相棒は邪龍らしい。

渡邉 幻日

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1:出逢いと別れ

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かさ、
「……?」
闇の中にあってなお深い闇色の生き物だった。うねる身体は長さがよくわからないが15センチ……いや、10センチあるかどうかだろうか? 
疑問が拭えないのは、頭部には丸みを感じるが胴回りがあまりにも細かったからだ。
多分、ただの蛇なのだろう。メラニズムとやらなのではないだろうか。今この蛇には俺の存在を知覚出来ていない筈だから、通りすぎるのを待ってやるかとその場で立ち止まれば、チョロチョロと蛇行していた蛇が頭をあげる。
星の光の中、舌と瞳が紅玉のように煌めいて目立つ。
『……あれ? 美味しそうな気配消えた』
「……!」
『おっかしいなぁ……この辺に来てたのになぁ……。バレたかなあ……』
ちろちろと赤い舌が顔を出す。ゆうるりと向き直り、蛇は来た方へと戻っていくようだ。
『あーあ、今日こそ逢えると思ってたのになぁ~』
今夜は静かな夜だった。間違っても今の声は俺のものではない。
驚きで思考が止まっていたが、俺の足は勝手に追いかけていた。追いかけながら眼を凝らしてみる。
目の前の細くて小さな蛇は、闇の力を纏っていた。恐らくこの蛇も、俺のように気配を消して何かを探していたのだろう。
確かに目の前に現れたときに漸く蛇の存在に気付いた。俺に負けず劣らず闇の力が強いのだと思う。 

己自身へ掛ける魔法などでの話しになるが、行動しているときに纏う魔力と立ち止まっているときに纏う魔力では、やはり補い方が違う。
移動した先にも効果を与えなくてはならない。移動した後の魔力をうまく消し去らなくてはならない。つまり、動いているときは綻びが出やすい。陽炎のような綻びは、熟練の魔法使いでも抑えるのが難しいもの。
もしかするとあの蛇はその綻びに気付いてここまでやってきたのかもしれなかった。


この世には、ひとと同列の思考を持つものもいると言う。
それは長く生きた魔物が殆どだ。稀に神格を得ることもあるらしいが、殆どは弱肉強食を生き永らえた魔物ばかり。命の危機を乗り越えることで思考能力が激烈に進化するのだとか。
それによって身体能力も引き上げられ、更に知能も高まるらしい。本来の種族にもよるが大抵は大柄になっていく。脳の体積なども増えるからだ。元々が天敵の多い小柄な種族であれば、より小柄になるとも。
あれは産まれたばかりに見えるほどに小さく、シンプルな姿に見えた。それなのに、俺が理解出来る言語を発することが出来る。ただの蛇……どころか魔物でも無いのだろう。
あれは仮初めの姿なのかもしれない。例えば……そう、擬似餌、とか。
このまま追いかけて、最後には永く生きた大きな岩のような魔物の前へ誘い込まれて、俺が餌になるのかもしれない。
そんな緊張だって、たしかに感じているのに。
今すぐ帰ってベッドにくるまり、しっかりと眠って、朝日を浴びなくては。無為に感じる1日を、きちんと消費すべきだと。俺の思考は言うのに。
どきどきと胸が逸る。なぜだかわからないが追いかけずにはいられない。 

ぱきん

「……っ、」
『……、……』
今更、小枝を踏み抜いた足を持ち上げても意味はない。低姿勢だった目の前の蛇が動きを止め、くるりとこちらへ目を向けた。
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