相棒は邪龍らしい。

渡邉 幻日

文字の大きさ
10 / 54
1:出逢いと別れ

10

しおりを挟む
闇色は珍しいと先程表現したが、正しくは異端だ。それだけは確実。
長い歴史の中で面白いほど多彩な髪や瞳を持つようになった人間だが、闇色だけはない。画家の利用する絵の具でも、沢山の色を混ぜても黒が出来ないように。どれほど血や魔力が混じりあっても闇色は産まれなかったとされている。
勿論歴史と言うものは気が遠くなるほど長いものだから、本当は存在していたのかも知れない。 

あからさまには言わないが、人間は闇色を避ける傾向にある。逆に澄んだ色であるほど好まれるし、魔力も高いと言われている。

夜の中の闇ほど惹き込まれるものはない。闇に浮かぶ赤い実もあんなに美しいのに。 

……まて。
「あー。ばれた」
「お前……」
「ほんと強いねえ」
素知らぬ風に抱き上げられ、頬に口付けを落とされる。
俺がこいつを犬猫ペットと思ったように、こいつも俺をそう見ているかのよう。ちゅうちゅうと頬を吸われてくすぐったいので、両手を伸ばして拒否をする。
「んふふふふ、猫に嫌がられてるみたい」
「嫌がっているのは間違いないがな。離せ!」
「あと一回」
むちゅう、と口付けをしてから床へ足がつけられるよう俺を降ろす。それを見ていたかのようなタイミングでドアをノックする音がした。
「ルシフ様、朝食の準備が出来ております。皆様お待ちでございます」
「今行く」
端的に返した俺の言葉の後、人に化けたベリーがわざとらしいくらいに恭しくドアを開ける。呼びにきたメイドは壁に沿うように立ち、俺に一礼した。そして案内のために先を行く。 

背後でそっとドアの閉まる音がした。


***** 

食事風景に関しては特筆することもなく過ぎた。
今日も味付けが良いとか、野菜が新鮮で良いとか、肉の柔らかさが良いとか。兄たちは流石、育ち盛りであるから肉料理をことのほか喜び言葉を尽くし、母親に窘められ不味そうに野菜を口に運ぶ。そして褒められて顔を綻ばせる。
デザートが運ばれ、美味しいだのなんだのと語り合う姿を、俺は視界に入れずに淡々と口に運んでいる。
食後の紅茶を含みながら父親の今日のスケジュール、母親のスケジュール、兄たちのスケジュールが順に確認されていく。
一瞬の間、それぞれから向けられる視線。
「お父様、本日は書庫をお借りしても宜しいでしょうか」
「……ああ」
「……あなたは本当に勤勉ね」
不自然な間をおきながらも褒めようとする姿勢は感心すべきなのだろうか。
それでも……それでも俺の名を呼ぼうとはしないのだから、やはり見た目しか見ていないのだ。
魔力や血液は間違いなく継いでいると調べた筈なのに、色が違うだけで距離を置きたがる。見た目のことなど、疚しさがなければ気にする必要など無いものではないか?
それとも、本当に俺が必要……ーー 

「坊っちゃま、お顔の色が悪いですね。差し出がましいかもしれませんが読書はまた今度にして、本日はお部屋で休まれては?」
耳元に囁かれる声にはっとする。知らず俯いていた視線を声がした方へ向ければ、ブラッドベリーが俺を見詰めていた。俺と目線を合わせるために腰を落として。
鮮やかさと深さが両立する不思議な色味が、なぜかとても落ち着いた。
暫く見詰めあって、一つ、頷く。それから父親へ向き直って、頭を下げる。
「申し訳ありません……書庫をお借りするのはまたにします」
「……そう、だな。無理をしないように」
「……そこのあなた、その子をお願いね」
「畏まりました、奥様」
ベリーが母親に向けて微笑む。そうして、俺に向けて「失礼します」と一つ声をかけたと思ったら、部屋でしたように俺の身体をひょいと掬い上げて抱き締めてきた。
「っ、」
「それでは坊っちゃまをお部屋にお送りさせていただきます。お先に失礼します」
ぐるりと見渡すように視線を向け、ベリーが一礼する。その動きに合わせて、俺も頭を下げた。
「あ、ああ……何か、あれば……言いなさい」
「……はい」
珍しい父親の言葉に、俺の方が反応に困ってしまった。
俺の返事を待ってから、ベリーがもう一度礼をして部屋を辞す。 


「お疲れ様でした」
耳元に聞こえた声。なにがだと聞き返す前に、背中をとんとんと叩かれる。やめろ、眠くないのに。
寝たくないのに。
まぶたが重たくなって、すがるように、ぐずるように、ベリーの肩へしがみつく。とんとん、とんとん。背を叩く強さが絶妙で、抱き上げられていては逃げられやしない。 

いつの間にか、意識は闇に沈んでいた。

********************
ここにコメント入れるの控えたかったのですが一応案内をば。
次回分から数回(?)ちょっとイチャイチャしてますのでご注意頂ければと思います。
やむを得ない流れ(?)でキスしたりもしますので宜しくお願いします(なにを?)
折角ファンタジーにしてるのに旅に出られない!!!😭

閲覧頂きましてありがとうございます。
本当にゆるふわですみません。多少なりと楽しんでいただければ幸いなんですけども~!
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

次期国王様の寵愛を受けるいじめられっこの私と没落していくいじめっこの貴族令嬢

さら
恋愛
 名門公爵家の娘・レティシアは、幼い頃から“地味で鈍くさい”と同級生たちに嘲られ、社交界では笑い者にされてきた。中でも、侯爵令嬢セリーヌによる陰湿ないじめは日常茶飯事。誰も彼女を助けず、婚約の話も破談となり、レティシアは「無能な令嬢」として居場所を失っていく。  しかし、そんな彼女に運命の転機が訪れた。  王立学園での舞踏会の夜、次期国王アレクシス殿下が突然、レティシアの手を取り――「君が、私の隣にふさわしい」と告げたのだ。  戸惑う彼女をよそに、殿下は一途な想いを示し続け、やがてレティシアは“王妃教育”を受けながら、自らの力で未来を切り開いていく。いじめられっこだった少女は、人々の声に耳を傾け、改革を導く“知恵ある王妃”へと成長していくのだった。  一方、他人を見下し続けてきたセリーヌは、過去の行いが明るみに出て家の地位を失い、婚約者にも見放されて没落していく――。

おばさんは、ひっそり暮らしたい

波間柏
恋愛
30歳村山直子は、いわゆる勝手に落ちてきた異世界人だった。 たまに物が落ちてくるが人は珍しいものの、牢屋行きにもならず基礎知識を教えてもらい居場所が分かるように、また定期的に国に報告する以外は自由と言われた。 さて、生きるには働かなければならない。 「仕方がない、ご飯屋にするか」 栄養士にはなったものの向いてないと思いながら働いていた私は、また生活のために今日もご飯を作る。 「地味にそこそこ人が入ればいいのに困るなぁ」 意欲が低い直子は、今日もまたテンション低く呟いた。 騎士サイド追加しました。2023/05/23 番外編を不定期ですが始めました。

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

完結 愚王の側妃として嫁ぐはずの姉が逃げました

らむ
恋愛
とある国に食欲に色欲に娯楽に遊び呆け果てには金にもがめついと噂の、見た目も醜い王がいる。 そんな愚王の側妃として嫁ぐのは姉のはずだったのに、失踪したために代わりに嫁ぐことになった妹の私。 しかしいざ対面してみると、なんだか噂とは違うような… 完結決定済み

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

【完結】使えない令嬢として一家から追放されたけど、あまりにも領民からの信頼が厚かったので逆転してざまぁしちゃいます

腕押のれん
ファンタジー
アメリスはマハス公国の八大領主の一つであるロナデシア家の三姉妹の次女として生まれるが、頭脳明晰な長女と愛想の上手い三女と比較されて母親から疎まれており、ついに追放されてしまう。しかしアメリスは取り柄のない自分にもできることをしなければならないという一心で領民たちに対し援助を熱心に行っていたので、領民からは非常に好かれていた。そのため追放された後に他国に置き去りにされてしまうものの、偶然以前助けたマハス公国出身のヨーデルと出会い助けられる。ここから彼女の逆転人生が始まっていくのであった! 私が死ぬまでには完結させます。 追記:最後まで書き終わったので、ここからはペース上げて投稿します。 追記2:ひとまず完結しました!

【完結】番である私の旦那様

桜もふ
恋愛
異世界であるミーストの世界最強なのが黒竜族! 黒竜族の第一皇子、オパール・ブラック・オニキス(愛称:オール)の番をミースト神が異世界転移させた、それが『私』だ。 バールナ公爵の元へ養女として出向く事になるのだが、1人娘であった義妹が最後まで『自分』が黒竜族の番だと思い込み、魅了の力を使って男性を味方に付け、なにかと嫌味や嫌がらせをして来る。 オールは政務が忙しい身ではあるが、溺愛している私の送り迎えだけは必須事項みたい。 気が抜けるほど甘々なのに、義妹に邪魔されっぱなし。 でも神様からは特別なチートを貰い、世界最強の黒竜族の番に相応しい子になろうと頑張るのだが、なぜかディロ-ルの侯爵子息に学園主催の舞踏会で「お前との婚約を破棄する!」なんて訳の分からない事を言われるし、義妹は最後の最後まで頭お花畑状態で、オールを手に入れようと男の元を転々としながら、絡んで来ます!(鬱陶しいくらい来ます!) 大好きな乙女ゲームや異世界の漫画に出てくる「私がヒロインよ!」な頭の変な……じゃなかった、変わった義妹もいるし、何と言っても、この世界の料理はマズイ、不味すぎるのです! 神様から貰った、特別なスキルを使って異世界の皆と地球へ行き来したり、地球での家族と異世界へ行き来しながら、日本で得た知識や得意な家事(食事)などを、この世界でオールと一緒に自由にのんびりと生きて行こうと思います。 前半は転移する前の私生活から始まります。

処理中です...