相棒は邪龍らしい。

渡邉 幻日

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1:出逢いと別れ

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「……、」
『……』
ゆるり、身体も向き直り、ちろちろと舌を出しては仕舞いながら迷いなく俺の方へ向かってくる。たしか、蛇は舌に匂いを感じる器官があると本で読んだ気がする。闇属性は纏っているが、そう言えば体臭のことは考えていなかったかもしれない。
『……あ』
「っ」
く、と顔を上げた蛇と、動向を見守るため目線を下げていた俺の視線が絡み合う。
『きみかぁ……』
なぜかはわからないが、目の前の蛇がうっとりと眼を細めたように感じた。



***** 

闇色の蛇は、本当は邪龍らしい。
らしいと言うのも、俺から見た限りとてもそうは見えないほどに小さく弱そうだからだ。そればかりは産まれたばかりだから仕方ないと笑いながら言われたが。
『最近この辺りで美味しそうな魔力を感じてさ、様子を見てたんだよね』
「美味しそうな魔力……俺か?」
『そうみたい』
あれからなぜかそのまま蛇のねぐらへと案内されていた。疑えばいいのに、初めて遭う人語を話せる蛇に自覚無しに舞い上がっていたのかもしれない。 

ひらけたその場所には清んだ池もある。水中生物がいるかはわからないが、この蛇が食われてしまうようななにかは居ないのだろう。
水面に向き、並んで座る。
とって食われるのでは、なんて思っていたが、どうやら傍に居るだけで十分なのだそうだ。体外へ漏れる魔力を吸えるのだとか。
『はー……すんごいきもちぃ……』
ぺと、と俺の足へ頭を乗せ、とろけた声を漏らす。先程見たより少しばかり太くなった気のする身体を擦り付けてきながら、真っ赤な眼を俺へ向けてくる。
『ねぇ、俺のこと飼わない?』
「……飼う?」
『だって今の俺は邪龍どころか龍とすら思えないでしょ。実際幼体でもあるし、間違いではないし。此処にいるよりきみの近くの方が早く進化出来そうなんだもの』
龍と竜は違う。竜は下級で、上級の存在は龍になる。そして、俺の足にへばりつくこれはどう見ても蛇でしかない。
『元々、竜は蜥蜴で龍は蛇。全くの別物さ。なんかいつからか竜が進化できれば龍になるなんて話が出たみたいだけど、どう頑張ったってならないよ』
「違う?」
『進化の仕方からして違うし』
頭だけ乗せるようにしていたはずなのに、いつの間にか俺の足に全身乗り上げてだらりと身を預けている。ほんの少しひんやりとした体温が意外と心地いい。
『きみの役に立つからさ、契約しようよ』
従属、使役、契約。
魔物との生活での互いの立場を表すものだが、同じように思えて全く別の方法だ。奴隷のように、従者のように、友のように。
解放させられる力も、立場によって違う。
逃げ出さぬように4割以下に抑えられる従属。役に立てる程度に調整される5割~7割の使役。8割~10割解放されるのは信頼のある契約。幅があるのは主人の力量に比例するためだ。それからその時点での信頼も影響はあるとも聞く。裏切られるのではと疑心にかられた相手に力など持たせられない。
双方が納得、信頼していれば従属から契約へ変えることなどもあるらしい。勿論、逆だってある。
「初対面のお前と契約するとでも?」
『いいじゃ~ん。執事から夜伽からなんでもするよ?』
「よとぎ?」
『あ、まだ早いか。じゃあそれは置いといてさ、身の回りのお世話とか、勉強とかどう?』
きみの知らないスキルの取り方とか教えてあげようか、だと。
見た目はまだまだ幼いかもしれないが、屋敷にある本は読み尽くしたし、両親に頼んで難しい魔法の本だって手に入れ読んでいる。教わるほどではないと思っている。
だが、人の知るものと魔物の知るものの違いには確かに興味がある。
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