【完結】恋人代行サービス

山田森湖

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第17話「新しい始まり」

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第17話「新しい始まり」

健一と出かけることになった週末。私は久しぶりに、デートの準備に心を躍らせていた。

でも同時に緊張もしていた。今度は恋人代行としてではなく、本当の自分として健一と向き合うのだ。

待ち合わせ場所は、私たちが初めてデートした美術館だった。

「健一」

「美月、お疲れさま」

健一は以前と同じような優しい笑顔を見せてくれた。でも以前とは違う何かもあった。より慎重で、でもより真剣な愛情。

「今日はありがとうございます」

「僕の方こそ。君ともう一度こうして歩けるなんて」

美術館では、新しい企画展が開催されていた。現代の日本人画家の作品展だった。

「この絵、どう思う?」

健一が一枚の抽象画の前で聞いた。

「混乱の中にも、希望の光が見えます」

「面白い解釈だね」

「私たちみたいです」

健一は私を見つめた。

「私たちみたい?」

「混乱した時期があったけど、今は希望の光が見えてきた」

健一は微笑んだ。

「君はいつも、素敵な表現をする」

次の絵の前で、私は思い切って質問した。

「健一、私の答え方は以前と変わりましたか?」

「どういう意味?」

「恋人代行の時と今の違いです」

健一は少し考えてから答えた。

「確実に違う」

「どんな風に?」

「以前は、僕が喜びそうな答えを考えてから話していた気がする。今は、君の本当の感性で答えてる」

その指摘は正しかった。

「恋人代行の時は、相手の好みに合わせることばかり考えていました」

「今は?」

「自分の感じたことを、素直に伝えたいと思います」

美術館の後、近くの公園を散歩した。

「美月、聞きたいことがある」

「はい」

「君は恋人代行の仕事を、本当に完全にやめたの?」

「はい、完全にやめました」

「後悔はない?」

「全くありません」

健一は立ち止まった。

「どうして?収入面では大変でしょう?」

「健一との関係の方が大切だからです」

「でも翻訳の仕事だけでは」

「健一、私はお金のために恋人代行をやめたわけじゃありません」

私は健一の手を取った。

「本当の愛を知ってしまったから、演技ができなくなったんです」

健一の目に涙が浮かんだ。

「美月...」

「健一を愛していると気づいた時、他の男性と恋人のふりをすることが苦痛になりました」

「本当に?」

「本当です。だから仕事をやめたんです」

健一は私を抱きしめた。

「ありがとう、美月」

「どういたしまして」

「君の気持ちが、少しずつ分かってきた」

その夜、健一のマンションで夕食を作った。今度は二人で料理をした。

「美月、君の包丁さばき、上手だね」

「恋人代行の時に覚えました」

正直に答えた。

「複雑な気分だ」

「どうしてですか?」

「君のスキルが、他の男性のためだったことを思うと」

健一の正直さが、かえって嬉しかった。

「でも今は、健一のためだけです」

「今後もずっと?」

「ずっとです」

食事をしながら、健一が言った。

「美月、僕たちの関係を、もう一度公式にしない?」

「公式?」

「恋人として」

胸が高鳴った。

「本当ですか?」

「うん。今度は最初から、本当の気持ちで」

「はい」

健一は席を立って、私の前にひざまずいた。

「佐藤美月さん、僕の恋人になってください」

まるで初めてのプロポーズのようだった。

「高橋健一さん、喜んでお受けします」

私たちは笑いながら抱き合った。

「今度は嘘なしで」

「嘘なしで」

その夜、久しぶりに健一のベッドで一緒に過ごした。今度は完全に、愛し合う二人として。

「美月、愛してる」

「私も愛してます」

肌を重ねながら、私は思った。これが本当の愛なのだと。演技ではない、心からの愛情なのだと。

翌朝、健一の腕の中で目覚めた。

「おはよう」

「おはようございます」

「今日からまた、恋人同士だね」

「はい」

健一は私の髪を撫でながら言った。

「美月、結婚の話はまだ早いと思う」

「分かってます」

「でも将来的には、君と結婚したい気持ちは変わらない」

「私もです」

「今度は急がずに、時間をかけて関係を深めよう」

「はい」

私たちは新しいスタートを切った。

恋人代行から始まった複雑な関係を経て、ついに本物の愛にたどり着いた。

まだ完全に信頼関係が戻ったわけではないかもしれない。でも私たちは、本当の意味で愛し合っている。

これからは、一日一日を大切に、お互いへの信頼と愛情を育てていこう。

本物の恋人として。

第17話 完
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