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2:二人旅
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しおりを挟む「ええと、ありがとうございます。おれたちは昨日この街に来たばかりなので、ちょっとした興味で足を運んだだけなんですよ。なので買い物をするかというと……」
肩を竦めて申し訳なさそうに言うベリーの言葉に、合点がいったらしい男が頷き、笑みを深めた。
「そうでしたか。ようこそいらっしゃいました」
そうすると集まってきていた視線がいくらか消える。残っているのはベリー向けの女の視線が多いというところか。顔のいい目の前の男へも向いている気がする。どちらにしても注目度は減ってはいないのかもしれない。
「それならお時間はありますか? せっかくですし、この街のご案内をさせて頂ければと思いますよ」
そう言いながら、広いギルド受付の隅の方に空いていたテーブルへと促された。
どうしたものかと思っていたのだが、ベリーがまた俺を抱きあげて素直についていっているではないか。なんでだ。
「だって、妙に目立ってるしここで断ってもカドが立つだろ?」
ぼそりと降ってきた言葉に、それもそうかと思い直した。ベリーの肩越しにちらりと覗いた感じでは、興味と羨望とが入り混じった感情がこちらに向いているのが伺えたから。
顔のいい男(女もだが)が関わるとろくなことにならない。深く関わらないようにすればなんとかやりすごせるだろうか?
難しい顔をしすぎていたのか、ベリーが俺の顔を隠すように抱きしめ背中をぽんぽんと叩く。いや赤子か。
でもまあ、わずらわしい会話はしなくてもいいのならそれに越したことはない。ベリーが居るなら俺への視線もないに等しい。
冒険者ギルドと違って明確な荒っぽさのない商業ギルドとは言え、やはり子供がいるような空間とも言い難いものだ。時間帯によっては親子連れなどもあるのかもしれないが。冒険者とか。
気付いたら本気で寝ていた。不覚。
起きた時には見覚えのない個室に居たものだから思わず鑑定をしたのだが、商業ギルド内の売買用相談室、のような場所だったようだ。
話の流れなのかポーションちょっと売ったよとベリーからの念話が届いて驚いた。ちなみに俺はまだきちんとした念話の発信は出来ない。なんというか、はい、いいえと言ったような単語をなんとかというところだ。
単語を伝える程度は、鑑定が身についたころにすぐ出来るようにはなっていたのだが……会話となるとやや難しさが変わるらしい。なかなか思うように出来ないでいる。
まあ、それは今後に期待ということで、話の流れはまだよくわからないが問題なく売れたのなら良しとする。エムヴァンの店での支払いにも使えて良いだろうし。
商人ギルドにも採取依頼は貼られていて、冒険者ギルドでの支払い方法や金額、達成の条件などが違っている。ざっと見渡すと、商人見習い向きのおつかい依頼などもあるようだ。
薬草採取の依頼をいくつか手に取り、冒険者カードを差し出す。どこかしらのギルドカードがあれば、新規で作成する必要はないと冊子に記載があったので試してみる。受付嬢も慣れた様子でカードを受け取った後、依頼書の確認をしてからカードを機材に近づけている。冒険者ギルドにもあったもの、とは違うようだが、恐らくは似た機能をもつのだろう。
「こちらの薬草は街のそとではありますが危険の少ない付近に豊富に生えておりますから、恐らく問題なく採取頂けるかと思います。しかしながら、もしも期間内に間に合わないようでしたらペナルティが発生しますのでご注意、ご了承ください」
「はい」
受付嬢の言っていたように豊富にあるタイプのものだ。常に貼り出されている、おつかいクエストになるのだと思う。実は空間魔法でも大量にしまわれてあるのだが、周囲にあるのならそちらの方がいいだろう。
生まれ育ったあの街からここまで、地図上ではと前置きもつくが、そこまで離れてはいない……にも関わらず、薬草であれば葉が、木の実であれば色合いが。わかりにくい程度に違いがあるようだった。多分、効能もわかりにくい範囲で違いがあるんじゃないかと思っている。
今後の俺の研究材料にしようとも思っているから、どちらにしても採取には行きたいと思っていたので丁度いい。
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