相棒は邪龍らしい。

２：二人旅

１

「俺の目標は世界に散らばる彼の書物を読むことだが、お前はなにかしたいことはないのか？」
「おれ？」
青空の下、気心知れた男と並んで歩く。
有り余る魔力を駆使して、危険を先んじて把握すれば恐れるものはほぼ無くなる。気ままと言っても差し支えは無いだろう。
素材を得るため、今は徒歩だ。


俺の偽りの死を嘆いてくれた元家族の背中を見送り、夜中の内に屋敷を離れた俺とベリー。
冒険者登録にしろ錬金術師登録にしろ、取り敢えず領地から離れたところで、と決めていた。
登録くらいはどこでもと思うが、もし俺が生きていたと知られた場合、もしかしたらギルドから居場所を辿られてしまう可能性もある。
彼らなら俺が死を偽装した意味だとか気持ちを察して放っておいてくれるかもしれないが……念のため、まずは物理的な距離を取っておきたい。 

さくさくと道なき道含め、素材も求めながら進んでいく。
思わず深呼吸をしてみるが、何だか清々しい。
息の詰まるような日々だったが、それももう無いのだと思えば実に最高だ。隣を歩くベリーも、何となくだが楽しそうで良かった。


道中は俺たち……いや、俺にとって宝の山としか現しようがないほどだった。草原を歩いては薬草を摘む。森を歩いては魔物を狩る。木葉を摘む。清らかな水を汲む。 

やはり外には目に入るもの全て素材、と言っても過言では無いかも知れない。
この旅は、いずれは……と、いつかもわからぬ先の日を夢見ていた冒険そのものだ。過去、夜中に部屋を抜け出して森へ行っては夜明け前には帰ってくる……なんて、散歩みたいなものじゃない。これからは寝泊まりするにも困る日が出るだろう。出るなんて生易しいものじゃなく、きっと毎日困るに違いない。
胸が踊った。

目下、鍛練も兼ねてポーション作りは続けているので、こうやって素材収集が捗るのはありがたい。
ひとくくりでポーションとは言うが、やはり組み合わせる素材で効能に差が出るから、可能な限り満遍なく作成したいところだ。ギルドに卸すとしたって、多少の優劣はあるかもしれないが商品として分け隔てなく求められているものでもある。
どれも作れると示しておいた方が、自分で探すものとは別に、仕事の斡旋もされやすくなる……はずだ。

ポーション。
傷の回復、体力(疲労)の回復、気力の回復、魔力の回復。
状態異常たる毒を打ち消すもの、麻痺を和らげるもの、滅多にないが石化を回復するもの。
それから病の進行を遅らせるものであったり、治療であったり……一口に言っても、効能は実に多岐にわたる。
最後、病の薬は医師の方が精度の高いものが作れるが、理解・・していれば錬金術師でも産み出せる。

とは言え錬金術師が医術もきっちり学ぶ……と言うのはなかなか無いから、医師の希望の通りに加工をして卸す仕事の方が多いと聞いたことがある。乾燥などが主か。
乾燥具合は素材の保存期間にも関わるし、使用する際の素材の配分や効能にも差が出る。それも顕著に。
そして出来上がった薬は大抵が胃の中へ納めるものになるため、細心の注意を払われる。
飲み込まずとも傷口に塗るならば、やはりそこから体内へと染み込んで行くのだから、審査が厳しくなるのも当然だろう。 

……そして、伝説にのみ存在する薬。
確か彼が残したメモを集めた本に詳細が記載されているはず。錬金術の書の下巻の後書きに、今研究をしているところだと書かれていたのを覚えている。
生命の水或いは命の水と呼ばれる存在は、金の精製とともに、錬金術師の夢と言っても過言ではない存在だ。
いつか俺も作ってみたいと思う。