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1:出逢いと別れ
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喉が渇く。
ぐっと眉をしかめて、ゆっくりと目を開く。
部屋の中は外から射し込む光もあって、まだ明るい。カーテンも閉められていないから、明るさの理由もよくわかった。それほど長く眠っていた訳ではなさそうだ。
ぼんやりとした思考のまま周囲を見渡すと、ベッドの側に控えたベリーが何かを熱心に読んでいた。
「……けふ」
「……ああ、起きました?」
声をかけようとしたのに、口内が乾燥していたらしく声にならなかった。それなのに気付いたベリーが、とろりとした笑みを浮かべて俺に微笑む。
読んでいたなにかをサイドテーブルへ置いて、その代わりに水差しを取った。
片腕で器用に俺の上体を掬い上げて、口許に水差しを当ててくる、けれど。
「うー……」
「おや」
水は欲しいが上手く飲めない。渇いてつらいのに、喉を閉じてしまい、口の端から水が流れてしまう。
「うーん……怒らないでよね?」
わざとらしい丁寧な言葉遣いから、馴れ馴れしい言葉遣いになったので薄く目を開く。視界には俺の口許に当てられていた筈の水差しから水を飲むベリー。
見守るつもりが目も渇いてきたので目を閉じ、また開けばベリーの顔が近付いてくるところ。
もう一度開く前に、唇に触れる柔らかいもの。
「ぅ、?」
少しずつ入り込んでくるのはほどほどに冷たい水だ。気持ちいい。しっとりしていて先が裂けたような何かが何度か口の中を撫で回していたような気がするが、よくわからない。追いかけ回そうにも舌が上手く動かない。
「ン……、口の中まで熱いねぇ……これ、風邪ってやつ?」
なんて声がする。
うるさい、と言ってやろうと思ったけれど、上手く声が出なかった。何度か柔らかいものが唇に触れ、水を流し込まれながら口の中を撫で回していくのを受け入れていた。
はあ、と溜めこんでいた空気を吐き出す。なんだか凄く熱い空気だった。
そうするともう唇にはなにも触れなくなって、代わりにひたいに心地いい何かが置かれた。
先程からもう目が開けられなくて、あっという間にまた意識が沈んでいった。
「大丈夫。起きたら熱も苦しさも無くなるよ」
左右の頬へ触れる柔らかななにか。次に首もとをなぞられ、ひやりとしたそれが気持ちいい。その次に右の手を包むひんやりとした大きななにか。眠ることへの不安は何一つ無く、誘われるままに意識も沈む。
「おやすみ。おれの可愛いご主人様」
*****
次に目が覚めたのは朝だった。
熱も息苦しさも枯渇したような感覚もなにもなく、すっきりとしていた。なにか燻っていたものが無くなったかのような。
「おはようございます。お加減はいかがですか」
視線を向ければ、闇色の髪と鮮やかで深い色味のブラッドベリーがふたつ、視界に入る。
「……ん」
情けない姿をさらしたことを思い出して、素っ気ない態度になる。ふわふわと髪を撫でられ、思わず目が細まる。
「お食事を部屋で頂く許可は取ってあります。食べられそうですか」
「……ん」
すっかり良くなっているから、もう顔を合わせたって平気だ。でもなぜか、訂正しなくてもいいか、と思ってしまった。
見上げたベリーの顔は満足げで、一つ頷いたところで俺の髪を撫でるのをやめた。
髪から離れる指を一本、目で追い、力無く掴む。
思ってもいなかった行動に、目を丸くするベリー。次いでとろりと甘く煮詰めたような色になる。
「不思議。……なんだか胸が疼くね」
親になるってこんな感じなのかな。なんて言う。
……お前、親がそんな顔すると思うのか。いくら俺が子供でも、まともに見られてなくても、親が子にそんな顔しないことくらい知ってる。
俺がそう見られてなくても、見られている兄たちを見ているのだから。
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