると落ち着く、そいつといると楽しいとか。だから僕はこの時間が好きなんだな、って今、思った。そしてこの時間も僕の様な人間が好きなはずなんだ。
右のほうから腕を組んだカップルが歩いているのが見えた。女の方はタンクトップ姿にデニムのショートパンツ、髪の毛はてっぺんにお団子を結んでいる。男の方はティーシャツにスウェット、襟足長めの黒髪。2人とも楽しそうだ。彼にもたれかかりながらスタスタと歩く彼女、ポケットに手を突っ込みなんとなくだるそうに歩く彼氏。彼女が何か喋っている。聞こうとしなくても周りが静かだから耳に入ってきてしまう。「ねぇ~手繋ぐのと腕組むのどっちが好きぃ~?」
酔ってるのか酔ってないのか分からないが彼氏にデレているのがよく分かるように彼女は男に聞いた。
「どっちも好きだよ。」
見かけによらず少しだるそうに男は答える。まあそれが彼の性格なのだろう。恋人は常に均衡だと思う。片方が重いくらいに好きならばもう片方は究極にその反対となる。逆に片方が自分を見てくれなくなったときにもう片方は異常なまでの愛情を相手に注ぎたくなる。それが恋人なんじゃないかな。その差がほぼなくて両者とも同じ程度の愛情を持っていれば良い関係が続くと思うんだ。別れるときってのは、元は2人が愛情のコップをもって同じ量のジュースが入っていたのに、なぜか相手のコップにジュースが入っていなくて自分のコップに大量にジュースが入っていたりとか相手のコップにジュースが大量に入ってる時とか、相手のコップもしくは自分のコップが既に割れてしまっている時、なんだと思う。コップに同じ量のジュースが入っている状態を保つのは難しい。今見てるカップルのコップの中はどんなんなんだろうな。半年以内に男の方のコップが割れていそうだな、そう思ったら不意に笑ってしまった。いつからか僕は人の不幸を笑うような人間になってしまったように思える。中学生までは学力は高い方だった。先生からもお気に入りで学年委員にも入って委員長もやったことある。さすがに生徒会はやりたくなかったけど高校受験の内申点を得るための努力はしていたし、その努力が報われ公立で県内で偏差値が上から4番目くらいの高校にも入れた。サッカー部に入って部員が多い中大会にも安定してメンバー入りしていたから本当に充実していたな。それから高校、大学と平凡な生活を送っていたんだけど、やっぱ大人になるにつれていろんなことを経験するんだなぁとつくづく思うんだ。子供の時は純粋で、嘘はついてはいけないだとか、人のことを馬鹿にしてはいけないだとか、電車でお年寄りに席を譲るとか、先生に言われた、お母さんに言われたとかでそれを守ることに必死だった。でも大きくなるにつれてそうじゃなくなってくる。今だって別に社会不適合者ではない。周りから信頼されることもある。でもやっぱあの時の純粋な自分よりは汚れて、何よりもやっぱり自分が可愛くて、自己勝手なところとかが勝ってしまうんだよな。心に住み着く悪魔みたいなやつが浮き出てくるんだよ。人間てそうだよな。みんな性格悪いんだよ。性格良いやつなんていないんだ。みんな自分が一番可愛いんだ。自分か相手どちらかが今死ななければならないって言われたら自分を選べないよ。みんなそうだろう?岬だってそうだろう?成美だってそうだろう?そんな中で僕は友達を作って彼女を作って、自分の作ったコミュニティで生きている。みんなそんな感じだろ?それが普通なんだよ。きっと。
0
あなたにおすすめの小説
診察室の午後<菜の花の丘編>その1
スピカナ
恋愛
神的イケメン医師・北原春樹と、病弱で天才的なアーティストである妻・莉子。
そして二人を愛してしまったイケメン御曹司・浅田夏輝。
「菜の花クリニック」と「サテライトセンター」を舞台に、三人の愛と日常が描かれます。
時に泣けて、時に笑える――溺愛とBL要素を含む、ほのぼの愛の物語。
多くのスタッフの人生がここで楽しく花開いていきます。
この小説は「医師の兄が溺愛する病弱な義妹を毎日診察する甘~い愛の物語」の1000話以降の続編です。
※医学描写はすべて架空です。
ちょっと大人な物語はこちらです
神崎 未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な短編物語集です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
大丈夫のその先は…
水姫
恋愛
実来はシングルマザーの母が再婚すると聞いた。母が嬉しそうにしているのを見るとこれまで苦労かけた分幸せになって欲しいと思う。
新しくできた父はよりにもよって医者だった。新しくできた兄たちも同様で…。
バレないように、バレないように。
「大丈夫だよ」
すいません。ゆっくりお待ち下さい。m(_ _)m
人狼な幼妻は夫が変態で困り果てている
井中かわず
恋愛
古い魔法契約によって強制的に結ばれたマリアとシュヤンの14歳年の離れた夫婦。それでも、シュヤンはマリアを愛していた。
それはもう深く愛していた。
変質的、偏執的、なんとも形容しがたいほどの狂気の愛情を注ぐシュヤン。異常さを感じながらも、なんだかんだでシュヤンが好きなマリア。
これもひとつの夫婦愛の形…なのかもしれない。
全3章、1日1章更新、完結済
※特に物語と言う物語はありません
※オチもありません
※ただひたすら時系列に沿って変態したりイチャイチャしたりする話が続きます。
※主人公の1人(夫)が気持ち悪いです。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です
朝陽七彩
恋愛
私は。
「夕鶴、こっちにおいで」
現役の高校生だけど。
「ずっと夕鶴とこうしていたい」
担任の先生と。
「夕鶴を誰にも渡したくない」
付き合っています。
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
神城夕鶴(かみしろ ゆづる)
軽音楽部の絶対的エース
飛鷹隼理(ひだか しゅんり)
アイドル的存在の超イケメン先生
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
彼の名前は飛鷹隼理くん。
隼理くんは。
「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」
そう言って……。
「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」
そして隼理くんは……。
……‼
しゅっ……隼理くん……っ。
そんなことをされたら……。
隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。
……だけど……。
え……。
誰……?
誰なの……?
その人はいったい誰なの、隼理くん。
ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。
その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。
でも。
でも訊けない。
隼理くんに直接訊くことなんて。
私にはできない。
私は。
私は、これから先、一体どうすればいいの……?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる