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1:出逢いと別れ
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闇色は珍しいと先程表現したが、正しくは異端だ。それだけは確実。
長い歴史の中で面白いほど多彩な髪や瞳を持つようになった人間だが、闇色だけはない。画家の利用する絵の具でも、沢山の色を混ぜても黒が出来ないように。どれほど血や魔力が混じりあっても闇色は産まれなかったとされている。
勿論歴史と言うものは気が遠くなるほど長いものだから、本当は存在していたのかも知れない。
あからさまには言わないが、人間は闇色を避ける傾向にある。逆に澄んだ色であるほど好まれるし、魔力も高いと言われている。
夜の中の闇ほど惹き込まれるものはない。闇に浮かぶ赤い実もあんなに美しいのに。
……まて。
「あー。ばれた」
「お前……」
「ほんと強いねえ」
素知らぬ風に抱き上げられ、頬に口付けを落とされる。
俺がこいつを犬猫と思ったように、こいつも俺をそう見ているかのよう。ちゅうちゅうと頬を吸われてくすぐったいので、両手を伸ばして拒否をする。
「んふふふふ、猫に嫌がられてるみたい」
「嫌がっているのは間違いないがな。離せ!」
「あと一回」
むちゅう、と口付けをしてから床へ足がつけられるよう俺を降ろす。それを見ていたかのようなタイミングでドアをノックする音がした。
「ルシフ様、朝食の準備が出来ております。皆様お待ちでございます」
「今行く」
端的に返した俺の言葉の後、人に化けたベリーがわざとらしいくらいに恭しくドアを開ける。呼びにきたメイドは壁に沿うように立ち、俺に一礼した。そして案内のために先を行く。
背後でそっとドアの閉まる音がした。
*****
食事風景に関しては特筆することもなく過ぎた。
今日も味付けが良いとか、野菜が新鮮で良いとか、肉の柔らかさが良いとか。兄たちは流石、育ち盛りであるから肉料理をことのほか喜び言葉を尽くし、母親に窘められ不味そうに野菜を口に運ぶ。そして褒められて顔を綻ばせる。
デザートが運ばれ、美味しいだのなんだのと語り合う姿を、俺は視界に入れずに淡々と口に運んでいる。
食後の紅茶を含みながら父親の今日のスケジュール、母親のスケジュール、兄たちのスケジュールが順に確認されていく。
一瞬の間、それぞれから向けられる視線。
「お父様、本日は書庫をお借りしても宜しいでしょうか」
「……ああ」
「……あなたは本当に勤勉ね」
不自然な間をおきながらも褒めようとする姿勢は感心すべきなのだろうか。
それでも……それでも俺の名を呼ぼうとはしないのだから、やはり見た目しか見ていないのだ。
魔力や血液は間違いなく継いでいると調べた筈なのに、色が違うだけで距離を置きたがる。見た目のことなど、疚しさがなければ気にする必要など無いものではないか?
それとも、本当に俺が必要……ーー
「坊っちゃま、お顔の色が悪いですね。差し出がましいかもしれませんが読書はまた今度にして、本日はお部屋で休まれては?」
耳元に囁かれる声にはっとする。知らず俯いていた視線を声がした方へ向ければ、ブラッドベリーが俺を見詰めていた。俺と目線を合わせるために腰を落として。
鮮やかさと深さが両立する不思議な色味が、なぜかとても落ち着いた。
暫く見詰めあって、一つ、頷く。それから父親へ向き直って、頭を下げる。
「申し訳ありません……書庫をお借りするのはまたにします」
「……そう、だな。無理をしないように」
「……そこのあなた、その子をお願いね」
「畏まりました、奥様」
ベリーが母親に向けて微笑む。そうして、俺に向けて「失礼します」と一つ声をかけたと思ったら、部屋でしたように俺の身体をひょいと掬い上げて抱き締めてきた。
「っ、」
「それでは坊っちゃまをお部屋にお送りさせていただきます。お先に失礼します」
ぐるりと見渡すように視線を向け、ベリーが一礼する。その動きに合わせて、俺も頭を下げた。
「あ、ああ……何か、あれば……言いなさい」
「……はい」
珍しい父親の言葉に、俺の方が反応に困ってしまった。
俺の返事を待ってから、ベリーがもう一度礼をして部屋を辞す。
「お疲れ様でした」
耳元に聞こえた声。なにがだと聞き返す前に、背中をとんとんと叩かれる。やめろ、眠くないのに。
寝たくないのに。
まぶたが重たくなって、すがるように、ぐずるように、ベリーの肩へしがみつく。とんとん、とんとん。背を叩く強さが絶妙で、抱き上げられていては逃げられやしない。
いつの間にか、意識は闇に沈んでいた。
********************
ここにコメント入れるの控えたかったのですが一応案内をば。
次回分から数回(?)ちょっとイチャイチャしてますのでご注意頂ければと思います。
やむを得ない流れ(?)でキスしたりもしますので宜しくお願いします(なにを?)
折角ファンタジーにしてるのに旅に出られない!!!😭
閲覧頂きましてありがとうございます。
本当にゆるふわですみません。多少なりと楽しんでいただければ幸いなんですけども~!
長い歴史の中で面白いほど多彩な髪や瞳を持つようになった人間だが、闇色だけはない。画家の利用する絵の具でも、沢山の色を混ぜても黒が出来ないように。どれほど血や魔力が混じりあっても闇色は産まれなかったとされている。
勿論歴史と言うものは気が遠くなるほど長いものだから、本当は存在していたのかも知れない。
あからさまには言わないが、人間は闇色を避ける傾向にある。逆に澄んだ色であるほど好まれるし、魔力も高いと言われている。
夜の中の闇ほど惹き込まれるものはない。闇に浮かぶ赤い実もあんなに美しいのに。
……まて。
「あー。ばれた」
「お前……」
「ほんと強いねえ」
素知らぬ風に抱き上げられ、頬に口付けを落とされる。
俺がこいつを犬猫と思ったように、こいつも俺をそう見ているかのよう。ちゅうちゅうと頬を吸われてくすぐったいので、両手を伸ばして拒否をする。
「んふふふふ、猫に嫌がられてるみたい」
「嫌がっているのは間違いないがな。離せ!」
「あと一回」
むちゅう、と口付けをしてから床へ足がつけられるよう俺を降ろす。それを見ていたかのようなタイミングでドアをノックする音がした。
「ルシフ様、朝食の準備が出来ております。皆様お待ちでございます」
「今行く」
端的に返した俺の言葉の後、人に化けたベリーがわざとらしいくらいに恭しくドアを開ける。呼びにきたメイドは壁に沿うように立ち、俺に一礼した。そして案内のために先を行く。
背後でそっとドアの閉まる音がした。
*****
食事風景に関しては特筆することもなく過ぎた。
今日も味付けが良いとか、野菜が新鮮で良いとか、肉の柔らかさが良いとか。兄たちは流石、育ち盛りであるから肉料理をことのほか喜び言葉を尽くし、母親に窘められ不味そうに野菜を口に運ぶ。そして褒められて顔を綻ばせる。
デザートが運ばれ、美味しいだのなんだのと語り合う姿を、俺は視界に入れずに淡々と口に運んでいる。
食後の紅茶を含みながら父親の今日のスケジュール、母親のスケジュール、兄たちのスケジュールが順に確認されていく。
一瞬の間、それぞれから向けられる視線。
「お父様、本日は書庫をお借りしても宜しいでしょうか」
「……ああ」
「……あなたは本当に勤勉ね」
不自然な間をおきながらも褒めようとする姿勢は感心すべきなのだろうか。
それでも……それでも俺の名を呼ぼうとはしないのだから、やはり見た目しか見ていないのだ。
魔力や血液は間違いなく継いでいると調べた筈なのに、色が違うだけで距離を置きたがる。見た目のことなど、疚しさがなければ気にする必要など無いものではないか?
それとも、本当に俺が必要……ーー
「坊っちゃま、お顔の色が悪いですね。差し出がましいかもしれませんが読書はまた今度にして、本日はお部屋で休まれては?」
耳元に囁かれる声にはっとする。知らず俯いていた視線を声がした方へ向ければ、ブラッドベリーが俺を見詰めていた。俺と目線を合わせるために腰を落として。
鮮やかさと深さが両立する不思議な色味が、なぜかとても落ち着いた。
暫く見詰めあって、一つ、頷く。それから父親へ向き直って、頭を下げる。
「申し訳ありません……書庫をお借りするのはまたにします」
「……そう、だな。無理をしないように」
「……そこのあなた、その子をお願いね」
「畏まりました、奥様」
ベリーが母親に向けて微笑む。そうして、俺に向けて「失礼します」と一つ声をかけたと思ったら、部屋でしたように俺の身体をひょいと掬い上げて抱き締めてきた。
「っ、」
「それでは坊っちゃまをお部屋にお送りさせていただきます。お先に失礼します」
ぐるりと見渡すように視線を向け、ベリーが一礼する。その動きに合わせて、俺も頭を下げた。
「あ、ああ……何か、あれば……言いなさい」
「……はい」
珍しい父親の言葉に、俺の方が反応に困ってしまった。
俺の返事を待ってから、ベリーがもう一度礼をして部屋を辞す。
「お疲れ様でした」
耳元に聞こえた声。なにがだと聞き返す前に、背中をとんとんと叩かれる。やめろ、眠くないのに。
寝たくないのに。
まぶたが重たくなって、すがるように、ぐずるように、ベリーの肩へしがみつく。とんとん、とんとん。背を叩く強さが絶妙で、抱き上げられていては逃げられやしない。
いつの間にか、意識は闇に沈んでいた。
********************
ここにコメント入れるの控えたかったのですが一応案内をば。
次回分から数回(?)ちょっとイチャイチャしてますのでご注意頂ければと思います。
やむを得ない流れ(?)でキスしたりもしますので宜しくお願いします(なにを?)
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